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  • ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語(2019) directed by Greta Gerwig by MARI HAGIHARA March 02, 2020 1
  • ポップスター(2018) directed by Brady Corbet by MARI HAGIHARA March 02, 2020 2
  • ジョン・F・ドノヴァンの生と死(2018) directed by Xavier Dolan by MARI HAGIHARA March 02, 2020 3
  • ハリエット(2019) directed by Kasi Lemmons by MARI HAGIHARA March 02, 2020 4
  • ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方(2018) directed by John Chester by MARI HAGIHARA March 02, 2020 5
  • 女性のバイブルとも言えるオルコットの自伝的小説、『若草物語』をグレタ・ガーウィグが脚色/監督。賞レースでやや軽視されたのは、たぶんあまりにも高度なことを自然に、軽々とやっているからでしょう。19世紀アメリカの四姉妹が成長し、大人になり、人生を選択する――ガーウィグがやったのは、その物語の時系列を交錯させ、オルコット自身の声を吹き込むこと。さらには原作のエンディングともうひとつのエンディングを並列させるというアクロバットも実現させています。それによって少女時代の輝かしさとノスタルジーが引き立ち、女性の人生のラインがくっきりと浮かんでくる。どんなに無邪気に、自由に駆け回っている少女たちも、やがて結婚という現実と、痛みを伴う自立に直面させられるのです。ときには情熱も恋も壊れ、消えていく。ただそこには、引き換えに与えられるものもある。ガーウィグのその提示の仕方が実にモダンで、見事。もちろん、シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピューら輝ける若手スターがキャッキャしているだけでも楽しい一作。そしてこの物語最大の「失恋」を慰めてくれるのが、ルイ・ガレルの存在です。

  • 銃襲撃を受けた女子高校生がポップスターとなる――その物語と描写がセンセーショナリズムだ、という批判も受けた映画。監督が『シークレット・オブ・モンスター』(15)のブラディ・コーベットなので、確かにやや難解で残酷でもある。でも、女性のポップ・アイコンという存在に興味があれば、そこではネガティヴなパワーが反転し、ダーク・サイドこそが「夢を生む」のだ、というモチーフから目が離せません。前半は銃乱射事件のサバイバー、セレステが姉とともに書いた追悼曲が大ヒットし、スターダムを駆け上るまで。後半は歳をとり、ドラッグとスキャンダルにまみれたセレステが起死回生のツアーを始める一日が描かれます。後半のセレステ役にナタリー・ポートマン、姉役にステイシー・マーティン、セレステの持ち歌は全曲シーアの書き下ろし。彼女にはカリスマとともに暴力がつきまとい、別の事件も起きる。それは本人を壊し、周りの人間を踏みにじるものでありながら、ステージでは圧倒的な輝きとなるのです。子役として自ら業界で成長してきたポートマンがその二面性を熱演。ポップスターを見て、消費する観客であることの意味ももう一度問いかけられます。

  • ナタリー・ポートマンが出演するもうひとつの「スター映画」がこれ。グザヴィエ・ドランは実に彼らしいエモーショナルな親密さで、スターとファンの特別な関係を描きます。なんでもドラン自身が幼い頃、憧れのディカプリオにファンレターを書いた体験が元になっているとか。人気ドラマに出演するジョン(キット・ハリントン)に夢中な11歳のルパート(ジェイコブ・トレンブレイ)には、実はジョンと文通をしている、という秘密がある。二人にもうひとつ共通するのは、それぞれの母親との複雑な関係。さらに時間を飛び越え、ストーリーはジョンの恋と挫折、小説家となったルパートが二人の手紙を出版しようとするところまで、枝分かれしながらうねっていきます。男たちは恋に落ち、女たちは母としての愛を背負う。もちろん、ドランらしい美麗な映像とドラマチックなポップ・ソングがその激しい感情をドライブしていきます。そこについていけるかどうかがこの映画の分かれ目。私としては、期待通りの濃さ、美しさに満足です。

  • 19世紀アメリカで黒人奴隷を南部から北部へ逃がすルート(地下鉄道)の案内役(車掌)として有名になり、南北戦争でも活躍した黒人女性、ハリエット・タブマン。彼女の人生がシンシア・エリヴォ主演で映画化されました。奴隷として生まれ、ひとり北部へ逃亡し、活動家になった軌跡はそれだけでドラマチック。ただ本作は堅実なバイオグラフィであると同時に、彼女がナルコレプシーを患っていたエピソードなども織り込み、映画としての面白さを目指しています。伝説的人物だけにいろんな逸話があるらしく、神話的な部分もある。なにせついた呼び名が「ブラック・モーゼ」。その行動はちょっとジャンヌダルク的で、「神の声を聞く女」でもあるのです。まあ、こういう実在の人物と民間伝承を知っていると、バリー・ジェンキンス監督が製作中の『地下鉄道』(コルソン・ホワイトヘッドの小説を原作としたテレビシリーズ)もより深く楽しめそう。南北戦争以前、奴隷としての黒人と自由黒人がどう共存していたかも少し理解できました。ジャネール・モネイが演じるのは北部に住む自由黒人。シンシア・エリヴォが歌う主題歌を含め、音楽にも力が注がれた一作。

  • 気候変動や環境破壊が身近に迫ってくると、こういうドキュメンタリーが癒しをくれます。邦題のように理想だとしても、農場という形でひとつのエコシステムができあがっていくのを見るのは実に魅力的。ロサンゼルスに住む若いカップルが一から始めたのは、郊外の荒れた農地を生き返らせる試み。出資者を募り、伝統農法を知る人に教えを乞い、土壌を作るところからスタート。そして何十種類もの果樹を植え(単一栽培はダメなのです)、さまざまな家畜を飼い、周りの農場とはまったく違うやり方を実行します。何年もの間、それはトライアル&エラーの連続。次々に虫やカタツムリがわき、鶏や羊がコヨーテに襲われ、災害が降りかかる。動物が病気になり、死んでいくのも目にしなくてはいけません。ただやがてサイクルが回りだすと、害虫/害獣と呼ばれるものにさえ役目があることがわかる。7年目にして「問題は答えでもある」とわかる瞬間が映画のカタルシスとなります。とは言っても、そうやって成功を収めた農場にさえ、カリフォルニアの山火事など気候変動の新たな脅威が襲いかかる。希望も絶望もあり、与え、奪っていくのが自然なのだと思い知らされます。

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