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  • ハドソン川の奇跡(2016) directed by Clint Eastwood by TSUYOSHI KIZU September 27, 2016 1
  • フィラデルフィア(1993) directed by Jonathan Demm by TSUYOSHI KIZU September 27, 2016 2
  • BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント(2016) directed by Steven Spielberg by TSUYOSHI KIZU September 27, 2016 3
  • さざなみ(2015) directed by Andrew Haigh by TSUYOSHI KIZU September 27, 2016 4
  • 淵に立つ(2016) directed by Koji Fukada by TSUYOSHI KIZU September 27, 2016 5
  • イーストウッドはトラウマを抱えた人間を繰り返し描いてきたが、この映画ではニューヨークの街の空を飛行機が低く飛ぶ。それはあの街とあの国の「トラウマ」だ。だが本作は9.11以降の文脈を取りながら、ひとが一人も死なないということを強調する。それは前作『アメリカン・スナイパー』(2014年)でひととひとが殺し合いをするがゆえに、さらなる死者が生まれることを描いていたのとは対照的だ。あるいは、21世紀の多くのパニック映画において、善人も悪人も関係なく、とにかく大量に人間が死んでいたことを思い出してもいいだろう。いまなお政治的/社会的な断絶によってひとが死に続けているアメリカにおいて、イーストウッドだけが政治的立場など消失した地点で、そこに居合わせた人間たちがやるべきことをやり、そして、それがゆえに巨大な危機を前に犠牲者を出さないということを迷いなく語りきっている。たとえば『許されざる者』(1992年)や『グラン・トリノ』(2008年)のように最善の選択とは何かという問いかけがあり、『チェンジリング』(2008年)のように疑念や迷いに飲み込まれないための誇りがある。驚くほど簡潔な一本だが、これもまったくもってアメリカとそこで生きる人間たちを巡る物語であり、であるがゆえに、どこまでもイーストウッド映画である。

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    『ハドソン川の奇跡』についてもうひとつ言っておきたいのが、同作とスピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年)によってトム・ハンクスという存在がまた更新されたように感じられたことだ。そのスピルバーグとのタッグをはじめとして、ハンクスはたしかにアメリカの物語を生きてきた俳優であった。いま観るべきトム・ハンクス映画として自分が挙げたいのがジョナサン・デミの本作だ。彼の俳優としてのはじめのピークということもあるが、ゲイ・ライツ運動が沸く現在の前のエイズ禍時代回顧としても、あるいはある理想を懸けた闘いのためにマイノリティたちが立場を超えてやるべきことをやる、という点においても、この2016年から見るべきものがあるように思う。法と正義についての映画でありながら、まだ若々しいアントニオ・バンデラスが体現する素朴で穏やかな愛が満ちてくるところも含めて。

  • そしてそのスピルバーグの新作にして、ロアルド・ダールの『オ・ヤサシ巨人』の映画化。これがもう……ああ、ダールの物語だな、スピルバーグの演出だなとただ胸が熱くなる。なかでも本作は色彩に満ちた光といい、よく動くカメラといい、全編を包むジョン・ウィリアムスのスコアといい、とりわけドリーミーな仕上がりになっている。そしてまた、「寂しい心の音」の持ち主が生きる場所をまたいで交流する映画であり(『E.T.』のように!)、だからふたりの会話のテンポの心地よさに浸っているうちにあっという間に終わってしまう。スピルバーグもまた、とくに近作を観るといまどのような物語を語るべきかということに非常に意識的なように見え、それは巨大な遺産を残してきた監督が自らの残り時間が少ないことを感じ取っているようで切なくもあるけれど……。余談ですが、ウェス・アンダーソンの最高傑作はダール原作の『ファンタスティックMr.Fox』(2009年)だと、僕は信じて疑いません。

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    DVD化の新作から一本。今年はヨーロッパにおける作家主義の次代を担うであろう新世代の監督の作品を多く観ることができた年だったが、アンドリュー・ヘイもそのひとり。21世紀のゲイ映画の流れを決定的に変えた『ウィークエンド』(2011年)で話題となり、そして次作にアレキサンダー・マックィーンの伝記映画が控えている(!)という、これからいよいよ目が離せない才能である。本作は老夫婦が連れ添った45年に取り返しのつかない亀裂が入る一週間を徹底して静かに描く一本であり、ベルイマンの諸作を思わせるリレーションシップに対する怜悧な眼差しがある。微かな心の動きを見事に体現するシャーロット・ランプリングとトム・コートネイが素晴らしいのはもちろん、対象と距離を置きながらもたしかに親密な空気感、それにプラターズの“煙が目にしみる”などに語らせるポップ・ミュージックの使い方もあまりに見事。

  • 日本映画でありながら、つい本作もその「ヨーロッパにおける作家主義の新世代」に加えたくなってしまう。カンヌ映画祭で授賞したということもあるけれど、綿密な脚本と俳優たちの揺るぎない演技、そして徹底して知性的な演出が行き届いているからだろう。すでにしてミヒャエル・ハネケといった名前すら頭をよぎる。家族というじつに危ういバランスでできた共同体の不条理を暴く物語はやがて、罪と罰を巡る問いにまで肉薄していく。興味深いのはここでの浅野忠信の存在で、彼はたしかに家族の運命を狂わせていく侵入者だが、同時にどこかしら救世主のようにして家族に受け入れられていく。わたしたちは他者と生きなければならない苦悩のあまり、どこかで「彼」を待望しているのかもしれない……と凍りつき、そしてそうしているうちに不測のラストに放り込まれ呆然とする。

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