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CURVE OF THE EARTH Mystery Jets (Hostess) by YUYA WATANABE
RYOTA TANAKA
January 15, 2016
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CURVE OF THE EARTH

地球のまるみから市井の生活を想像した
ひたすらにヒューマンな音楽

今、iPhoneのホーム画面を「地球」にしている人はどれだけいるんだろう。かつてはデフォルト画像に設定されていた、あのブルー・マーブルのイメージは、若き日のスティーブ・ジョブズに決定的な影響を与えた雑誌『全地球カタログ』のオマージュであり、ひいてはジョブズがiPhoneで示したヴィジョンの象徴でもあった。言わばそれは、だれよりも客観的な視点から地球を眺めること。そして、そこで暮らす人々の営みを想像すること。『全地球カタログ』最終号の一節「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」をジョブズがスピーチで引用したことから、実際にあの雑誌を手に取ってみたという方も、きっと少なくはないはずだと思う。

ミステリー・ジェッツの通算5作目となるアルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』は、その雑誌の監修者であるスチュアート・ブランドから多大なインスピレーションを得た作品なのだという。ロンドン南西部にある小さな島のヒッピー・コミューン跡地で活動を始めたこのバンドが、かつてヒッピーたちのバイブルとされた『全地球カタログ』に興味をもつのも、ある意味では必然だったのかもしれない。とはいえ、彼らがここで関心を示したのは、たとえばそこで紹介されている当時のライフスタイルではなく、あくまでもその本に込められたスチュアートの先見性にあったようだ。

そもそもアルバムの制作を始めた頃、彼らがテーマとして掲げていたのは「レトロ・フューチャーな宇宙観」だった。今作のどことなく70年代のプログレッシヴ・ロック然とした壮大なサウンドは、どうやらそこに起因しているようだ。しかし、ミステリー・ジェッツの4人は制作途中にふと気がつく。自分たちがいま描こうとしているのは、宇宙ではなく、むしろその宇宙から見た人間の姿なのではないかと。つまり、スチュアートが俯瞰から人類の未来を想像し、その先のライフスタイルを提案したように、彼らもまた、地球から離れてみることで、これまでの作品とはまったく違うヴィジョンをここに示そうとしたのだ。

アルバムの6曲目“ブラッド・レッド・バルーン”にある「converse with the spiritual sun on Primrose Hill NW1(郵便番号NW1のプリムローズ・ヒルで、神聖な太陽と語り合う)」という一節。これはイギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクから引用したものだ。18世紀後半から19世紀にかけて、いくつかの預言詩を残しているブレイクをここに取り上げたのも、おそらくスチュアートに惹かれた理由と同じだろう。この引用をひとつの象徴として、『カーヴ・オブ・ジ・アース』のリリックには、対象を遠くから見つめているかのような描写が全編で貫かれているのだ。

いちど距離を置いて、よりひろい視野を手にいれよう――こうしたアプローチは、ミステリー・ジェッツのキャリアそのものだと言える。伝統的なブリティッシュ・フォークを出自とし、かつては「テムズ・ビート」の顔役とされていた彼らは、その後にエレクトロ・ディスコと出会い、いつの間にかアメリカのカントリー音楽へと接近。前作『ラッドランズ』では、テキサスにスタジオを建築し、初のアメリカ録音も敢行している。つまり、ミステリー・ジェッツはあえて自国の文化に根差した音楽性から離れてみることで、自分たちのルーツ・ミュージックを見つめ直し、その可能性を測ってきたのだ。そして、1stアルバム『メイキング・デンス』から10年。ミステリー・ジェッツは再びロンドンに戻ってきた。

これまで以上にシンセサイザーを多用しながら、アコースティック・ギターの無骨なストロークを通奏低音とした『カーヴ・オブ・ジ・アース』。土着的なフォークと七色のサイケデリアが見事に溶け合った本作は、まさにこの10年の賜物というべきアルバムだ。いわばそれは、だれよりも客観的な視点から地球を眺め、そこで暮らす人々の営みを想像することによって、ついにたどり着いた境地。あるいは、壮大なサウンドを携えた、ひたすらにヒューマンな音楽。『カーヴ・オブ・ジ・アース』を、僕はそういう作品だと捉えている。

文:渡辺裕也

「音」に宿った半歩先の未来
変化し続けるインディ中堅が10年目に見せた最大の跳躍

2000年代半ばにテムズ・ビート一派のユニークなバンドとして登場したミステリー・ジェッツもすでに10年選手。3年ぶりのニュー・アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』は、今回もと言うべきか、これまで20世紀初頭にアメリカで生まれ、1950年代にイギリスでブームになったスキッフルから、カントリーやフォークなどのアメリカン・ルーツ・ミュージックまで、作品ごとに音楽的焦点を変えてきた彼らゆえ、いずれの既発作とも異なった方向性へと舵を切った作品となった。だが今回の更新は、過去最大の跳躍と断言していいだろう。特にプロダクション面での挑戦において、目を見張る成果を生んでいる。

バンド独自のプリミティヴな魅力では、出自でもあるヒッピー文化から受け継いだサイケ志向を若さ溢れる勢いでフレッシュに見せたデビュー作『メイキング・デンス』。ソングライティングの油の乗り方で言えば、王道ブリティッシュ・ポップを目指した3rd『セトロニン』、いや北米音楽に傾倒した4作目『ラッドランズ』こそ――ミステリー・ジェッツのピーク・ポイントをどこに置くかはリスナーのなかでも諸説あるだろうが、プロダクションにおける先鋭さという点では、2nd『トゥエンティー・ワン』が頭一つ抜けていたことは否定出来ないはずだ。エロール・アルカンをプロデュースに迎え、1曲のなかでも各音域の強弱をソリッドに変化させていくサウンド・デザインは今聴いても刺激的で、ニュー・エレクトロとインディ・ポップの最良の邂逅だったとさえ思う。

それゆえ『カーヴ・オブ・ジ・アース』のなかで、なにより興奮させられるのは、『トゥエンティー・ワン』ぶりに、彼らの「音」に驚かされているという点だ。1曲目“テロメア”での、鍵盤とギターが作り出すヒプノティックなテクスチャーに、火山が噴火するかのごとき強烈なドラムがぶち当たるイントロ部分から鼓膜を引き付けられずにはいられない。しかもビッグなだけでなく、BPM70のゆっくりとしたビートのなかに、つねに16分の細やかなリズムを感じさせてくれる繊細なドラミングなのだ。今作で彼らは『メイキング・デンス』以前のバンド最初期に立ち返って、本質的なミステリー・ジェッツのレコードを作ろうとしたそうで、幼少時から親しんでいたプログレなどが大きな参照となっていたようだが、リズム面では、ジュークやトラップといった現在のビート・ミュージックとの奇妙なシンクロニシティも感じさせるところが興味深い。

だからこそ、バック・トゥ・ルーツな出発点や、ヒッピー文化における聖典の一つ、スチュアート・ブラント監修の『全地球カタログ』が最大のインスピレーション源だったという、ともすれば回帰ともとれる前情報に引っ張られてはいけない。エレクトロニクスを随所で使った趣向は極めてモダンで、差し引き絶妙なエディット・ワークが、実にフューチャリスティックなダイナミズムを作り出している。未来を描いた物語は神話に類することが多いが、実際に彼らはまったく新しい地平を目指すがゆえ、下敷きとして幼少期に親しんだ古典を再発見していったのだろう。長尺曲こそあれど全9曲というコンパクトさも良い。ミステリー・ジェッツの『カーヴ・オブ・ジ・アース』は、アラバマ・シェイクス『サウンド&カラー』、テーム・インパラ『カレンツ』の隣に並ぶべき、「音」に半歩先の時代性を宿した作品。2016年のポップ・アートを伝える未来からの手紙だ。

文:田中亮太

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