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シャムキャッツ interview
Director's cut edition part.1
始まりはアステカからの葉書
by SOICHIRO TANAKA February 26, 2014
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シャムキャッツ interview<br />
Director's cut edition part.1<br />
始まりはアステカからの葉書

シャムキャッツ新作『AFTER HOURS』は、苛立ちと穏やかさの間で揺れ動く2012年後半日本のムードを見事に切り取った傑作『たからじま』を軽く凌駕する傑作。しかも、まったく違うサウンドとまったく違うスタイルの歌詞を併せ持つ100%新機軸。よって、総文字数2万字を越える長尺インタヴュー完全版を前編・後編に分けてお届けします。

もし時間が許すなら、まずは筆者が手掛けた前作『たからじま』リリース当時のインタヴュー記事を読んでみて欲しい。その上で、以下の対話に目を通してもらえば、この1年少しの間にシャムキャッツの4人が大きく変わった――明らかに別のフェイズに進んだことが手に取るようにわかるはずだ。何かをつかんだ、と言ってもいい。そして、この1年少しの間の彼らの変化と成長は、新作『AFTER HOURS』に見事に結実した。傑作。と軽々しく口にすることに少しの躊躇もない。

これまでのシャムキャッツは、何かしら音楽的な定型にとらわれることを避け続け、意識の片隅ではどこかそれを恐れてさえいたバンドでもある。成長を受け入れることで無限の可能性を手放してしまうことを拒む子供のように。それが証拠に、至極シビアな見方をすれば、彼らの二大代表曲――“渚”と“なんだかやれそう”は、どちらも所謂シャムキャッツらしさとは別の、偶然と勢いの力を借りて出来上がったフロック的なトラックでもあった。だが、この『AFTER HOURS』にはフロックは1ミリも存在しない。すべてが意志と鍛練の賜物。ここでのシャムキャッツは、抜本的な意識の変化を経由して、それに伴い、何をも恐れることなく新たな確固たるサウンド・フォーミュラを手にすることとなった。

その新たなフォーミュラとは、彼ら自身の言葉を借りれば、「ネオアコとヒップホップの融合」。アズテック・カメラを最初のヒントに、16ビートのグルーヴ、スロウでもバウンスするビートの構築、今までとは違うコード・プログレッションを徹底的に研究することによって、ソングライティングの拡がり、あからさまなリズムの強化がなされている。のみならず、アルバムに収められた個々の10の楽曲はその新たなフォーミュラに必要以上に縛られることなく、そのひな形から縦横にはみ出していく。

至極、乱暴に言うなら、『AFTER HOURS』のトーンは、以前と比べれば、遥かにメロウで、ダウンテンポ。言うならば、アグレッシヴで、アップテンポだった“なんだかやれそう”のような楽曲の対極にあるモードだと言っていい。勿論、中にはアップテンポなトラックもある。だが、本作『AFTER HOURS』のサウンドの肝は、テンポの速さとはまったく無縁の場所に存在している。それは、bpmが90台だろうが、120台だろうが、どのトラックもとにかく最高にグルーヴィだということ。それに尽きる。かつては、アンサンブルと呼べるかどうかギリギリのラインだった、荒唐無稽とも言える彼らシャムキャッツのバンド・アンサンブルは、ここにきて、その荒々しさを失わないまま、著しく進化を遂げた。

16の裏拍を意識したベース・ラインが、時には基本となるグルーヴを最小限のノートで生み出し、時には縦横にフレット上を動きまくる。ドラム・キットはビートの屋台骨をしっかりと支え、細かいハットのニュアンスでグルーヴに変化をつけていく。敢えてカッティングに徹したギターはリズムをぐいぐいとロールさせていく。重ねて言うが、とにかくグルーヴィ。のみならず、時にはエレクトリック・マイルス風のヘタうまエレクトリック・ピアノが、時にはメイン・リフを奏でる穏やかなシンセが――音色を厳選したさまざまなキーボードがきらびやかな花を添えることで、どの曲もカラフルで、鮮やかな印象を持つに至った。

耳を疑うような大きな変化はそれにはとどまらない。何よりも完全に別次元に突入したのが、夏目知幸のリリック。以前までのシュールな言葉遊びはすっかり後退した。それに取って代わったのは、時には三人称を使い、時にはキャラクターを設定することで、さまざまな境遇の架空の若者たちを主人公にしたストーリーテリングだ。しかも、歌詞の大半を物語を綴ることに割いたことで、結果的に最小限になったちょっとした言葉遊びが、ロマンティックで、リリカルなイメージの拡がりに一役買うようになった。「月夜はマルコ・ポーロ/大砲のざらつき/ひらり/めくるめく/黄金のランプ」といった具合に。

リリックの主たるモチーフは、2014年の日本なら、どこにでもいるだろう男女の生活。住めなくなった故郷の街を去っていく青年。互いに仕事に追われ、なかなか同じ時間を共有出来ない恋人たち。不貞から抜け出せずに秘密の逢瀬を重ねる男女。望まない理由で仕事を辞めるはめになり、思わず勢いで新たな部屋に引っ越してしまった元OL。初めての、淡くはかなげな、幼いセックスに永遠を感じずにはいられない少年――そんな主人公達の物語だ。と、同時に、震災による地盤の液状化、格差社会、ブラック企業といった2014年の社会的なトピックをさりげなく――本当に誰も気がつかないくらいさりげなく――盛り込みながら、時には日頃から誠実に懸命に生きながらも、現代的な矛盾から逃れられずにいるキャラクターたちにチクリと棘を刺しさえする。「また余計なものばかりが増えるでしょう/退屈よりはいいかなと/わたし今日のお代を払うのよ」といった具合に。だが、そこには責め立てるような批判的なトーンは微塵もない。リリック全体のトーンは、総じて優しげで、彼らキャラクターひとりひとりを見守るような慈しみの視線で貫かれている。

さあ、各論はおしまい。総論に行こう。つまり、『AFTER HOURS』というアルバムは、個々の10のトラックがそれぞれ異なる個性を持ちながら、全体として見事な統一感を持ったトータル・アルバム。慈愛に満ちた眼差しによって綴られた、2014年の日本を生きる若者たちの群像を描いた10の短編集。メロウなコード・プログレッションで彼らキャラクターたちを包み込むように見守りながら、同時にその煮え切らないケツをグルーヴィなビートで蹴り上げ、明日にロールさせていく日々のサウンドトラック。そして、半径数キロほどの小さな世界で右往左往し続ける、すべての若者たちに向けた“ホワット・ア・ワンダフル・ワールド”という、44分38秒のささやかな祝福。つまるところ、傑作『たからじま』とはまったく別種の魅力に満ちた、新たなるマスターピースだ。

2012年後半にリリースされたシャムキャッツの前作『たからじま』は最高のレコードだった。今の日本を生きる4人の青年たちのストラグルを刻み込んだ生々しく、リアルな「ドキュメント」だった。だが、この『AFTER HOURS』はもはや次元が違う。端的に言うなら、この『AFTER HOURS』はまさに文字通り、「作品」。これまで我々ファンは彼らシャムキャッツの音楽を楽しむと同時に、メンバー4人の人となり、彼ら自身の紆余曲折を含めた「シャムキャッツの世界」を楽しんでいたと言える。だが、『AFTER HOURS』の場合、メンバー4人のことを知る必要は微塵もない。サウンドとリリックによって構築された『AFTER HOURS』という「44分38秒の世界」を堪能しさえすればいい。

あ、でもね、ご心配なく。「作品」の後ろに隠れたはずのシャムキャッツの4人は相変わらずやんちゃだよ。今すぐに以下の4人との対話に目を通して欲しい。時には危うくて、時には信じられないほどタイトな4人の関係性がさらに次の次元に進んだことがありありと感じ取れるはず。誰かが言ったことを誰かが別な角度から説明し、補完し、時には茶化し、時にはひっくり返し――さまざまなアップ&ダウンを繰り返し、少しも飽きさせないフロウを描きながら、次へ次へとロールしていく。そう、『AFTER HOURS』の10の楽曲と同じく、4人の会話のアンサンブルは最高にグルーヴィ。さあ、お待ちかね。前座はおしまい。余計な戯れ言はもうたくさんだ。最高のアフター・アワーズをお楽しみ下さい。



●今回はちょっとイレギュラーなインタヴューです。今回のアルバム『AFTER HOURS』の先行シングル『MODELS』に収録されている3曲はしっかり聴かせてもらってます。ただ『AFTER HOURS』は敢えて数回流し聴きしただけ。歌詞カードも敢えて見ていません。なので、歌詞や個々の楽曲のディテールを把握しているわけではない。今回はそんな状態で取材に臨ませてもらおうと思っています。で、何故わざわざこんな面倒ことをするかと言うと、シングル『MODELS』は聴いているけども、まだアルバムを聴いていない読者、もしくは、シャムキャッツのことをそんなに知らない読者となるべく同じ前提、同じ情報量で、話を進めたいから。というのも、通常のアルバム・インタヴューだと、どうしてもインタヴュアーとインタヴュイーの双方がアルバムの説明をしようっていう方向に行きがちなところがある。そうなると、少しばかり会話が近視眼的になるきらいがある。なおかつ、ここだけで話が盛り上がっちゃったりすると、レコードを聴いていない人からすると、蚊帳の外ってことにもなりかねない。それよりはむしろ、メンバーが経験したこと、考えてきたこと、蓄積してきたことを会話の中心にすえた方が、その結実としてのレコードの全体像が浮かび上がるのではないか。そういうアイディアです。ただ、これまであまりやったことのない実験なので、大失敗する可能性もある(笑)。

全員「(笑)」

●なので、このアクロバティックなパフォーマンスに付き合ってください。

全員「よろしくお願いします」

●では、まずアルバムの露払いシングル『MODELS』――この表題曲というのは、シャムキャッツにとって明らかに新機軸なのは間違いない。最初の質問です。自分達としては、これまでの楽曲と比べて、もっとも意識的に変えたポイントはどういうところなのか、教えて下さい。

夏目知幸(以下、夏目)「僕としてはドラムとベースの構築の仕方。そこから変えたから、勿論、曲自体の感触も変わったっていう感じ」

●この曲のリズムというのは、ビートはbpm120台、で、何よりも16のグルーヴが軸になっている。これは、明らかにこれまでシャムキャッツがやってこなかったスタイルだよね。このアイディアというのは、どういう風に出てきたんでしょう?

夏目「最初はざっくりだよね」

藤村頼正(以下、藤村)「でも、俺は『どうしても16をやりたい』って言ってたから。本当になんとか16でやりたいと思ってて。これ、最初はジャムで作った曲なんですけど」

夏目「『たからじま』の時は、普通の8ビートが一番好きで。でも、なんか、自分達がやりたいフィーリングというのは、それでは表現しきれないものもあるなって気づいた時に、16の感じっていうのがあったんだと思います。ドラムも16でどんどん行く感じで、ギターはコードで支えて、ベースはわりとファンキーっていうか、自由に動くっていうのが、シャムキャッツにも合うな――そんなイメージがあったんですよね」

藤村「それと、単純にアズテック(・カメラ)を聴いてて、『あ、こういうの、今やったらかっこいいかな』っていう。『たからじま』のツアーの終わりかけくらいの時に、俺が車を運転してて」

夏目「俺が助手席に座ってたんですけど」

藤村「なんかiPodからアズテック・カメラが流れて。勿論、聴いたことはあったんですけど、それまでちゃんと聴いてなくて。それで『この感じ、いいんじゃない?』って言って。『やろうやろう、俺、16叩くから』って言って(笑)。『叩けんの?』って言われて。『いや、叩く』って」

●(笑)。

藤村「俺の印象として、『たからじま』って、絵的にぼんやりしてるっていうか。映像的にぼんやりと滲んだ色彩、そんなくっきりしてないな、っていうフラストレーションがちょっとあって。それで、次の作品ではもうちょっとくっきりした音楽やりたいなっていうぼんやりしたイメージがあって。でも、そんなくっきりし過ぎるのも違うし、いいバランスのとこ、ないかなあって、ぼんやり思ってて」

大塚智之(以下、大塚)「ぼんやり多いな(笑)」

菅原慎一(以下、菅原)「超ぼんやりじゃん(笑)」

藤村「いや(笑)、こんな風に感覚的な考え方しか出来ないんですけど。そんな中でアズテック・カメラが流れてきた時に、『あっ、この感じがいちばん近いな』っていうのがあったんですよね」

●じゃあ、アズテック・カメラの再発見はかなり大きかった?

夏目「そうですね」

藤村「大きかったですね」

菅原「なんか、“ネオアコとヒップホップの融合”みたいな。それ、ずっと言ってて」

夏目「あ、それ、俺、言ってた」

菅原「なので、それをどうにかしようとして、いろいろこねくり回してたら、出来たビートなのかなと。だから、この曲のビートの強さっていうのはヒップホップへの憧れ(笑)。だから、憧れ止まりなんですけど(笑)」

大塚「俺はアズテックをわりとちゃんと聴いた時に、シックとか、スティーリー・ダンとか、その辺なのかなって自分で勝手に想像して。だったら、もともと俺は16は……」

●大塚くんの場合、基本のビートだもんね。

大塚「自分では得意だと思ってるけど(笑)。だから、むしろ俺はいつも通りにやればいいのかなと思ったくらい」

藤村「結局、やりたいことをやった感じだよね」

大塚「そうそう。でも、やっていくうちに、ギターがもっともっとシンプルな方向に行くから、『頑張らなきゃな』みたいな感じで。だから、それこそヒップホップっぽいのも入っちゃってると思ってるんだよね」

●そもそも大塚くんの場合、ジャズなり、ソウルなり、もともと他のメンバー3人とは音楽的なバックグラウンドがかなり違うんだっていう意識はある?

大塚「結構、違うと思ってます。でも、夏目とは多少近いかもしれない」

夏目「僕、大学時代に中南米研究会っていうジャマイカ音楽サークルにいたので、黒いノリとか、ファンキーなものっていうのはわりと聴いてたし、やってたから、まあ、わかるんですよ。で、そういうのがやりたいなって思った時は、基本的にベースに相談して、それを作るっていう感じなんですけど」

●でも、確かにアズテック・カメラって、いいキーワードだよね。ネオアコって日本にしかない言葉で、海外ではポストパンクの支流のひとつなんだけど。その代表格のひとつでもあるアズテックの場合、ジャズやソウル、ボサとか、ラテン音楽がバックグラウンドにあって、コード・プログレッションやリズムが明らかに所謂ロックとは違ってた。で、アズテック・カメラのサウンドを通して、そのバックグラウンドにある音楽的なアイディアをたぐり寄せることで、自分達の新しい方向性を模索するというのは、彼らの音楽性が多岐に渡ってる分、非常に有意義なトライアル。

夏目「やってて面白かったのが、アズテックのリズムと展開を参考にして、今風にしようとすると、ヴァンパイア・ウィークエンドみたいになっちゃうんですよ。逆にアズテックのコード進行とか、和音の方を参考にすると、やっぱりフリッパーズ・ギターみたいになっちゃう。それで、どっちの方向にもいかない方向を突くと、“MODELS”みたいになったっていう」

●なるほど。じゃあ、この“MODELS”をアルバムの露払いシングルのリード・トラックにした理由は、主に、今、話してもらったサウンド面から? それ以外の理由もある?

夏目「実は、シングルで出そうと思ってた曲は2曲あって。最後まで迷ってたんですよね。でも、歌詞のハマり具合が“MODELS”のほうが圧倒的によくて。歌詞が出来た段階で、これで行こうって決定になりましたね」

藤村「僕らもそう思いましたね。やっぱり2014年最初に出すっていうので。あれ、俺だけ?(笑)」

大塚「いや、いいと思った。一聴した時に。夏目が歌詞入りで歌った時に」

菅原「でも、夏目は結構悩んでたんですよ。この曲って、最終的に出来上がるまでに本当に紆余曲折あって。最初はイントロの部分の『ドゥール、ドゥール、ドゥール』っていうのがメインで、全部それだったんですけど。そこからどういう風な展開をしていったら、ポップ・ソングとして面白くなるだろうって話があって。そういう時にアズテックの『ハイ・ランド・ハード・レイン』とかを研究して、サビがやっぱり欲しいよねって話になったんだけど、なかなか上手くいかなくて。で、最終的には、夏目が歌う曲なのに、サビのコードは僕が作ったんですよ。今までそういうことってなくて。だから、そこからメロディと歌詞を形にするのは結構大変だったと思ったんですよ。それであの面白い言葉の詰め込みも生まれたのかなって、俺は思っていて」

夏目「最終的に(メロディと歌詞がきちんと)乗るっていう自信はあるんで、ギリギリまで、ふんわり余裕ブッこいてるんですけど、いつも」

菅原「でも、ずっと『やっぱサビは変えたほうがいい』って言ってたから」

夏目「最初はDで始まって、Dが主旋律の曲をなんとなく作っていたんですけど、俺がそれじゃつまんないなって言って。イントロとAメロのキーを変えたいって。で、オレンジ・ジュースだったかな、そういう曲があったので、Gに行っちゃおうって。で、イントロをブリッジでまた持ってきちゃって、またサビは戻るっていう展開にしたいって、確かそこまで僕が決めて。で、コード進行ちょっと考えてみて、って。で、サビが決まって、サビの前にブオオオ~って、よくわかんないとこも入れて」

●あそこのアレンジ、いいね。最高。

夏目「ハハハハッ(笑)」

菅原「最初はあれを入れてなかったんだけど、そうするとつまんないし、どうしようって。で、『とりあえず連打だ!』って」

夏目「そうそう(笑)。とりあえず連打だって(笑)」

藤村「でも、最後に切るのがいいよね。切ったところでベースが鳴って」

菅原「うん、そうそう。それこそ、シングルにしようっていうのはなかったけどね、俺は。アルバムの中の位置付けでしたね」

夏目「でも、苦労はしたのかな、俺? どうだろ? まあ、違うパーツが多かったんで、『だったら、漫画みたいな感じかな?』と思って。コマがわかれてて、それぞれ視点が違うっていう風なら、歌えそうだなと思って。だから、結構、漫画家な気分で書きましたね」

●じゃあ、シングルのリード・トラックにする決め手になったという“MODELS”の歌詞の話。確かにこの曲の歌詞というのは、これまで夏目くんがあまりやってこなかったスタイルだよね。まずキャラクターの視点が彼と彼女――三人称になっている。で、1stヴァースと1stコーラス、2ndヴァースと2ndコーラスで、それぞれ視点を変えてある。男性と女性、それぞれの別々のストーリーだとも取れるし、二人が恋人だっていう風にも受け取れる。

夏目「そうですね」

●で、1曲の中でちょっとした時間の推移があって、少しだけ物語が進んでいく。つまり、意識的にストーリーを書こうとしてるよね?

夏目「そうですね」

●じゃあ、まず三人称で書こう、キャラクターを立てようっていうアイディアが出てきたのは?

夏目「アルバムを作ろうって思った時から、『今回は基本は三人称で行こう、僕って言葉を使っても、それは三人称の気持ちで歌詞を書こう』っていうのがあったので、それを徹底した感じですね。でも、なんでなんだろうな? もう自分のことを歌うのはあんまり……ない?」

全員「ハハハッ(笑)」

夏目「なんか、『美しさを捉えたい』みたいな気持ちがあったんですよ、最初に。特に『自分達が住んでた街について歌いたい』って気持ちが大きくて。その原因って、俺、浦安が実家なんだけど、地震の時、液状化がすごかったから、もうここには一生住めないっていう判断で、うちの両親が違うとこに引っ越したからなんですけど。実家が引っ越して、故郷が自分の帰る場所じゃなくなっちゃった時に、『大人になったな、俺』って思って(笑)。しかも、もしもう一回地震があったら、本当にだめになって、誰も住まない土地になっちゃうかもしれない。だから、そこで暮らしてたこととか、そこでよかったこと、美しかったことを曲にしときたいっていうか、アルバムとして残しておきたいっていうのが、まず最初の発端ではあるんですよ。そうなると、あんまり自分とか、僕はこう思ってる、ってところが、それを捉える方法としてはちょっと違うかなっていう」

●確かに。

夏目「それで自分がどう思ってるとか、自分が誰かのこと好きだとか、これにムカついてるとか、っていうのとは違う切り口で美しさみたいなものを捉えたかったって感じ」

●ただ、シングル『MODELS』に入ってる“どッちでもE”の場合、よくも悪くも、歌い手である夏目くんのキャラクター、もしくは、政治的なスタンスみたいなものも出てるよね。「右でも左でも/嘘でも本当でも/僕はどッちでもE」とか。そういう意味ではメッセージ性もかなり強いし、非常に力もある。しかも、非常によく出来たポップ・ソングでもある。にもかかわらず、この曲をアルバムから外したっていうのは、歌詞のスタイルという点において、アルバムの方向性とは違っているから?

夏目「そうです。今、言ったこととは、やっぱ離れちゃう」

大塚「それこそ楽曲だけで見たら、“どッちでもE”とか、アルバム入れたいかもしれない、っていう相談は勿論あって」

菅原「そうそう、そういう話はしたよね」

藤村「普通にポピュラリティがありそうな曲だから」

菅原「でも、今、夏目が話したアルバムのコンセプトの話は聞いてたので」

夏目「とにかく、そういう話はたくさんしましたね、メンバーに。これこれこういう意味で、こういう楽曲が必要で、とか」

●じゃあ、音楽的にアズテック・カメラを経由して、今までになかった音楽的なアイディアを持ち込むことから出発したものの、最終的には、アルバムとしてトータルで何を表現していくか? が、すごく重要な作品になった?

夏目「そうです。順番的にはホントそんな感じです。サウンド・アプローチのアイディアの後に、自分達なりのテーマが入ってきて、そこで初めて納得行ったっていうか。あと、土地柄的にも、何もないところにゴミを埋めて、街が出来て、そこで暮らしてて。で、それがダメになりそう、っていうのが、パンクが出てきて、グチャグチャになって、もう一回やり直そうと思って、ネオアコみたいなのが過去のものを盛り込んで違う形でロックとして成り立ったっていう背景とが被るなって、僕としては思って。だったら、その共通点、その交わるところを音楽として自分達で探せばいいものが出来そうだな、っていう感じです」

●なるほど。じゃあ、シングル『MODELS』に入ってる“象さん”について。この曲のストーリーというのは、さらなる震災が来て、液状化がさらにひどくなって、人が住めなくなった浦安、そこを闊歩する放射能で巨大化した象を捕獲しようとするチームがあって云々という、近未来的なフィクションなわけだよね?

夏目「うん」

●要は、これも、『AFTER HOURS』に至るまでの実験のひとつとして書いた歌詞?

夏目「そうですね、うんうん」

●で、ここには地盤の液状化と放射能というトピックが入ってて、つまり、今の世の中とのアナロジーというか、メタファーになってる。つまり、明らかに社会的なコメンタリーなわけだよね。ただ社会的なコメンタリーを伴った音楽にはプラスとマイナスの両方があって。ポジティヴなところとしては、アートとして何かしらの役割を果たしているとも言えるし、やっぱり強いフックもある。その代わり、ネガティヴな面としては、ともすれば、そこにフォーカスされ過ぎて、聴き方を狭めてしまうって危険性もある。でも、“MODELS”を聴く限りでは、夏目くんはその両方の面をきちんと見据えてたように思うんですね。というのも、そこに対する工夫が見事になされてる気がするから。

夏目「(笑)はいはい」

●その工夫とアイディア、方法について、夏目くん自身から説明して下さい。

夏目「誰の発言か忘れましたけど――何かの批判に対してかな?――『最近のラヴ・ソングには社会的な要素が入ってない』っていう物言いに対して、『いや、男女の関係をしっかり歌っていれば、自然と社会性は入り込んでくるから、わざわざそんなもの入れようとしなくていいんだ』っていうのを読んだことがあって。まさしくそれをやろうとしたっていうか。わざわざ“どッちでもE”みたいな曲ではなくても、“MODELS”みたいに団地に住んでる少年少女の恋の歌を歌うだけでも勝手に社会性が出るから、わざわざ入れようとしない。それくらいの濃さでいいかなっていう」

●うん、ホントいいところに落ちたね。素晴らしいね。

夏目「ハハハッ(笑)」

●じゃあ、このシングルの3曲の並びっていうのは、『AFTER HOURS』のイントロダクションでもあると同時に、そこに至る過程だったり、まだそれ以前の自分達の世界観の中でも何かしらフックのある2曲を収めている――そんな構成のシングルって位置付けでいいのかな?

夏目「そうです。なんか人によっては、“象さん”は新しいねって言うんですけど、僕らは全然そんな風には思ってなくて。むしろウィルコを少しうるさくしたっていうイメージです(笑)」

菅原「マジで?(笑)。俺は、遅いメタル……」

大塚「それ、単にユニゾンしてるだけでしょ!」

菅原「いやいや、でもね、あのユニゾンは今までなかったな、っていう」

大塚「でも、昔からああいう感じをジャムではやってたと思うし。だから、“象さん”はむしろ昔のフィーリングですよ。勿論、歌詞は違うけど」

夏目「歌詞だけ新しくしてみたっていう」

●じゃあ、さきほどの「美しいものを描こう」というアイディアについての質問です。さっきの夏目くんの文脈だと、「かつてあった美しいもの」を描くってことになる。ただ“MODELS”の場合、貧しくて、忙しすぎて、荒んでばかりだと誰もが言っている今の時代に対して、いや、ここにも美しいものがあるじゃないか? っていう曲だと思うんですね。「今ある美しさ」にもきちんとフォーカスされてるような気がする。

夏目「そうですね」

●だよね。じゃあ、そこはアルバムの他の曲に関しては、どうなんでしょうか?

夏目「最初の取っ掛かりとしては、『自分の暮らしてた街の美しさを残しておきたい』ってところではあったけど、うーん、変わらなさ、エヴァーグリーン……なんて言うんだろうな。要は、今でも夏目漱石の『それから』を読んでもわかるのと同じように(笑)、自分がやってきたこと感じてきたことをしっかり見て、今の気持ちでしっかりと書けば、あまり時間軸は関係なくなっちゃうかな、っていうか。ていうのも、どんな時代も、生活そのものはそんな簡単に変わらないっていうか。誰かがどこかからやってきて、そいつが他の誰かと出会って、ずっと一緒にいるのか、別れたりするのか、その場所から違うところに行くのかっていう基本的なストーリー自体は、多分、そんなには変わらない。だから、とにかく、そういうストーリーのいろんなパターンを書いたっていう感じなんですよね、自分の中では」

●なるほど。じゃあ、そのスタイルにおいて、何かヒントになったものはありますか?

夏目「あったかなあ……。あ、金曜ロードショーで、『おもひでぽろぽろ』やってたんですけど。前にも見たはずなんだけど忘れてたっていうか。で、観てたら、すっごいよくて、泣けてきちゃって。だから、『俺、宮崎駿じゃなくて、高畑勲になりたかったのかも』って思い出して」

●(笑)まあ、パクさんの方がさらにとんでもないですよ。

夏目「ねえ(笑)。で、あれって、テーマとしては結構似てるんですよ、『AFTER HOURS』と。自分が過ごした街とは違うところに行って、何か違う体験をしようとするんだけど、その最中でいろんなことを思い出しちゃって。そこで出会った人もいるんだけど、新しい人と出会ったことで、昔のことをまた思い出しちゃったりとか。ノスタルジーもありつつ、日本の原風景を残しとこうっていう力強さも感じるし。その対比っていうか、コントラストが素晴らしいなって思って。『これが音楽でやるならどうしようかな、歌詞で書くならどうしようかな』っていうのがアイディアとしてあったかもしれないです」

●一番のポイントは、原風景を残すっていうアイディアに加えて、変わるもの/変わらないものっていう対比だよね?

夏目「そうです、そうです」

●で、変わっていく、失われていくっていうのは、ネガティヴなフィーリングを醸し出すわけだから、それに対して、「けして変わらない美しさ」を最終的に浮かび上がらせることが出来たら、それで初めてこのアルバムは成功だ、っていう。

夏目「そうです。あと、例えば、オザケンの『10年前の僕らは/胸を痛めて/“いとしのエリー”なんて聴いてた』(“愛し愛されて生きるのさ”)っていう、あの限定性? 変わるものをガッと出すことによって、変わらないところの強さがすごい湧いてくるっていうか。むしろ変わらない美しさがムクムク起き上がってくる感じが欲しかったんですね」

●じゃあ、例えば、“MODELS”の場合だと、二人の恋人達がぎりぎりの生活の中で互いに支え合いながら、そこに些細ではあるけども、何かしら美しいものを見つけようとするっていう態度が軸にあるわけだけど、それとは別に、この曲の歌詞には皮肉もあるよね? 例えば、「なるべく容姿に気を使うためにはちょっとだけ/食費を抑えなきゃって/いつもいつも彼女は考えている」っていうラインみたく。二人の今風のライフスタイル、何よりも二人を取り囲んでる世の中の風潮、環境に対するちょっとした皮肉がある。少なくとも曲の成分のうちに、20%くらいあるよね?

夏目「うん、そうですね」

●じゃあ、その配分で言うと、アルバムのリリックはどうなの?

夏目「同じくらい。っていうか、パーセントっていうよりは、ベースにあるものがそれっていうか。自分達の故郷、浦安がテーマっていうのを念頭に置いていたので、要は、地面が元々はなかったところに作った、で、そこで暮らしてて、そこがだめになったっていうのと同じで、矛盾とか、危ないものっていうのが、全体の下地に、地面としてあるって感じ」

●なるほど、非常に明解ですね。素晴らしい。



「シャムキャッツ interview Director's cut edition part.2 そんなのどーでもいいじゃん 素敵な時間が待ってるぜ」はこちら。

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