SIGN OF THE DAY

<Ahhh Fresh!>第5回
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明
by MASAAKI KOBAYASHI June 16, 2017
<Ahhh Fresh!>第5回<br />
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明

1)
4月のリリース以来『ダム.』を、ある程度聴き込んできたリスナーが、このアルバムに接した時、どんな印象を持つのだろうか? そう思わされたのが、5月5日に発表されたロジックの『エヴリバディ』だった。

Logic / Everybody



ロジックは、今回の3作目に至るまで、ほぼ一貫して、黒人の父親と、白人の母親を持つ、バイレイシャルな彼自身の境遇からリリックを書き続けている。『エヴリバディ』のラストには“アフリケリアン”(アフリカンとエリアンとの造語)と題された12分以上にわたる曲さえあり、アルバム全体を通じて、「ブラック」や「アフリカン」という言葉が、ケンドリックの一連のアルバムよりも目立って聴こえるように思える。

そのケンドリックは『ダム.』のラストの曲でたっぷりと「ストーリーテリング・ラップ」を聴かせた後に、ほんの短いスキット、しかも、既出のものを再び組み合わせることで、一挙に物語世界を拡張させていた。それに対して、ロジックは、1曲内にいくつかあるヴァースを端から端まで使って「ストーリーテリング」に充てるのではなく、ヴァースそのものを、曲全体の長さの4分の3(あるいは4分の1)ほど過ぎたところで止め、そこから先は、ただ普通に物語を「語り」出す形式を好んでいる(5分近いスキットもある)。

例えば、実の母親にニガと呼ばれ、家庭内人種差別に辟易して家を出た、という実話を、以前の彼なら、既存のアウトキャストのビートを使ってでも、ライムで表現していたのだが、その実話が、今回は、ライムではなく「語り」の一部に含まれている。

これは、ラップ表現を通じて「物語」を現出させる「ストーリーテリング・ラップ」というのとは違う。さらに、「語り」の部分のほうに(明らかに、キリスト最初の奇跡として聖書に記されている『カナの婚礼』に基づく)ジャケのアートワーク及びそこに示された隠れキャラ的なものが連動しているようなのだ。

ここに、『エヴリバディ』と同日に発表されたブラザー・アリのアルバム『オール・ザ・ビューティ・イン・ディス・ホール・ライフ』を並べてみる。

Brother Ali / All the Beauty in This Whole Life


アリは、アルビノでムスリムという立場で曲を作っている。言うならば、ロジック以上に(人種的には)特異な存在だ。ロジックが、自ら作り上げたアルバムのコンセプトに自らの特異性をなんとかして嵌めようとして、自分がバイレイシャルであるのを知らない黒人は、自分を人種差別主義者として扱い、自分が黒人であることに気付いた白人は、自分を人種差別的に扱い始める、と考え込むうちに、それを自分固有の問題として抱え込まずに「エヴリバディ(みんな)」に関わるものとして、と同時に、肌の色は違えど「みんな」平等だと提示したのはわかる。

一方のアリは、そういったコンセプトは設定せず、それがストーリーテリング・ラップであっても、徒に力むことなく自然体で曲にしている(サウンド・プロダクションも、アコースティックな響きにとても好意的だ)。



2)
さらに、そこに『ティーンエイジ・エモーションズ』を加え並べてみると、そのリル・ヤッティのデビュー・アルバムのジャケットの写真に、アルビノのブラザー・アリを投影した者の姿も、しっかりと入っていることが一目見てわかる。多種多様な「みんな」の姿をとらえた、ヤッティのジャケ写のほうこそ『エヴリバディ』のそれにふさわしかったのでは。

Lil Yachty / Teenage Emotions


ところが、このジャケに何らかのメッセージが込められているはずだと思って、収録曲を聴いていくと、またしても、疑問マークが脳内に出てくることになる。このアルバムにおける、現在19歳のヤッティの頭の中は、ファックすること、ファックしてぇ、という欲望で渦巻いていて、で、その次に考えることが多いのは、カネのことなんだろうな、といった感想に落ち着いてしまうだろう。そんなヤッティの屈託のなさは、アルバムのアウトロに、自分の母親に捧げる“ママ”という曲を入れたことにも表れている。



3)
ちなみに、同じく19歳のXXXテンタシオン本人が、というより、現在の彼の人気や話題に乗り遅れたリスナー向け? の便利な早わかり既発曲コンピとして(ただし、相変わらず、曲調はバラバラ!)発表されたミックステープ『リヴェンジ』でさえ、様子は同じだ。

XXXTENTACION / Revenge


“スリップ・ノット”では、「かあさん、ごめん。傷つける気なんて全然なかった……これからは、かあさんのことを一番に考えて行動するよ」とライムしている。こうした曲は、かつては、デビューからある程度キャリアを積んだ後に出てくることが多かったわけだが、それが今は、キャリアを積む前に知名度が急激に高まり、経済力もついてきてしまう背景もあって、こうした曲が出てきやすくなってきたのかもしれない。

とはいえ、リル・ヤッティの『ティーンエイジ・エモーションズ』は、主題のみならず(とりあえず、リル・ボートとしてライムするときはハードに決め、差別化を図っている)、トロピカル調の歌や、プレイボーイ・カーティの(ためにピエール・ボーンが手がけた“レイム・二ガズ”の)ビートにすかさずラップをのせた曲もあるとはいえ、サウンド的にも、予想していた以上にヴァリエーションが乏しく、既発の“ブリング・イット・アップ”が一番冒険していたように聞こえた。

Lil Yachty / Bring It Back


恐らく、21曲入り69分という「長さ」のせいで余計にそう聴こえてしまうのかもしれない。おまけに、客演者も少なく、ヤッティのクルー、〈セイリング・チーム〉からは一人もフィーチャーしていない。



4)
長さと言えば、『ティーンエイジ・エモーションズ』と同じ日に、急遽前倒し発売されたブライソン・ティラーの2作目のアルバム『トゥルー・トゥ・セルフ』は、19曲入り58分。

Bryson Tiller / True to Self


前作で、トラップ・ソウル、というキャッチフレーズを広めたとしたら、今回は、特に歌っている内容から言っても、ソウルが後退し、キャリアのハスリングという意味でも、トラップのほうが、かなり前面に出てきている。このアルバムを「長い」と感じるようならば、トラップ・ソウル成分の減らし過ぎ、にその要因を求めてもよさそうだ。



5)
逆に、収録作品を絞り込んだことが吉と出たのは、これまた、上の2作と同じ日に発表された、グッチ・メインのミックステープ『ドロップ・トップ・ウォップ』。曲数も収録時間も『ティーンエイジ・エモーションズ』の半分だ。

Gucci Mane / Droptopwop


グッチのラップそのものは相変わらずの調子だが、(曲により他のプロデューサーと組んで)全曲を手がけたメトロ・ブーミンが、プレイボーイ・カーティのミックステープよりも、さらにクラウド・ラップ~アンビエント寄りに、音を研ぎ澄ませていったという言い方もできそうだ。

おまけに、洗練させすぎて、そのうちの1曲などは、メトロ・ブーミンとも共作経験のある、23歳のカナダのプロデューサー、マーダービーツが手がけた、ワイファイズフューネラルが今年の1月末に出した『ホエン・ヘル・フォールズ』収録曲、“ハニッツ、フィフティーズ”に妙に似てしまっている。

Wifisfuneral / Hunnits, Fifties ft Yung Bans (Prod. MurdaBeatz)




6)
マーダービーツは、グッチとは今から一年前に、“バック・オン・ロード”を、その後には、ドレイクの大ヒット曲“ポートランド”も手掛けていて、どちらともビートの上でフルート(前者はパンフルート)の音がループしている。フューチャーとコダック・ブラックとの楽曲をセットにされ、ミームとして喧伝される以前から、あの音を彼は好きだったにちがいない。

Gucci Mane / Back On Road feat. Drake

Drake / Portland feat. Quavo & Travis Scott


彼は、6月リリース予定の2チェインズの『プリティ・ガールズ・ライク・トラップ・ミュージック』で、現時点で少なくとも2曲をプロデュース済みであることがわかっているので、これまで以上に、トラップの新展開で果たす役割が気になる。



7)
というのも、ミーゴスやヤング・サグにもビートを提供してきたマーダービーツは、トラップ・ミュージック・メインのプロデューサーと位置づけられてきたが、前述のフロリダ州パームビーチ出身のワイファイズフューネラルのアルバムは、トラップとは無縁だからだ。

Wifisfuneral / When Hell Falls


彼は「アール・スウェットシャートになりたい」と切望するだけあり、この作品全体が鬱や、スーサイダル・ソーツ(自分は死ななければならないという思い)に囚われている。いわば、遺書としてのアルバムとも言えるわけだが、実際、リリース日は、元々、彼自身が、自ら命を絶とうと決めていた日だったという。陽気なラップを聴きたかったら他を聴いたほうがいい、とも言い切る彼だが、決してネガティヴなことを取り上げてよしとしているわけではない。



8)
そういった(曲の)主題の扱い方が、5月26日に、3曲入りミックステープを一挙に5作品発表した(先月もこのコラムに登場した)スーサイドボーイズになると、非常に整理されている。

$UICIDEBOY$ / KILL YOURSELF PART XI: THE KINGDOM COME SAGA


$UICIDEBOY$ / KILL YOURSELF PART XII: THE DARK GLACIER SAGA


$UICIDEBOY$ / KILL YOURSELF PART XIII: THE ATLANTIS SAGA


$UICIDEBOY$ / KILL YOURSELF PART XIV: THE VULTURE SAGA


$UICIDEBOY$ / KILL YOURSELF PART XV: THE COAST OF ASHES SAGA


メンバー2人が、自分たちが体験した凄まじい失意やスーサイダル・ソーツにまつわるあれこれをライムし、その言葉を(同じような思いに囚われたことのある)観客やリスナーがそれぞれ口に出して言うことにより、自滅的な考え方ではない、新たな道筋に導けるような効果が、結果的に生まれているというのだ。

5作品同時にリリースされたミックステープはシリーズ物の第11~15弾にあたる。このシリーズに『キル・ユアセルフ』と題されているのも、同じ効果が期待されたからだろう。

実際、この5作品がサウンドクラウドで公開されてから10日も経たない段階で、全15曲の平均再生回数がゆうに百万回を超えているというのだから(ただし、ストリーミング・サービスでは未発表)、彼らが、いかに支持され、鬱やスーサイダル・ソーツを取り上げたラップ・ソングをリアル(身近)と感じる層の厚いかがよくわかる。

Soundcloud(での楽曲発表とライヴとの組み合わせ)でファン・ベースを築いていったという意味で、彼らのことを現時点での「Soundcloudラッパー」の代表と呼んでも大袈裟ではないだろう。ところが、その呼び名の意味するものも、この1~2年で変わってきたようだ。

例えば、リル・ウージー・ヴァートのように、Soundcloud「出身」にして「Soundcloud」とは別個の「外の世界」でも、大きな人気を集めたラッパーが出現すると、その成功にあやかろうと、彼のようなカラフルなドレッド、顔にタトゥー、アニメ好き、ちゃちなチェーン、白いフレームのカート・コべイン・サングラス……といったスタイルを好んで取り入れる層がでてくる。彼ら「みたいな」者を一括りにして「Soundcloudラッパー」という呼ぶこともあるという。



9)
この5月には、マット・オックスによる“オーヴァーウェルミング”が、Soundcloudでの公開一ヶ月にして、290万回以上も再生されている。面白いことに、この曲のSoundcloudのアートワークでさえ、今列挙したばかりの要素のうちの一つが含まれている。

MATT OX / Overwhelming


もっとも、この曲への注目度は、月末に発表されたミュージック・ヴィデオによって加速されたのではないだろうか。そこで目にするマットは、ティーンエイジャーと呼べる年齢にさえ達していない「子供」だ。

MATT OX / Overwhelming


そこでは、子供が子供なりに、彼が仲間たち、現在大流行中のハンドスピナー(英語で言うところのフィジェット・スピナー)で遊んでいる様子と同時に、その一方で、片手に袋入りの菓子、片手に札束を握って(見せびらかしながら)ラップしている場面も出てくる。

ジャケでの「Soundcloudラッパー」らしい白いフレームのカート・コべイン・サングラス同様、これは、いまどきのラッパーのMVではおなじみの所作をマネしてみただけ。そして、基本的には、自分を無理やり大人びて見せようとするような紋切り型で突っ走るよりも、歳相応の自分を見せたかったのだろうか。彼が、本物か偽物かは別にして、マットは「ラッパー気取りの子供」を演じているのとも違うだろう。



10)
そんなマットのオムツが取れた頃? に作られながら、リル・ウェインの服役などが妨げとなり、お蔵入り、そして、今から5年ほど前から、また出る、出ると言われ、そんな噂話も聴かなくなったところで、突如リリースされたのが、Tペインとリル・ウェインによるプロジェクトによるミックステープ『Tウェイン』。

T-Pain & Lil Wayne / T-Wayne


全体にTペインの作品にウェインが参加したような作りながら、今聴くと、後の楽曲で登場するパンチラインの初出はここであることも確認できる。『Tウェイン』の制作は、ウェインの創作意欲が大爆発した2008年の翌年に始まっているのだ。



11)
『Tウェイン』のような昔録ったまま出せなかったアルバムではないのに、ジャケの写真(1992年撮影!)のせいで、一瞬、誰もがこれ新作なの? と思いがちなのが、スヌープの15作目にあたる『ネヴァ・レフト』。

Snoop Dogg / Neva Left


実際、つかみの2曲も、一瞬、92~93年にドクター・ドレと彼とで投下したGファンク・サウンドのリヴァイヴァルが始まったのか? と思わせる曲調だ。ところが、聴き進めていくと、例えば、ファレルとのコラボ及び何作か前で「歌った」アルバムでの成果や、トラップ・ビートや、バッドバッドノットグッド&ケイトラナーダ共演曲も入れ込んでいる。結果的に、単純なウエストコースト・リヴァイヴァルにはなっていないあたりに、スヌープがベテランであるがゆえに、ヒップホップにおけるフレッシュとは何か? という概念の最大の理解者であることが示されている。



12)
スヌープに対しては、何年かごとに、一貫性のある(Gファンク・サウンド主体の)ストレートなウエストコースト・リヴァイヴァルを求める傾向が、リスナー側で確かに盛り上がる。が、対するアーティスト側で、ウエストコースト・リヴァイヴァルル的なことを意図的にやっているのは、ここ数年は、スヌープより全然若い、同じ地元の輩だったり、西海岸出身者以外だったりすることが多い。

『ネヴァ・レフト』の二週間前にリリースされた、L.A.はサウス・セントラル出身で、12歳にしてクリップス入りした経歴を持つ現在28歳のGペリコのアルバム『オール・ブルー』は、その典型例だろう。

G Perico / All Blue




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