やっぱりハインズのブレイクは、ひとつの事件だったと言っていいでしょう。2016年初頭に彼女たちの1st『リーヴ・ミー・アローン』が送り出されたのを契機に、とりわけイギリスでは、マドリードのガレージ・ロック・シーンに対する注目度がうなぎ上り。ハインズが出てくる前は、スペインの音楽シーンが世界的な注目を浴びることなんて皆無に近かったんですから、これは間違いなく快挙です。
勿論、イギリスでマドリードのシーンが話題になっているのは、サヴェージズやテンプルス、ウルフ・アリスといった数少ない例外を除くと、自国のインディ・シーンがほぼ壊滅状態であることと無縁ではありません。でも、おそらくそれ以上に大きかったのは、L.A.の〈バーガー・レコーズ〉やブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉などを発信地とする、新世代のガレージ・ロック・シーンにハインズが共振する存在だったこと。つまり、ブラック・リップスやマック・デマルコと並べて聴けるバンドのシーンがマドリードに眠っているのではないか?――そんな関心をハインズが喚起したのが大きかったはず。この辺りの話は、以下の記事にも詳しく書いてあります。
女性版リバティーンズ?マドリードの
4人組ハインズとの対話を題材にして
2016年初頭のポップ潮流についてご説明
では、ハインズの次に聴くべきマドリードのバンドはどれか? と問われれば、迷うことなく名前を挙げたいのが、ハインズの兄貴分でもあるパロッツです。
フロントマンのディエゴ・ガルシアは、ハインズのアルバムのプロデューサーとしてもお馴染み。2015年には、この二組でスプリット7インチをリリースしています。仲良しですね。
ディエゴ曰く、自分たちがパロッツを始める前は、マドリードにガレージ・ロックをやっているバンドは全然いなかったそう。それが今ではハインズやロス・ナスティスなど、フレッシュなガレージ・バンドでマドリードは大にぎわい。
となれば、パロッツこそがマドリード・シーンの元祖。実は彼らが全ての始まりだった――そう言っても過言ではないでしょう。
そして、ハインズがマドリードから世界へと扉を開いた絶好のタイミングでパロッツが送り出す1stアルバム『ロス・ニーニョス・シン・ミエド~恐れなき子供たち~』は、「マドリードはハインズだけじゃない!」と鮮烈に印象付けることになるだろう快作です。ここには、ユルくてチアフルでハッピーで、太陽の香りがするローファイなガレージ・ロックがぎっしり。とにかく最高にゴキゲンな一枚。言ってみれば、男性版ハインズ? いや、彼らがオリジネーターなんですから、ハインズが女性版パロッツだったのかもしれません。
ただ、ハインズが同時代のバンドからの影響を強く感じさせたのに対し、パロッツは生粋のガレージ・フリークな一面が窺えます。なにしろ彼らが影響源として挙げるのは、モンクスや13thフロア・エレヴェーターズといった60年代サイケのカルト・ヒーローを筆頭に、モダン・ラヴァーズやクランプスからクリエイションやストロークスまでと、古今東西のあらゆるガレージ・ロック/サイケデリック・ガレージ。アルバムのアートワークも、明らかに60年代後半の名もなきサイケデリック・ガレージ・バンドへのオマージュです。
勿論、パロッツのようなガレージ・フリークはいつの時代にも存在してきました。ガレージの様式美を継承するシーンは、メタルやパンク同様、いつの時代もアンダーグラウンドで脈々と続いてきたものです。しかし、パロッツのルーズでレイドバックした空気感や、強烈なディレイやリヴァーブを多用したプロダクションは、60年代のコピーというよりも、明らかに〈バーガー・レコーズ〉や〈キャプチャード・トラックス〉以降のそれ。要するに彼らが鳴らしているのは、先人たちへの深い敬意と愛情を滲ませつつ、しっかりと「今」を感じさせるサウンドなのです。
パロッツこそが、ハインズと並ぶマドリードのトップ・ランナー。2010年代の新たなガレージ隆盛の波に乗った新世代。『ロス・ニーニョス・シン・ミエド~恐れなき子供たち~』は、その事実をしっかりと証明してみせたアルバムです。是非あなたも、自分の耳でその真価を確かめて下さい。