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  • ライトハウス(2019) directed by Robert Eggers by MARI HAGIHARA June 11, 2021 1
  • 地下鉄道 ~自由への旅路~(2021) directed by Barry Jenkins by MARI HAGIHARA June 11, 2021 2
  • トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング(2019) directed by Justin Kurzel by MARI HAGIHARA June 11, 2021 3
  • 1971:その年、音楽が全てを変えた(2021) directed by Asif Kapadia by MARI HAGIHARA June 11, 2021 4
  • 逃げた女(2020) directed by Hong Sang-Soo by MARI HAGIHARA June 11, 2021 5
  • ともにA24からデビュー作をリリースしたことで親友になった二人の監督、アリ・アスターとロバート・エガース。『ミッドサマー』(2019)など、アスターが個人的なトラウマを恐怖に昇華しているとすれば、エガースは過去の出来事を元に人の救われなさを描いている。どちらの映画でも、怖いのは超自然ではなく人間です。歴史オタクのエガースは実際に起きた事件から緊迫した設定を借り、『ウィッチ』(2015)ではピューリタン社会から追放された家族が狂っていく様子が、本作では孤島にやってきた二人の灯台守が狂っていく様子が展開します。両作とも舞台はエガースの故郷、ニューイングランド。黒々としたモノクロ映像もシグネチャーです。今回はとにかく、ウィレム・デフォーとロバート・パティンソンの二人芝居が圧巻。髭面の男たちの力関係、抑圧された欲望、非常事態での突発的な行動から目が離せない。お互い監視しあっている状況も不気味です。荒れた海、泥、汚れた建物、カモメ、そして男たちの排泄や自慰。すべてが映しだされ、暗いエネルギーを高めます。メルヴィルやラヴクラフトなどの文学、ワイエスの絵画もインスピレーションらしく、確かに脈々と流れるものを感じさせる一作。

  • コルソン・ホワイトヘッドの小説『地下鉄道』をバリー・ジェンキンスが映像化。物語の始まりとなるジョージアは、いまもアメリカで人種をターゲットにした投票妨害の焦点となっている州。奴隷としての人生から抜け出すため、少女コーラは地下に潜り、逃亡者となります。金髪の少女アリスが転げ落ちる穴には不思議なファンタジーが広がっているけれど、コーラが進む暗い穴の先にはアメリカの町があり、形は違えど、どの町でも人種隔離と残酷な行為が行われている。アリスでもドロシーでもないコーラの冒険譚は重く、つらく、本当に鉄道が走るなどSF的な設定はあっても、ジェンキンスの美しい映像はむしろ生々しさを強調するものになっています。そこでは尊厳が簡単にふみにじられ、人間らしく生きようとすればするほど苦しみを背負うことになる。ただブラックの体験を寓話化する全10話においては、時折少女たちがふと夢を見る瞬間があり、それが余計痛々しい。とはいえ希望をつなぐのもまた、彼女たちなのです。絵画のようなカットにおいて、すべての黒人が黙ってこちらを見つめ、問いかけてくるシリーズ。

  • 19世紀オーストラリアの伝説の盗賊、ネッド・ケリー。義賊として知られ、映画になることも多かった彼の「真実の歴史」を綴るのが、ピーター・ケアリーによる原作小説です。つまり、これは真実という名のフィクション。ただ西部劇のヒーローのように描かれてきたネッド・ケリーより、今回ジョージ・マッケイが演じる繊細で傷ついた若者のほうがずっと身近で、彼が暴力に身を投じていく過程に説得力がある。エシー・デイヴィス演じる母との複雑な関係、権力を持つイギリス人たちの執拗な嫌がらせがネッドを追い込んでいくのです。ネッド・ケリーの象徴的アイテム、鉄製のヘルメットももちろん登場しますが、それより印象的なのはアウトローの若者たちがロングドレスを着て盗みを働く姿。本作ではジェンダーやセクシュアリティの曖昧さも焦点です。トーマシン・マッケンジーやニコラス・ホルトら他のキャストにも見応えがあり、オーストラリアの湿地帯の風景が見たことのない史劇を際立たせています。

  • セナ、エイミー・ワインハウス、マラドーナという各界の天才を細やかなドキュメンタリーにしたアシフ・カパディア監督。彼が新たに手がけた全8回のシリーズは、1971年をテーマに、当時の混乱した社会と音楽をリンクさせていきます。この設定が絶妙。ヒッピー・ムーヴメントを中心に60年代の夢が破れ、ベトナム戦争が激化し、保守的な反動もあったそのとき、幻滅と恐れを抱えた人々が「変化」をどう受け入れ、表現したかが語られるのです。カパディアの作品はとにかく下調べが膨大であるとともに、記録映像を発掘して、ナラティブと並列させるのが特徴。本作でも、女性とLGBTの権利が描かれる回では『アメリカン・ファミリー』というTV番組を挿入。一つの家族の変貌と、キャロル・キングやエルトン・ジョンの台頭が比べられます。またブラック・ムーヴメントの回に登場するスタンフォード監獄実験やアッティカ刑務所暴動の記録映像も衝撃的。全回を通じて、やはりブラック・ミュージックのさまざまな側面がもっとも力強く、興味深い。黒人のルーツを通じて欧米だけでなくアフリカ、ジャマイカへと話が広がるのも魅力です。気づかなかったような70年代の文脈に気づくようなシリーズ。

  • 実は、ホン・サンスの映画は苦手でした。その情けない恋模様というよりは、出てくる男女に年齢差があるところと、酔っ払うとみんな人が変わるところ。酒が入らないと口説けないような年配の男はあんまり見たくなかった。ただ、ホン・サンスがキム・ミニを主演に据え、女たちについて映画を撮るようになってからは、その会話が楽しめるようになりました。今回はキム・ミニ演じる女性が、三人の友人を訪ねていくという構成。とりとめがなく、不思議にループするような会話からは、だんだんと女たちの繋がり、それぞれの人生の分岐点、そして彼女たちがいまいる場所がわかってきます。ただそこに突然男性が入ってくると、まったく違うコンテキストと力関係になってしまう。カット割やズームも変わっていて、特別何が起きるわけでもないのに、その謎によってまた見直したくなる映画です。

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