ところで、みなさんライヴ・イヴェントの転換DJってどうでしょう? シャムキャッツが10月11日におこなうイヴェント〈EASY〉を前に、そんな問いかけからスタートしてみてもいいかもしれません。
自分は確信しています。ライヴ・イヴェントの転換DJほど世界に不要なものはないと。バンドとバンドの間のわずか10分15分ほど、多くのオーディエンスがバー・カウンターに行ったり、外に出たりするなか、ひたすら曲をかけ続ける作業。おまけに、DJが曲をかけている最中に、次のバンドがリハを始めたり。これ考えてみてほしいんです。だって逆の立場って現状100パーセントないでしょう。バンドがライヴしてる最中に、DJがリハとして外音を出すとか。実際、DJの音とリハの音が正面衝突してもうぐっちゃぐちゃ、DJはもうさじなげるしかない、バンドもリハしづらい、お客さんもどうしていいかわかんない、という負のトライアングルがここに完成するわけです。ここにはそれぞれのカルチャーの対するなんの配慮もない。ほんと転換DJ文化だけは自分のDJ寿命とともに葬り去りたい。そんなことを日々考えてます。
そのうえで、シャムキャッツの夏目くんから、なじみのレコード屋さんやイヴェンターに転換BGMをあらかじめ作ってもらう「EASY BGM」ってアイデアをもらったとき、うわーそうきたかーと凄く感動したのです。おまけに、このバンドの前にはこの人の選曲でと、バンドとセレクターの関係性を意識してタイムテーブルを組むと。嬉しいことに自分にもJET SET京都店(働いてます)として白羽の矢を立ててくれました。選者は、レコード・ショップからCOCONUTS DISK吉祥寺店、COCONUTS DISK池袋店、JET SET京都店 、大阪のFLAKE RECORDS。長野県松本市のライヴ・イヴェント、〈CRASY RHYTHMS〉。『サイン』のライターでもおなじみ清水祐也さんが携わる音楽ブログ、『monchicon』。山形県のインディ・レーベル〈ZOMBIE FOREVER〉。そしてシャムキャッツのベーシストである大塚智之。
もちろん、〈EASY〉の2会場であるO-WESTとO-nestは同じビル。おまけにライヴ時間には一切かぶりなし。転換BGMなど気にせずに、ライヴからライヴへとはしごすればいいわけです。全11組のラインナップは以下。
シャムキャッツ
GRAPEVINE
The fin.
ミツメ
Hi,how are you?
CAR10
EXTRUDERS
シラオカ
Homecomings
Awesome City Club
STUTS
今回の〈EASY〉の特設ページでは、タイムテーブルとシャムキャッツのメンバーによる出演バンド紹介も公開されています。同世代のいわゆる東京インディ界隈は極力排され、都内のバンドだと大御所から気鋭のニュー・カマーまでちょっと意外なところをチョイス。さらに栃木、名古屋、京都と地方のインディ勢もバランスよく配されてます。このインタヴューでも夏目知幸が語っていますが、なあなあなムードでなくバンドごとに緊張感をもたらすことで、お客さんには新しい出会いがあってほしいという理念を、今の彼らの立場で具現化したブッキングでしょう。うーん、どのバンドも見逃したくない。
でもでもでも、やっぱり「EASY BGM」ちょっと気にならないですか。だって、選りすぐりの音楽好きが、近しいバンドへの最高のお膳立てとして40分~1時間強の選曲をするわけでしょう。そりゃあ選ぶほうも燃えるし、他のBGM担当に対してバチバチなライバル意識も出てるわけです。少なくとも自分は。
たとえば、わかりやすく京都つながりでJET SET京都店が選ばれたSTUTSくんとホームカミングスの間。
MPCでビートを紡いでいくSTUTSのパフォーマンスを引き継ぐ形で、〈モワックス〉や〈ストーンズ・スロウ〉など新旧アブストラクトを混ぜつつ、いや彼と近しい日本語ラップを使って口火を切る? ホームカミングスはやっぱり女の子バンドを中心、いや件の平賀さち枝とのコラボを受けて、言葉の美しさへと焦点を当ててみて? はたまた、彼女達の完成間近のアルバム(あらゆる面でこれまでとは段違いな傑作の予感!)のヒントとなるような選曲にしてみるか。あーなんたる楽しさ!
おそらく全ての選者が大切な人へと『オーサム・ミックス VOL.1』を作るような気合で臨むだろうと思います。ザ・フィンの前を担当するFLAKE RECORDSはたぶん彼らを日本で一番早くプッシュしたレコード屋。レーベルとしての国内外リリースも多いですし、ザ・フィンに通じるチルウェイヴやソフト・サイケ、メランコリックなエレクトロ・ポップなどを洋邦混ぜたりとかかしら。
COCONUTS DISKの吉祥寺店と池袋店はそれぞれの膨大な中古レコード、自主制作CDのアーカイヴから、このバンドの前ならこれでしょってプレイリストを作ってくる予感。松本のイベント、〈CRAZY RHYTHMS〉はクラブス、クアージ、オーウェンなどUSオルタナ勢の長野公演や、トクマルシューゴ、モールス、地元のオウガ・ユー・アスホールといった国内アクトを無名時代から招致してきた、なんと98年から続くライヴ・イベント。HPのPAST EVENTSを見ていくだけでも、不変の審美眼に基づくクオリティが伝わってきます。しかし、良さそうなイベントだなー。シャムキャッツも度々世話になってるようです。彼らが、BGMを担当するのはシラオカ、エクストルーダーズの前2ヶ所。まずは、ゆったりとした歌心のなかに、いびつで妙にためとハネの効いたコールド・ファンク的アンサンブルが光る、名古屋の至宝というべきトリオ、シラオカ。
そして、横浜のエクストルーダーズはひんやりとタイトなビートに、艶やかなギターと淡々としたヴォーカルが絡みつくポスト・パンク・バンド。一聴抑揚がないようで、その奥にはマグマのごとき熱情が沸々と煮えたぎっているという、凄みさえ感じる3ピース・バンドです。国内外問わず新旧のオルタナティブに造詣の深いであろう〈CRAZY RHYTHMS〉、2アクトを前にどんな楽曲でBGMを組み立ててくるのでしょう。
山形を拠点にQurageというバンドのメンバーである森幸司が主催する〈ZOMBIE FOREVER〉(通称:ゾンフォー)は、ハイ,ハワユー? の前に登場。近年はカセットを中心に地元から大阪や岡山のアクトまで好リリースを続けるインディ・レーベルです。同郷であるハイ,ハワユー? の原田くんは高校生の頃からゾンフォーのイベントに通っていたらしく、これは外野も嬉しくなる、これしかない配置。
また、海外インディ・ミュージックを明瞭な切り口で紹介してきたブログ『monchicon』がSTUTS、そしてグレープバインの前を担当。特に現行のUSインディに関しては、自分もどれだけ勉強させてもらったかわからないほどに、しっかりと取り上げてこられた選者だけに、アメリカン・ルーツ・ミュージックのモダナイズへとつねにトライしてきたゲスト・バンドの前、彼らがどんな音楽を響かすのか相当楽しみにしています。そして、グレイプバイン、不勉強にして追っていませんでしたが、2013年のこの曲とかすごーく良い。
ちなみに、転換のBGMはいずれもプレイリストを無料配布するそう。こっそりシャザムする必要もなしですね。
ライヴ・イヴェントの転換をいかに意味あるものにするか。たぶん、夏目くんやメンバーはなんとなく考えてたんだと思います。そして、それは間違ってもDJカルチャーへの理解も尊敬もない転換DJという手段ではなかった。「EASY BGM」というアイデアは、できるかぎり音楽をないがしろにしないというバンドの態度、その表れではないでしょうか。出演バンドにとっても、BGMが最高のプレゼントであり、運がよければお客さんにとっても新しい出会いがあるかもしれない「EASY BGM」。ちょっとだけ気の効いたくらいの、なんてことない演出のようでいて、実は国内のライヴ・イヴェント・カルチャーにおける理想的ロール・モデルとなる発明かもしない。自分はそんな風に思ってます。ほんとさすがだよ。
もちろんこの日のトリを飾るのはシャムキャッツ。その前のBGMはメンバーであるバンビこと大塚智之がチョイスします。この選曲も気になる! では、最後に彼らの名だたる名曲群のなかでも、最新アンセムにして、大塚くんのどや顔ベースが冴え渡りまくってるこの曲を。
ブッキングの魅力もさることながら、転換までいちいち憎いセンスが行き届いた「EASY」。ZINEもたくさん販売されるそうです。10月11日が待ちきれない!