SIGN OF THE DAY

2016年 年間ベスト・アルバム
51位~60位
by all the staff and contributing writers December 24, 2016
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60. Ryugo Ishida / Everyday Is Flyday

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アトランタのラッパーみたいなんですよ。そう言ってライヴに誘ってくれたのは、DJのWardaaだった。果たして、彼のイベント〈Mango Sundae〉で初めて観たRyugo Ishidaのパフォーマンスは、不穏だが何処か愛嬌のある佇まいが印象的で、虜になってしまった。93年、茨城県土浦市生まれ。自殺が頻発する不況の街で過ごした少年時代、父親には暴力を振るわれ、母親には夜の仕事が忙しく放っておかれ、夜な夜な徘徊する中で出会ったラップ・ミュージックのルーツを知って、「自分とか一緒にいる友達とかと境遇がすごい似てる」「だから、ラップをすればそこから抜け出せると思った」。もちろん、そういった物語からも彼の音楽は分析出来るが、1stアルバムとなる本作に収められているのはむしろ刹那的なパーティ・ソングが中心だし、特筆すべきはミニマルなライムによってリスナーを踊らせる、ラップの現代的な技術だ。さらに、クライマックスの“キスはゲロの味”では、カメラが浮上するように破天荒なライフ・スタイルを俯瞰してみせる。また、Automaticによる同曲を守り立てるエモいビートはまるでインディ・ロックを再構築したみたいで、『Everyday Is Flyday』はこのアイディアに富んだプロデューサーとの共作とも言えるだろう。そこに女性ラッパーのSophieeを加えて、ネオ・ヤンキー/ギャルからリル・ヨッティへアンサーを送ったニュー・プロジェクト、ゆるふわギャングのアルバムも楽しみでならない。(磯部涼)







59. Common / Black America Again

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2014年に発表した前作『ノーバディ・イズ・スマイリング』では同郷シカゴの若手ラッパーらを招いて主に青少年を取り巻くストリートの状況を憂いて見せたコモンだが(彼が若手ラッパーをフィーチャーすることは極めて珍しい)、11作目のオリジナル・アルバムとなる本作では米大統領選挙、そしてブラック・ライヴス・マターといったよりマスな点へと意識を向け、さらに力強いメッセージを放った。キング牧師の活動を描いた映画『グローリー』への出演、そして自身が手がけたテーマ曲がアカデミー賞を受賞したことも本アルバム制作に繋がる大きなきっかけだったかもしれない。表題曲ではジェイムス・ブラウンのスピーチを引用し、スティーヴィー・ワンダーが「私たちがアメリカ黒人の歴史を塗り替える」と歌い上げる、まさに2016年の「今」だからこそ生まれた重厚な作品だ。カリーム・リギンスやロバート・グラスパーら、ジャズ・シーンの新騎手らによる手腕も光り、アルバム全体により深いストーリー性を持たせている。(渡辺志保)







58. Future / Evol

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常にアトランタの最前線の熱気を世界中にバラ撒いてくれる漢、フューチャー。去年も一年の間に複数のミックステープとアルバム、さらにはドレイクとのコラボ作までをリリースした彼だったが、2016年に入っても早速1月にミックステープ『パープル・レイン』を発表し、そのわずか一ヶ月後に本作をリリースと、変わらぬ多作っぷりを見せつけた。「LOVE」をひっくり返した造語がタイトルとなる本作だが、いつもと変わらぬフューチャーのダークな語り口とメトロ・ブーミンやサウスサイドらのトラップ・サウンドとのコンビネーションには、素晴らしきマンネリとも言いたくなるような揺るがぬ美学が映し出される。ウィーケンドとの“ロウ・ライフ”、そしてヒット・シングルとなった“ウィックド”(ストリーミング・ヴァージョンのみに収録)は、主軸となるポップ・フィールドとは異なる、今のアメリカのトレンドを示すにうってつけの楽曲だ。(渡辺志保)







57. The Last Shadow Puppets / Everything You’ve Come To Expect

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クラシック~現代音楽の再評価がタイムリーな今、ポスト・クラシカルやインディ・クラシックといった潮流と、本作におけるオーウェン・パレットの仕事を比較してみると、音楽の現在におけるチェンバー・ミュージックの多様性と本作の特異性が見えて面白い。前者の音楽的背景が、エリック・サティやスティーヴ・ライヒといったある意味では由緒正しいクラシック~現代音楽であり、後者がフランク・シナトラやエンニオ・モリコーネといったアメリカン・ポップスや映画音楽であるという見方は乱暴だろうか。この図式で考えると、オーウェン・パレットのオーケストレーションは、大衆性を帯びたチェンバー・ミュージックが持つ独特の「雑多性」を、パペッツのサウンド・コンセプトに沿った形で上手く料理しており、それが本作の魅力を支えているように思えてくる。ポップ・ミュージックとは継ぎ接ぎの音楽であるということを理解している彼のようなアレンジャーの存在こそが本作の肝だったといえるのではないか。そうして出来上がったアレンジメントが、現代最先端のストリングス・サウンドに拮抗する代物であるという事実に、彼の才能を改めて実感する。(八木晧平)







56. Ariana Grande / Dangerous Woman

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「売れないのでは?」というのが正直な印象だった。〈モータウン〉と90年代R&Bをベースとしたキラキラ輝くポップ・ソング集だった1st『ユアーズ・トゥルーリー』、EDMからヒップホップまで全方位型に音楽シーンの最新モードを反映した2nd『マイ・エヴリシング』と比較して、いまいちコピーをつけづらいトピック性に欠ける地味な作品だったからだ。フューチャリスティックなエッジー&ミニマルなサウンドから、クラシカルな意匠をまとったソウル/R&B方面に舵を切ったという意味では、ジャスティン・ティンバーレイクの2015年作『20/20 エクスペリエンス』を思わせるが、実際のところその印象もアートワークにミスリードされたもので正しくはない。目を閉じて耳をすましてみれば、オーセンティックなハウスからポストEDM、レゲエ、トラップまでを行き来するカラフルな作品なのだ。そんな本作が世界的に前作以上とも言えるセールスを記録し、ここ日本においても2016年最も売れた洋楽作品となったのは、バッド・ニュースの多かった1年における喜ばしい事実のひとつに数えて間違いないだろう。(照沼健太)







55. NxWorries / Yes Lawd!

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マッドリブやJ・ディラの重要作品の数々を世に送り出し、近年はアロー・ブラック、メイヤー・ホーソーンといった正統派ソウル/R&Bアーティストも見出してきたLAの名門レーベル〈ストーンズ・スロウ〉。ここ数年ヒップホップ・シーンで着実に仕事を増やしているプロデューサーのノレッジと、今年アーバン・シーンに新風を吹かせたアンダーソン・パックによるユニットの1stアルバムは、言わば同レーベルが培ってきた歴史の最新形態だ。ジャズやサントラの隠れた名盤からのサンプリング、絶妙なタイム感で鳴るドラム・ビート、ヘイジーなプロダクションといったノレッジのトラック・メイキングがマッドリブやJ・ディラによるヒップホップ・インストの系譜に名を連ねる一方で、アンダーソン・パックのソングライティングはR&B/ソウル、ディスコ/ブギーといったUS黒人音楽のマナーを正統に更新。アンダーグラウンドとメインストリームの垣根がさらに曖昧になった現代ならではの風通しの良さが何とも心地いい。〈ストーンズ・スロウ〉が度々リリースしてきたコラボ作品の中でも、外向きの開放感においては本作が最高到達点と言っていいだろう。(青山晃大)







54. Gucci Mane / Everybody Looking

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ここ数年、アメリカのポップス・シーンにおけるアトランタ・インフレはものすごいものがある。マイリー・サイラスもジャスティン・ビーバーも、リアーナやビヨンセだってアトランタ産のビートを欲しがり、結果ヒットに繋げているんだもの。そんなアトランタ・シーンにおける立役者の一人、グッチ・メインが約2年ぶりに監獄からシャバへと戻って来た。出所後2か月足らずでリリースされ、レコーディングに要した期間はわずか6日間とも言われる本作は「俺はとにかくラップで商売したいんじゃ!」というグッチのピュアな衝動、そしてカニエ・ウエストやドレイク、地元の後輩枠からはヤング・サグら、ラッパー仲間からの祝福が詰まった内容に。「銃を放つ(POP)俺らの音楽がポップ・ミュージックさ」とのたまう“ポップ・ミュージック”など、元祖トラップ・ラップの神髄がここにある。グッチと二人三脚で歩んできたプロデューサー、ゼイトーヴェンとの相性も変わらず最高なままで、思わずニヤリとする一枚。(渡辺志保)







53. 七尾旅人 / 兵士A

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どこかの誰かの喜びと、どこかの誰かの悲しみを伝えるために歌はある。優れたソングライターはその歌が必要な時代にその歌を書き、その歌は10年後も50年後も語り継がれる。取り立てて今作る必要のない、使い捨ての歌が溢れるこの国で、実は生粋のポップ職人でもある七尾旅人という作家が3分間のポップ・ソングではなく、本作や2007年の『911FANTASIA』のような大作を構想せねばならない理由は何か。日本や近隣の国に暮らす市井の人々の慎ましやかな営み、そこでの尽きることのない想像力と懸命な努力をモチーフにしたこの作品が、ことさら「政治」という言葉と接続されてしまい、どこか敷居が高く感じられてしまう理由は何か。エンタメとサブカルに毒されたこの島国のポップ産業には、ビヨンセもPJハーヴェイもアノーニもトライブもソランジュもコモンもYGもいないからだ。七尾旅人しかいないからだ。当初はアルバム5枚の連作として構想され、既発曲3曲と“フライ・トゥ・ザ・ムーン”、“赤とんぼ”のカヴァー以外はすべて新曲。3時間を超える一度きりのライヴ・パフォマーマンスを映像化。パフォーマーは彼と梅津和時。ガット・ギターとエレクトロニクス・エフェクトとサックスと歌。ジャンルを超え、今と過去を橋渡しする音楽。海の向こうなら、ごく当たり前にいくつものバリエーションが産み落とされたはずのこの傑作の孤立もまた、島国ニッポンの今の腐敗をあぶり出すアートとして機能した。とても残念なことに。だが、今も鉄腕アトムの最期の言葉が聞こえる。「いくぞ」。歌と理想は受け継がれていく。(田中宗一郎)



52. D.R.A.M. / Big Baby D.R.A.M.

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なりゆき任せに聴こえるフロウで、ささいなことを気にする前に歌っちゃえ、とでも形容できそうなスタイルで押してくるラッパーは、2014~2015年ならアイラヴマコーネン、で2015~2016年ならD.R.A.M.と綴る、このドラーム(発音に忠実なカタカナ表記ならドゥラームか)となるだろうか(確か年齢もほぼ同じ)。が、前者が、それをドラッグの売人(の立場)で演っていたのに比べれば、このD.R.A.M.は、全然普通の人過ぎる。例えば、曲名だけ拾っても、リル・ヨッティとの共演曲でマリファナを意味する“ブロッコリ”、エリカ・バドゥとつながる“Wi-Fi”、ドニー・トランペットことニコ・シーガル制作の“パスワード”、あるいはDMがどうしたとか、お金が入ったから親孝行するよ(“キャッシュ・マシーン”)と、ジャケットの屈託のない表情そのまま。同時に、もうR&Bを好き過ぎで、“100%”ではアイズレー・ブラザーズの“ザ・ハイウェイ・オブ・マイ・ライフ”のピアノをバックに「僕の半分は君の全部、君の半分は僕の全部」と囁き、全体にD.R.A.M.がDoes Real Ass Musicの略だというのが頷ける内容だ。(小林雅明)







51. 21 Savage, Metro Boomin / Savage Mode

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オバマ政権下におけるトラップの推移のひとつに、レックス・ルガーからメトロ・ブーミンへというトレンドセッターの交替があって、そのアッパーからダウナーへというサウンドの変化には、アフリカ系アメリカ人コミュニティの内向化が表れているのではないか。先日、アメリカ文学/ポピュラー音楽研究者の大和田俊之と座談をした際、彼はそう分析していたが(『ユリイカ』2017年1月号掲載、大和田俊之×磯部涼×吉田雅史「〝ラップ〟はいまを映しているか」参照)、もしくは同時代のラップ・ミュージックを見渡してみれば、リル・ヨッティの幼児退行したメルヘンな世界観と対をなすのが本作品である。子供の頃から常に死が身近にあったと語るアトランタ出身の24歳のラッパーは、同郷、同世代のプロデューサーがつくるダーク・アンビエントのようなビートの上で、以前のミックステープよりもぐっと声のトーンを落とし、殺伐としたライムを淡々と展開していく。ここでは、アメリカ大統領選挙期間中に話題を集めた、リベラルだったり威勢がよかったりするアンチ・トランプ・ラップを聴いているだけだと見落としてしまうリアリティが鳴っているのだ。(磯部涼)







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41位~50位


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