2014年も年の瀬。そろそろ一年を振り返る時期ということで、今年リリースされた作品の中から、『ピッチフォーク』でも取り上げられていない、隠れた名曲を紹介しよう。まずはグリ・グリというネオ・サイケ・バンドのフロントマンで、レナード・コーエン『ある女たらしの死』の全曲カヴァー・アルバムで知られるグレッグ・アシュリー。そんな彼が元ガールズのドラマーやジャズ・ミュージシャンを招いて録音した4作目のソロ・アルバムは、ニルソンを思わせるヴォードヴィル・スタイルのアレンジが印象的だが、問題は「きみのせいでクソみたいな気分だ/死んじまいたい」と繰り返されるこの曲。実はこれ、日本のズボンズの“My Big Friend”の歌詞違いカヴァーなのだ。彼らのラスト・アルバムをグレッグが録音したのが縁だったようだが、言われなければ誰も気づかなかっただろう。
ロビー・バショーに代表されるアメリカン・プリミティヴ・ギター作品の再発や、森は生きているとの共作も発表されたジェームス・ブラックショウ、ウィリアム・タイラーといった若きヴィルトゥオーソたちの発掘で知られるニューヨークのレーベル、〈トンプキンズ・スクエア〉。そんな彼らが新たに見出したのがシカゴ出身の24歳、ライリー・ウォーカーだ。バート・ヤンシュやデイヴィ・グレアムといったイギリスのフォーク・ギタリスト直系の老練なフィンガー・ピッキングの腕前と、クラウド・ナッシングスからフロント・アクトに抜擢され、ニューヨークのサイケデリック・アクト、エーメン・デューンズのカヴァーを披露するという現代的なセンスを兼ね揃えた彼は、新世代のギター・ヒーローになれるかもしれない。インクレディブル・ストリングス・バンドみたいなヴィデオもすごい。
グラム・パーソンズの最初のバンドと同じ名前を持つ、カナダのシャイローズ。彼らも当初はカントリー・ロックをやっていたそうだが、メンバーのペダル・スティール・ギターが壊れたことをきっかけに、ポップ・バンドに転身。リアル・エステイトのマット・モンデナイル主宰レーベルからのシングルを経て届けられた2ndは、メンバー4人中3人がソングライティングを手掛け、ビートルズのラスト・アルバムのような雰囲気の作品に仕上がっている。半数の楽曲を提供したジョニー・ペインは、言わばバンドのジョン・レノン。プロデュースはデストロイヤー作品で知られるデヴィッド・カースウェルで、この曲ではジョージ・ハリスン“サムシング”風のギター・ソロも聴くことができる。ちなみにオワリカラのタカハシヒョウリはジョニーの働いているヴァンクーヴァーのレコード店で、本人からCDをもらったことがあるらしい。
そのジョニー・ペインがベースで参加したのが、ロサンゼルスのシンガー・ソングライター、デヴォン・ウィリアムスのこの曲。ピアノを弾いているのはデストロイヤーのテッド・ボイスで、ニッキー・ホプキンスばりにリリカルなフレーズを聴くことができる。アルバム全体のプロデュースはアリエル・ピンクの新作も手掛けたヴァイオレンスのジョージ・エルブレヒトによるもので、80年代風の分厚いシンセ・サウンドが展開されているだけに、70年代のシンガー・ソングライターのようなこの曲は若干異色かもしれない。ヴィデオに登場する2人のぎこちない演技も、「この愛を僕はずっと待っていた/君と出会ってようやくそれが始まったんだ」というピュアな歌詞とマッチしている。
ティンバー・ティンブレは、ピーター・ガブリエルとケイト・ブッシュがデュエットした“ドント・ギヴ・アップ”をファイストとカヴァーしていたカナダのシンガー・ソングライター、テイラー・カークによるプロジェクト。最新作となる『ホット・ドリームス』はリー・ヘイゼルウッドがデシッド・リンチの映画に迷い込んでしまったかのようなシュールな傑作だったが、そのオープニング・トラックのアニメーション・ビデオを手掛けたのが、〈サブ・ポップ〉に所属するシンガー・ソングライターであり、同郷カナダの新人ポップ・バンド、オールウェイズのプロデュースでも知られるチャド・ヴァンガーレン。魑魅魍魎が蠢く、まさに狂気の世界が繰り広げられている。夢に出てきそう……。