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ミツメ interview part.1
未来は淡々と、だが、
確実にやってくる
by SOICHIRO TANAKA October 10, 2013
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ミツメ interview part.1<br />
未来は淡々と、だが、<br />
確実にやってくる

ここ数年の間にceroを筆頭に群雄闊歩の様相を呈してきた日本のインディ・シーン。いまだ全国区のムーヴメントには至っていないものの、2014年には間違いなく大きな地殻変動が巻き起こるはず。では、近い将来、そのトップ・ランナーに躍り出る可能性を持ったバンド、ミツメのインタヴューを前編・後編に分けてお届けすることにしよう。

最初に聴いた時は、「ミツメの音楽って、メロディも展開も、淡泊すぎて、とらえどころがないよなー」なんて思ってしまったんですよね。勿論、わざと完全に誇張して言ってますが。でも、もしそうだとすれば、これはやっぱりJ-POPの聴きすぎ。AKB48だの、嵐だの。要は、マクドナルドの食いすぎ。研究の一貫のつもりが、すっかりミイラ取りがミイラになってしまっていたという。ホント怖いなー。怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない、汝が深遠を覗き込む時、深遠もまた汝を覗き込んでいるのだ、てか? ははは! いや、別にこれはミイラズのことを揶揄してるわけではありませんよ、畠山くん。

極論を唱えるなら、エモーショナルなポップ・ソングを作るのはそんなに難しくない。地味なヴァースと、ドミナントを強調したブリッジ、派手なコーラスを組み合わせさえすればいい。コーラスに移る段階で音圧を上げればいいし、声を張り上げればいいし、リズムの刻みを二倍にしたりすれば、なおよし。巷のJ-ロック・バンドみたく。あるいは、EDMみたく。にしても、欧米のポップ・ミュージックのトレンドがすっかり、bpm70台だの、ゆったりしたリズムを細かく刻むことで変化をつける方向に向かっているというのに、いまだ旧態然としたbpm160越えのロック・サウンドが幅を効かす日本って何なんでしょうか? アークティック・モンキーズの新作が地味だと思われてしまう風土って、どうにもなんないんでしょうか? マクドナルドの食いすぎだよ、まったく。

刺激や快楽というのは、強烈であればあるほど中毒性を持つ。時として少しばかりグロテスクな共依存的な関係を産み落としてしまう場合だってある。だが、実際の話、映画や音楽に触れて、そう簡単に感動したり、泣いたりしたくないでしょ。特に人前で。安っぽくて、エグいのは脱法ハーブぐらいでたくさんだし、もっと刺激が強いものが欲しければ、この国ではイリーガルなドラッグよりも遥かに危険な抗うつ剤をごく簡単に処方してもらえる。この国は、ポップ・ミュージックだろうが、クスリだろうが、そんな安っぽくて、危険極まりないゴミで溢れている。いやー最高だな、おい!

そんな少しばかりお寒い状況の中、ミツメの音楽はことさらシリアスになることなく、どこか呑気そうな表情で、ひっそりと佇んでいる。2009年、深いリバーブの掛かった音の霧の中から所在なさ気に出発したバンドは、ゼロ年代後半のUSインディの隆盛に刺激を受け、それと並走するようにして、少しづつオリジナルな意匠を身に付けてきた。今では、くすんで少し濁ったパステル・カラーを思わせる淡い色彩、くぐもった音像と淡々としたうらさびしさをまといつつ、派手な音楽的展開を極力抑え、ポップスの常套句から逃れようと試みながら、誰をも拒むことのない親しみやすさと確かなポップ・ポテンシャルを手にするに至っている。草野マサムネの声をさらに華奢にしたようなヴォーカリスト川辺素の声は、覇気や情熱を剥ぎ取られてしまった弱々しい声のようでいて、実のところ、頑固なまでの芯の強さと楽観的なムードを同時に感じさせる魅力的な響きを持っている。五本の指の間から零れ落ちていく大切な過去の思い出を掴み直すことを諦めてしまったかのように、往々にして彼らのヴォーカル・メロディは最後の最後で少しうなだれて、下を向く。そんな風にどこまでも情感と過剰な刺激を抑えた彼らのサウンドは、聴き手の傍らにふっと寄り添うようにそっと着地して、少しの間、心の深遠に静かに佇むことになるのだ。そして、まるで何故か捨てられないでいる高校時代のガールフレンドの色褪せた写真のように、誰に見せるでもなく、だが、机の引き出しの一番奥ににこっそりと隠し持っていたくなるような気分にさせてしまう。

以下のミツメのメンバー4人のインタヴューの主たるテーマは、これまでのミツメのキャリアの変遷をざっと俯瞰しつつ、前述のような淡くて、フラジャルなサウンドがどんな風にして出来上がったのか、についてメスを入れること。果たしてどこまでが意識的で、どこまでが恣意的だったのか。では、前編と後編に分けて、お届けしたい。少しばかり長いので、のんびり読み進んで下さい。

●4人が揃ったのは、2008年くらい? それとも2009年?

大竹雅生(以下、大竹)「2009年?」

川辺素(以下、川辺)「2009年かな」

●2009年っていうと、米国だとヴァンパイア・ウィークエンドやMGMTがちょっとしたポップ・スターになってみたり、英国だと『ガーディアン』とかがニュー・エキセントリックっていう言葉を使い始めてたり。で、何よりもUSインディが一気に元気になり始めた時期っていう印象があるんですね。ただ、皆さんの場合、当時というのは、どういう時代だって風に感じていましたか?

ナカヤーン(以下、ナカヤーン)「さっきタナソウさんが言ってたような、ヴァンパイア・ウィークエンドとか、MGMTとか、どんどん有名になって勢いあったなあっていうのは覚えていますね」

川辺「なんか郊外みたいのが流行ってなかった? 郊外みたいなのが、チルウェイヴの兆しみたいなのがあったかもしれないし。ビーチとか、それからもうちょっと寂しい感じの、ひとけのない感じの音楽が出てきてる感じの雰囲気があったかと」

大竹「そうですね、やっぱビーチ・ポップスとかがすごい盛り上がってきてて。素直にいいなと思って聴いていました」

須田洋次郎(以下、須田)「iPhoneとか、それこそピッチフォーク全盛の時期だったと思うんですけど。実際、『おお、なんか変わってきたんだな』っていう実感はありましたね」

●じゃあ、そういう潮流の中、当時の自分がもっとも興奮してたものって、何か具体的に挙げることはできますか?

須田「ガールズの1stかな。多分、そのくらいの時期だったと思うんですけど。あれは興奮しましたね。『めちゃめちゃいいな』って。『しかも、宅録で作った音楽がここまでヒットするんだ』って話しながら、すごく興奮してた記憶が鮮明にありますね」

川辺「そうかも」

大竹「やっぱり、あのリヴァーブ感というか」

川辺「あの頃って、来日とかもよく観に行ってたりとかして。ヨ・ラ・テンゴとゆらゆら帝国が一緒にやっていたのとかもあったり。そういうような時期だったんで、結構、新人に限らず『USインディって面白いな』とか思ってた気が」

●実際、あの辺りの、深いリヴァーブ感を持った奥行きのあるサウンドとか、うっすらとしたサイケデリア、川辺くんが言ってたキーワードとしての郊外とか、海ーーそういったものが、当時の自分たちの感覚とクロスオーヴァーするところもあったんでしょうか?

大竹「多分、その頃に作ってたのが1stの曲なんですけど、だいぶリンクしてるところはあったんじゃないかと思います。勿論、郊外とか、リヴァーブとかはキーワードになってる」

●じゃあ、今、振り返ってみて、1stアルバム『mitsume』の海のヴィジュアルには何を仮託してたんだと思います?

大竹「ジャケットですか?」

須田「まあ、決まった理由は、たまたま『いい写真だな』っていうところなんですけど」

大竹「あれに決めた時は、特に海っていうことは意識せずに、川辺くんの昔の写真、実家の写真?」

川辺「実家の写真」

●じゃあ、この中のプールの写真とかもそうなの?

川辺「ああ、それ、僕写ってるやつ(笑)。(田中がアルバムを開いて、中の写真を見る)ああ、それは須田」

須田「僕です(笑)」

●このヴィジュアルから想起されるものって、やっぱりノスタルジアですよね。で、当時のUSインディのリヴァーブ感というのも、何かしらノスタルジアという感覚とクロスオーヴァーするところがあった。で、実際、この1stアルバムって、サウンドも歌詞もすごくノスタルジック。そこはわりと意識的だったの?

川辺「なんか『新しい感じのバンドがやりたい』とは思ってたんですけど、やっぱ自分の中にあるものって少ないじゃないですか、始めた時って。だから、悩んでいたんですね。でも、そういうノスタルジーみたいなのがUSインディとかでガンッと出てきて。それで、『ああ、無理して斬新なものを作ろうとしなくていいのかな』って。僕、奈良県の田舎出身なので寂しい感じだし、『じゃあ、そのまま自分にあるものを詰め込もう』みたいな感じで。で、曲が揃ってみると、僕から見た感じだと、過去のものを振り返ってるような曲が多かったんで、こういうジャケットのイメージなのかなって」

須田「まあ、もともとの性格というか、素養的な部分もマッチしたんだろうなと思うんですけど。あと、ちょうどそういう時期だったのかもしれないですね。大学を卒業するくらいのタイミングで」

川辺「学生終わっちゃうな、くらいのタイミングで」

●つまり、「昔はそれなりによくて、今はそれほどでもなく、未来は果たして、どうなんだろう?」っていうような?

須田「ああ、まさにそういう心境だったかもしれない(笑)。『昔はよかったのに、なんでこうなったんだ?』みたいな状況だったのかな」

大竹「そういうつもりはまったくなかったけど(笑)」

須田「でも、振り返ってみれば、そうも言えるような気がします」

川辺「今だから言えるっていうか。だから、自然にやった結果。一曲一曲形にしようとやって、まとめたらこうなった」

大竹「そう。『なんか全部後ろ向きだな』って(笑)」

川辺「やっぱり今ほどバンドの予定も決まってない状態じゃないですか。CD作っても、誰も聴くかもわからないっていう状態だったんで。その何もない感じが出てたのかもしれない」

大竹「あとは、録音したのが結構、作った後なんで。それも反映されてるんじゃないかなと思います。この曲は懐かしいなっていう」

川辺「そうだそうだ(笑)。作ってから一年とか経ってる曲もあったりして。次の曲とかやり始めてた時期だったり」

大竹「みんな卒業して、大学時代が懐かしいなって」

川辺「ああ、だから、やっぱり楽曲は、昔の自分達っていう感じがありますよね」

大竹「モヤモヤした感じ、相当鬱屈としてた感じ(笑)」

ミツメ / クラゲ

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2011年の1stアルバム『mitsume』は、現在のミツメの音楽性と比較すれば、特に当たり障りのない良質なインディ・ポップ・アルバムと言えなくもない。当の本人たちからしても習作めいた部分もあるらしく、2013年夏時点でのライヴ・セットでも、“くらげ”と“三角定規△”以外はあまり演奏されることがないようだ。ある意味、レディオヘッドにおける『パブロ・ハニー』のような位置付けの作品と言えるだろう。だが、逆に言えば、それ以降の成長を通過したバンドには作り出すことの出来ない不思議な力を持ってもいる。中でも90年代オルタナティヴの匂いを残した“怪物”は、それこそ“クリープ”のような甘く、エモーショナルな名曲で、これから先も彼らのライヴのセットリストに加わることはめったにないだろうけども、決して忘れられることのない1曲だと言える。

●基本的にミツメの曲って、アレンジメントにしても、川辺くんの発声にしても、「出来るだけ感情を抑制していこう」って意識があると思う。でも、例えば、1stアルバムの“怪物”とか、『eye』以降の最近の作品と較べると、すごくエモいじゃないですか?

川辺「(笑)それはあります」

大竹「でも、確かに最初から抑制するっていうのは意識してたよね? うん、『徹底的に抑制しよう』と思ってたんです」

川辺「あ、昔からそれは多少あったよね?」

須田「最初の頃、よく言っていたのは、『音をスカスカにしよう』っていうことをすごいスタジオで言い合ってたりして。それができなかったっていうのも、勿論あるんですけど。だから、『もっと音は少なくていいはずだ』みたいな」

大竹「でも、それがやりきれてなかった(笑)。曲の最後になると、激しくなっちゃったりとか」

●そもそも何故そういうアイディアが出てきたんでしょうか?

大竹「多分、最初の頃は、周りに多い音楽に対するカウンターっていうか。そういうのがあったかもしれない」

●海外というよりも、日本のポップ・シーン?

全員「そうそう」

●所謂J-ROCKっていうか、日本で鳴っている音楽のーー例えば、分厚い音圧とか、コーラスに行く前にドーンっと声を張り上げ、ギターがファズを踏む、みたいな傾向に対する違和感があった?

須田「あ、それはもう確実にありましたね。大学生って口が悪いじゃないですか? 文句言って、ディスるために、なんか集まって音楽の話するみたいな(笑)。きっと今もそうなんでしょうけど、僕らも口が悪かったんで(笑)。だから、なんか『そんな必要はないはずだ』っていうのは、4人の中で深まってたんだと思います」

●じゃあ、逆に言うと、そこに対する違和感みたいなものに、かなり影響されちゃったところはあるんだ?

大竹「うん、逆に影響された」

川辺「わかりやすい影響だよね、逆の(笑)」

●(笑)ただ音圧の薄いサウンドで、抑揚をできるだけ少なくして曲を作るっていうのは結構難しいと思うんですよ。やっぱりコーラスでドカーンっていうのは簡単だから。そうなる時に、アレンジメントだとか、曲の構成だとか、手本にしたもの? 何か挙げてもらってもいいですか?

川辺「1stの時期に?」

大竹「みんなそれぞれ違うとは思うんですけど。話し合って、やったわけではなかったので」

川辺「何々っぽくしてやろうっていうのをやめようって言ってた」

大竹「うん。僕はもともと(ビートルズの)『ホワイト・アルバム』がすごい好きなんですけど、そういう好みは出たと思います」

●デッドな音の録り方とか。

大竹「そうですね」

須田「そうだ。2009年ごろだと思うんですよ、ビートルズが全部リマスターされた時期。で、もれなく僕らもビートルズ熱が沸騰して、学祭でコピー・バンドをやった時期でした(笑)」

●え、ビートルズのその時期何やってたの?

須田「ホワイト・アルバムからも“ディア・プルーデンス”と“ハピネス(イズ・ア・ウォーム・ガン)”かな? “ペーパーバック・ライター”のコーラスが頭から綺麗にできなかったり(笑)。拍もわかんない。『どうやって入ってるんだ、これ?』みたいな(笑)」

●(笑)じゃあ、これは俺がインタヴューの時にわりとテンプレートにしてる質問なんですけど、この1stアルバム『mitsume』を自分のCD棚に並べたとしたら、両側にくるレコードは何と何がしっくりきますか?

大竹「ベルセバとか? 赤いやつ(『天使のため息』)」

川辺「あー」

須田「いや、むしろ緑(『ザ・ボーイ・ウィズ・ザ・アラブ・ストラップ』)じゃない?」

川辺「緑かな」

●じゃあ、もう一枚は?

大竹「わりとオルタナティヴな要素もあるから、若さが」

須田「あー、ペイヴメントとか?」

川辺「ダイナソーJr.かな?」

須田「ああ、ダイナソーJr.はあるね」

●いつの時期? 『バグ』とかの時期?

川辺「『バグ』とかかな。たまにオルタナ具合が制御しきれてない感じが顔を覗かせてる部分がちょこちょこあるんで(笑)」

●確かに。

『mitsume』リリースの後、明けた2012年2 月にミツメは当時のUSインディのトレンドを無邪気に踏襲した形で2曲入りカセットをリリース。おそらく1stアルバムのサウンドから飛躍した部分を示したいという思惑も働いたのだろう。1曲目は、やはり当時のトレンドをとても素直な形で自分達のヴァージョンとして提示したチル・ウェイヴ・チューン“fly me to the mars”だった。

ミツメ / fly me to the mars

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これに続く形で、ミツメは既発曲2曲を含む2ndアルバム『eye』を2012年9月にリリース。どのトラックも音像的には清涼感溢れる淡いサイケデリアを基調にしながらも、ソングライティング的にもプロダクション的にも千差万別。収録曲8曲すべてがそれぞれ何かしらの新たなトライアルに取り組んだアルバムで、ダビーなフォーク・トラックもあれば、ミニマリスティックなポストパンクもあり、彼ら流のファンクもある。前述のチル・ウェイヴ含め、そこはかとないダンス・フィールが目立つようになった。彼らなりの実験的なソングライティング、アレンジメント、スタジオワークが徹底された入魂の1枚だ。だが勿論、それが目立った形で前景化されることはなく、あくまで親しみやすいメロディと声が全体のポップな印象を決定している。ひとまずは、現時点での彼らミツメをしっかりとレプリゼントする作品だと言っていいだろう。

●じゃあ、『mitsume』というアルバムは既発曲を改めてレコーディングした作品なわけですが、これを録ってる時点で、2ndアルバム『eye』の曲は何曲かもう始めてた?

ナカヤーン「そうですね」

須田「“春の日”はあったんじゃないかな?」

大竹「まだ“cider cider”はなかったんだよね?」

須田「ないね。確か5月くらいにひさしぶりに4人でスタジオに入って、『eye』に入れる予定の曲を合わせた気がするな。“煙突”と“春の日”と“(fly me to the)mars”と」

●じゃあ、『eye』の収録曲を振り返ってもらって、この曲が一番新しい方向性を象徴する曲だなって今思えるのはどの曲ですか?

須田「うーん、やっぱり“fly me to the mars”かな?」

川辺「“春の日”かな」

大竹「どっちもそうだね。でも、その2つくらいかなあ」

●そこのポイントは、例えば、以前よりもさらに音像が深くなってる、展開がより平熱になってる、コードの展開もシンプルになってる、その分、楽器の遊び、上モノの変化、リズムの変化みたいなのをたくさん盛り込めるーーそういったこと?

須田「そうですね」

大竹「大体そう。1stの頃は川辺が引き語りで作ってきて、それに則して作っていくっていう感じだったので、やっぱり音も歌詞とかに則していると思うんですけど。2ndはもう、それを裏切るような音だったりとかが入ってて」

須田「最初のデモと較べて、何も一致してないくらい」

大竹「歌詞の意味も違って聴こえたりとか」

川辺「あとで歌詞を変えたりとか」

●多分、今、名前の挙がったアルバム最初の2曲目の印象が強いからなんだと思うんですけど、『eye』というアルバムって、さらにダビーな音像になってる。あと、明らかに鍵盤が増えてる。そのあたりのサウンドの変化っていうのは、ソングライティングの時点からあったアイディアなんですか?

大竹「結構、その時期くらいから、ソングライティングとアレンジが別々の工程になったというか。もともと川辺が曲を作ってきて、そこから別の曲になったかのように変える工程があって」

川辺「スタジオで6時間くらいかけて、こうじゃない、ああじゃないって言いながら、部品を組み立てていくみたいな感じだったんですね。だから、『mitsume』の時っていうのは、ちょっと窮屈な感じっていうか。展開に遊びがなく、もう盛り込みすぎた感じになっちゃってる。でも、もともとは“怪物”って、倍ぐらいのテンポのギター・ロック的な曲だったんですけど、その演奏を全部消して、あのCDに収まっているような感じのアレンジを作ったんですね。だから、それが契機になって、大体全部そういうやり方で作ってみようってことになったのが『eye』かもしれないですね」

●なるほど。その組み立て方って、それ以降、今に繋がるまで、わりとデフォルトになったスタイル?

川辺「わりとデフォルトになりましたね。バンド全体に」

●じゃあ、どこか『eye』っていうのは、本当の意味で自分達の名刺代わりの1stっていうところもあるんですか?

川辺「そうかもしれない。裏1st?(笑)」

須田「そうかもしれない」

●この時期、ダビーになったりとか、鍵盤が増えたりとかっていうのは、チルウェイヴ以降の影響もあったんでしょうか?

川辺「それもあったし。ただ1stの曲って、展開だったり、尺の長さ的にすごい不自由なんですよね。で、『eye』の曲って、特に“春の日”がそうですけど、アウトロを延ばしても、曲自体に干渉してこないじゃないですか? その時期、クラブ・ミュージックとか、ループの曲を聴くようになったのもあったから、『ライブの雰囲気で突然尺を延ばしたり出来ると、面白いな。尺的に自由な曲の方がインプロ的な要素を入れやすいんだろうな』とか思ったりしてて。で、ようやくそういうアイデアが形になったのが、“春の日”とかなんですね。だから、やっぱ弾き語りに肉付けするっていうのとは根本的に変わりましたね」

●クラブ・ミュージック聴き始めたっていうのは、具体的にどういうのを聴いてたんですか?

川辺「いや、クラブ・ミュージックというか、ボーズ・オブ・カナダとか(笑)」

大竹「たぶん、もともとそういう音楽が好きだったとは思うんですよ。勿論、ボーズ・オブ・カナダは前からすごい好きだったし。この時期、聴き始めたというよりは。でも、実際にそういうのをやろうとしても、『mitsume』の頃は表現力が弱かったりとか」

川辺「だから、この時期、出来るようになった」

須田「この時期、だんだん『少しの変化でも十分変わって聴こえるようにするにはどうすればいいのか?』がわかってきたんですね。でも、1stの頃はすごい不安だったというか、『このくらいしか変わらなかったら、変わって聴こえねーよ』みたいな(笑)」

●やりきることに対してちょっと躊躇があった?

川辺「多分、そう」

大竹「でも、なんかチルウェイヴっていう文脈で語られることが多かったんで、わりと不本意なところもあって」

川辺「ああ、そうだね。2ndの時点では、もうそんなUSインディとかにどっぷりじゃなかったし」

大竹「そう。『“fly me to the mars”だけじゃん』みたいな」

川辺「実際、シンセ入ってるのはこれだけだし。まあ、“cider cider”も入ってるけど」

須田「チルウェイヴじゃないよね」

●なるほど。『eye』以降って、比較的、ルートの展開も少なくなってきてる。その分、上モノの変化、リズムの変化がすごく増えてる気がするんですね。これも意識的だった?

大竹「そこまで頭では考えなかったですけど(笑)」

川辺「でも、歌が盛り上がらない分、楽器でどう聴かせるかっていうのは、結構みんな考えたんじゃないかな」

●じゃあ、“cider cider”の構成とか、イントロのギターのリフのある部分はトニックから始まるんだけど、でも歌はそこから不安定なルートに移動して始まる。で、むしろイントロとか、リフの部分の方が高揚感があるっていう、あまりない構成だと思うんですね。こうした構成というのは、意識的だったんでしょうか?

川辺「なんか、『歌よりも、フレーズの部分が一番盛り上がる感じにしたいな』っていうのはありましたね。でも、歌が始まってのコード感みたいなところは……。確かに構成は凝ったんですけど」

●この曲って、イントロとヴァース、で、ちょっとした変化っていう構成ですよね。つまり、コーラスーー所謂サビと言われるパートが存在しない。で、さっき川辺くんが言ってくれたみたに、歌のパートよりも、インストゥルメンタルのところがむしろ高揚感のある構成になってる。少なくとも、所謂ヴァース、ブリッジ、コーラスみたいな、ありきたりなポップスの構成じゃない。

川辺「それはありましたね。『Aメロ、Bメロ、サビからは脱したいな』と。で、飽きないように、小節を調整したり。飽きないまま楽器の盛り上がるところに到達して、そのまま終わりまでガーと行くみたいなのは、いろいろ考えたりはしましたね」

●なるほど。

川辺「他の曲も、例えば、“ディスコ”とかは、曲作りの段階では、まったく一緒のコードをずっと回してて、そこで歌と周りの変化だけで曲として成り立つようにできないかなと自分なりに試してみたりとか。“煙突”だったら、普通の弾き語りをリズムとベースだけにしてメンバーに渡してみて、どうなるか見てみようかなとか、そういう曲の構成に対しての、ごく個人的な冒険はありましたね」

●わかります。じゃあ、さっきと同じ質問です。『eye』の両側に置くとしっくりくる2枚を選んでもらっていいですか。

川辺「難しいな」

大竹「意外とバンドものじゃない方がハマるかもしれないですね」

川辺「ああ、『eye』作ってる時って何聴いてたっけ? 1stの方が簡単だね、なんか」

大竹「統一感があるからね、1stの方が」

●そうだよね。『eye』ってホント一曲ずつ全然違うし。

川辺「うん、そうですね。『mitsume』時代から脱しようと思っている感じの」

大竹「そう、一曲ずつ違う。ないよね、『eye』に関しては。ジャンルで考えると難しいな。逆に知りたい(笑)」

●じゃあ、俺から。一枚は、キュアーの2nd『セヴンティーン・セカンズ』。

須田「ああー」

●あのミニマル感。もうひとつはアルバムじゃないけど、USインディものの、リンドストロームがやるようなリミックス。

川辺「リミックス?」

大竹「キュアーっていうのは、音像的にはわりとそういう感じが」

●まあ、どちらも淡々としてるんだけど、微細な変化で聴かせていくっていう。

須田「でも、プリンス聴いてたな、その時はちょっと」

川辺「ああ、あの上半身、裸のジャケのやつ」

大竹「それ、“cider cider”だ(笑)」

須田「あれ、1stだっけ? いや、2nd(『プリンス(邦題:愛のペガサス)』)だ。でも、あれはあんまりインタヴューでは話せないようないただきをしてるからな(笑)」

●でも、確かに言われると、わかる。ギターのリフね(笑)。

大竹「でも、全然違うものになっちゃったよね。プリンスやりたかったのに(笑)」

件の“cider cider”は彼らミツメ史における、ここ最近までのひとつの到達点を示す名曲。サイダーをモチーフに、子供時代の夏に対する郷愁をモチーフにしながらも、ほのかなエロティシズムを湛えた、bpm90台後半のゆったりとしたミツメ流ファンク・トラックだ。3分52秒という尺の中で、歌が出てくるのは2分7秒まで。その後は演奏のみで聴かせるという構成は、彼らミツメがバンドとして目指す場所をしっかりと見据えていることを証明している。

ミツメ / cider cider

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「ミツメ interview part.2
音と言葉に隠された情感、その後ろにひっそりと隠れる人」
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