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届け、俺の想い!ごりごりロマンティクス!
またの名を踊るパチパチパンチ?全米が恋に
落ちたフューチャー・アイランズって誰?
by YOSHIHARU KOBAYASHI April 18, 2017
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落ちたフューチャー・アイランズって誰?

いや、流石にバカにし過ぎだろっ! というお叱り声が聞こえてきそうなヒドいタイトルですね。でも、これ以上ハマる説明はないと思えるのも確か。それくらいに、ボルチモアに拠点を置く三人組、フューチャー・アイランズのライヴ・パフォーマンスは強烈なのです。実際、今そのライヴをこの目で目撃したい。そんな風に思わせてくれるアーティストの筆頭格がフューチャー・アイランズではないでしょうか。

なにしろ彼らは、たった一回のTV出演で自らの運命を180度ひっくり返してしまったのです。それは2014年、アメリカの老舗TV番組『レイト・ショー・ウィズ・デヴィッド・レターマン』でのこと。フューチャー・アイランズは――いや、正確にはフロントマンのサミュエル・T・ヘリングのパフォーマンスは、一瞬にして世界中を爆笑の渦に巻き込み、感動の涙に濡らしました。一体それがどんなものか? 早速こちらの映像でご確認ください。

Future Islands / Seasons (Waiting On You)[Letterman 2014]

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音楽的にはニュー・オーダーを思わせる哀愁の美麗エレポップ。しかし、そのサウンド以上に哀愁漂う頭髪と、スラックスにTシャツをタックインした(ノームコアとは一切関係がない)ファッションで、完全に休日お父さんにしか見えないサム。当時まだ29歳。それだけでも泣けそうです。

そして、そんな冴えない男が思いの丈を振り絞るように歌う姿が、なぜかゴリラの物真似にしか見えないという不思議。彼らの名前さえ知らなかった視聴者は困惑したに違いありません。これは何なんだ? ムキムキの男がゴリラのように動き回り、感極まってバチバチと胸を叩きながら、切ない表情で遠くを見つめ、やたら美声で歌い上げる。かと思ったら、不意にデス声に切り替わる。いやいや、これは何? と。

でも不思議と感動する。何度も繰り返し見てしまう。というのが視聴者の感想。サムのゴリラ踊りを切り取ったGIFがネットでヴァイラル化したという事実はあるものの、これは単純にネタ動画としてウケたのではありません。

言ってみればフューチャー・アイランズの魅力とは、冴えない男の哀愁。かっこ悪いところがかっこいい。『~レターマン』で披露した“シーズンズ(ウェイティング・オン・ユー)”は変わってしまう「君との関係」を季節の移ろいに例えて歌い上げた名曲ですが、サムのどうにも不器用でぎこちなく、なりふり構わずエモーションを爆発させたゴリラ踊り――もとい歌い方だからこそ、曲に込められた切なさやもどかしさが十二分に伝わった。シェイクスピア悲劇の登場人物ばりに、その苦悩を大仰なまでに全身で表現する時代錯誤的とも言えるパッションに溢れていたからこそ、視聴者の胸に刺さった。ということではないでしょうか。

熱心なファンとそれ以外との温度差が激しく、なかなか説明が難しいバンドでもあったフューチャー・アイランズは、しかし、そのパフォーマンスを見せることで誰もが一発で「わかった」のです。

実際、これを見た番組司会者のデヴィッド・レターマンは大喜びで何度も番組中に物真似をし、U2のボノは「ミラクル!」と絶賛。〈ガーディアン〉紙の記者は、「これを見るまでフューチャー・アイランズのよさに気づかなかった自分がバカだった!」と懺悔しているほど。

そして2014年の年末には、“シーズンズ(ウェイティング・オン・ユー)”が〈ピッチフォーク〉や〈NME〉、〈スピン〉など5つの有力メディアの年間ベスト・ソングで堂々の1位を獲得。たった一曲のTVパフォーマンスで、本当にフューチャー・アイランズの運命は変わってしまったのです。まさにこれはUSインディ界の“PPAP”。すみません、悪ノリが過ぎました。

そんな奇跡の大ブレイクから3年、フューチャー・アイランズの新作『ザ・ファー・フィールド』は、彼らが決して一発屋ではないことを証明する作品になっています。

“シーズンズ(ウェイティング・オン・ユー)”が収録されていた4作目『シングルス』で初期の粗削りな音作りから完全に脱却し、洗練されたエレクトロ・ポップへと変貌を遂げていた彼らですが、この『ザ・ファー・フィールド』でもその路線を踏襲。もちろん、愛すべきフューチャー・アイランズ節が健在なのは、リード・トラックの“ラン”を聴いてもわかります。

Future Islands / Ran

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しかし、このMV、ただおじさんが走るだけ、熱唱するだけなのに、なぜこんなにも笑え……いや、胸を打つのでしょうか。もはやこれはトム・ジョーンズが歌うニュー・オーダー。ハイフレットでメロディアスなフレーズを弾くベースはピーター・フック直系、ひたすら16で刻むハイハットはダンス・フィールを感じさせる。でもそこに乗るのはやたらと男臭い熱唱。そのコントラストがやけに切なさを引き立たせる。これはもう唯一無二の世界観です。

アルバムから先行公開されたもうひとつのシングル“ケイヴ”も、不器用な男の哀愁エレポップ。ちなみに、このMVに登場するジョナサン・ランバートンは、ニューヨーク市長の記者会見を担当し、「表現力が豊か過ぎる手話通訳者」としてネットでヴァイラル化した人物。『~レターマン』でヴァイラル化した自分たちと、いい意味でも悪い意味でも重ね合わせているのは言うまでもないでしょう。

Future Islands / Cave

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しかし皆さん、ご安心ください。『~レターマン』で懲りてサムのパフォーマンスが変わってしまった、なんてことはありません。そもそもあの歌い方はずっとやってきたもので、本人やファンにとっては「当たり前」なんですから。

というか、『~レターマン』の約半年後に出演したイギリスの人気音楽番組『レイター……ウィズ・ジュールズ・ホランド』では、むしろサムのステージングはよりエクストリームに。アウトロに入る3分23秒あたり、得意の重心を落としたボックス・ステップから謎のセクシー・ダンスに切り替わるところなんて、完全に狙っています。この人、実は『~レターマン』で味を占めたんでしょうか。

Future Islands / Seasons (Waiting On You)[Jools Holland 2014]

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2015年に当時の最新曲“ザ・チェイス”で一年ぶりに『~レターマン』へと凱旋した時も、期待を裏切りませんでした。前回出演時に比べるとややおとなしめのパフォーマンスかと思いきや、最後は叫びながら倒れこみ、自分の胸だけではなく、勢いあまって床までバチバチ叩き出す始末。3分51秒くらいからです。

Future Islands / The Chase (Letterman 2015)

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もちろん2017年に入ってからもサムのパフォーマンスは冴え渡っています。米オースティンでの〈SXSW〉、英国BBCの〈6・ミュージック・フェスティヴァル〉でも泣けるゴリラ踊りを全力で披露。

Future Islands / Ran (Pandora at SXSW 2017)

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Future Islands / Ran (6 Music Festival 2017)

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そして、今のところネットで見られる最新のTVパフォーマンスがこちら。アメリカの人気トーク・ショー番組『コナン』出演時のものです。この日はいつも以上にデス声やゴリラ踊りが絶好調。2分15秒あたりでは、Tシャツの裾からポッコリお腹をチラ見せしながら、手をクネクネと上下させる妖艶な動きも取り入れています。抜かりなく新ネタも仕込んでいるじゃないですか。

Future Islands / Cave (Conan 2017)

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ということで、フューチャー・アイランズは今も変わらず絶好調。全世界から遅れること3年、ニュー・アルバムを機に、遂に日本でも日の目を見る時が来るのでしょうか? これ以上海外との差が広がってからでは遅い。タイミングは今しかありません。願・初来日!


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