SIGN OF THE DAY

<Ahhh Fresh!>第4回
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明
by MASAAKI KOBAYASHI May 16, 2017
<Ahhh Fresh!>第4回<br />
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明

1)
先行曲の感じでいくと、ポリティカル・ラップ・アルバムになるのでは? と予測されたジョーイ・バッダス。一方、アルバムの緊急発表を匂わし、ポリティカル・ラップを演るなら宗教的な面でハッキリさせておくことがあるのではないか、という旨の発言をするも、先行曲だけではその真意がうかがえなかったケンドリック・ラマー。そんな両者の新作が、4月7日同日リリース! ということでも注目されていた。

いざ、ふたを開けてみると、ジョーイの『オールアメリカン・バッダス』は、勿論こういう時代だからこそ作りえたポリティカル・ラップ・アルバムなのだけど、こういう時代に90年代のその手のアルバムの素直な延長線上にある(決して単純な回顧趣味などではない)作品を22歳でキャリア7年の彼がよく作ったな、とまずは感嘆。

この段階で、これまでの作風から言っても、ケンドリックの場合、ここまでポリティカル・ラップの純度を高めた作品で来ることはないだろう、と思った矢先に、彼の新作『ダム.』のリリース日は一週間後の4月14日に持ちこされたのだった。



2)
実は、同じ日には、タリブ・クウェリとスタイルズPの41、42歳コンビが、(スタイルズのリリックによれば)98年の名作『モス・デフ・アンド・タリブ・クウェリ・アー・ブラックスター』を多分に意識したというEP『ザ・セヴン』を出している。

Talib Kweli & Styles P / The Seven


これは、『オールアメリカン・バッダス』とシャッフルしたとしても、主題へ切り込む角度において全く違和感なく聴き続けることができる内容だ。



3)
ここに、3月末日リリースのロックスミスによるアルバム『オリーヴ・ブランチ』を加えれば、ポリティカル・ラップを堪能したい向きは、大満足に違いない。

Locksmith / Olive Branch



4)
それに対して『ダム.』は、というかケンドリック・ラマーは、様々な意味において「別格」だ。彼が自称する、ヒップホップ・ライム・セイヴィアというのは、前述したアルバム全てで、敢えて断るまでもなく、当たり前のように自負されているし、それがわかりやすくライムに反映されている。

一方、ケンドリックの場合は、それ以前に、相変わらず一曲につきワン・テーマという明快さをあまり好まず、一曲内での主題が多層な場合が多く、しかも、アルバム作品全体にしても、リスナーがどういうふうに聴いてくれるかこの先楽しみだ、という彼自身の言葉を待つまでもなく、多様な聴き方(解釈)が出来てしまう。

アルバムを重ねることによって、彼と彼を取り巻く家族の姿がよりくっきりと見えてくる、というのなら、彼の好きなエミネムのアルバム群と同じだが、エミネムのように最初から自身のアルター・エゴを堂々と設定しておくのではなく、曲の中で言っているのが、自分のことなのか、他人のことなのか、曖昧にしたままで、しかも、もしも自分が今のような生き方をしてこなかったらどういう人間になっていただろうか、という意味でのアルター・エゴの存在が、今回も常にちらついている。

そんな中で、わかりやすいのは、彼のキャリアでは過去最大級に、サウンド的に、現行のメインストリームの音楽に積極的にリーチしているところだろうか。それゆえに、〈コーチェラ〉のようなステージでも演りやすい曲が増えただろうし、演出にしても、もはや、数年前のカニエのそれと同程度の規模とアイデアに支えられたものとなっていたことでも、「別格」であることが強く印象づけられた。



5)
そんなアルバムが、急遽自分の作品が出るのと同じ日にリリースされたら、困るか否かと言われれば、もう今は正直どちらとも言えないだろう。4月14日に発表されたリッチ・ホーミー・クワンのアルバム『バック・トゥ・ザ・ベイシックス』は、恐らくは彼の代表作の一つとなるだろうし、約半月前に出たヤング・ドルフの『ブレットプルーフ』と共に、極めてオーセンティックなトラップ・ミュージック(の美学?)をひたすら追究している。そういう意味で、こっちはこっちで「別格」なのだ。

Rich Homie Quan / Back To the Basics



6)
ここに、同じ4月14日に発表されたプレイボーイ・カーティのミックステープ『プレイボーイ・カーティ』を並べると、そのことがよりハッキリする。

Playboi Carti / Playboi Carti


このデビュー作の収録曲の3分の1以上のビートを手がけたのは、ピエール・ボーン(本名ギャレット・ブルース)。〈エピック〉のエンジニアとしてすでに、メジャー・アーティスト作品に関わった経験を持つ彼のサウンドの特徴の一つは、ドラム・パターンはトラップのそれでありながら、全体的にはクラウド・ラップ的なニュアンスも確実に含んでいる点だろうか。エイサップ・ロッキーあるいは、アンビエントなサウンドさえ好むリル・ウージー・ヴァートの本作への参加も、それを補強しているかのようだ。

ピエールはリル・ヤッティの弟とは旧知の仲だというが、この弟からの話で、自分が全体の9割のサウンドを手掛けたヤング・ヌーディによる、この2月末発表のミックステープ『スライムボール2』が、アトランタ中で聴かれていたことを知ったという。カーティの曲では現在“マグノリア”が一番人気だが、そのイントロで耳に飛び込んでくる「ヨー、ピエール、ユー・ウォナ・カム・アウト・ヒア?」なる(ピエールの制作曲であることを示す)タグを聴く機会が今後増えるかもしれない。



7)
クラウド・ラップは2011年のトレンドだったが、カーティのラップそのものからは、やはり2011年にブレイクした当時のチーフ・キーフのそれに近いものを聴きとることが出来る。

ここで、クラウド・ラップ、という言葉そのものを久々に目にしたという向きもあるかもしれないが、同じ2011年にブレイクしたスペースゴーストパープ(〈4AD〉からアルバムを出した後、ビーフや「つり」ツイートの類ばかりが目立ってしまっているが、今なお活動は継続していて、作品は出し続けている)と今現在もっとも近しい関係にあるチャポが、ミックステープ『ノー・ジャンパー』をリリースしている。

Chxpo / Nn Jumper EP


この作品の後には、奇しくも2011年にブレイクしたクラムス・カッシーノとのコラボを録り終えているとのことで、よく言われる数年前のトレンドが一番古臭く感じられるという説も、著しい多様化によって、もはや有効ではなくなってきたのだろうか。



8)
ちなみに、チャポのミックステープのタイトルとなった〈ノー・ジャンパー〉とは、オンサムシットというL.A.のBMX販売店及びそこから派生したブランドの中心人物で、無類のラップ好きだという33歳、アダム22(本名アダム・グランメゾン)がMCを務める人気ポッドキャスト(*リンク埋め込み)の名称。そこでは、毎回これから来そうなラッパーやスケートボーダーからファッション・アイコンまでを相手に、たっぷり一時間以上にわたって話を訊いている(同時に撮影された映像はYouTubeに随時アップされる)。

そこで、この〈ノー・ジャンパー〉のYouTubeでの現時点での視聴回数を確認してみたところ、昨年4月のエックスエックスエックステンタシオンの回が320万。2015年末のスーサイド・ボーイズの回が140万。昨年2月のリル・ヤッティの回が110万となっている。この数字が端的に示すように、この〈ノー・ジャンパー〉でのインタヴューが、エックスの知名度拡大の大きな要因の一つとなったことは間違いない。

そんなエックスの出所後録音作4曲が、とりあえず既存のミックステープ・シリーズ名にあやかり、『メンバーズ・オンリーVol. 3』と題され、ひとまずひとまとめにされた。

XXXTentacion / Members Only Vol. 3


彼のラップが相変わらず良くも悪くも不安定なところがある一方で、フロリダのブロワード・カウンティの少年院に収監中に彼と知り合い、かなり以前から度々コラボし続けているスキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドが2曲で主役を食っている。

一応、早口ラップを得意とする人ではあるけれど、それがあまりテクニカルに聴こえないのも、誰もがリリシストを目指しているわけではなく、自分にとっては楽しめることが目標だ、と考えているようなラッパーだからだろう。



10)
例えば、スキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッド自身がリスナーにウケのいい曲だという“ヒューマン・センティピード”では、そのタイトル通り、人間の肛門と口を縫合してしまう映画の「ムカデ人間」とひっかけ、「シット・オン」に「クソくらえ」と「ディスる」の二重の意味を持たせ、「シット・オン・ユー・ニガズ、アイム・ザ・ファッキン・ヒューマン・センティピード」と早口でラップしている。

Ski Mask The Slimp God / TheHumanCentipede


こうしたふざけたセンスが受けたのか? 今年、彼自身の言によれば(延期されていた)ミックステープ二種の発表に続いてリリースされるデビュー・アルバムは、〈ユニバーサル〉から(〈G.O.O.D.ミュージック〉からという説も)配給されるという。



11)
一方、〈ノー・ジャンパー〉史上人気第2位の、ニューオリンズ出身の二人組スーサイド・ボーイズは、スリー6マフィアをはじめとする90年代後半のメンフィスのラップ・アーティストに特徴的なフロウを習得し、自らのスタイルとした上で、同時にプロデュースも手掛け、そのラップを今日的なトラップ・ビートと融合させている。別の言い方をすれば、前述のスペースゴーストパープの築いたスタイルを、丁寧にアップデートしていった結果が表れている。彼らは、仲間のジャームが4月1日に発表したアルバム『バッドシット・ブートレグ』にも参加しているが、2月に発表済みのコラボ作『ダーティーナスティアースーサイド』のほうが特徴をつかみやすいだろう。

Germ / DIRTIERNASTIER$UICIDE



12)
そして、人気第3位のリル・ヤッティのデビュー・アルバム『ティーンエイジ・エモーションズ』の5月26日リリースが公表された。そのリル・ヤッティが、マンブル・ラップの代表格として、ラップ・アーティストにおける世代間断絶の象徴的な存在とされているのに対して、4月末にデビュー・アルバム『ザ・チャン・プロジェクト』を出したカリフォルニア、ヴァレーホ出身の22歳、ネフ・ザ・フェローは、その逆だ。

Nef The Pharaoh / The Chang Project


ネット上でフリースタイル・ラッパーとして名前を売っていった彼は最初から地元の大先輩で父親ほども年の離れたE-40あるいは故マック・ドレ、さらには、ニューオリンズで90年代後半にブレイクした〈キャッシュ・マネー〉のビッグ・タイマーズにオマージュを捧げた曲を出すなど、4歳でラップを始めたという話が信じられるほど、ラップの歴史の積み重ねを肌でわかっているようだ。

その結果、E-40のレーベルと契約し、今回の公式アルバムのリリースとなったわけだが、これは、悪くはないのだけれども、何かが足りないような印象を与えかねない作品となってしまっている。

しかも、ネフ・ザ・フェローの場合、注目度が高まってからの時間差が大きかったのも、以前ほど聴かれなくなった要因ではないのだろうか。一方、昨年のミックステープ『ノーザン・ライツ』そのものの内容が、カニエにフックアップされ“ウルヴス”に参加という話題を完全に抜きでも、十分に充実作だったせいなのだろうか。



13)
アラン・キングダムの二作目のアルバム『ラインズ』もまた、決して悪くはないのだけれども、(オートチューンを積極的に使っているのに? 逆に、使っているから?)何かが足りないような印象を与えかねない作品となってしまっている。盟友ケヴィン・アブストラクトの参加曲もあるけれど、デンゼル・カリーの客演曲などは、彼に圧されているように聞こえる。

Allan Kingdom / LINES




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