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  • 燃ゆる女の肖像(2019) directed by Celine Sciamma by MARI HAGIHARA November 13, 2020 1
  • クイーンズ・ギャンビット(2020) directed by Scott Frank by MARI HAGIHARA November 13, 2020 2
  • もう終わりにしよう。(2020) directed by Charlie Kaufman by MARI HAGIHARA November 13, 2020 3
  • ブレスレス(2019) directed by Jukka-Pekka Valkeapaa by MARI HAGIHARA November 13, 2020 4
  • すべてをかけて: 民主主義を守る戦い(2020) directed by Liz Garbus by MARI HAGIHARA November 13, 2020 5
  • 二人の女性が、激しく短い恋に落ちる。舞台となる18世紀北フランスの海辺は荒凉としていて、まるでブロンテ姉妹の小説のようです。そして画家とそのモデルである二人はお互いを見つめている。「gaze=視線」によってサルトルやフーコーは哲学と美術を語り、それは精神分析に引用され、フェミニズムにおいてはもちろん、「男の視線」として権力や搾取の象徴となりました。でもこの映画では二人が女であることで、視線は一方的ではなく、主体と客体が入れ替わるエクスチェンジとなる。貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)と、彼女の絵を描く画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は対等に見つめ合い、与え合い、変わっていくのです。エロイーズは自由を知り、マリアンヌは情熱を受け取る。ただ肖像画が完成すれば、エロイーズは嫁ぐことが決まっています。『燃ゆる女の肖像』が重層的なのは、ラヴ・ストーリーというだけでなく、恋の記憶をたぐる物語でもあるから。別れのあと、人は思い出とともにどう生きていくのか。相手の姿を自分は覚えているのか。二人だけでなく、登場する身分の違う女たちはそれぞれにセックスや妊娠、堕胎や出産を経て、おそらくはその名前も記憶も男性社会の中で消えていってしまいます。ただ、絵や音楽は残る。引用されるオルフェウスの神話が美しく悲しく、シンボリック。監督は『ガールフッド』(2014)など、これまで10代の少女たちを描いてきたセリーヌ・シアマ。

  • アニャ・テイラー・ジョイがチェスの天才を演じるドラマ。堅実でスリリング、すべてにおいてウェルメイドな全7話ですが、ここでも素晴らしいのは主人公ベスと養母アルマ(マリエル・ヘラー)の女性像です。孤児院で育つうちチェスを学び、同時に処方薬依存になるベス。ベスを引き取ってから夫に去られ、やはり処方薬と酒に溺れるアルマ。ベスがチェスの大会で稼ぐようになるとアルマはマネージャーとなって、彼女たちは広い世界へ出ていきます。母と娘、メンターなど安易なステレオタイプに陥らず、二人が心を通わせる繊細な描写に見入りました。もちろん、他の登場人物も複雑で魅力的。チェスという男の世界をベスが生き抜くストーリーを飾ります。たっぷり予算をかけた1950~60年代のコスチューム、美術、建築はため息もの。依存やトラウマなど現代的なイシューもありつつ、基本は少女のビルドゥングスロマン。タイトルはチェスの差し手で、たとえ駒を失っても、自分にしかない「勝ち筋」を見つけることのメタファーになっています。

  • ここしばらく頭の中に居座っている映画が、チャーリー・カウフマン脚本/監督の『もう終わりにしよう』。イアン・リード原作、不安と閉塞感に満ちた不条理な心理劇です。恋人ジェイク(ジェシー・プレモンス)の実家を訪ねる女性(ジェシー・バックリー)は、彼とは映画や本について驚くほど話が合うものの、別れることを考えています。なぜかそれを感づいたような口調のジェイク。吹雪のなか車を走らせ、到着した家はすべてが不気味です。ずっと体を震わせている犬、「入ってはいけない」地下室、そして妙にはしゃぐジェイクの両親。やがて時間が歪みだし、ようやく夕食を終えて帰途についても、さらなる迷路が待っています。カウフマン的なアイデンティティやジェンダーが取り上げられているものの、これまでの作品と違い、モノローグは女性。ストーリーを理性的に解釈するならジェイクが主体ですが、ジェシー・バックリーの存在感もあって、感情はすべて彼女が担っている。怖さが物語をドライヴするのです。眠れない夜にまた見なおしたい映画。

  • 愛と喪失をテーマに、BDSMをモチーフにしたフィンランド映画。湖で妻が溺れた際、水中で夢のような一瞬を体験した男は、妻の死後一人で娘を育てています。その味気ない日常から偶然SMクラブに足を踏み入れた彼は、プレイの最中に水中のユーフォリアを追体験する。そこから始まる快楽への耽溺と、ドミナトリクスの女との関係。美しい映像と過激な場面が交錯しながらも、シリアスになりすぎず笑えるのがいい。何せ原題は『Dogs Don't Wear Pants(犬はズボンをはかない)』なのです。ただどんなに滑稽でも、二人の間には大きな悲しみと孤独、麻痺してしまった心がある。それを痛みが癒していきます。主演は『トム・オブ・フィンランド』(2017)でゲイ・アーティストの先駆者を演じたペッカ・ストラング。ボンデージの着こなしは慣れたものです。BDSMのラヴ・ストーリーはいろんなパターンを読んだり、見たりしてみたい。

  • 2020年米国大統領選に影響を与えたのがグラスルーツの活動家たち。なかでも称賛された一人がステイシー・エイブラムスです。彼女が進める投票権運動は、20年以上も共和党が強いジョージア州が民主党にフリップした一因。本作は大統領選と連動し、投票を呼びかけるために作られたドキュメンタリーですが、奴隷の子孫である彼女のプロフィールとアメリカの投票抑圧の歴史を重ね、とてもわかりやすい一作になっています。今年亡くなった公民権運動のジョン・ルイスやルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁知事も登場し、いま見るとまさに歴史を俯瞰しながら、2020年のアメリカがアクチュアルに感じられる。いまだに黒人だけでなく、移民や若い世代が選挙登録し、実際に投票することの難しさ、その一票の重みが伝わってきます。

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