エミー賞主演女優賞を史上最年少で受賞! これを祝って、まさにゼンデイヤを見るドラマ『ユーフォリア』を。もちろん他の俳優も素晴らしい演技を見せているのですが(私は売人役のアンガス・クラウドが好き)、彼女のインパクトが大きすぎる。ティーンが直面する現実のグロテスクさとキラキラした瞬間、躁と鬱のギャップ、作品としてのスタイルと内容――そのバランサーを一人で背負っているのです。海外における『ユーフォリア』への批判は主にドラッグ、セックス、暴力といった10代の問題をクールな映像(暗い画面で光るネオン・カラーがシグネチャー)で美化していることと、プロットが弱いことの二点。ただゼインデイヤ演じるルーによって感情の拠り所ができ、スタイルにも説得力が出ています。ルーはドラッグ依存で、トランスジェンダーのジュールズ(ハンター・シェーファー)と恋に落ちる。周りの10代も性やSNSの不安に振り回されています。一人ひとりのさまざまな事情、葛藤がリアルに描かれる前半は圧巻。特にセックス描写にやられます。ただ終盤はプロムなど従来のティーンものの設定を逆手に使おうとしたことで、ギリギリした感覚がやや薄まってしまいました。とはいえ音楽は最高だし(ブロンスキ・ビートの使い方が圧巻)、ゼンデイヤによる「モーガン・フリーマン」役も必見。シーズン2に期待です。
韓国の作家チョン・セランによる人気小説が、セラン自身の脚本でドラマに。やはり先月Netflixで配信された団地ゾンビ映画『#生きている』でも思ったのですが、韓国ものは過去のフォーマットを使いながら独自のディテールを生かし、しかもポップなのが世界にアピールする秘訣。『保健教師アン・ウニョン』も、ハイスクール映画『パラサイト』(1998年版のほう)や『ザ・クラフト』(1995)を思い出しました。それでいて、見たことのない不思議な世界が広がっている。私立高校に勤めるアン・ウニョン(チョン・ユミ)には人の思いの残滓が見えるのですが、それはゼリー状の物体だったり、クリーチャーだったり。なかでも有害なものを彼女はBB弾やおもちゃのライトセーバーで退治します。怪獣や虫、出てくるものの意匠がとにかくキモ可愛い。やがて彼女が勤める学校に、ある企みが潜むことがわかってきます。奇妙なファンタジーでありながら、扱われるのは日常の小さな悪意と、それに対抗する優しさ。ここでもトランスジェンダーの女の子が登場します。
カリン・クサマ監督の新作。ミシェル・ロドリゲスがボクサーを演じる『ガールファイト』(2000)でデビューした彼女は、『ジェニファーズ・ボディ』(2009)がカルト的に愛されていますが、前作『インビテーション』(2015)も不穏で面白い。『インビテーション』がホラーの形を借りた心理劇だとしたら、『ストレイ・ドッグ』は『ロング・グッバイ』(1973)から続く伝統のLAノワールです。ニコール・キッドマン演じる飲んだくれの女性刑事が身元不明の殺人現場に現れる冒頭。そこに落ちていた紙幣から、ストーリーは彼女が17年前、強盗団に潜入した捜査に遡っていきます。手がかりを元に次々男たちを締め上げるバイオレントな場面も、相棒セバスチャン・スタンとの親密な場面も印象的。でも、元仲間との対決がいちばんの見どころかも。お互い道を踏み外し、それをわかり合った女同士の闘いなのです。女性の贖罪を描きながら、アクションやミステリーとしての仕掛けがあるのもいい。白昼の光が強烈な、乾いたハードボイルド。
これも別の意味で女性らしいハードボイルドを感じた一作。前作『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(2016)では暴力と隣り合う奇妙な人間臭さを描いたロドリゴ・ソロゴイェン監督が、本作では逆に、一見叙情的なストーリーに潜む怒りや憎しみを描いています。マドリッドに住むエレナ(マルタ・ニエト)の元に、元夫とフランスを旅行中の6歳の息子、イバンから電話がかかってくる。一人浜辺に残された彼は、電話口で絶望的な言葉を残して消息を断ちます。それから10年、息子が消えた異国の浜辺で働くエレナの前に、イバンの面影を持つ少年が現れる。その関係に名前もつけられないまま、二人は惹かれあっていきます。サスペンスとして始まり、ミステリーを装いながら、静かに展開するドラマが浮かび上がらせるのは、誰にも予想のつかない心の行方。喪失感に苛まれると、人はただ嘆き悲しむだけではなく、怒りを抱えて、突発的に感情の捌け口を求めたりもする。その謎めいた動きこそが、愛情なのかもしれない。曖昧だからこそ切れ味を持つ心理劇。
ジョージ・プリンプトンが伝記を書くためにカポーティの知人たちに取材した音声テープが見つかり、それを元に構築されたドキュメンタリー。20世紀のNY文壇、社交界の象徴となった作家の人生はいまのセレブよりドラマチックで、悲痛です。アイデンティティに悩む子ども時代、若き天才としてのデビュー、ゲイ男性としての生き方だけでなく、ドラッグやメディアとの関係も驚くほど現代的。これまで何度も触れてきたカポーティの写真や作品が、また新鮮なアングルでよみがえってきます。後半では遺作『叶えられた祈り』のスキャンダルが大きく取り上げられていますが、印象的だったのは幼少期からずっと抱えていた孤独と、ノンフィクション『冷血』出版の際の冷酷さ。華やかな生活の裏で、悲しみがアートの原動力となっていることが実感できます。