SIGN OF THE DAY

2019年 年間ベスト・アルバム
21位~30位
by all the staff and contributing writers January 02, 2020
2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

30. Angel Olsen / All Mirrors

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

2019年もまた、近年の流れを受けて女性ミュージシャンの多様な表現が注目を集めた年だった。だがそれぞれの個に根差したはずのアートを、「女性」と一括りにすることもまた重大な問題を孕んでいるだろう。エンジェル・オルセンの本作は、そうした葛藤をなぎ倒すかのような、どこか禍々しくさえあるエネルギーが渦巻いている。もともと作品ごとにアレンジメントを衣装のように着こなすタイプだったものの、この5作目で演劇性は確固たるものとなった。大仰なオーケストラとともに、ドラマティックなメロディとエモーションを演じ抜いてみせる。その奥に見えるのはやはりスコット・ウォーカーの存在で、音楽性とともに彼から引き継いだ「表層」と「深淵」の大いなる矛盾こそが本作のスリルだ。もはや往年の大女優然とした華麗な佇まいの向こう側には、彼女にしか理解しえない不安や恐怖、孤独と消えることのない痛みが根を張り、聴く者はいつしかそれらに取りこまれてしまう。それはもちろん彼女だからこそ昇華できたものだが、しかし、もしかしたら世界中の「女性」もまた、このような両義性を抱えて生きているのかもしれない……。「鏡」で見慣れた「わたし」(そして「あなた」)の、その奥側にある深淵。『オール・ミラーズ』における目覚ましい音楽性の飛躍は、いま、終わりのない思索こそが優雅な時間であると証明するかのようだ。(木津毅)

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29. King Princess / Cheap Queen

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

レコーディング・エンジニアの父が所有するブルックリンのスタジオを遊び場とし、幼いころからヴィンテージなポップ・ミュージックに親しんできたミカエラ・ストラウス=キング・プリンセスは、それこそフレディ・マーキュリーやジョージ・マイケルのセクシュアリティが世間で嘲笑されてきたことをよく知っているし、レズビアンである自分のキャリアがその歴史上にあることも、すでに理解しているのだろう。そんなミカエラがドラァグ・カルチャーへの敬意を示してみせたのが、本作『チープ・クイーン』。このデビュー・アルバムのリード・トラック“ヒット・ザ・バック”について、ミカエラは「どこにでもいるボトムスのためのアンセム」と説明している。「ボトム」とはゲイ用語でいわゆる「ウケ」のことで、その立場から相手への求愛をストレートに表現したのが「ヒット・ザ・バック」というわけだ。おなじくボトムを主体としたラヴ・ソングとして、“ヒット・ザ・バック”はトロイ・シヴァン“ブルーム”とも並び称されているが、ミカエラが「私はあなたのペット」と狂おしく叫ぶ様は、むしろストゥージズ“アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ”を彷彿させる。クィアな性愛を叫ぶ、20歳の奔放なロック・スター。それがキング・プリンセスだ。(渡辺裕也)

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28. Megan Thee Stallion / Fever

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

ニッキー・ミナージュ本人お墨付きのポスト・ニッキー・ミナージュにして、大手マネージメント〈300エンタテイメント〉が初めて契約したソロ・フィメール・ラッパーということでも話題を集めたミーガン・ジー・スタリオンは、互いのアルバムでフィーチャリングをしているダベイビーの大ブレイクによる相乗効果や、夏の終わりにリリースされたニッキー・ミナージュ、タイ・ダラー・サインとの“ホット・ガール・サマー”の滑り込みソング・オブ・サマー化もあって、2019年のブライテスト・ホープの座を射止めた。カーディ・Bほどぶっ飛んでるわけではなく、リゾほどエンパワーメントを前面に出すわけでもない、その絶妙なRatchet(勘違い女)キャラには戦略性を感じないわけではないが、ノトーリアス・B.I.G.やUGKやスリー・6・マフィアを敬愛する彼女のラッパーとしてのオーセンティシティは今年のシーンの動きともシンクロしていた。もっとも、本作の少々八方美人的な行儀の良さは、「もし私がリル・ウージー・ヴァートやプレイボーイ・カーティみたいなマンブル・ラップをやっていたら、みんな好きにならなかったと思う」という発言の裏返しとも言えるわけで、求められているフィメール・ラッパー像の強固さや、結局その席の数は限られている現実に思いを巡らせると、少々複雑な気持ちにもなる。(宇野維正)

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27. Mike / Tears of Joy

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

初めてマイクの音楽を聞いたのは、2017年の『メイ・ゴッド・ブレス・ユア・ハッスル』。マイケル・ジョーダン・ボネーマはまだ18歳で、そのあまりにも記名性の低いステージ・ネームと裏腹に、彼のラップと音は強烈な印象を残すものだった。クラウド・ラップ、ヴェイパーウェイヴ、〈ブートレグ・テープス〉のビート……。奇妙なポイントに切断線が入れられてゆがんだ、夢見心地ですわりのわるいマイクのヒップホップは、2010年代前半にオンライン・アンダーグラウンドで流通したエクスペリメンタル・ミュージックと地続きである。また、当然のようにオッド・フューチャーの「ウィアードネス」は彼に大きなヒントを与えたようで、アール・スウェットシャートがマイクを「おれの息子」と呼んだのも、理由がないことではない(2015年に発表されたアールとのすぐれたラップ・ソング、“クリムゾン”は、今聞いてもフレッシュだ。)もうひとつ重要なポイントは、彼が所属するNYCのコレクティヴ/クルー、スラムス(sLUms)。スラムスには、アデ・ハキム(シックスプレス)、キング・カーター、ジョディ.10k(ジャズ・ジョディ)、ブーリーメイン、メイソンといったメンバーがいて、周辺にはネイヴィ・ブルー(フランク・オーシャンの『ブロンド』のアウトロでインタヴューを受けていたセージ・エルセッサー)やブルックリンのメドヘイン、バーミンガムのピンク・シーフといった才能がひしめく。彼らにとってクルーかそうでないかという線引きがどれほど重要な意味合いを持つのかはわからないが、2017年のドキュメンタリーを見るかぎり、このロウキーなキッズたちの集まりの結束力は、それなりに強い。なかでも、もっとも目立つ活躍を見せているマイクは、MF・ドゥームやカンパニー・フロウ、ドクター・オクタゴン、K-The-I???、カジモト、シャバズ・パラセズの試みを無自覚的に受け継ぎながら、ヒップホップ・サウンドの再定義をおこなっている。サンプリングの冒険と、アブストラクトへの挑戦--その最新の成果が、この『ティアーズ・オブ・ジョイ』だ。そう。ヒップホップの「次」はここにある(これは確実に「ヒップホップ」であって、「ラップ・ミュージック」ではない)。アールの『サム・ラップ・ソングス』に直接的な影響をもたらしている、ロウファイ・ヒップホップよりもロウでラフなマイクのヒップホップと、彼のだらっとしたラップに、あなたは今すぐ耳を傾けるべきだ。(天野龍太郎)

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26. Sharon Van Etten / Remind Me Tomorrow

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

今年は例年にも増して女性のシンガーソングライターによる素晴らしい作品に恵まれた。このランキングにも多くの作品が選ばれているのではないだろうか。その背景には、今の世の中の風向き、女性たちが置かれたありようの変化を指摘できる部分もあるのかもしれない。しかし、いうまでもなく誰しもが語るべき物語を持っている。それはいつの時代だって変わらない。そして、ヴァン・エッテンがここで歌っているのはどれもきわめて個人的なこと。パートナーや(この5年の間に設けた)子供について、自身の青春時代、あるいは長年暮らしたニューヨーク――余談だが、昨年BBCプロムスで歌ったLCDサウンドシステム“ニューヨーク、アイ・ラヴ・ユー・バット・ユア・ブリンギング・ミー・ダウン”のカヴァーは伏線だった――について。失恋やツアー生活ですり切らした心の傷が影を落とした前作『アー・ウィー・ゼア』と比べると前向きだが、同時にとても内省的で、ノスタルジックなムードに包まれている。ただし、そうしてギターやピアノで書かれたインティメイトな楽曲を(セイント・ヴィンセントも変身させたジョン・コングルトンによる)エレクトロニックなサウンドがアップリフトさせ、ひいてはこれまでの彼女のシンガーソングライター像を大きく押し広げることに成功している。広いステージ、ハンドマイクで歌うヴァン・エッテンの姿はとても力強く、往年のヴォーカリストのような貫禄を漂わせている。ワイズ・ブラッドやエンジェル・オルセン同様、作品を重ねるごとに更新される彼女のキャリア・ハイが刻まれた通算5作目。(天井潤之介)

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25. Denzel Curry / ZUU

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

ブレイクスルーと評するのは大仰かもしれないが、2018年リリースの前作『Ta1300』は、それ以前の作品(ミックステープを通じて、その存在が知られるようになったのは、2011、2012年)から表現や主題の幅も広げ、アーティストとしての成長ぶりを聴く者に強く印象づけた。前作は、彼が自分の内側を見つめたアルバムでもあるが、そこでの成功が引き寄せてくれた勢いを、今度は自分の外側に働きかけ発散させたのが本作となるだろうか。外側というか、自分の周囲をサッと見回せば、自分を育ててくれた地元が目に入る。そこから「地元へのトリビュート」というヒップホップでは伝統的かつ本質的なテーマに落ち着いたのだろう。まず1曲目に、ゼルの地元マイアミのキャロル・シティの別称を曲名にしたアルバム表題曲を置き、「大きな成功を収めた同郷の先輩」枠のリック・ロスにも“バーズ”で客演してもらうわかりやすさ。アルバムは、ゼルと地元および地元の仲間との歴史を遡行しながら進み、最初にブレイクするきっかけを与えてくれたスペースゴーストパープにちなむインタールードまでいったところで、最後は、その当時へのトリビュートを、ゼルとはC9という地元のグループで活動を共にしているロニーJの制作曲で締め括っている。約29分という作品収録時間ながら、アルバム全編の構成はしっかり練られているのだ。どうやら全編ほぼフリースタイルで録ったようだが、そこからゼルのラップに潜むポップな面が顔を出すのも面白い。(小林雅明)

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24. Young Thug / So Much Fun

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

単独作としては2017年の『ビューティフル・サガー・ガールズ』の方が野心的な作品だったし、ヤング・サグの真骨頂はそれ以前のミックステープ時代だったというのもよく言われること。エグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされているJ・コールの貢献度も(“ザ・ロンドン”のヴァースは最高だけど)今ひとつよくわからないし、“ホット”、“バッド・バッド・バッド”、そしてデラックス版で付け加えられた“ホップ・オフ・ア・ジェット”はすべて長年の相棒ウィージーのビートだし、それらスマッシュ・ヒットの4曲中3曲にはトラヴィス・スコット効果も含まれている。というわけで、本作にはヤング・サグにとって初の全米ナンバー・ワン・アルバムになったという以外に取り立てて新しい発見や驚きがあるわけではないのだが、逆に言えばあのヤング・サグがあのヤング・サグのまま、スター・システムに乗るわけでもセルアウトするわけでもなく、気がついたらヌルッと全米ナンバー・ワンになったことこそが最大のトピックと言えるだろう。つまり、本作におけるSo Much Fun(=超楽しい)の主体はヤング・サグではなくリスナーの側にある。ヤング・サグは相変わらず何を考えてるのかさっぱりわからないけれど、その気になればファンのニーズに応えるのなんて朝飯前だし、ポスト・マローン“グッドバイズ”やリル・ナズ・X“オールド・タウン・ロード”への参加も示しているように、2019年はそんな彼が初めて「その気になった」年だった。(宇野維正)

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23. Ariana Grande / thank u, next

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21位~30位

トラップ・ビートをワルツに落とし込んだ“イマジン”は、マック・ミラーの死から触発されたものである、という見かたがある。そこで歌われるのは、愛しあい、みたされた恋人たちの姿。「そんな世界、想像できる?」。アリアナ・グランデは、くるおしく歌い上げる。「シンプルで美しく、いまは(そして永遠に)手に入れることのできない愛」についてのこの歌は、だからこそ切実であって、痛ましくさえある。しかし、アリは亡霊にひどく取り憑かれているのでは、けっしてない。彼女は亡霊を、なんとかとりなそうとする。過去から未来へとかける呪いのネガティビティにみちみちたソーシャル・メディアを横目に、アリは現代の悪魔祓いのような見事な手つきで、それを過去から未来への祈りのポジティビティに変えてみせる。だから、“サンキュー、ネクスト”という歌は時代精神のひとつになった、なんて無責任に大風呂敷を広げてみることもできるかもしれない。それでもこの曲は、このアルバムは、あくまでも彼女のきわめてパーソナルな物語から生まれていることを忘れてはいけない。ノスタルジックなヒッホップ・ビートにのって、アリは独特のかすれた声で、あまく、なめらかに、やさしく歌いかける。「元カレたちにはファッキン感謝してる/ありがとう、次に進むよ」。スティグマも、デジタル・タトゥーも、今は亡きあのひとたちも、わたしの一部であって、わたしの一部ではない。それらはすべて、ひとつづきのタイムライン。そうでしょう? アリは、そんなふうに歌っているかのようだ。これは彼女なりの、#MeTooとはまたちがう、ひとつのたたかいかたでもあるのだろう。そしてそんな彼女の態度は、とても安っぽい言葉でいえば、わたしたちをエンカレッジし、エンパワメントし、肯定性と祝福と感動を与えてやまない。(天野龍太郎)

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22. Clairo / Immunity

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
21位~30位

Z世代の若者たちは、虚構だらけのアメリカン・ドリームに興味など示さない。彼ら生粋のデジタル・ネイティヴが求めているのは「この不完全な世界で如何に自分らしくいられるか」であり、現在21歳のクライロは、まさにその世代観を象徴するアーティストだ。2017年に彼女がYouTubeで発表した「プリティ・ガール」は、その極めてチープなビートにせよ、固定カメラで自撮りしたMVにせよ、お世辞にもクオリティが高いと言える内容ではなかったが、むしろ同曲はそのアマチュア感を臆さずに晒しているところが最大のチャームだった。そして、あれから約2年越しのデビュー・アルバムとなった本作でも、彼女のそんな「あくまでも自分らしくいること」を追求する姿勢は貫かれている。プライヴェートな雰囲気を宿したアンニュイなヴォーカル。ハンドメイドの拙さとソフトロック的な緻密さが共存した多重録音。バイセクシュアルとしての実体験に基づいたリリック。そんな等身大のクライロを存分に引き出しながら、彼女の楽曲を北米メインストリームのヒット曲と並べても遜色ないプロダクションに仕立てたロスタム・バトマングリのプロデュース・ワークも、じつに見事だ。テクノロジーの進化に伴って再定義が進むベッドルーム・ポップ(もしくはlo-fi)に対する、Z世代からの回答ともいうべき珠玉の一枚。(渡辺裕也)

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21. Nick Cave & The Bad Seeds / Ghosteen

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21位~30位

死と戦争だけが唯一闘うに値する敵だと感じる人々にとっては、立憲民主党、れいわ新撰組それぞれの支持者が口汚く罵り合うような場所は地獄でしかないだろう。誰もが確信的に口にする言葉のどれもが何ひとつ自分自身の感覚と少しも交わってこない、どうやら俺は頭がおかしいか、同じ思いを持った人々がどこかで怯えながら身を潜めているからに違いない、そんな困惑と絶望と期待が入り混じった孤独な場所から歌は生まれる。自らの双子の息子のひとりを事故で失ったこと、それを契機に生まれた前作から二年。ほぼビートレス、最小限のピアノ・リフ、荘厳なシンセの和音が醸し出す幽玄なアンビエンスの中で、ニック・ケイヴはまた再び死について歌う。ずっとキリスト教について語ってきた男がここではブッダや仏教にまでそのリファレンスを広げている。これは唯物論者のゴスペル、西洋音階によるマントラだ。ボブ・ディランとニック・ケイヴの新作が出る度に「もはやこれ以外の何が必要だ?」と呟きそうになる自分自身に辟易しながら、また今年も同じ体験をすることになろうとは。奇しくも本作とラナ・デル・レイ、ヴァンパイア・ウィークエンドのアルバムはどれもアナログ二枚組60数分。不特定多数の人々にアクセスするよりも、たった一人のオーディエンスにどこまでも深くコミットメントすること。もし優れた何人かの作家がそれを求めていたとすれば、2010年代という輝かしきポップの時代は終わったのかもしれない。これまでずっと忌み嫌っていたはずの普遍性という言葉に今は少しだけ傾きかけている。(田中宗一郎)

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2019年 年間ベスト・アルバム
11位~20位


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31位~40位


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