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  • アリー/ スター誕生(2018) directed by Bradley Cooper by TSUYOSHI KIZU December 26, 2018 1
  • ROMA/ローマ(2018) directed by Alfonso Cuarón by TSUYOSHI KIZU December 26, 2018 2
  • 彼が愛したケーキ職人(2017) directed by Ofir Raul Graizer by TSUYOSHI KIZU December 26, 2018 3
  • バハールの涙(2018) directed by Eva Husson by TSUYOSHI KIZU December 26, 2018 4
  • マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!(2017) directed by David Batty by TSUYOSHI KIZU December 26, 2018 5
  • 大スターの男が何者でもない女を引き上げてスターにする……本作は1930年代から繰り返されてきた物語であり、ひとは古臭い話だと言うのかもしれない。ここに現代性を見出すとすれば、内陸的なカントリー/ブルーズ系のロック・バンドを率いる男がドラァグ・バーで輝く女を発見するところにあり、その後のふたりの顛末を考えると、男権力が失墜し女性が自分の生き方を選べるようになっている現在の状況をある程度反映していると言えるかもしれない。実際、ここでの女優/シンガーとしてのレディ・ガガは見事だ――アリーの弱さと強さをよく体現している。だが思いきって言ってしまえば、これは何よりも落ちぶれていく男であるブラッドリー・クーパーの映画であり、そして古めかしい、何度も繰り返されてきたアメリカの物語である。しかしだからこそ、立場や世代を超えた地点で語りかける。成功の陰には行き場のない孤独があり、ひとは欠点と傷を抱え、うまく生きることができない。手持ちカメラによるクローズアップはふたりの感情を親密に捉え、それを煌びやかなものとして映さない。「スター」なのはある種の偶然のようなものであって、愛し合うふたりは、自分しか知らなかった痛みを分け合うことによってのみ歌を生み出していく。悲しみに暮れるアリーは歌う――「わたしは二度と愛することはない」。だが彼女はその歌を歌うことで、愛の物語を生き続けるだろう。

  • Netflixオリジナル映画として制作されたアルフォンソ・キュアロンの新作は、1970年代のメキシコシティ(「ローマ」はそのなかにある地域名)を舞台とし、監督の自伝的要素を多く含んだパーソナルな一本となった。中流家庭の家政婦をするクレオの日々を美しい白黒の映像でじっくりと映し出していく。と書くと、素朴で滋味深いドラマ作品が想像されるかもしれないが、映画では往々にして後景で大勢の人間が激しく出入りしており、そのスペクタクル性の高い演出はほとんど『トゥモロー・ワールド』(06)を思わせるものである。撮影はデビュー以来タッグを組んできたエマニュエル・ルベツキではなくキュアロン自身が担当しているが、その闊達な長回しは流麗なのに力強く、つまり、非常に「キュアロン度」の高いものとなっている。当時のメキシコは経済発展を遂げるなか、政治的にも社会的にも激動の時代だったという。画面の奥側で起こっていることはその大いなる混沌を示しており、そして、画面の手前側では父権を失った「おんな子ども」で構成される家族の絆が繊細に描かれていく。胸に沁みる人間ドラマをこのようなパワフルな演出でやってのけるキュアロンには恐れ入るばかりだ。商業的成功が難しいであろう本作を配給したNetflixの功績は大いに讃えたいが、しかしこれは劇場でいつか観てみたい。

  • ベルリンでケーキ職人をするトーマスはイスラエルから月に一度ほどやって来る常連客オーレンとやがて恋仲になるが、彼にはイスラエルに妻子がいた。オーレンと連絡が取れなくなったトーマスがイスラエルのエルサレムに赴くと、そこで彼が亡くなったことを知らされる。やがてトーマスは、オーレンの妻アナトが開くカフェで働くようになり、彼女と打ち解けていくのだが……。既婚者との同性愛関係はいまどき珍しく思えるかもしれないが、厳格なユダヤ教の環境で育ったオーレンにとっては隠さねばならないことであったことが本作では仄めかされている。昔付き合っていた男が結婚していたことを後になって知った経験のある僕としてもリアルきわまりない話だし……しかし、この映画はそんな俗っぽい地点にテーマを押しこめてはいない。ドイツとイスラエル、同性愛と異性愛、宗教の戒律といった人間関係の「境界」となり得るものをどうにか乗り越えていこうとする者たちを静かなタッチで描いていく。トーマスの焼く美味しいクッキーはオーレンに愛され、そしてのちにオーレンの妻・アナトと交流するきっかけともなる。「境界」を曖昧にするのは、どうしたって発生する人間関係の割り切れなさ、そして捨てきれない人間的な情だ。

  • 2014年、ISの攻撃部隊によって侵攻された少数民族のヤズディ教徒が住むイラク北部。男性の多くは殺され、女性や子どもは性暴力を受けたり、奴隷として売られたり強制結婚をさせられたりしたという。本作はその後ISと闘った女性戦闘員たちをモデルとしており、実際にクルド人自治区で行った取材を基にして脚本が書かれたという。ポイントは、彼女たちの闘いがおもに戦場ジャーナリストの女性の目を通して描かれていることである(モデルとなったのは、2012年シリアで砲弾を受けて死亡した戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィン)。わたしたちは本当に世界の現実を知らない。彼女たちの悲鳴は、ジャーナリストたちの仕事によってはじめて届けられるのである。たしかにここで映されている暴力は過酷だし、そんな地域に赴くのはもちろん危険だ。だがそれを他人事だと言ってしまった時点で世界はより悪い場所になってしまう……。拘束された戦場ジャーナリストが過剰な攻撃を受ける日本のような国でこそ、こうした骨のある映画が観られる必要があるのだろう。ISの拠点とされてしまった町を映したドキュメンタリー『ラッカは静かに虐殺されている』と併せて観たい。

  • アメリカではいま60年代が強く回顧されているように思うが(アイデンティティ・ポリティクスの再燃のため)、案外イギリスはそうでもないのかもしれないなと思っていた。が、そんなところに登場したのがこのドキュメンタリー。労働者階級出身の大御所俳優マイケル・ケインが案内役となり、スウィンギング・ロンドンの時代を現代の視点から捉え直す。写真家のデイヴィッド・ベイリー、ヴィダル・サスーン、ツィッギー、メアリー・クヮントといったカルチャーを動かした顔たちがビートルズ、キンクス、ローリング・ストーンズ、スモール・フェイセズ、ドノヴァン、そしてザ・フー……が流れるなか小気味いいテンポで次々と映されていく。これを観ると、やはりアイデンティティが定義し直された時代だったことがわかる。労働者階級の若者たちは被差別対象だった自らの訛りをチャームへと変え、新しい時代のポップを生み出していった。その中心にあったのが音楽というのはやはり、ブリティッシュ・カルチャーの強みだろう。『マイ・ジェネレーション』というタイトルから、あの時代を知るおじさんたち(と田中宗一郎さん)だけのものと決めてしまうのはもったいない。いまの若い世代が現状を変えるためのヒントがここにはあるはずだ。

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