例年どおり、わたしにとっての2021年の「ポップ」という観点でアルバムと曲を選んでみようと思ったのだが、〈サイン・マガジン〉が選んだ50作のアルバムや、田中亮太との連載「Pop Style Now」で選んだ25曲で、ある程度語り切れている、と感じてしまった。つまり、選ぶべきものが、ぜんぜん思い浮かばない。
具体的な作品のことだけでなく、ポップ・ミュージック・シーンの概況についても、たとえば、〈サイン・マガジン〉によるイントロダクションでは、(かつてはローカルだった)ラテン・アメリカやアフリカのポップ・ミュージックの拡大が語られている。また、〈ビートインク〉による「BEATINK presents BEST OF 2021」という企画の巻頭言では、小熊俊哉がエムドゥ・モクターとマネスキンを挙げながら「ロック界にもグローバル化の波が押し寄せている」と書いている。同じようなことをわたしも書いていて、『ele-king vol. 28』の2021年のインディ・ロックを総括する項で、「エスニシティとルーツ」の「多様化」と言い表した。当たり前かもしれないが、意外とみんな、ポップ・シーンの潮流を同じように見ているのだ(それはそれで、わたし自身を含めて、なんだか視点が一元化されすぎている気もする。また、今のこの状況は、2010年代に進行してきたことの全面化だと感じている)。
そういうわけで、そんなポイントを踏まえて、ちょっと落ち穂拾い的に、この場で取り上げておきたいアルバムと曲を選んでみた。
まず、アルバムについて。
ブルックリン・ドリル・シーンのMCであるスリーピー・ハロウのデビュー・アルバム『スティル・スリープ?』。彼の相棒であるグレイト・ジョンのプロダクションが特殊であり、またフロウも独自なので(池城美菜子によればダンスホール出身だという)、シーンの中でも異彩を放っている。
ドレイコ・ザ・ルーラーの『ザ・トゥルース・ハーツ』も彼にとってのデビュー・アルバムで、シングルの“トーク・トゥ・ミー”にドレイクが客演しており、ポップな可能性に開かれている。現在のギャングスタ・ラップを考えるうえでとても重要なラッパーだったが、昨年12月18日にフェスの会場で刺殺されてしまった。彼の訃報を聞いた時のショックは、まだ癒えない。
そして、ニューヨーク出身、チリ人のパロマ・マミの、これもデビュー・アルバムである『スエニョス・デ・ダリ』。レゲトンだけでなく、スペイン語で歌ったR&Bなども収められているが、2019年から散発的に発表されていたシングルをまとめたもの、という性格が強いか。
イッサム・アルナジャールは、“ハダラへベック(Hadal Ahbek)”がTikTokからヴァイラル・ヒットしたヨルダンのシンガー。まだ18歳だが、新たに立ち上げられたユニバーサル・アラビック・ミュージックが契約した初めてアーティストである。現代的なアラビック・ポップが詰め込まれた1stアルバム『バリー?』は、とてもフレッシュだと思う。
最後に、RXK・ネフューのアルバムを選ぼうかと思ったが、陰謀論ラップをおもしろがって「ベスト」に選ぶのはよくないと思い、迷ったすえに、レゲトンの世界における随一のプロデューサーであり(現在も「ロ・シエント・ベベ」がヒット中)、アメリカのシーンでも存在感を放っているタイニーとヤンデルのジョイント・アルバム『ダイナスティ』を。ラウ・アレハンドロも参加している。
長くなったので、曲の方は駆け足で紹介する。1. 攻めまくりなアルカと迷走気味だったシーアが出会ったことで突き抜けた、新たなマスターピース。2. ジェイク・ギレンホールを未だにこすりつづける、これぞテイラー・スウィフト節。3. イスラエルのノガ・エレズがエッジを保ったままポップネスを開花させたのは驚きだった(なお、リリックのテーマは死)。4. 汎ラテン的であり、なおかつ女性どうしの連帯を表した熱いデンボウ。5. インディ・ポップ的な意匠をかなぐり捨てた、クィアネスを肯定するポップ・ナンバー(これも女性どうしの連帯を表していると感じる)。次点に、「わたしのからだはLAの地図」という強烈なラインで始まるラナ・デル・レイの“アルケイディア”を挙げたい。
アメリカ大統領選挙の結果が音楽に表れてくるのは、2022年からだろうか。2021年、ここ日本でも総理大臣の交代と衆議院議員総選挙があったが、はたして……。
〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2021年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 木津毅
「〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2021年の年間ベスト・アルバム、
ソング、ムーヴィ/TVシリーズ5選」
扉ページ
2021年
年間ベスト・アルバム 50