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  • トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして(2020) directed by Sam Feder by MARI HAGIHARA July 03, 2020 1
  • グレース・オブ・ゴッド(2019) directed by Francois Ozon by MARI HAGIHARA July 03, 2020 2
  • パブリック 図書館の奇跡(2018) directed by Emilio Estevez by MARI HAGIHARA July 03, 2020 3
  • LETO -レト-(2018) directed by Kirill Serebrennikov by MARI HAGIHARA July 03, 2020 4
  • ぶあいそうな手紙(2019) directed by Ana Luiza Azevedo by MARI HAGIHARA July 03, 2020 5
  • ここしばらく映画やドラマにおいて格段に変わったのが、トランスジェンダーの表象。『ディスクロージャー(邦題:トランスジェンダーとハリウッド)』はその実例を次々に挙げ、トランスとして業界に関わる人々の声を集めながら、過去の映画とドラマがいかにイメージを作りだし、影響を与えてきたかを探ります。それが「文化のフロンティア」と呼ばれるのはただ変化しているだけでなく、最近J・K・ローリングの発言が炎上したことでもわかるように、いまだ一部のフェミニストやゲイの男性などにもトランスフォビアがあるから。彼らがアライになれない理由には、やはり恐怖心や自己嫌悪がある。その元となるもの——実際このドキュメンタリーを見ると、自分がずっとひどく偏った形でトランスジェンダーを消費してきたことに驚きます。『殺しのドレス』(1980)、『クライング・ゲーム』(1992)、『Lの世界』(2004~2009)、『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)、その他もろもろ。ギャグでもシリアスでも、トランスのキャラクターにはセックス、暴力、病気、精神異常がつきまとう。それに気づかなかったことこそ差別なのだ、と。それを一変させた『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013~)や『POSE』(2018~)のような現代のドラマではブラック・トランスの存在も大きい。とにかくとんでもない情報量で、多数のイシューを提起する一作。いまは新しい映画やドラマより、自分がかつて見たものを違う目で見るほうが収穫がある時代かもしれません。

  • 『スポットライト』(2016)が描いたのは、カトリック教会内の性虐待におけるメディアの責任。フランソワ・オゾンは『グレース・オブ・ゴッド』で、ひたすら大人になった被害者を見つめます。時系列に沿って三人の男たちがリレーのように過去の事件を告発し、行動する。演じるのはメルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー。ドラマティックにならない淡々としたトーン、それぞれの男たちの言葉で、何十年も抑え込まれてきた苦悩が語られます。過去の体験が怒りや病となっている他の二人に比べ、最初に告発状を出すアレクサンドルの端正なたたずまいが、むしろ口を開くことの重さを伝えている。告発とはただ糾弾のためではなく、その人を孤独から解放し、他者への信頼を取り戻すためにあるのがわかります。オゾンらしくない作品でありながら、モノローグの使い方などは『危険なプロット』(2012)を思わせ、演出の正確さが題材とがっちり噛みあっています。

  • 図書館の限りなくマジカルな可能性を知るには、本当はフレデリック・ワイズマンの『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(3時間25分のドキュメンタリー!)か、ポッドキャストのThis American Life「The Room of Requirement」回がお勧め。この二つを同時期に知った2018年には、知識を蓄えた場所、公共に開かれた場が生む豊かさに浸っていたのを覚えています。ただエミリオ・エステベス監督作『パブリック』も、そのスピリットをフィクションとして見せようとしている。寒波が訪れたシンシナティ。昼間図書館に居ついているホームレスの人々は、凍死者が出たあと、サバイバルのためひとつのフロアを「オキュパイ」します。エステベス自身が演じる図書館員はそれを支持し、一夜のストーリーが始まる。その行動を平和的なプロテストとする人々、危険視する警察、煽るマスコミ——と、そのへんはいまアメリカで起きている構造そのもの。「公共」を掲げる社会主義とぶつかるのは、ここでも都市の緊縮財政です。ある意味、緊迫した社会ドラマになりがちな話を、のんびりしたユーモアと意表を突く展開にしたのが意図的。図書館は闘争の場にだけはしてはいけないのです。

  • 1980年代ソ連のロック・シーンについての映画は、まるでヌーベルバーグ。若者たちが自由を求め、音楽を語り、恋人たちは三角関係となるのです。モデルとなったのはレニングラード・ロック・クラブで活動していたマイク・ナウメンコと妻のナターシャ、そして若きヴィクトル・ツォイ。彼らが厳しい管制下で西側のロックを聴き、自分たちの音楽を作り、恋心を持つ夏の日々がモノクロの映像で綴られます。ペレストロイカでソ連が一変する直前の季節。だからこそ、彼らの純粋な情熱が輝きます。興味深いのはT・レックスやボウイ、ルー・リードの音楽をオープンリールのテープで聴き、ジャケットを手で描き、歌詞を聞き取ってノートに書くというディテール。当時の名曲がカバーされる場面では、突然色が射したり、手描きアニメが加わったり、画面がノートのようになったり。ミュージカルの舞台のような、アバンギャルドなアートのような独特の演出になります。監督は現在ロシア政府によって軟禁状態にあるキリル・セレブレンニコフ。彼にはどうにかして活動を続けてほしい。

  • ラテンアメリカの文化と感性がつまった詩的な小品。ブラジル南部ポルトアレグレ生まれの監督と脚本家に協力したのは、『苺とチョコレート』(1994)のセネル・パス。あのキューバ映画の優しさは確かに本作にも流れています。ウルグアイからポルトアレグレに移住してきた頑固な老人エルネスト。アルゼンチン人の隣人など親しい友人がいながらも、目も見えなくなってきて、あとはひとり暮らしの幕を引くだけ。そこへ故郷の女性から手紙が届き、同じアパートの若い娘ビアも飛び込んできて、人生の新たなチャプターが動きだします。ユーモアに満ちた会話、ダンス、手紙や本、詩、そしてカエターノ・ヴェローゾの音楽。そういったものが全部エルネストの生活に溶け込んでいるのが素晴らしい。ビアもありがちなマニック・ピクシー・ドリーム・ガールではなく、したたかさと弱さが同居し、他の人物にも皆リアルな魅力がある。何より、言葉が美しいのです。

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