ということで、2014年を振り返ってみると、幸先よく1月からエジンバラのヤング・ファーザーズの『デッド』に出会い、メンバーの一人がナイジェリア系ということで自ずとアフリカのイメージを強めて聞こうとするむきもあるかもしれないが、チャントはどこかビーチ・ボーイズ風だし、全体の音の仕上がりには、むしろ、ドリーム・ポップの祖型としてのウォール・オブ・サウンドを蓄えているような面白さがあるのでは、と感じながらスタート!
春先にかけては、歌及びメロディライン込みで明らかにR&B曲なのに、トラックは、垂れ落ちる滴を模したような音と、明らかにベース・ミュージックの影響化にある鳴り方をする重低音のシンプルな組み合わせから、バンドー・ジョーンズの“セックス・ユー”を興味深く聴いた。
ベース・ミュージックと言えば、年頭近辺から、ラステリーニャという、トラップ/トゥワーク化して、BPMが下がったバイリ・ファンキ、とでもいうべきビートが、はっきりと打ち出されてきた。ブラジルのリオのオムルが、お子ちゃまラッパー、MCペドリーニョと組んで、5月に発表した“ドム・ドム・ドム”は、その典型例にして色物的なわかりやすさも兼ね備えている。
お子ちゃまと言えば、小5女子マディーちゃんが特異な振り付けで、人気のない住居内で踊りまくるミュージック・ヴィデオのせいで、アルコール依存症女性による本音ぶちまけ嘆き節に“得体のしれない何か”が宿ってしまったシーアの“シャンデリア”にすっかり囚われてしまった。
ヒップホップ/ラップについては、今年は前年までの数年間に比べると、“新しくて”決定的なものがなかなか出てこないな、と思っていたところに突如登場したのが、LAのクリッピングによる〈サブ・ポップ〉からのデビュー・アルバム『Clppng』。ノイズ系という括り方で、デス・クリップスと比較されることもあるけれど、三人組クリッピングは、本能剥き出しのわかりやすさではなく、全体にミュージック・コンクリートような整理整頓がなされ、ラップについても、フロウもライムも超テクニカルな上に、先達へのリスペクトもきっちりしている、という不思議な魅力を持っている。
先に触れたBPM100以下のビート、しかも、ズークベースを、あのアルカまで演っているよ、という安心感も加わり、9月に発表されるなり、ストレートなダンス・ミュージックとして大歓迎できたのが“スィーヴェリー”だった。
このアルカと共にデビュー・アルバムを楽しみにしていたクリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズの『Chaleur Humaine』(カニエ・ウエスト“ハートレス”の一部を歌い直した曲も含む)がリリースされたのは10月。自作自演シンガー、エロイーズ・レティシエが、こう名乗るのは、ロンドン逃避中に出会ったトランスベスタイトのパフォーマーたちの助言により音楽活動に踏み切れた感謝の念からだという。ちなみに、パフューム・ジーニアスの“クイーンズ”のMVのストーリーは、その前年に彼女の“ザ・ラヴィング・カップ”のMVで描かれていたものによく似ているし、2014年だからこそ、(アンドロギヌュスな)マレーネ・ディートリッヒ、ジギー・スターダスト、ローリー・アンダーソン、マイケル・ジャクソンとつなげていった先に浮上するような彼女が一際輝いたのかもしれない。
良さがわかるまでは少し時間がかかったけれど、フロウもゆるくて、トラックも緩やかな雰囲気ながら、繰り返して聴くことで初めて味わうことのできるウィットが満載されたLAのMC、オープン・マイク・イーグル『ダーク・コメディ』を知ったのも同じ頃だった。
また、これもリリースから時間を経て知ったチャンチャ・ヴィア・キルクイートの最新アルバム『アマンサラ』を通じて伝わってくる、南米各地の伝統的な楽器をふんだんに使ってデジタル・クンビアを演ることの意義(や醍醐味)みたいなものは、年末に行われたブエノスアイレスのボイラー・ルームでのライヴ(映像)を観ることで、しっかり再確認できた。デジタル・クンビアでは、フリクステイラーズの“クロップサークルス”などは、80年代の欧州のディスコ・リミックスや南アのクワイトの成分さえ含んでいた。今あらためて思い返してみると、11月のデンゲ・デンゲ・デンゲの来日パフォーマンスをある種の頂点に、7、8年ぶりにクンビアで盛り上がれた時期があった年だったかも。
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