さて、後編です。ここでの対話のハイライトは、『AFTER HOURS』が日常のそこかしこにある「素敵な時間」を描かせる動機のひとつにもなったフロントマン夏目知幸独自の視点、それを象徴する中学時代の事件。そして、ギタリスト菅原慎一が陥った深刻なアイデンティティ・クライシス。ベーシスト大塚智之の超「上からトーク」も必読です。
●じゃあ、もう一回、“どッちでもE”の話。この曲の「どっちでもいい」というのは、選択というものが何かしら社会的な義務でもあり、ある意味、尊いものであると思われている世の中においては、もしかすると、すごくシニカルな政治的な態度だ、無責任な態度っていう見方もあると思うんですよ。もしそう言われたら、どう答えます?
夏目「うーん、『どっちでもいい』って答えましょうかね(笑)」
大塚「え~(笑)」
●うまいなあ(笑)。じゃあ、それでも、なおかつ食い下がられて、「それはさ、『大切なことなんてない』って言ってるのと同じじゃないですか?」っていう切り返しがあったら、どう?
夏目「安藤美姫が子供産んだ時に、『それについてどう思いますか?』っていうアンケートを『週刊文春』がやったんですよ。俺、『ホントどっちでもいいな』って思って。『もうこれをどっちでもいいと思えない人とはしゃべれないな』って思うくらい、『どっちかの意見言ってても、どっちも間違ってるわ、それは』っていう」
●わかるわかる。すごくよくわかる。ただ、今って、そういうホントどうでもいいことに白黒付けたがる空気、あるよね?
夏目「ありますね」
●もしくは、「どちらかの立場を表明しないと卑怯だ」っていうような空気もある。勿論、おおむね間違ってはいないんだけど、時折それが強権的すぎるような場合もなくはない。で、この曲というのは、ある意味、そういう風潮をからかっている曲でもある。
夏目「うん(笑)」
●だとすれば、そういった「どっちでもいいじゃん」という感覚というのは、『AFTER HOURS』の他の曲の歌詞に、部分的にでも、別な書き方でも、何かしらの形で出てるんでしょうか?
夏目「具体的な歌詞としては出てきてないけど、こういうアルバムを作るっていうバンドの姿勢自体が『どっちでもいい』ってこと」
●なるほどなるほど。つまり、一人称を使って、自分自身の立場を表明するのではなく、三人称を使って、物語を書こうとしたアイディアの源泉としては、そういう今の空気感――どうでもいいことをわざわざ問題にしてみたり、しかも、それに無理やり白黒付けさせたり、あるいは、ちょっとヘマをした人達を必要以上にあげつらったりする風潮に対する「んなの、どうでもいいじゃん」っていう意識があったってことだ?
夏目「そうです」
●じゃあ、夏目くんの中に「どっちでもいい」ってことを表明したいというモチベーションが明確にあって、このアルバムを作ったっていう言い方も出来る?
夏目「うん、全然出来ますね。とにかく他人の評価とか、他人の時計に興味がなくなった。他人の評価に興味がないっていうのは、人が僕達をどう思ってるかに興味がないっていうんじゃなくて、誰かの評価を自分の評価にコピペする人が多いでしょ? それがすごい嫌だ」
●なるほど。じゃあ、こういう質問はどうでしょう。俺、10代の頃、フーが大好きで。16だかの時に、“ウォント・ゲット・フールド・アゲイン”――つまり、二度と俺達は騙されないっていう曲にかなりの影響を受けて。で、その曲って、ソングライターのピート・タウンゼント自身が、80年代のある時期には、あの曲は間違ってたって、一度は反省した曲でもあるんですね。どれだけ革命が起こって、政権が変わろうが、自分はいつでもへこへこ頭下げて、何でも従うけど、俺は昨日と同じようにギターを弾き続けるだけだ、っていう歌だから、ある意味、個人の政治参加に対する非常にシニカルな考え方だと。なおかつ、革命後に新しいボスに会ってみたら、昨日のボスと同じ奴だったっていうオチまでついている曲だから、政治的に何が起ころうが、結局、世の中なんて変わらない、俺達には関係ないっていう非常に無責任な歌だったって発言さえしたんだけど。でも、俺の場合、あの曲にあまりにも影響されすぎてて。かなり悪い意味でも。
全員「(笑)」
●あまりにも影響されすぎて、税金は払いはするし、国政について、いろんな行政の動きについて人に訊かれても、俺はこう思うよ、とは言うけど、本音の本音を言えば、選挙にさえ行きたくない。
夏目「ンフフフフッ。うんうん」
●っていうような幼稚で、無責任な人と同じなんじゃないですか? って、もし言われたら?(笑)。
全員「ハハハッ!」
夏目「まあ、そうですね。言われても仕方ないかな、くらいにしか思わないかな(笑)」
●でも、それ、マイノリティだよ。
夏目「そうですよね(笑)。マイノリティですよね。そうか、これ、最高に無責任なのかな。いや、でも、この曲って、もはやムカついてるんじゃないんですよ。『僕はどっちに転んでも気持ちいいぞ』っていう。だから、『正直、従いますよ』っていうことが言いたい。『従ったところで、僕の考えは変わらない。従ったことが僕の負けじゃない』っていうことが言いたい。昔、中三の時に、地元のいちばんヤバい不良集団が、『夏目、出せ!』って学校に来たんですよ。こういう場合、普通は顔を出さないんですよ。危ないから。地元で狙われちゃうから。でも、生徒会長とかやってたもんで、変に信用されちゃってて。先生に『理由わかんないけど、お前、ちょっと自分で話してこい』って言われて。緑髪とか、図体も全然俺よりデカい、体も出来上がってる中学生10人くらいに囲まれて。俺、今より20cmくらい背が低くて、もう本当にダサい感じだったんだけど。『なんですか?』って言ったら、『お前、どこどこの塾で、俺らに勝てるって言ったらしいな』って」
全員「(笑)」
夏目「『え~っ』って言って。『ギャグで言ったかもしんないっすね』って(笑)。『じゃあ、タイマン張れよ』みたいになって。いや、ちょっとそれは無理だわ、ってなって。じゃあ、とにかく一発殴らせろと。でも、とにかく、そういうのはやだから、帰ってくれ、って言って。でも、帰んないんですよ。先生とかが『じゃあ、俺を殴れ!』みたいにやってくれたりもしたんだけど、『お前が来ても、しょうがねえんだよ』って、完全に中学生にからかわれちゃって。どうやったら帰ってくれるの? って訊いたら、『屋上から飛び降りろ』とか、よくわからないこと言うんですよ。で、『つまんないなあー』って思って。とにかく帰ってほしかったんで、『それ以外だったら、何でもするから』って言ったら、『じゃあ、土下座して、地面舐めろ』って言われたんですよ。でも、そん時に俺、全然屈辱的じゃなくて。『勝った! 俺の要求を飲んだ』って思ったんですよね。で、俺は余裕って、じゃあ、するよ、ってなった時に、その熱い先生が『俺も一緒にしてやるから!』って、一緒にしてくれたんですけど」
菅原「同じ部活だったんですけど、部活の顧問の先生で。生徒指導のね」
夏目「そんな感じです、これは」
●なるほど。非常に明解な答えですね。ただ、世間一般に、その感じ、あるのかな?
夏目「まあ、勝ち負けがすごい好きで、わかりやすい価値を求めてますよね、みんながなんか」
●わかりやすい正義がわかりやすく勝利しないと、どうにも我慢できない空気あるもんね。勿論、間違っちゃいないけど。
夏目「うん、難しいですね」
●でも、だからこそ、この曲の存在は、大事だと思う。オルタナティヴなカウンターの1オプションとして。
夏目「よかった(笑)」
大塚「でも、自分達の、僕ら的な発信ではあったけど、“なんだかやれそう”みたいに『たからじま』の時も、ネガティヴな世の中に対して、『僕達がこんなにやってけてますよ』っていうことを言ってはいたと思うんですよ。『みんなもそうでしょ?』っていうほど押し付けがましくはないけど。例えば、“象さん”とかも、そういう意味では理解出来るし。そういうことを第三者の目で表現出来てるっていう意味では、地続きだとは思います、『たからじま』から」
夏目「うん、そうだね。バンビ(大塚)の話してたことですごい思い当るのは、確かに基本的には変わってないかもしれないんですけど、『たからじま』のやり方だと、とにかく疲れたんですよ。自分の身を削ってるかのようだったし、ライヴもグイグイ行かないといけないし、なんか疲れるなと思って。で、疲れるのはよくないなと思って」
●その、疲弊していく、摩耗していくっていうのは、どういう感覚なの?
夏目「なんか、自分が脚本書いて、自分が主演して」
●あー、なるほど。しかも、自分の実体験を部分的に利用して。
夏目「そう、利用して(笑)。だから、これは疲れるなと思って。だから、せめて役者を変えようと思って。そうすると楽ですね(笑)。その方が、書き手としては楽しいですし。俺だったら絶対しないけど、ここであの2人、やらせちゃうか、みたいなこととか、全部出来ちゃうから。その距離感が今はちょうどいいですね」
●じゃあ、他の3人は、この三人称の役者を立ててっていうアイデアに関しては、どう?
大塚「夏目が三人称にした時に、小説を書く感じっていうよりかは、『まあ、こういうのもあるよね』って、みんなで喋ってるような感覚に近いかもしれないと思いましたね。自分達の演奏に置き換えると、自分達の感じを出すのはすごい好きだけども、また一方で、遊ぶ感じっていうか、それに似てるっていうか。『たからじま』の時は、自分達のフィーリング出したいから、外の音はそんなに入れない、4人の音にするみたいな方向で夏目も言ってたんだけど、今回、余裕が出来て、いろんなことが出来るようになったから、そこを離れて、(菅原が)キーボードを弾いたりとか、もうどんどん好きなように、こういう音も入れたいよねって、それこそ第三者的な目線でいろんなものを入れてきたから、それと歌詞の感じも、もしかしたら、近くなってったのかもしれないなって思いますね」
藤村「まあ、けど、単純に……いや、けど、違うな」
全員「(笑)」
大塚「けど、そういう遊びって、結構、昔から好きだったから、俺らは」
菅原「でも、俺はそれ、今回、真逆かも。ちょっと脱線しちゃうんだけど――バンドの中での自分の仕事を考えた時に、サウンド面オンリーなんですけど――今、遊びの話が出て、キーボード弾いたって話が出たけど、俺からすると、まったく逆で。『キーボードでしか表せないから、めっちゃ頑張って弾いた』って感じなんですよ、個人的には。それが結構、辛い、きつくて」
●要するに、ギタリストとしてのアイデンティティを剥奪されたような感じってこと?
菅原「いや、そうなんです。ホントそう」
大塚「いや、でも、よかったよ。それこそ、ギタリストとしてっていうよりかは、大きい枠で見たってことだよね?」
菅原「そうそう。まあ、もともとギタリストとしてのアイデンティティは持ってないと思ってたんですよ、自分で。でも、ホント今回の場合は、夏目が書いたデッサンに色を付ける係にすごい徹したみたいな感じがあって」
藤村「そうだね」
菅原「ぼんやりとした世界観の共有は出来てたんですけど、細かい歌詞のこととか、自分の中では頭になくて。でも、地元も一緒だし、幼稚園から一緒だからわかるんですよ。描きたいものっていうのは。だから、音楽的に美しいものを作るのに徹したっていうか。でも、聴こえてくるじゃないですか? いい音楽って、別の音が。だから、ギターのフレーズが浮かぶと同時に、鍵盤的なフレーズも浮かぶんですよ。僕、弾けないんですけど、それを譜面に表して、今回、必死にやったって感じで。しかも、ライヴで再現する時のことをずっと考えて、レコーディングしてて。だから、すごい悩んで。本当はもっといろんな音やフレーズを入れることは出来たし、頭に浮かんでたんですけど、ライヴでやる時に、ギター弾いて、鍵盤も同時にやれて、っていうのを考えて、一応ちゃんとどっちも出来るように作りました。だから、あんまり被せてないんです、フレーズを」
大塚「なるほどね。もっと行けるっていう」
菅原「行ける行ける。そんな感じはあります」
●なるほど。じゃあ、菅原君にとって、これまでのレコーディングの中では、今までになく自分自身の役割を猛烈に揺さぶられ、なおかつ、メンバーの一人としてというより、バンドを俯瞰した場所からやらざるを得ず、っていう状態だったってことだ?
菅原「そうです、ホントそうです」
●それ、結構キツいよね?
菅原「はい、もう。ちょっと辞めたかったですもん、俺」
●えっ。それ、皆は聞いてたの?
大塚「まあ、俺は、なんかぼんやり聞いてたんだけど」
夏目「僕はそんなに。まあ、機嫌悪い風ではありましたけどね。むしろ『ギターで弾くのかな、このフレーズは』って思ってたのを、菅原がキーボードを自分で持ってきて弾いてたから、きっと何か意志があるんだろうと思って、いいね、よくないね、しか言わなかったです」
●じゃあ、菅原君からすると、バンド・レコードっていう感じは、ちょっとないのね?
菅原「ないですね」
●夏目くんにイニシアチヴがあって、そこのコンセプトに全員が寄せていったレコード?
菅原「そうです。でも、今は結果的にすごいよかったと思ってます。アルバムには無理やり自分のエゴをぶっ込んだ部分もあるんで。だから、そのバランスって、結構いい俺らの関係なのかなって思ったし。だから、ある意味、モヤモヤしてたのがすっきりしたのかな、っていうのはある」
●結果からしか言えないけど、結果的にこんなに素晴らしいレコードが出来て、なおかつ、バンドの組織論が刷新されることって、バンドが成長していくためには絶対的にプラスだから、そういう意味では、全部オーライだと思うよ。
菅原「そうですね。いや、ホントに。励まされるな」
夏目「よかった(笑)。やっぱり今回はとにかく曲が書きたかったんでしょうね。前まではパフォーマンスをして、バンドを見てほしかったんですけど。今はそうじゃないんですよね。さっきの疲れたってところに繋がる話だと、『たからじま』を出してから半年ちょいくらいは、どんな音楽聴いてもドキドキしなくなっちゃってたんですよ。だから、新譜も全然聴かないし、昔の聴いても知ってるし、みたいな。どういうバンドが売れても、まあ、売れるんだろうな、って曲調とか、システムとかも把握しちゃってるし。もうとにかく『ハア〜ッ』って感じだったんですよね。全然面白くないな、困ったな、ライヴも観に行きたくないし、って。で、何故か、そん時に引っかかったのが、アズテック・カメラとオレンジ・ジュース、ファンタスティック・サムシングとか。あと、スミス。何故か、その辺のものに対して、『美しい!』と思っちゃったんですよね。『ああ、綺麗だなあ。これ、やりたいな』っていうのがガッと来てしまったっていう。でも、自分としては面白かったですね。今まですごい嫌いだったんで」
●あっ、嫌いだったんだ?
菅原「そう、スミスとか。80年代半ばから90年代くらいの音楽って、なんかスッと入ってこないっていうか、10代の時に。僕達、85年生まれなんですけど」
夏目「スネア、ださっ、みたいな」
菅原「そうそう(笑)」
●スミスの1stとかも、タイコの音さえ入れ替えれば、ホント最高のレコードなんだけどね。
夏目「そうそう(笑)。でも、それがなんかね、しっくり来たんですよ」
●なんだったんだろうね?
菅原「なんだったんだろうね? それこそ疲れてたから?」
藤村「テンションがちょうどいいんじゃないかな」
夏目「そうだね。きっとね。グランジっていうか、オルタナ的なテンションの持って行き方とか、オルタナ的なエモーショナルな表現、エモーショナルな曲の作り方っていうのは、きっと自然と身に付いちゃってるんですけど。それとは違う、エモーショナルなものがそこにはあった。っていう感じかなあ?」
●分析的になると、グランジ/オルタナって、「もう一回、ストレートな形でエモーショナルになろうよ」っていう動きでもあったんですよ。要するに、80年代ってみんなシニカルだった。感情を、喜怒哀楽を表に出すことに対して、照れ以上に、そんなダサいことは絶対にやれない、と思ってた。俺なんて、ど真ん中のポストパンク世代だから、当時はとにかくエモーショナルなものは全部嫌だったの。それ以前は好きだったんだよ?
夏目「ンフフフッ」
●許せるのは、ソウルとか、ジャズ、ブラジル音楽とか。だから、コードにしても、普通にDとか、Gとか三和音だけの曲とか、もうダメなわけ。そんなストレートな感情なんて自分の中にはないよ! っていう。メジャー・セブンスとか、ディミニッシュとか、ハーフ・ディミニッシュとか、曖昧な和音を使った、ちょっとばかり回りくどい表現じゃないと、許容出来なかったところがあった。それゆえ、当時のバンドは、パンクのシンプルでストレートなところから一転して、複雑さとか、曖昧さに向かったりとか、過去のいろんなものを引っ張ってきたり、逆にありえないくらいアヴァンギャルドなものに向かったり、みたいなことに繋がっていったところがある。だから、80年代のポストパンク以降の表現って、シニカルでもあるし、非常に上品でもあるし、すごく客観的でもある。でも、確かに、今回の作品の方向性とリンクはしてるよね?
夏目「ええ、ばっちり当てはまっております。似てるね、スタンスとしても。今回のとね(笑)。なんだろね、それがやりたかったのかな、自然と。あ、それで、アズテック、スミス辺りが好きになって、僕、初めてコード進行とか、展開とかをメモるっていう作業をしたんですよ」
菅原「あ、それ、俺もやったわ(笑)」
●へー。でも、夏目くんが、意識的にある特定の音楽だったり、ジャンルだったりを掘って、分析して、自分の血にしたのって初めてでしょ?(笑)。
夏目「生まれて初めて(笑)」
藤村「でも、俺らもみんな……」
菅原「そういうモードだったのかもしれない」
大塚「多分、俺以外」
全員「(笑)」
夏目「生まれて初めて『なるほど、こういうコード進行なのか、ディミニッシュってこういう意味か、なんとか9thって、こういうことか』とか。でも、それがすごい楽しくて。だから、そういうちょっとしたエッセンスっていうのは微妙に振り掛けてます、アルバム全体に。それで自然と、言葉も変わってきたとは思うんですけど。それに、歌詞も日本盤買って、全部読んだんですよ。だから、影響も受けてますね。『ああ、こういうのでいいんだ』とか、『この若さでこういう歌詞が書けるのか』とか。『なるほどなるほど、これ、日本語で歌うの難しそうだけど、でも、まあ、入れちゃうか。日本語でやるとしたら、こういう感じかな』とか。そういう遊びも含めて、はめた感じはありますね。でも、なんか、バンドってこうやるんだな、って思った(笑)。コードとか研究したりね。実際、音源持ってって、こういう展開ってどうやるんだとかね」
大塚「確かにそうかもしれない。『夏目が、より音楽的な話が出来るようになったな』って思ってたから(笑)。超、上からだけど(笑)」
●(笑)今までは、そのバランスがシャムキャッツの個性で魅力だったから。
大塚「だから、ちょっと変わってきたんだよね、バランスが」
夏目「ちゃんとコードの話が出来るようになった(笑)」
菅原「コードの話ね、俺もまったく出来なかったけど。『ベースの音、これ、ミ?』みたいな(笑)」
大塚「そうそうそう。そもそも夏目が菅さんにコードを教えないから、基本的には」
菅原「俺、知らない状態でずっと作ってたんで、『たからじま』までは。耳で全部聴いて、合ってれば、大丈夫っていう」
大塚「菅さんが積極的に俺に訊いていて、コードの話とか。だから、もしかしたら違うコードで、オンコードになってた時とか、結構ある」
夏目「バンビがいちばんわかってるから」
●大塚くんに訊いていい? 大塚くんみたいな音楽的キャリアの耳からすると、アズテック・カメラなり、オレンジ・ジュースなりの、少しばかり拙いリズムのアレンジ、演奏っていうのはどう聴こえるの?
大塚「いや、さっき言ったみたいに、それをジャズに置き換えると、みたいな(笑)。ファンクとか、ジャズに置き換えると、シックとか、スティーリー・ダンとか、もっとちゃんとそれをやれてる人達(笑)――もっと知識があり、もっと技術もある人達がやっているとなると、こういう感じなのかな? って置き換えて、俺はそっちのフィーリングで持ち込むから。まあ、これまでもずっとそうなんですけど、夏目がやりたいこと訊いて、けど、それはやらずに、こっちの雰囲気でそれに近いものを持ってくと、ちょうどミックスされるから、ちょうどいいなって感じでいつもやってて。そういう意味では、俺は今回も変わらないんですけど。だから、“MODELS”とかは、RHファクター的な要素があったりとか」
夏目「ああいうの聴いた時はいいなと思うの? どういう感じなの?」
大塚「あっ、いいなと思った」
菅原「そこの質問(笑)」
大塚「すごくいいなと思いました。なんか、ちゃんとやろうとしてるし」
●超、上からだけど、いいなー(笑)。
大塚「やっぱりベースがルートじゃないから。ちゃんと動いてるし。むしろ共感を覚えました……って、超、上からだな(笑)。しかも、わからないなりにやってるから、『こういうアイディアあるんだ?!』って感じです。夏目がたまに『ベースをこういう感じで弾いて』みたいなことを言ってくる時にも、同じように思う時があるんですけど、オレンジ・ジュースを聴いた時も、ジャズの人だったら、ここまではやらないなって思うようなことするじゃないですか? しかも、ベースがちゃんと動いてるっていう。多分、ギタリスト的な雰囲気で弾いてるんだろうけど。だから、『ああ、こういうやり方あるんだな』って、多少は取り入れてるつもり。だから、今回、ようやく自分が好きなフィーリングに近づいてきたっていう感じですかね、シャムキャッツが」
夏目「ハハハハッ! 長かったね! 1st出してもう5年経ってるからね(笑)」
大塚「いやあ、長かった、長かった(笑)」
菅原「よくやってる(笑)」
夏目「よくやってるわ、ホントに(笑)」
「シャムキャッツ interview Director's cut edition part.1 始まりはアステカからの葉書」はこちら。