SIGN OF THE DAY

結局、「インディ」って何を意味する言葉?
その当事者、バンド・オブ・ホーセズとの
対話でそうした素朴な疑問にすべて答えます
by YOSHIHARU KOBAYASHI July 06, 2016
FIND IT AT :
Amazon MP3 & CD/iTunes Store
結局、「インディ」って何を意味する言葉?<br />
その当事者、バンド・オブ・ホーセズとの<br />
対話でそうした素朴な疑問にすべて答えます

「インディ」と一言で言っても、その捉え方や定義は人によって様々だ。20代中盤のリスナーにとっては〈キャプチャード・トラックス〉周辺を指す言葉かもしれないし、もっと上の世代にとってはアニマル・コレクティヴやスフィアン・スティーヴンスといった広義のフォーク・ミュージックを再定義した音楽を指す言葉かもしれない。一方で、インディと聞いてストロークスやリバティーンズといったロックンロール・リヴァイヴァルを思い起こす人もいれば、ヴァンパイア・ウィークエンド、フレンドリー・ファイアーズ、MGMTなどが脳裏に浮かぶ人もいるだろう。

勿論、どれが正解で不正解ということはない。ただリスナーの世代や音楽的嗜好によってその定義が曖昧になっている今だからこそ、「インディ」という言葉の出自と歴史を振り返っておくことには大きな意味があるはずだ。

やはりインディの始まりとは、70年代後半――「パンク以降」という時代の節目に、大手資本には頼らない文字通り「インディペンデント」な活動を実践し、レーベル、アーティスト、リスナーが一体となった音楽コミュニティを形成した〈ラフ・トレード〉などのインディ・レーベルが誕生した時期。つまり、インディは特定の音楽ジャンルを指すタグではなく、メンタリティやライフスタイルを表象する言葉だったと言える。

そうしたイギリスのインディ音楽=ポストパンク/ニューウェイヴは、80年代に全米各地の地方FM局~カレッジ・ラジオ局を通じてアメリカに上陸、アメリカにもインディという価値観が広がっていくことになる。その後、90年代前半にはグランジの爆発と瓦解ですべてが一度は焼け野原に。だがそこで息絶えることなく、荒地から立ち上がった〈キル・ロック・スターズ〉や〈K〉、〈マタドール〉、〈マージ〉といったインディ・レーベルが草の根ネットワークを全米各地に広げたことで、最終的には00年代半ば以降のUSインディ黄金期に繋がった――少しばかり駆け足だが、これが簡単な概要。ただ、こういった歴史の解説は、当事者の、経験に基づいた重みのある言葉で語ってもらった方が説得力を持つはずだ。

そこで我々は、バンド・オブ・ホーセズのフロントマン、ベン・ブリッドウェルに話を訊くことにした。彼はリスナーとして80年代~90年代のインディを、そしてバンド活動を通じて00年代以降のインディ・シーンを目撃してきた当事者。しかも通算5作目となる新作『ワイ・アー・ユー・オーケー』は、彼らの持ち味であるダイナミックなロック・サウンドを豪快に鳴らしながらも、インディの歴史への深い敬意が滲む作品。本稿のテーマを話してもらうには、ベンは最適の人物である。

それでは、彼との対話で「インディ」という言葉の意味と変遷を紐解いていこう。




●例えばスプーンのブリット・ダニエルは、インディという言葉に懐疑的で、自分たちをロックンロール・バンドと位置付けています。あなたの場合は、自分たちがインディ・バンドだという実感は持っていますか? あなたにとって「インディ」の定義とは?

「ブリット・ダニエルみたいな人が『同じところにひとくくりにされたくない』って言うのはわかる。ただ、僕が育った時代っていうのは、インディ・ロックが実際に“インディペンデントであること”を意味してた時代だった。バンドが小さいレーベルに属していて、MTVや商業ラジオで曲が流れることもなくて。もっとカレッジ・シーン寄りだったんだ。それにインディ・ロックは、そのファンも指すようなより幅広いタームでもあった。ペイヴメントやダイナソー・Jr.、セバドーであり、バットホール・サーファーズであり」

Pavement / Cut Your Hair

FIND IT AT :
iTunes Store

Dinosaur Jr. / Freak Scene

FIND IT AT :
iTunes Store


「つまり音楽的にはパンクだったりもするし、言葉としてはインディ・バンドを意味しながらも、ちょっとしたジャンルのタグでもあったんだよね。彼らがどんな音楽をやってるのか、なんとなくつかめるような。当時僕はまだ若くて、雑誌なんかに教えてもらいながら、そういう自分のヒーローたちに興奮してた。ずっとその言葉には愛着を持ってきたんだよ。僕らのアルバム全部においてもそういうバンドがインスピレーションになってきたし、だから……インディ・ロック・バンドと呼ばれることについては、まったく問題ないね!」

●90年代初頭にグランジが音楽シーンを席巻する前は、インディという言葉はアメリカでも一般的ではなかったと思います。あなたがローティーンの頃――つまり、インディという価値感に触れる前は、どのような音楽を聴いていたか、教えて下さい。

「僕がラッキーだったのは4歳年上の兄がいて、彼がグレイトな音楽を聴いてたんだよね。僕らが育った町はそういうのを見つけやすい場所とは言えなくて。新しいバンドが出てきても通り過ぎちゃうような小さい町だったし、カレッジはあったけど、少なくとも人がアンダーグラウンドの音楽に入れ込んだりするのは珍しかった。でも僕の場合は兄がいろんなものを教えてくれたんだ。R.E.M.が出てきた頃に聴かせてくれて、僕は夢中になったし、キュアーやデッド・ケネディーズも教わった。アンダーグラウンドっていうか、少なくともサウスカロライナ州コロンビアの商業ラジオではかからないような音楽におけるいろんなスペクトラムを見せてくれたんだよ」

R.E.M. / Radio Free Europe

FIND IT AT :
iTunes Store

The Cure / Just Like Heaven

FIND IT AT :
iTunes Store


「ニルヴァーナの最初のカセットテープをくれたのも兄だった。片面にシングルの『シルヴァー』と『ブリーチ』が入ってて、もう片面にはマッドハニーの『エヴリ・グッド・ボーイ・ディザーヴス・ファッジ』が入ってた。実際、あのテープのおかげで僕はペイヴメントにたどり着いたんだ。ペイヴメントが最初に出てきた頃。で、その後はもう雪崩だったね(笑)。僕はアーチャーズ・ローフにハマり、フレーミング・リップスにハマり。どんどん雪だるま式に膨れていった」

●バンド・オブ・ホーセズが結成された2004年は、〈ピッチフォーク〉がアーケイド・ファイアをフックアップし、彼らがブレイクしたことで、〈ピッチフォーク〉自体の知名度と影響力も増し始めた時期です。実際、あなたたちも、1st『エヴリシング・オール・ザ・タイム』(2006年)が〈ピッチフォーク〉から絶賛を受けたことで、一気に注目度が上がった印象があります。

Band of Horses / The Funeral (from Everything All The Time)

FIND IT AT :
Amazon MP3 & CD/iTunes Store


●そんなUSインディの本格的な隆盛が始まろうとしていた当時、あなたが共感を覚えていた新世代のアーティストは?

「たくさんいたよ。シンズが最初のレコードですごく注目された頃だったし……もう2ndが出る頃だったかもしれない。シンズの2ndやモデスト・マウスのプロデューサー、フィル・エックも僕らのために道を切り開いてくれたしね。実際、ビルト・トゥ・スピルも道を切り開いた。デス・キャブ・フォー・キューティもそう。そういうバンドが太平洋岸の北西部から出てきて注目されて、彼らが僕らの仲間だったんだよ。同じような場所に出入りして、共通の友達がいて。僕らは彼らを尊敬してた。で、彼らがヨーロッパ・ツアーに出るようになって、日本やオーストラリアに行って。実際、ツアーから帰ってきた彼らが、プレイする場所の賃貸料を払ってくれたりしたんだ。そういうことが全部インスピレーションになったね」

●当時アメリカでは、アニマル・コレクティヴ、デヴェンドラ・バンハート、ジョアンナ・ニューサムなどが台頭し、いわゆるフリー・フォークと呼ばれる動きも注目を浴びましたよね? その辺の動きについては?

「おかしいのは……“フリーク・フォーク”みたいな名前を付けられるなんてなんて不幸なんだろう、って思うんだ。ある意味、そのグループに入れられることが侮辱、みたいな。そこまでいかなくても『あの男ヒゲだからアコギ弾くんだろ』みたいな言葉だし、僕の友だちのサム・ビーム、アイアン・アンド・ワインもしばらくの間そのカテゴリーに入れられてたんだ。勿論、僕自身は聴けるものはなんでも聴くし、“フリーク・フォーク”みたいなジャンルの名前だけで拒んだりはしない。いいアルバムはいいアルバムだからね。うん、デヴェンドラは好きだった。もうかなり長い間聴いてないけど。サムの音楽も好きだし、アニマル・コレクティヴも……あのへんは全部大好きなんだ。でも、『それがなんだったか』は全然重視してない。僕にとっていいレコードは、単にいいレコードだから」

●2007年はモデスト・マウスのアルバムが全米1位、シンズが2位、アーケイド・ファイアが2位、ブライト・アイズが4位と、新世代のインディ・バンドたちが目に見える形で躍進しました。同じ年にあなたたちの2nd『シーズ・トゥ・ビギン』もリリースされて、全米最高35位、累計30万枚以上のスマッシュ・ヒットを記録しています。

Band Of Horses / No One's Gonna Love You (from Cease To Begin)

FIND IT AT :
Amazon MP3 & CD/iTunes Store


「それは知らなかったな。教えてくれてありがとう(笑)。この取材の後、お祝いに飲みに行かなきゃ」

●(笑)。勿論、これはあなたたちがツアーや作品自体の力によって勝ち取った成功であることは言うまでもないですが、同時に、やはり時代の機運の後押しもあったと思いますか?

「ていうか、僕らはそれに乗っかってた(笑)。まさにそのおかげだよ! 僕らはいいタイミングでいい場所にいたんだ。当時は一般的なリスナーっていうか、大勢の人たちに音楽が届く手段がずっと増えて、しかもそれまでの形とは違ってたんだ」

●『The O.C.』などのTVドラマでもインディ・バンドの曲が頻繁に使われるようになったり。

Modest Mouse appearing in The O.C.


「うん。商業ラジオがアイアン・アンド・ワインの新曲を流さなかったとしても、何百万人という視聴者がある番組を見て、同じ曲がそれだけでヒットしたりする。郊外のキッズとかにね。それ自体はいわゆる商業的な音楽業界からすると周辺的だったかもしれないけど、それでもものすごいインパクトだった。勿論、僕らがその型にハマるために自分たちのサウンドをちょっと変える、なんてことはまったくなかったけどね。ただ僕らはたまたま時代の変わり目にいたっていうか、業界が『これで稼げるぞ』みたいに言ってくる時期で。この言葉は嫌いなんだけど、『これでキャリアを築けるぞ』って感じだったんだ。クリエイティヴでいながら、同時にそれで生計が立てられた。いい話だよね!」

●3rd『インフィニット・アームス』(2010年)は、全米最高7位、そしてグラミー賞の最優秀オルタナティヴ・アルバムにノミネートされるなど、非常に大きな成功を収めました。

Band of Horses / Compliments (from Infinite Arms)

FIND IT AT :
Amazon MP3 & CD/iTunes Store


●ただ、のちにあなたは4th『ミラージュ・ロック』と比較して、このアルバムを「可能な限り甘やかし、おやつを与えすぎたペット」と、やや否定的な意見を述べていますよね?

「一つ言えるのは……『インフィニット・アームス』の制作過程で僕らはプロデューサー(のフィル・エック)を失ったんだ。いくつかの理由で、彼と袂を分かつ時期が来てた。ただまあ、それがプロジェクトの真っ最中に起きたんだよね。だからそれが中断を引き起こして、今の僕からするとあのアルバムにそれを感じるし……僕らはそこでいったん事態を把握して、自分たちで残りをプロデュースすることにした。で、そうすることで僕はちょっとあれをオーヴァー・プロデュースしちゃったんだよ。でも作るのは楽しかったし、自分たちのパワーを発揮することにもなった。僕らは自分たちのサウンドをどうしたいかわかってるし、それを台無しにしたりはしないから」

●ええ。

「まあいくつか、今聴くと『ここは削ればよかった』と思う部分もある。でも曲は好きだし、いまだにライヴのセットに入ってくる曲もたくさんあるんだ。その前の2枚より多いんじゃないかな。ライヴによっては『インフィニット・アームス』を丸々プレイするようなこともあるし。だから……少なくとも曲は、いまだにいい曲だと思う。いまだに僕らにとって意味を持つ曲だしね。うん、あのアルバムには感謝してる。あのおかげで前の2枚から次の時期に入った、っていうだけじゃなく、一歩下がって全体を眺めること、やりすぎないことを教わったから」

●では、ちょうどこの時期に、アーケイド・ファイアやボン・イヴェールがグラミー賞を受賞したことに関しては、どう感じていましたか?

Arcade Fire accepting the GRAMMY for Album of the Year


「変な感じだったよ。アーケイド・ファイアやボン・イヴェールがグラミー賞で最優秀アルバムとかなんとかを取るなんて、誰も思ってなかったから(注:ボン・イヴェールは最優秀新人賞と最優秀オルタナティヴ・アルバム)。しかも彼らでさえいまだにダークホースっていうか、業界が賞を与えるようなああいう場においては大穴的存在だって気がする。だって〈マージ〉だとか、ボン・イヴェールのレーベル、〈ジャグジャグウォー〉に所属してるようなアーティストがあんな扱いを受けるなんて、ちょっとありえないよね? だから唯一感じるのは……サプライズ、って感じ」

●ただ、それがUSインディの絶頂期であり、その後、徐々にシーンの勢いや影響力が減退しつあるという見方については、どう思います?

「ふむ。ただラッキーなことに、それでもまだ全員に余地がある。当たり前なんだけど、ルールはないんだよ。まああそこがピークだった、っていう言い方もわかるけど、例えば反論として、『でも2014年の最優秀アルバムはベックだったじゃん』とも言える。幸いなことにそういう証拠だってあるし、音楽っていうのはつねに多様で、あらゆるものを網羅するべきなんだ。まあ少なくとも、今話してるような賞とかにおいては」

●そう思います。

「だから僕は今でもオーガニックな音楽をやる余地はあると思うし、他に言葉が見つからないけど、ギターをベースにした音楽だっていくらでもやれると思ってる。オーガニックなバンドで、その時代に意味を持つバンドは必ずいるんだよ。勿論、時代の趨勢っていうのはあって、今だとどんなフェスの面子を見ても、エレクトロニックなアクトが前と比べてどれだけ侵入してきたんだ——っていう(笑)」

●実際、今年の〈コーチェラ〉はカルヴィン・ハリスがヘッドライナーを務めましたからね。

「僕らも前はアークティック・モンキーズと一緒のステージだったのが、今ではEDMだったり。でもやっぱりそれも、全員に余地があるってことだと思う。『ロックが低調だ』とか、『ラジオがギター・ミュージックを流さなくなって退屈になった、停滞してる』とか文句つける人もいるけど、そう言ってる人こそ退屈で停滞してるんじゃないかな。ちゃんと見てないんだよ。見るべき場所を見れば何でもあるし、その余地はあるんだ」

●その通りだと思います。では、2012年の4th『ミラージュ・ロック』は、バンド史上もっともラフで荒々しいロック・サウンドになりました。これは前作の作風に対する反動であること以外に、何かしらの要因はありますか?

Band of Horses / Knock Knock (from Mirage Rock)

FIND IT AT :
Amazon MP3 & CD/iTunes Store


「いや、まさにそれだね。直接的な反動だったと思う。(プロデューサーの)グリン・ジョンズと話して、彼がプロジェクトに興味を持ってくれたのと同時に、制約が生まれることが僕らにはわかってた。少なくともオペレーションにおいては。彼はコンピュータに頼らないどころか、コントロール・ルームを使わせてもくれないんだ。録音はテープのみ、バンドはステージに上がる時とまったく同じように演奏して、スタジオの別々の部屋で録音したり、オーヴァー・ダブするのを彼は嫌がるんだよ。まさに一回きりの正しいテイクを録らなきゃいけない。そうすることで彼はバンドのエッセンスをつかもうとするし、彼はそれを聴き取るんだ。まあ、僕としてはそういうやり方は『インフィニット・アームス』の罪を洗い流すいいチャンスだと思ったし(笑)」

●ハハハッ!

「少なくとも、あのアルバムの考えすぎで、オーヴァー・プロダクションな部分のね。とにかくより自然に、気ままにやれるグレイトな方法だったんだ。その意味ではちょっとしたプロジェクトでもあった。僕らには常にレコーディングできるような曲が大量にあるから、自分たちが選ぶ素材をグレンにキュレートしてもらうことによって、みんなが期待してるバンド・オブ・ホーセズとはちょっと違うものになる、ってわかってたんだ。例えば僕らは明日にでも、『ミラージュ・ロック』と同じ曲を使って全然違うアルバムを作ることもできる。でもあのアルバムではグリンとのコラボレーションが重要だったし、ロックンロールにおける彼のしるしが重要だった。彼こそ、ロックンロールを定義するのを助けたような人物だからね」

●初期からローリング・ストーンズのエンジニアを務めていたし、ビートルズ、レッド・ツェッペリン、ザ・フー、イーグルスとも仕事をしてきた人ですからね。

「だからほんと、ただ彼と一緒にやるいいチャンスだと思ったんだよ。あと、僕らがそれまでスタジオで作業してきたやり方のメーターを一度ゼロにするチャンスでもあった。自分たちのやり方をもう一度定義しなおそう、って」



「EDMとラップの時代」にロック新世紀は
来るのか? 大文字のロックとインディの
橋渡し、バンド・オブ・ホーセズ新作を肴に




TAGS

MoreSIGN OF THE DAY

  • RELATED

    「EDMとラップの時代」にロック新世紀は<br />
来るのか? 大文字のロックとインディの<br />
橋渡し、バンド・オブ・ホーセズ新作を肴に

    July 06, 2016「EDMとラップの時代」にロック新世紀は
    来るのか? 大文字のロックとインディの
    橋渡し、バンド・オブ・ホーセズ新作を肴に

  • LATEST

    2022年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

    December 31, 20222022年 年間ベスト・アルバム
    1位~5位

  • MOST VIEWED

    2013年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

    December 19, 20132013年 年間ベスト・アルバム
    11位~20位