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  • A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー(2017) directed by David Lowery by MARI HAGIHARA November 16, 2018 1
  • 暁に祈れ(2017) directed by Jean-Stephane Sauvaire by MARI HAGIHARA November 16, 2018 2
  • 恐怖の報酬 オリジナル完全版(1977) directed by William Friedkin by MARI HAGIHARA November 16, 2018 3
  • パッドマン 5億人の女性を救った男(2018) directed by R. Balki by MARI HAGIHARA November 16, 2018 4
  • おかえり、ブルゴーニュへ(2017) directed by Cedric Klapisch by MARI HAGIHARA November 16, 2018 5
  • 人が死ぬとき形として残る「遺産」よりも、消えてしまう思いや記憶をとらえる「物語」に惹かれます。ローリー・アンダーソンの『ハート・オブ・ドッグ』(15)を見てからは特に、強い思いは残るよりもやがて消えることに意味があるんじゃないか、と思うようになりました。デヴィッド・ロウリー監督、ケイシー・アフレックとルーニー・マーラによるこの物語も、愛と記憶についての旅。ささやかで壮大な世界のあり方を提示します。ある家に住む若い夫婦は突然、夫の死に見舞われる。その瞬間、ケイシー演じる作曲家の夫はシーツを被った滑稽な幽霊の姿となり、妻を見守りはじめます。彼女が悲嘆にくれ、やがて引っ越していっても、幽霊は思いの残る家に縛られたまま。やがて何もかも忘れてしまいそうなほど時が経つと、家さえも移り変わり、彼は時間を超えていく。このあたりで私は大島弓子の漫画『四月怪談』を思い出しました。さらに時空の重なりは飛躍し、拡張し、そしてまた男女の親密な時間に戻ってくる。それは映画の冒頭で引用されるヴァージニア・ウルフの『幽霊屋敷』そのまま。時間や感情の句読点として音楽があるのも美しい。終わったあとまた最初から見たくなる円環構造は、SF的でもあります。

  • 流行りのホラーより何より、最近いちばん地獄味を感じたのがこの映画と、77年作品『恐怖の報酬』でした。両作ともジャンル・ムービーを超える鬼気。しかも『暁に祈れ』は実話なのです。リバプール出身のボクサー、ビリー・ムーアはドラッグに依存し、再出発のためタイへ。しかし麻薬所持で逮捕されると、9万人以上が麻薬戦争で逮捕されたという当時のタイの劣悪な刑務所に収監されます。そこは顔までタトゥーを入れた裸の男たちが大部屋に雑魚寝し、暴力やレイプが蔓延り、絶望に満ちた場所。実際刑務所だった施設を使い、キャストに元囚人やボクサーを集めただけあって、その臨場感、「体」のマスにやられてしまいます。ひとり、ビリー役のジョー・コールだけ体が白く浮き上がる恐怖。彼がひととき恋に落ちるレディボーイも含め、とにかく圧倒的な肉体の映画です。そして、ビリーが生き抜くよすがとなるのがムエタイ。鍛えることでビリーは救済を見出し、試合ごとに祈り、踊り、勝負に命を賭けるのです。ボクサー映画は数多くあれど、ここまで獰猛かつ繊細なのはなかったのでは。ベストセラーとなった自伝を映画化したのはフランス人監督、ジャン=ステファーヌ・ソヴェール。

  • 『フレンチ・コネクション』(71)と『エクソシスト』(73)の大ヒット後、同名のフランス映画をリメイクしたウィリアム・フリードキン監督。とはいえ77年に公開された『恐怖の報酬』は『スター・ウォーズ』ブームのあおりをくらって失敗、その後北米以外では短縮版が公開されました。そんなわけで今回日本初公開されるのが、オリジナルのデジタルリマスター版。それぞれ母国を追われた4人の男たちが、南米の熱帯雨林のなか、ニトログリセリンを積んだトラックを走らせます。報酬は1万ドルと新たな身分証、衝撃を受ければ木っ端微塵。ジャングルは嵐となり、目の前には吊り橋が。その緊張はやがてサイケデリックな悪夢へと変わります。音楽はタンジェリン・ドリーム。ちなみに最近『サスペリア』の音楽を作曲したトム・ヨークもインスパイアされたのはクラウトロック。彼は『OKコンピューター』時代に『エクソシスト』にハマり、ツアーバスでひとり延々とあのホラーを見ていた時期があるそう。確かに、フリードキンの映画にはある種のヒプノティズムがあるかもしれません。本作ではCG抜きの迫力、編集のかっこよさも再確認。ラストはまさにニューシネマ的なハードボイルドです。

  • パッドマンとは、安価な生理用ナプキンの製造機械を発明した実在のインド人男性、アルナーチャラム・ムルガナンダムのこと。彼こそヒーローです。インド社会のタブーを破るだけでなく、それがさまざまな形で女性を救ったのですから。彼の物語をエンタメにアレンジした映画は、もちろん歌あり、踊りあり、恋と笑いもあり。ボリウッド・スターの主演作でフェミニズムの一歩が描かれたことに、感動です。主人公のラクシュミ(アクシャイ・クマール)は結婚して初めて、生理中の妻が汚れた布を使っていることを知る。売られている生理用品は高価で、そこから町工場で働く彼はナプキン作りを始めます。が、彼の奮闘は周りには到底理解されず、変人として妻と引き離され、村からも追い出される。一つひとつの行動にドラマがあり、思わず引き込まれながら、フェミニズムの闘いは「男対女」なんかではなく、集団社会を変えることだ、というのもよくわかります。監督は妻のガウリ・シンデーも監督であるR・バールキ。

  • セドリック・クラピッシュやリチャード・リンクレーターの映画を見ると、どこか人を純粋に信じるナイーヴさ、人懐こさがあって、「これが好きなんだよ!」と、自分のナインティーズな価値観を自覚させられます。クラピッシュ4年ぶりの新作は、フランスのワイナリー一家の群像劇。これまで都市の個人主義的な関係を描いてきた彼が向き合う地方の自然や家族は、「人を縛るもの」としての重さや現代的な問題もはらんでいます。父を亡くした三人きょうだい。彼らはワイン畑の相続税に悩み、それぞれ違う思いを抱えながら、それでもその年のブドウを収穫し、ワインを作っていきます。家族経営に押し寄せるグローバリゼーションや農業の難しさも描かれつつ、やはり人は大地やていねいな生活に癒される、というメッセージもある。でも、それが「ほっこり」には転ばず、いつまでも若々しいやんちゃさがあるところがいい。収穫祭のパーティで酔っ払った男女の騒ぎっぷりなど、クラピッシュの真骨頂。歴史ある名産地の風景も新鮮に映ります。

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