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  • ボージャック・ホースマン(2014-) directed by Raphael Bob-Waksberg by TSUYOSHI KIZU September 20, 2018 1
  • 500ページの夢の束(2017) directed by Ben Lewin by TSUYOSHI KIZU September 20, 2018 2
  • かごの中の瞳(2016) directed by Marc Forster by TSUYOSHI KIZU September 20, 2018 3
  • バッド・ジーニアス 危険な天才たち(2017) directed by Nattawut Poonpiriya by TSUYOSHI KIZU September 20, 2018 4
  • LBJ ケネディの意志を継いだ男(2016) directed by Rob Reiner by TSUYOSHI KIZU September 20, 2018 5
  • 主人公は90年代にシットコムで人気となり、その過去を引きずりながらアルコールとセックスとドラッグにまみれた自堕落なハリウッド・ライフを過ごす中年の……馬。LAの映画業界を舞台にして、動物と人間が入り乱れるシュールな世界を描くこのアニメ・シリーズははじめこそ一部の熱狂的なファンに支えられていたが、いまやNetflixの看板のひとつとなっており、2018年9月からスタートするシーズン5も広く待望されていた。それは、このシニカルでブラックな笑いに満ちたダメ中年の日々のスケッチが、2010年代のアメリカン・ポップ・カルチャーの重要な要素を見事に突いているからだろう。つまりコメディ、セレブ文化の虚無、そして抑うつ。クセの強いキャラクターたちが織りなすドラマはよく練られておりキャッチーで、また2015年の時点でハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発を予見する回が存在するなど風刺も効いているが、それ以上にこのシリーズに通底するのは人間の根源的な悲しさだ。ボージャックは破滅的な生活を送りながらもそれなりに人間関係を築こうとするのだが、それらは彼が抱える内面の問題によってひとつひとつダメになっていくばかり。ここでは誰もが失敗を繰り返し、傷つけ合い、それでも他者と関わるのをやめることができない。『ボージャック・ホースマン』が虚しい現代を生きるわたしたちの胸を掴むのは、異なる立場の「正しさ」ばかりがお互いをジャッジし合う時代にあって、人間のどうしようもない欠点と弱さから目を背けないからだ。

  • ダコタ・ファニング演じるウェンディは自閉症を抱えており、自立支援ホームで生活を送っている。重度のトレッキーである彼女が『スター・トレック』の脚本コンテストに応募するためにひとりでロサンゼルスへと向かうところから、彼女の覚束ない足取りを追うロード・ムーヴィがはじまる。いま書いたようにたったそれだけの話で、ウェンディの旅は大それたものではない。だが、ひとりでは何もできないと周りから思われていた彼女の小さな冒険は、その頼りなさでもって誰もが直面する自立というテーマを立ち上げていく。つまり自立とはひとりですべてをこなすことではなく、大勢のひとの力を借りながら自分の持つ才能を世に生かそうとすること。周囲の想像をはるかに超えた地点でウェンディは多くのことを『スター・トレック』から学んでいて、作品への愛によって世界と繋がっていくのである。天才子役の時代をとっくに卒業したダコタ・ファニングが、ひとりの俳優としてまさに自立し始めていることを示す一本でもある。

  • こちらのテーマは女性の自立、そして自由。子どものときに遭遇した交通事故によって視力を喪ったジーナ(ブレイク・ライヴリー)は夫ジェームズ(ジェイソン・クラーク)に支えられる日々を送っていたが、角膜移植によって視力を取り戻す。だが彼女の瞳に映る夫の姿や世界は想像と少し違っていて、やがて夫と少しずつ心をすれ違わせていく……。ここで妻が「見える(See)」ようになるというのは「理解する(See)」ということであって、まさに女性が世界を自分の目と頭で理解するプロセスのメタファーである(特殊効果を多用するどこか幻惑的なイメージも、本作がある種の寓話であることを示している)。だとすれば夫の献身は優しさを擬態した支配でしかなく、妻はいずれそれと対峙せねばならない。そして、愛という名の抑圧とどのように向き合うかが、このラヴ・サスペンスを動かしていくだろう。本作は2016年作だが、まさに我々がここ数年体験したジェンダー・ポリティクスの激動を追体験するようなものとなっている。するといま我々がいるのは、この物語が終わった地点である。

  • 天才少女によるカンニング・ビジネスを犯罪エンターテインメントに調理し、アジアで大ヒットした本作。アジアの熾烈な受験至上主義に彼女が抗しているように見え、痛快だからだろう。いちいちカンニングのトリックをスリリングに見せる映像もなかなかにスタイリッシュで、ある種のヤング・アダルトものとしても機能している。いろいろな方面に抜かりないのだ……まさに彼女のカンニングの手口のように。受験戦争の背後にあるのは、当然根深い格差問題である。主人公の少女リンは貧しい育ちで、金持ちで勉強のできない友人から持ちかけられてカンニングで金儲けをする。それは受験というシステムに対する反逆行為である――というのが物語の中盤までで、リンがさらにその背景となる資本主義社会が敷いたルールに自分も踊らされていることを自覚していくのが本作の肝だ。そこからの彼女の決断こそが、本作がもっとも伝えたいことだろう。リンを演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジンの終始不機嫌そうな佇まいがすごくいい。

  • 監督のロブ・ライナーはジョンソン大統領について、「ベトナム戦争時代、悪魔のように嫌われていた」と語っている。日本ではそれ以前に、ケネディ大統領が暗殺されたあとに自動的に就任した大統領くらいの認識でしかないかもしれない。本作が取り上げるのはジョンソンがケネディ政権における副大統領時代にどのようにケネディとやり合ったか、そして大統領就任後どのように政策を引き継いだか、だ。焦点は黒人の市民権を巡る公民権法である。ジョンソンは南部の民主党保守派の基盤から出てきた政治家であり、ゆえに公民権にも当初は反対していた。政治的にリアリストだったからだ。しかし、彼はJFK暗殺後にそのヴィジョンを引き継ぎ、きちんと「議会を通るもの」にしようとするのだ。ブラック・ライヴス・マター以降の現在において過去の人種差別撤廃運動を振り返ることが重要になっているが、本作はそこに政治的リアリストがいたことの意味を提示している。つねに理想と現実の間で葛藤してきたアメリカ史を、現代へのヒントとして語り直しているのである。

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