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  • ダンケルク(2017) directed by Christopher Nolan by MARI HAGIHARA August 28, 2017 1
  • パターソン(2016)
    directed by Jim Jarmusch by MARI HAGIHARA August 28, 2017 2
  • ギミー・デンジャー(2016) directed by Jim Jarmusch by MARI HAGIHARA August 28, 2017 3
  • ワンダーウーマン(2017)
    directed by Patty Jenkins by MARI HAGIHARA August 28, 2017 4
  • あさがくるまえに(2016)
    directed by Katell Quillévéré by MARI HAGIHARA August 28, 2017 5
  • いま最高にスタイリッシュな大作を撮るクリストファー・ノーランの戦争映画。なので、スタイルについてはいろいろ語れます。IMAXカメラを戦闘機のコックピットにまで持ち込んだ、臨場感あふれる映像。エンジン音や秒針音と一体となったハンス・ジマーの音楽。つなぎ合わされた三つの時間軸。そして内容は第二次世界大戦時イギリスで戦意高揚に使われた逸話でもあり、いまもナショナリスティックとされなくもない。でもこれは海辺に追い詰められた英仏軍40万人の「撤退」作戦であり、映画としては若い兵士たちが恐怖と緊張に苛まれる時間を感じる映画なのです。要所にケネス・ブラナーら名優を配しつつ、無名の俳優を多数起用したのも、彼らがまだ「少年」だったのを実感させるため。極力セリフを排したなか、民間の船で彼らを救いにいく船長(マーク・ライランス)はこう言います。「この戦争を始めた私の世代が、戦地に子どもを送り込むのが許されるのか?」。こだわり抜いて構築された映像に魅了されながらも、観たあと残るのは兵士の表情と、彼らがぽつりと口にする「ホーム」という言葉なのです。これはできるだけ大きなスクリーン、音のいい映画館で観たい。

  • 自分の映画を一貫して「ディレッタニズム」「アマチュアリズム」とするジム・ジャームッシュ。でも年月が経つうちそのアプローチにも深化がうかがえるのが新作『パターソン』です。アダム・ドライヴァー演じる主人公は折に触れ詩を手帖に書きつけている、ニュージャージーのバスの運転手。仕事に出かけ、犬の散歩をし、夜はバーで一杯やる彼のルーティン、妻や友人と過ごす時間を7日間つづるうち、「日常のなかの詩」「詩のような映画」が浮かんできます。大きなドラマは起きなくても、そこには小さな出会いや気づきがあり、日々更新される関係がある。安定したカップルが安定したまま、その機微が描かれる映画も最近珍しいのでは。最後にアクセントとして登場する日本の詩人は、『ミステリー・トレイン』(1989)以来の出演となる永瀬正敏。彼やパターソンが詩を書き、愛するのはまさにアマチュアとしてで、そこに何かしらヒントがありそうです。穏やかで、鮮やかな一作。

  • こちらはジャームッシュが『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013)や『パターソン』と並行しながら8年間かけ完成させた、ストゥージズのドキュメンタリー。イギー・ポップに「決定版を撮ってほしい」と言われたのがきっかけだったとか。それもかなりのプレッシャーですが、実際ジャームッシュが「ファン・フィルム」と呼ぶように、作家性よりバンドを大事にした、オーソドックスな作りになっている。活動時の写真やフッテージが集められ、音楽的影響が検証され、バンドが空中分解してからパンクによって再評価されるまでがていねいに綴られます。ただ、それを抜群に面白くするのがイギー・ポップの比類なきストーリーテラーっぷり。このインタヴューだけで価値あり! いかに世界初のステージ・ダイヴが生まれたか、ブラック・ミュージックに夢中になりながら「自分はブラックじゃない」と気づいたイギーが何をしたか。彼個人が趣味として「椅子を集めている」話でさえ、忘れがたい逸話になる。ファンでもファンじゃなくても、イギー・ポップとストゥージズというこの上なくクレイジーな存在を発見し、突飛なロジックを持つ語りに引き込まれるはずです。

  • 2016年はNASAの女性計算手たちの物語『ドリーム』(原題:Hidden Figures)、2017年は初の女性スーパー・ヒーロー映画である本作が大ヒットして、大きく変わりつつあるアメリカ映画界。やっぱり、「女性監督初の興行成績1位!」というような事実でしか変わらないことはあって、パティ・ジェンキンスに続編で女性監督として最高額のギャラがオファーされたのもその一つ。しかも盛り上がるのは、この映画に最近のスーパー・ヒーローもののような皮肉やシニカルさがないところです。ガル・ガドット演じるワンダーウーマンが強く優しく、正義感に燃えているのはもちろん、相手役のクリス・パインがいきなり裸になっちゃうような、従来の男性ヒーローものを風刺する場面でさえ可愛くユーモラス。「男の視線」を賢くひっくり返してみせるのは、今年最高のヴィデオであるチャーリーXCX“ボーイズ”とも共通している。そう考えると、日本での宣伝がやたら「美女」だとか「愛されキャラ」を強調するのに違和感を覚えますが、まあ純粋なエンタテイメントのパワーがどんな観客も圧倒してくれるでしょう。ちなみに『ドリーム』(原題:Hidden Figures)は9月に日本公開!

  • アメリカから離れると、ヨーロッパではふと気づくと大勢の女性監督がいい映画やテレビ・シリーズを作っていて、より着実で充実した底上げを感じます。そうした作品では女性キャラクターも肩に力を入れず、自然にさまざまな顔を見せている。過去二作がカンヌで評価されたフランスのカテル・キレヴェレ監督は今回、ベストセラーを原作に、ある心臓移植が行われる一日を描きます。そのプロットが与える印象とは裏腹に、そこでは急かされることなく独特のリズムで時間が流れ、それぞれの人物が深くエモーショナルなドラマの片鱗を見せる。サーフィン帰りに事故に遭う少年。悲しむ家族。移植を提案する病院のスタッフ。心臓を病む音楽家と、彼女の恋人。その出来事は看護人にも余韻を広げ、ある官能的なシーンとなるのです。若さと老い、生と死のきらめくような対比。リアルな手術場面まであるのに美しくポエティックな作品となったことに、監督のヴィジョンの確かさを感じさせます。移植コーディネーター役に『預言者』(2009)のタハール・ラヒム、音楽家役に『Mommy/マミー』(2014)のアンヌ・ドルヴァル。

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