そろそろ本格的な時代の分岐点に差し掛かっているということなんでしょうか。ここ数年のいろいろな状況を眺めていると、そんなふうに感じることもしばしば。少なくとも、2000年代的なモードとは距離を置いた音楽がもっと明らかに顕在化してくる予感っていうのは、確実にあると思うんですよね。
だって、アーケイド・ファイアのブレイクとそれを後押しした〈ピッチフォーク〉の台頭に象徴される2000年代半ばからのUSインディの隆盛は、まさにそのアーケイド・ファイアのグラミー受賞をひとつの頂点として、徐々に沈静化の兆しを見せています。思い返してみれば、ジェイムス・マーフィーとの邂逅を果たした『リフレクター』は2000年代の総決算のようでもありました。
他方、2000年代初頭のロックンロール・リヴァイヴァルの幕開けを華々しく飾ったパイオニアたちは、今ではそれぞれに違った道を歩みながらも、一様に変化の季節を迎えているようです。ジャック・ホワイトは〈コーチェラ〉でヘッドライナーを張るくらいに求心力を高めつつも、その直後にはライヴ活動の無期限休止を宣言。ヴァインズは何度も復活と沈黙を繰り返す一方で、クレイグ・ニコルズはエンパイア・オブ・ザ・サンのニック・リトルモアとホワイト・シャドウズという新プロジェクトを開始しています。そして今年、ストロークスは大型フェスに何本も出演し、新作リリースの噂まで立ったものの、その話は一旦立ち消えになってソロ活動が活性化――といった具合に。
こうした諸々を目の当たりにすると、やっぱり月日は流れているんだなあ、という感慨を持つのも当然の話。どうにも今は、ちょうど時代の境目に立っているような印象です。そこに来て、2000年代の主要プレイヤーたちがどういった次の一手を打つのか? というのは、十分注目に値するでしょう。
7月29日にリリースされるアルバート・ハモンド・ジュニアのニュー・アルバム『モメンタリー・マスターズ』は、そのような2015年における時代の変遷に上手く歩調を合わせた作品になっていそうな予感がします。まずは一曲聴いてみましょう。これはアルバムからのファースト・カットとして公開されたトラック。勿論、アンダーワールドのカヴァーじゃありません。
実際にバンドの一員なのだからストロークス風味が残っているのは当然ですが、それでも2000年代的なインディと較べると明らかにオーセンティック。少し前だったら、ちょっと尻込みしてしまうくらいのポップ・ロック。でも、一周回ってこういう感じがジャストなムードって、なんとなくあると思うんですよ。いわゆる“ど”インディなサウンドとはかけ離れたアラバマ・シェイクスの新作が、新時代の象徴的に全米1位を取ってしまったり。あるいは、2010年代に入ってから、トム・ペティみたいなアメリカン・ロック再評価の流れがギター・バンドの間でじんわり来ていたり。おそらく、こういったすべては時代のモードの変化と無関係ではないはず。そして、だからこそ、アルバートのソロは今の気分なんじゃないの? という手応えがあるのです。
アルバムからのもうひとつのリード・トラック“ルージング・タッチ”も、なかなかいい感じ。こちらは、アルバートのホーム・スタジオでのライヴ・セッション映像です。ニュー・アルバムのレコーディングも、ここでおこなわれたんだとか。
これまでもアルバートのソロはずっとオーセンティックなサウンドだった、というのはその通り。しかし、時代の空気の中で音楽の聴こえ方は常に変化するもの。となれば、今こそアルバートのソロはしっかりと評価されるべき、と言えると思います。しかも上の2曲を聴く限り、ソングライティングに関しては過去最高の充実度かもしれない。このタイミングでそういったアルバムを仕上げてくるのは、流石アルバートです。
『モメンタリー・マスターズ』は、まさに2015年の今こそ聴かれるべき作品。だと思うのですが、さてどうでしょうか? 一ヶ月後に発売が迫ったアルバムを手に入れ、10月の来日公演に足を運び、あなた自身の目と耳でその真価を確かめてみてください。
〈アルバート・ハモンド・ジュニア来日公演〉
開催日:2015年10月21日
会場:渋谷duo MUSIC EXCHANGE
開場 18:30 / 開演 19:30
チケット:6500円(税別、1ドリンク代別)
開催日:2015年10月22日
会場:原宿ASTRO HALL
開場 18:30 / 開演 19:30
チケット:6500円(税別、1ドリンク代別)
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