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  • T2 トレインスポッティング(2017) directed by Danny Boyle by MARI HAGIHARA March 10, 2017 1
  • ジャッキー/ファーストレディ最後の使命(2016) directed by Pablo Larraín by MARI HAGIHARA March 10, 2017 2
  • はじまりへの旅(2016)
    directed by Matt Ross by MARI HAGIHARA March 10, 2017 3
  • LION/ライオン ~25年目のただいま~(2016)
    directed by Garth Davis by MARI HAGIHARA March 10, 2017 4
  • ビッグ・リトル・ライズ(2017~)
    created by David E. Kelley by MARI HAGIHARA March 10, 2017 5
  • 先日UKで公開された際は「これはスコットランドの『スター・ウォーズ』だ!」と煽られていて失笑。でも『トレインスポッティング』(1996)は一般的にはむしろ、クール・ブリタニアなど「イングランド」的な90年代の現象のランドマークなんじゃないでしょうか。そしてあのシニカルな快楽主義にちょっとでも共鳴した世代にとっては「期待せずに期待してしまう」続編でもあるはず。結果から言うと、いまの若者にとってカッコよくなくても、オジサンの胸をズギュンと撃つ一作になりました。めぐりめぐって再びエディンバラに集結したあの4人は人生のツケを払い、失望をだましだまし、なんとかカッコつけて生きようとしている。そのとき人はどう記憶に左右されるのか、時間はどうループするのか。その機に前作の名場面や音楽ネタを次々繰り出してくるあたり、目が離せません。スコットランドの自虐ギャグも健在で、個人的にはユアン・マクレガーがスコットランド英語をしゃべってるだけで嬉しくなってしまう。ともかく監督ダニー・ボイル、脚本家ジョン・ホッジ、主演の4人らがとことん「いまの俺」に向き合った度胸を買いましょう。ダメな大人は観て、涙してください。

  • オスカーを受賞できなかった作品を三本推していきます。まずは『ジャッキー』。ナオミ・ワッツのダイアナ妃などメロドラマな伝記ものが続いた昨今、本作はそれと一線を画す、冷徹でコンセプチュアルな作品。チリ出身のパブロ・ラライン監督をはじめ、アメリカ外の人にしか描けないジャクリーン・ケネディ像になっています。最初はジャッキーの口調や仕草を完コピするナタリー・ポートマンの演技に戸惑うかも。でもそれには理由があります。JFK暗殺前後の経過、初めてホワイトハウスにカメラを入れたTV番組の再現、夫の死後の初取材――と、いくつかの出来事を断片化した場面は、時系列を無視してパズルのように組み合わされ、その局面ごとにジャッキーはさまざまな顔を「演じて」いる。その「演技の演技」のためにポートマンは正確なマンネリズムを必要としたのです。さらに断片を彼女の演技以上に繋ぐのが、ミカチューことミカ・レヴィによる不穏なスコア。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)におけるジョニー・グリーンウッド並みに重要な役割を果たしています。「失われたキャメロット神話としてのJFK」というモチーフも、アメリカの現状を射抜くはず。

  • 原題の『Captain Fantastic』は、ヒーローものと紛らわしいという理由でこの邦題に変わったらしく、日本の予告編もほっこり系。でも実際、これはある家族を通じてアメリカのリベラルな理想が現実とぶつかり、戦わざるをえなくなる姿を描く――という意味で、「もう一人のキャプテン」のヒーローものなのです。それを演じるのがヴィゴ・モーテンセン、というだけで痺れるのに、彼と6人の子どもの生活がとんでもなくヒッピーでクール。彼らは森の奥でサヴァイヴァル術を身につけ、歴史・哲学・言語を学び、世俗の祝日ではなくノーム・チョムスキーの誕生日を祝うのです。ラジカルな正しさ! ただしその過激さゆえに、母の死によって下界に降りた彼らは「普通のアメリカ人」にまったく適応できない。その葛藤と内部からの反抗も重なり、崩壊しかけた家族は着地点を模索します。そう、これは思想の極端を修正し、妥協する話でもあるのです。親の理想主義と現実を生きる子のズレ、という意味では『モスキート・コースト』(1886)や『旅立ちの時』(1888)などのリバー・フェニックス主演作も連想。ちなみにヒッピーなヴィゴのフル・フロンタル場面もあります。

  • 5歳のときインドで迷子になり、養子としてオーストラリアに渡った青年が25年後にグーグル・アースを使って生家を見つけた――という、まさに「~事実は奇なり」な実話の映画化。主演のデヴ・パテルは基本的にご贔屓。でもこの映画が偉いのは、彼が演じる青年サルーの回顧としてではなく、5歳の少年の物語が冒頭からずっと続くところです。彼は駅で兄とはぐれ、回送列車に閉じ込められ、故郷から遠く離れた大都会コルカタに放り出される。その世界の混沌と巨大さに立ちすくむ姿は強烈なイメージで、スピルバーグ初期作の子どもたちをも思わせます。成長したサルーがふと手にしたインドの菓子で一気に記憶がよみがえる、というプルースト的な場面も効果的で、一つ間違えると陳腐になりかねない物語をごく感覚的に、映画的に語ろうとしている。監督のガース・デイヴィスら、オーストラリア人スタッフの空間に対するセンスも活かされている気がします。あと、タイトルの由来に私はまんまと感動させられてしまいました。

  • 海外ドラマにおいては「何を見るか」より「何を見ないか」で迷うような現状。なのにそれを無視してハマっているのが、〈HBO〉の『ビッグ・リトル・ライズ』。というのもこれ、超贅沢でスタイリッシュな昼ドラなのです。クリエイターに『ボストン・リーガル』のデヴィッド・E・ケリー、監督に『晴れの日は会えない~』のジャン・マルク・ヴァレ、メインの三人を演じるのがリース・ウィザースプーン/ニコール・キッドマン/シェイリーン・ウッドリー。と、揃う顔ぶれもヘヴィ・ウェイトながら、舞台となる海辺の町、建築、インテリアがライフスタイル・マガジン仕様に美麗。そんな素敵な場所で暮らしているのは、やっぱり素敵な人々……のわけはなく、ドロドロの人間模様と殺人事件が展開します。こんなに予算も才能もつぎ込んでベタなものを作られたら、もう抗えません。それにしても映画だけでなく、女性観客をターゲットにしたミステリ大作はもう主流と言っていいでしょう。本作でのセクシー担当はアレクサンダー・スカルスゲルド。ニコールと大胆に、スティーミーに絡みます。今年は『ラ・ラ・ランド』しかり、こういうゴージャスに逃避できる作品もヒットしそうな予感。

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