SIGN OF THE DAY

2017年 年間ベスト・アルバム
21位~30位
by all the staff and contributing writers December 30, 2017
2017年 年間ベスト・アルバム<br />
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30. Rapsody / Laila's Wisdom

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セックス・アピールのためのセックス・アピールを追求/実践しまくるカーディ・Bがブレイクした2017年。だからこそ「ブ男黒人呼ばわりしてたお前、今の俺を見ろ」的なビギー(=ザ・ノトーリアス・B.I.G.)をヒップホップ史から呼び寄せ、その女性版的イメージに甘んずることなく、ライム・スキルでも彼に伯仲する“ブラック&アグリー”が美しく輝く、ラップソディの2作目。文化としてのヒップホップを何よりも重んじる彼女の姿勢も、人肌の温もりを感じさせるサウンドを創出するナインス・ワンダーを中心とする制作陣も、2010年頃から貫かれてきたものだ。それを、今回、切れば血がでるような、それでいて、大作感を湛えたアルバムへと後押ししてくれたのは、彼女の知名度を急上昇させた参加作、ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』だったのかも。新鮮かつ近年屈指のフロウを聴かせるバスタ・ライムスやブラック・ソート以下多彩な客演者の配置も見事だ。ラストを飾る“ジーザス・カミング”では、サンプルされたゴスペル曲の歌詞に応えながら、葛藤、抗争、戦争へと拡大する負のループの中で失われゆく命の尊さを問いかけている。(小林雅明)







29. St. Vincent / Masseduction

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「あなたのいないニューヨークはニューヨークじゃない」――数多くのポップ・ヒーローを失った2016年を経て、セイント・ヴィンセントことアニー・クラークは「ウィアードネス(weirdness)」に想いを馳せる。変わり者たちの居場所が失われているのではないかと。が、ニューヨークが産み落とした数々のアート・ロックは奇人たちの生き場所ではなかったか? その後継者であることを確信した彼女は『マスセダクション』でさらなる覚醒を見せる。高圧的に垂直に落とされるインダストリアル調のビート、より珍奇なギター・エフェクト、ありえないようなジャンルの接続。ハード・ロックや80sシンセ・ポップ、それに売れっ子ヒット・メイカーのジャック・アントノフすら飲み込み、ヒョウ柄のレオタードを着て、蛍光色のライトの下で叫ぶ。メロウな瞬間もあるが、それ以上にエネルギッシュにギラギラしている。ここではデヴィッド・ボウイが祝福した「ウィアードネス」といまも更新され続けるフェミニズムが合流し、奇妙な女が閉じていく世界に立ち向かっていく。「フィア・ザ・フューチャー(未来を恐れる)」は、奇人たちからの挑発的な反語に他ならない。(木津毅)







28. Okada Takuro / ノスタルジア

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人一倍表現欲は強いが、出来れば前に出たくないという厄介なジレンマを抱える男、岡田拓郎。森は生きている解散後、初めてのソロ・アルバムとされる本作ではあるが、バンドとしての2ndアルバムにして最終作となった『グッド・ナイト』、いや少なくとも収録曲の一部をROTH BART BARONの三船雅也のヴォーカルに差し替えた同作のミックス違いのアナログ盤とは参加メンバー的にも地続きであり、森は生きているが本質的にはバンドではなく岡田のソロ・プロジェクトだったということを、逆説的に証明している。もちろんソロになる以上は賞賛だけでなく、すべての批判の矛先が向けられるという覚悟が必要だっただろうし、結果としてバンドではどこか自信無さげだった本人の歌声がこれまで以上にフィーチャーされ、ささやかな美点となっているのも嬉しい変化だ。ボン・イヴェールが来日公演で歌っていたグリズリー・ベアーの“オン・ア・ネック、オン・ア・スピット”を思わせる三船ヴォーカルの“アモルフェ”や、リアル・エステイトへのオマージュとも取れる“グリーン・リヴァー・ブルーズ”など、海外の同時代のアクトに対する返答としても秀逸で、嫌味がない。しつこいようですが〈ウェスタン・ヴァイナル〉あたりからT.Okada名義での海外リリース、あると思います。(清水祐也)







27. Calvin Harris / Funk Wav Bounces Vol.1

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先日公開されたSZA“ザ・ウィークエンド(ファンク・ウェーヴ・リミックス)”は、カルヴィン・ハリスにとって『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ』のコンセプト/プロジェクトがまだ継続中であることを告げるものだった。いや、アルバム・タイトルに「Vol.1」と銘打たれてはいたものの、そのくらいの物証がないと不安になるほど本作リリース以降、2017年下半期のカルヴィン・ハリスは、〈サマソニ〉のトリでのまんまラスベガス・セットは言うまでもなく、その後のシングルの切り方、やっつけなビデオなど、プロモーション全般の動きが鈍かった。“スライド”、“ヒートストローク”、“ローリン”、“フィールス”と畳み掛けるように公開してアルバムでピークを作った後は、まるで自室のベッドでハッパを吸いながら相手に「もう帰れば?」とでも言い放つかのような。米ブラック・ミュージック界の最前線に立つラッパー&シンガーとともにDJとしてではなくフィジカルなミュージシャンとして作り上げた本作は、カルヴィンにとって「制作の過程」そのものが重要で、それがもたらす効果については無頓着であったようだ。大富豪の考えることはわからん。いずれにせよ、フランク・オーシャンによる「『パイプを持つ少年』買って、銀行口座を空っぽにしちゃおっかな」(“スライド”)というラインが、今年もっとも美しく、批評性に優れたリリックであったことだけは間違いない。(宇野維正)







26. Lil Uzi Vert / Luv Is Rage 2

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ミーゴス“バッド・アンド・ブージー”への客演で一躍注目度を上げた直後の“XO TOUR Llif3”での大ブレイク。2017年最大のラッキー・ボーイとなったリル・ウージー・ヴァートだが、『ラヴ・イズ・レイジ』1作目を含むミックステープ4作を経ての初のフル・アルバム『ラヴ・イズ・レイジ2』で、その成功がラックでもフロックでもなく必然の結果であることを見事に証明した。マリリン・マンソンから(エドガー・ライトによる映画化作品でもお馴染み)グラフィック・ノベル『スコット・ピルグリム』まで、新世代黒人ラッパーならではの雑多な文化的バックグラウンドから生み出される多面的なリリック。アトランタのプロデューサー・チーム、808MafiaのTM88と抜群の相性をみせた“XO TOUR Liif3”における成果を深追いせず、トラップとエモ・ラップ、両ブームの合間を縫った、リリックの喚起するイメージを浮き上がらせることに比重を置いたライトでヴァラエティに富んだプロダクション。ファレル・ウィリアムスやザ・ウィークエンドといった人種をクロスオーヴァーしてきたスターたちから寵愛を受けているのも納得の、真に内実が伴った新しい時代のラップ・スター。シーン全体に停滞ムードが漂っていた2017年下半期において、本作は一際輝いていた。(宇野維正)







25. Playboi Carti / Playboi Carti

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2017年に発表されたラップ・ソングの中でも、“マグノリア”はもっとも優れたガジェットだと言っていいだろう。出身地アトランタでの活動後、エイサップ・ロッキー率いるクリエイティヴ・チーム=AWGEと契約を交わし、ファッション・アイコンとしても注目されるプレイボーイ・カーティは、やはりアトランタをベースにしていたピエール・ボーンのトラップ・ビートの上で、調子外れなメロディと戯れるように金と女について歌う。それは、同年、無意味さと稚拙さが批判の的となったマンブル・ラップと呼ばれるものだが、彼が新しいライムというよりは新しいサウンドをつくろうとしていることは、1stミックステープにあたる本作の“マグノリア”を要とした統一感のある構成からも明らかだ。そのセンスは、ゲストとして参加しているリル・ウージー・ヴァートのエレクトロニックな志向にも近い一方、よりチープな分、癖になる。6曲を手掛けたボーンはゲーム・ミュージックに影響を受けたと語っていて、何処か、世界的に再評価の進む80年代の細野晴臣や、〈YEN・レコード〉も思い起こさせる。ちなみに、彼のビートは、21サヴェージの従兄弟=ヤング・ヌーディ『ヌーディ・ランド』でもったっぷりと楽しむことが出来るし、警察から逃亡中にラップで言わば実況中継をしてセンセーションを巻き起こしたテイ・K“ザ・レース”のビートも、ボーンのそれを模したものだった。(磯部涼)







24. Dirty Projectors / Dirty Projectors

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「失恋アルバム」と呼ばれることについて、当のデイヴ・ロングストレス自身は納得しているらしい。彼は恋人でありバンド・メンバーだったアンディ・コフマンとの公私ともの別離も含めた疲弊から、一時期は音楽へのモチヴェーションを失うも、ソランジュ『ア・シート・アット・ザ・テーブル』のプロデュースを筆頭とした多くのアーティストとの仕事を経て、再び音楽と向き合い、本作を作り上げた。実に「失恋アルバム」らしいストーリーだが、ここにあるのはそれ以上の「失恋」だ。本作リリース前にデイヴを含むUSインディの顔役たちによる「インディの死」についての議論があったのを覚えているだろうか。デイヴは自身の失恋に向き合い、それをモチーフとすることで、パーソナルな問題のみならず音楽シーンや社会の変化もここで描いている。R&Bやヒップホップの影響色濃い本作のプロダクションは、必然だ。「あの時代」への惜別を、自らの最高傑作『ビッテ・オルカ』とかつての恋人への別れとともに、歌い上げる。これは、2017年の一側面を語る見事な「昇華」であり「ポップ」そのものだ。(照沼健太)







23. Beck / Colors

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昨年2月、かのポール・マッカートニーとベックがグラミー賞のアフターパーティで門前払いを食らう、という珍事があった。このとき、ポールが半ば冗談でいった「僕らはもっとヒット曲を書かなきゃいけないね」という一言をうけて、ベックはすでに完成しかけていた本作の方向性を見直したらしいーーという話の真偽はともかく、ベックがこのアルバムの制作期間をさらに一年以上も延長したのは事実。結果として『カラーズ』はベック史上もっともポップに振り切った野心作となった。その緻密な楽曲構成とウェルメイドなプロダクションは、さながら『ペット・サウンズ』。あるいは盟友グレッグ・カースティンとの二人三脚体制に、レノン&マッカートニーの姿を重ねることも可能だろう。いずれにせよ、オルタナティヴという価値観がすっかり失効した2017年に「90年代オルタナの寵児」が放ったのは、メインストリームに対するカウンターではなく、すべての人に語りかけるようなポップ・レコードだった。すなわち、これはベックの脱オルタナティヴ宣言。少なくとも『カラーズ』が分業制ポップ全盛の時代を乗り越えようとした作品であることは、改めて強調しておきたい。(渡辺裕也)







22. Lorde / Melodrama

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ニュージーランドから16歳で突如登場し、“ロイヤルズ”がいきなり世界的な大ヒット。かのデヴィッド・ボウイから「この子は音楽の未来」との期待を託され、そのボウイの追悼も、さらにニルヴァーナのロックの殿堂入りの際のパフォーマンスも任された「約束された宿命」の天才少女。全世界が固唾を呑んで見守る中、このアルバムで彼女は見事その期待に応えた。才女はその才覚を、決して「神秘のベール」に覆い隠すことをあえて選ばなかった。「いまどきの同世代の少女の、パーティに出かけたある一夜の物語」。こうした極めてシンプルかつ素朴な主題を選択することで彼女はオーディエンスを選別するようなことは避けた。この「通俗化や大衆性を恐れない」勇気は稀代のポップ・スター、テイラー・スウィフトとの邂逅の賜物だ。だが、そうでありながら、ロードは自分らしさを損なうどころか、ケイト・ブッシュが人里離れたところで熟成させてきた呪術性をモダンな都市風景で開封させるという大技を繰り出した。ここまで絶妙な聖俗の均衡を保った傑作は、今後もしかしたら、彼女本人ですら二度と生み出せない「魔法」もしれない。(沢田太陽)







21. Jlin / Black Origami

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RP・ブーを師匠筋に持ち、ホーリー・ハーンドンと横で繋がるジェイリンのジューク/フットワークを逸脱したダンスとエレクトロの実験は、この2作目でその音楽的関心をリズム・プロダクションからコンポーズの部分やテクスチャーの探求へと広げている。その伏線として彼女はバレエ・カンパニーのスコア制作(とストラヴィンスキー)の影響を挙げるが、音の余白や背後に広がる空間も含めたフロウを意識させるような構成は、ウィリアム・バシンスキーの名前をクレジットに見つけるまでもなく明白だろう。もちろん、前作『ダーク・エナジー』を特徴づけていたトライバルでシャーマニックな意匠は、そのビートやパーカッションに複雑性を促す彼女のシグニチャーであることに変わりはない。ただし、そうした彼女が象徴する(至極乱暴に言えば)アフリカ性とは、客演を務めたケープタウンのラッパー、ドープ・セイント・ユダも関わる〈ノン〉周辺のアフロ・ディアスポリックな実験的ヒップホップとも連帯を見せる熱源となっている。オリガミと題された本作にはさながら、ひとりの音楽家を象る幾重ものレイヤーと、ここを起点に広がる2017年の展開図を眺めることができるのではないだろうか。(天井潤之介)







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