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2016年
年間ベスト・アルバム 75
by YOSHIHARU KOBAYASHI
SOICHIRO TANAKA
December 24, 2016
2016年<br />
年間ベスト・アルバム 75

暗澹とした時代にこそ表現は力を発揮する。不穏な空気が渦巻く2016年は、だからこそ音楽がリアルでアクチュアルなものとして再び息を吹き返した。驚異的な傑作揃いの2016年は、25年ぶりのポップのビッグ・イヤーとして歴史に刻まれることになるのか?

2016年は歴史的な大豊作の年だった。年明けから年末に至るまで、ほぼ絶え間なく目の覚めるような傑作が生まれ続けていた。のちのち振り返った時、2016年は1991年以来となるポップ・ミュージックのゴールデン・イヤーとして記憶されるかもしれない。そんな予感さえしている。

1991年とは、ニルヴァーナの『ネヴァー・マインド』を契機に巻き起こったオルタナティヴ・エクスプロージョンによって、それまでの古い価値観が音を立てて崩れ落ち、新たな美意識へと刷新された年。ソニック・ユースのサーストン・ムーア曰く、「パンクがブレイクした年」だ。と同時に、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『ラヴレス』、プライマル・スクリームの『スクリーマデリカ』、マッシヴ・アタックの『ブルー・ラインズ』、ラーズの『ラーズ』、LFOの『フリークエンシーズ』、ア・トライブ・コールド・クエストの『ザ・ロウ・エンド・セオリー』といった歴史的名盤が一挙に送り出された年でもある。そんな目も眩むような輝かしい時代に匹敵する一年となったのが、この2016年なのではないか。

一年前の年間ベスト・アルバムでは、我々はこんな総括をしていた。2015年はブラック・ミュージックが原動力となり、ポップ音楽は新たな黄金期の入り口に足を踏み入れたのではないか、と。

2015年
年間ベスト・アルバム 50


この一年を振り返ってみるに、当時の予感は的中していたと言っていい。大豊作の2016年の中心にあったのは、やはり多種多様なブラック・ミュージックだ。チャンス・ザ・ラッパーを筆頭とするシカゴのクルー〈セイヴ・マネー〉からは素晴らしい作品が量産され、アトランタ産のトラップはヒット・チャートを席巻する時代の音として完全に定着した。ビヨンセやリアーナといった大物ポップ・アクトがキャリアのランドマークとなる重要作を生み落とした一方で、リル・ヨッティやリル・ウジ・ヴァートやコダック・ブラックといった新世代も台頭している。勿論、“ブラック・ビートルズ”が目下のところ4週連続全米No.1を獲得しているレイ・シュリマーの存在も忘れてはならない。北米産のヒップホップやR&Bは、世代や音楽的スタイルを超え、時代を力強く牽引する作品を生み出し続けた。

しかし、なぜ2016年はここまで大豊作の年となったのか。歴史を振り返っても自明だが、ポップ・カルチャーと社会情勢の関係は切っても切り離せない。トランプの大統領選勝利やブレグジットなどに象徴される、不満や不安や恐怖を背景とした人々の分断がこれまで以上に顕在化した2016年。そんな不穏な時代の空気が、アーティストたちに何を表現すべきか改めて問いかけ、より作品を研ぎ澄ませるように鼓舞したところは確実にあったはずだ。ビヨンセやコモンが打ち出したシリアスなメッセージ性にしろ、時には批判の的にもなったリル・ヨッティらの逃避的な表現にしろ、何らかの形で社会情勢を反映しているのは疑いようがない。そういった意味では、2016年は、音楽がただの趣味の対象ではなく、リアルでアクチュアルな表現として本格的に息を吹き返した年だとも位置付けられる。

しかも、そういった音楽が〈ビルボード〉のチャート上位に多数ランクインし、時にはメガ・ヒットが生まれ、多くの人にしっかりと聴かれているという事実にも触れておくべきだろう。実際、今の〈ビルボード〉のチャートを眺めてみると、チェインスモーカーズやトゥエンティ・ワン・パイロッツのようなチージーなものから、前述のアーティストたちによるエッジーなポップ・ソングまで百花繚乱。近年稀に見るような、健全かつエキサイティングな状況が生まれているのだ。

勿論、2016年はブラック・ミュージックだけが素晴らしかったと単純に結論づけていい年ではない。ボン・イヴェールとカニエ・ウェストとチャンス・ザ・ラッパーとフランシス・アンド・ザ・ライツが共振し合い、ビヨンセがジェイムス・ブレイクやジャック・ホワイトをフックアップし、フランク・オーシャンがビートルズやエリオット・スミスを参照してみせたように、これまでは考えられなかったような点と点が有機的に繋がり、ジャンルの再編成がダイナミックに起こったのが2016年だ。

インディやヒップホップやR&Bやポップやジャズといったタグ付けが意味を成さないような、新しいポップ・ミュージックの形がそこには生まれつつある。これは、今後5年、10年単位で音楽シーンに影響を与え続ける地殻変動の始まりかもしれない。そういった意味においても、やはり2016年は1991年以来となる25年ぶりのビッグ・イヤーだと呼びたくなる。

いや、こんな視点もある。1991年はヨーロッパではアシッド・ハウス、アメリカではグランジが隆盛した時期。つまり、1991年とは、その後さらに溝が広まっていく英米間/ジャンル間の分断の起点となった年でもある。だが、2016年は新たなクロスオーヴァーの始まりの年だ。果たしてどちらの方が重要な年として記憶されることになるのかは、歴史が証明することになるだろう。

この凄まじい一年を総括するに当たり、今年は特別に50位までではなく75位までのランキングを発表することにした。通常の1.5倍に枚数を増やすことで、今の音楽シーンで起きている地殻変動――どのジャンルやアーティストがクロスオーヴァーし、どういった文脈が生まれているのか、といったことがより正確に伝えられるという判断がひとつにはある。

もうひとつの理由は単純に、例年通りアルバム50枚のランキングでは取りこぼしてしまう作品があまりにも多いと考えたからだ。とは言え、それでもニコラス・ジャーやコダック・ブラックやKOHHや宇多田ヒカルやスカートやオウガ・ユー・アスホールなど、例年であれば当然のように年間ベストに入れる作品も苦渋の決断で落とすこととなった。それくらい2016年はとんでもない年だったのである。

では、そろそろ、我々が2016年という極めて刺激的な一年に感じた驚きと興奮を皆さんと分かち合うことにしよう。〈サイン・マガジン〉が選ぶ、2016年の年間ベスト・アルバムはこれだ!




2016年 年間ベスト・アルバム 71位~75位

2016年 年間ベスト・アルバム 61位~70位

2016年 年間ベスト・アルバム 51位~60位

2016年 年間ベスト・アルバム 41位~50位

2016年 年間ベスト・アルバム 31位~40位

2016年 年間ベスト・アルバム 21位~30位

2016年 年間ベスト・アルバム 11位~20位

2016年 年間ベスト・アルバム 6位~10位

2016年 年間ベスト・アルバム 1位~5位

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