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  • スパイの妻(2020) directed by Kiyoshi Kurosawa by TSUYOSHI KIZU September 18, 2020 1
  • 本気のしるし(2020) directed by Koji Fukada by TSUYOSHI KIZU September 18, 2020 2
  • VIDEOPHOBIA(2019) directed by Daisuke Miyazaki by TSUYOSHI KIZU September 18, 2020 3
  • 人数の町(2020) directed by Shinji Araki by TSUYOSHI KIZU September 18, 2020 4
  • シチリアーノ 裏切りの美学(2019) directed by Marco Bellocchio by TSUYOSHI KIZU September 18, 2020 5
  • 近年では『散歩する侵略者』などで冴えわたっていた黒沢清の群衆描写が、本作での舞台が太平洋戦争前夜の日本であることで、全体主義へとなだれていく時代の空気、その不穏さと見事に合致している。1940年、神戸で貿易会社を営む夫・優作(高橋一生)が満州で国家機密を知ったことにより、妻の聡子(蒼井優)もまた「国家」「権力」に逆らう道へと進んでいく……のだが、本作のスリルはむしろ、夫婦間に横たわる秘密や猜疑心、それらを分かち合うことで獲得する信頼――といった、関係性のあり方が刻々と変遷していくところにある。このドラマツルギーは脚本に参加した『ハッピーアワー』の濱口竜介と野原位の貢献が大きいと思われ、日本を代表する名監督の新作が新世代の登場によっていまなお更新されていることに胸が熱くなる(ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞)。権力が不遜を極める混沌の時代のなかで、個人がどのように信念を貫いていくのか。そのときに頼れる他者はどこにいるのか。現代に横たわる重い主題にまっすぐに向き合いながら、ここでも黒沢清は映画にしかできないことに挑んでいる。

  • 地方局で放送されたテレビドラマを劇場公開用に再編集したディレクターズ・カット版で、深田晃司監督にとっては初の原作ものの作品となる。4時間近い尺だが、あくまで1本の映画としても、リミテッド・シリーズのドラマをビンジ・ウォッチする感覚でも観られるのが現代的。何より二転三転する展開が、もうはちゃめちゃに面白いのだ。社内での二股恋愛も含めて何となくソツなく生きてきた男・辻(森崎ウィン)が、あるときすべてにおいて危うい女・葉山浮世(土村芳)と出会い、彼女のデタラメな言動に翻弄され身を崩していく物語――と書くと典型的かつ古風なファム・ファタールもののようだが、浮世の言動の背景にあるものが次第に見えてくるなかで、ふたりの立場が予想外に変化していき、映画の質感自体も変化していくことに気持ちよく驚かされる。とくにラスト1時間で視点が反転する構成が見事だ。濱口竜介監督の『寝ても覚めても』以降というか、ここでもまた、ある関係性が予想外な方向に変わり続けることの恐さと面白さと興奮が入り乱れている。

  • 長編第二作『大和(カリフォルニア)』において、この国で周縁化されたひとりの女性がラップする瞬間を生き生きととらえた宮崎大祐監督の新作は、性暴力の被害を受けた女性が覚えるこの世界からの疎外感を、シャープかつ乾いた白黒の映像で浮かび上がらせている。セックステープをネットにばら撒かれた愛(廣田朋菜)は、自分が受けた被害と向き合い対処しようとすればするほど、不可解な状況に飲みこまれていく。その得体のしれない恐怖感は、性暴力の被害者が抱く孤独感や絶望感とどこかでリンクしているだろう。舞台となった大阪・鶴橋界隈がだんだんと、異界への入口のように見えてくる。いま目の前にある大きな問題をどのようにアートが語りうるか?という点において、日本で生まれている新しい世代の新しい映画に興味があるなら、見逃せない一本。アグレッシヴでどこか禍々しい音楽を手がけるのはDJ BAKU。

  • あるいは、荒木伸二の初監督長編となる本作もまた、日本という国から社会的に滑落する人間たちの生きる場所はどこにあるのか?という問いを映画として語ろうとしているだろう。様々な事情から日本社会で生きられなくなった人間たちを「収容」する町――という設定は突飛なようでいて、日本における失踪者の数字やネットカフェ難民の数字が素っ気なく挿入されると、ぞっとするような説得力がそこには発生してしまう。そこで男女――中村倫也と石橋静河といういまをときめく俳優ふたり――が出会い、ディストピアに抵抗しようとする様はロマンティックなようだが、ふたりがすぐに出口のなさに直面せざるをえなくなるのが生々しい。その「出口のなさ」はもちろん、この国でこの映画を観ているわたしたちひとりひとりの身に覚えがあるものだ。現代社会で当たり前とされている「仕組み」から逃れること、では逃れた先にはたして人間の幸福が存在するのかを考えるという意味で、アリ・アスターの『ミッドサマー』やヨルゴス・ランティモスの『ロブスター』辺りと並べてみると見えてくるものがあるはずだ。

  • 冒頭、ある豪邸で繰り広げられる絢爛なパーティのシーンを観ているだけで、ああ、いまイタリア映画を観ているなという気分を強烈に味わえる。そこから映画は大量の濃い顔面の俳優を次々と登場させ、シチリアの巨大犯罪組織が繰り広げた1980年代の血で血を洗う抗争と、組織の大物だったトンマーゾ・ブシェッタが決断したある「裏切り」を苛烈に描き出していく。大法廷にアンダーグラウンドの人間たちが集結し、にらみ合い、罵り合うことで、リアルに表社会から外れて生きてきた人間たちがある瞬間、表の歴史を揺るがしていくことのダイナミズムが躍動する。衣装も演技も演出もとにかく濃厚。巨匠マルコ・ベロッキオが放つ、80歳を過ぎてなお迸る「映画力」が存分に堪能できる一本。

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