あなたは2015年をどのような一年だったと振り返るだろうか。幾つもの希望の光が潰えていく終わりの始まり? 新たなポップ音楽の黄金期に向けての胎動が感じられた年? 我々の目の前に広がっているのは輝かしい未来なのか、それとも果たして――?
もしかしたら、2015年は大きな時代の分岐点として記憶される年になるかもしれない。
ざっと見渡してみよう。メインストリームとアンダーグラウンドの理想的なクロスオーヴァーが起きていたアメリカのチャートは、気がつけば保守的なポップスに占められている。インディR&Bはウィークエンドのポップ・スター化で幕引きしたと言えるし、ここ10年ほど栄華を極めていたUSインディもかつてのような勢いはない。イギリスではクラブ・ミュージックの人気が相変わらず凄まじいが、ディスクロージャーの新作に漂っていたのは、セレブレーションのムードというより、アンダーグラウンドのシーンから切り離されてポップの世界に飲み込まれたことによる寄る辺なさではなかったか。そして、ここ日本に目を向けても、群雄割拠のインディ・シーンでは残酷なまでに明暗が分かれ始めている。そう、今年は2010年代前半に萌芽した幾つもの喜ばしい兆候が陰りを見せ始めた年だった。
だが、実のところ、それらはどれも局所的かつ短期的な動きに過ぎない。そのような枝葉末節に気を取られている間に、時代は大きく前に進もうとしている。
言うまでもなく、今年はブラック・ミュージック――とりわけアフロ・アメリカンのアーティストが圧倒的な存在感を示していた。それは、アメリカのヒップホップ/R&Bが活気に満ちていたというだけの話ではない。アラバマ・シェイクス、ミゲル、ケンドリック・ラマー、レオン・ブリッジズなど、彼らは多種多様なスタイルの素晴らしい作品を送り出している。そして、ceroやハイエイタス・カイヨーテのように、その動きに感化された音楽も人種や国境の壁を越えて生まれ始めた。少しずつ、だが確実に。
ここで思い出されるのは、ビバップ~ハード・バップ以降のモダン・ジャズ黄金期以前の状況、あるいは、全米におけるビートルズの発見に伴って、ロックンロールが二度目の黄金期を迎える以前の状況である。今一度、歴史を振り返ろう。白人的なスウィング・ジャズをモダン・ジャズが凌駕していった40年代から50年代半ば、50年代後半には一度は潰えたかに見えたリズム&ブルーズ/ロックンロールが国籍や肌の色を超えて広がっていった60年代。2015年の今、眼下に広がっているのは、そういった来るべき時代を想起させるような状況ではないか。時代は螺旋を描きながら繰り返す。となれば、我々の未来に待っているのは新たな黄金期だ。
ここに選んだ50枚には、そんな予感に満ちた一年に対する我々の興奮が反映されている。2015年は、数十年ぶりのダイナミックな地殻変動が起こり得る予兆が感じられた年。アフロ・アメリカンの底力が示された今年の動き――特に時代の中心となる強力な一枚が生まれた2015年の刺激は、様々な音楽にとってカンフル剤となり、来年以降の更なる喜ばしい変化へと繋がっていくはずだ、という。
では、そろそろ発表に移ろう。これが〈サイン・マガジン〉が選ぶ、2015年のベスト・アルバムだ!
2015年 年間ベスト・アルバム 41位~50位
2015年 年間ベスト・アルバム 31位~40位
2015年 年間ベスト・アルバム 21位~30位
2015年 年間ベスト・アルバム 11位~20位
2015年 年間ベスト・アルバム 6位~10位
2015年 年間ベスト・アルバム 1位~5位