SIGN OF THE DAY

やっぱり誰よりもグリフが凄かった!
この世界的な「動乱の時代」において、
「誰もが決して忘れてはならない視点」を
描いた『アメリカン・インテリア』の凄さ
by MARI HAGIHARA February 18, 2015
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やっぱり誰よりもグリフが凄かった!<br />
この世界的な「動乱の時代」において、<br />
「誰もが決して忘れてはならない視点」を<br />
描いた『アメリカン・インテリア』の凄さ

すべての始まりは、ジョン・エヴァンズだった。

と、長大な物語風に始めてみましたが、もう聴いてますか? 昨年リリースされた、スーパー・ファーリー・アニマルズのグリフ・リースによるソロ・アルバム、『アメリカン・インテリア』。でも、あれって本当はアルバムだけじゃないんです。あるとき、ある場所で生まれたオブセッションから一つの旅が始まり、その広がりが時空を超え、フィクションとノンフィクションの垣根を超えて、音楽と映像と文章によるトラベローグになった――冒頭で言いたかったのはそういうことなんです。アルバムと映画と本とアプリという4つのメディアを使った、壮大な物語。私自身はアルバム版『アメリカン・インテリア』を聴いた次に、本の『アメリカン・インテリア』を読んだのですが、『ガリバー旅行記』や『ドン・キホーテ』、『ドリトル先生』なんかまでふと思い出してしまいました。というのもグリフが調べた史実や旅の記録に加えて、途方もないホラ話や妄想、男の野心と冒険心、笑っちゃうエピソードやポップ・カルチャーの引用まで詰まっていて、でも底には大きな失望と傷心が流れていて。ともかく、グリフがソロとして発表したなかで最高作なのは確かなんじゃないでしょうか。ここだけは、大袈裟な話ではなく。

Gruff Rhys / American Interior (Official Video)

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きっかけは、グリフが99年のデトロイトでウェールズ人の若者と出会ったことでした。グリフともども、ウェールズ人の伝統はとんでもない逸話、与太話を愛すること。以来二人が会い、酒を酌み交わすときには、ジョン・エヴァンズの話題が出てくることになりました。ジョン・エヴァンズは実在の人物です。1770年にウェールズの貧農の息子として生まれ(最初はウェールズ語の名前でしたが、強制的に英語名に変えさせられた)、両親を亡くし、やがてある伝説に取り憑かれるようになります。それはコロンブスが大陸を発見する300年前、ウェールズの王子マドッグがアメリカに渡り、奥地に踏み入った結果、ウェールズ語を話す部族が米中西部の原野には存在する……というウェールズでは有名な伝説。彼はこれが事実かどうか確かめるため、1792年、単身海を渡りボルチモアへ向かい、独立戦争後のアメリカ各地で様々な体験をします。

それから200年以上経った2012年。ジョン・エヴァンズの人生について調査を重ねたグリフ・リースは、ジョン・エヴァンズが辿ったのと同じ道程をたどり、オハイオ河を上るアメリカ・ツアーを行うことにします。ジョン・エヴァンズがマドッグ王子に取り憑かれたように、グリフもまたジョン・エヴァンズに取り憑かれ、自分の遠い祖先でもある彼が見たものを見、感じたことを感じ、アメリカで死んだとされる彼の墓を探そうと決心したのでした。本によると、このライヴ・ツアーには音楽家としてのちょっとした反抗心もあったようです。自分が回る街がただの「マーケット」、国が「テリトリー」という名で機械的に決められてしまうようなプロモーションとしてのツアーにもう一度意味を取り戻そう、という。

いきなりエンド・プロダクトの話になってしまいますが、その結果生まれた4種類の『アメリカン・インテリア』も、よくあるマルチメディア戦略からは程遠いものになっています。たとえばアルバムは映画のサントラではないし、アプリはアルバムを売るための販促物でもない。『アメリカン・インテリア』はある物語をそれぞれのメディアで、それぞれにふさわしい形で語ろうとする試みです。もっとも詳しく、歴史的資料も挟みながら、グリフ自身の個人的な声とジョン・エヴァンズの内的な声が重ね合わせられるのが本。映画はその過程が、記録映像+イメージ映像+アニメーションとしてつづられます。

Gruff Rhys / American Interior (Movie Trailer)


その映画から編集上やむをえずカットした映像や断片的な文章、地図などのディテールをまとめたのがアプリ。そして、すべてのエッセンスを13の曲として抽出したのが、アルバム『アメリカン・インテリア』です。

Gruff Rhys / American Interior (Full Album Stream)

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音楽的にもカントリー調だったり、子どもたちが歌う部族のチャントがあったり、いかにもアメリカの旅で出会ったような引用もあるのですが、基本はサイケデリックでメロディックなポップを愛するグリフのこと、ストレートなルーツ音楽というよりはフォークロア・ミーツ・サイケデリア、みたいな不思議な空気をはらんでいます。加えて歌詞の視点の飛躍が相変わらず。旅の途中で熱病にかかり、せん妄状態になったジョン・エヴァンズの視点で歌われる曲もあれば、ウェールズに残された人々の視点から疑問が呈される曲、さらにいきなりはるか高みから、ジョン・エヴァンズの旅の歴史的意味を俯瞰するような曲まであります。ウェールズ語の曲もあるので(映画もアプリも基本は英語/ウェールズ語のバイリンガルです)、ファーリーズのアルバムで例えるなら、もっともスケール壮大な『リングス・アラウンド・ザ・ワールド』と、もっともパーソナルなウェールズ語アルバム『ムーング』の両方を私は思い出しました。ほら、最高でしょう?

Gruff Rhys / American Interior (Album Cover)

やっぱり誰よりもグリフが凄かった!<br />
この世界的な「動乱の時代」において、<br />
「誰もが決して忘れてはならない視点」を<br />
描いた『アメリカン・インテリア』の凄さ
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アルバムのカヴァーでグリフの隣に座っているのが、この物語の主人公、ジョン・エヴァンズです。実物のジョン・エヴァンズは貧しい階級出身のため肖像画がなく、顔かたちは謎のまま。そこでグリフが当時の服装や同地方の人々の写真をリサーチし、空想を足し、アーティストのピート・ファウラーとルイーズ・エヴァンズの助けを借りて、フェルト製の人形を作り出しました。本のなかで描かれるのですが、箱を開いて人形が目の前に現れた瞬間、グリフのイマジネーションがはじけだす場面がとても印象的。そしてこの人形を連れ歩くうち、グリフはだんだんジョン・エヴァンズと直接言葉を交わし、冗談を言い合い、ライヴではともに観客に語りかけるようになっていきます。映画ではグリフが出会う人々のなかに、マッド・サイエンティストならぬマッド・ヒストリアンとでも呼びたい歴史家も出てきて自説を熱く語るのですが、こうなってくるともう、何もかもがサイケデリックで妄想チックで、奇妙なユーモアに彩られてくる。でも同時に、すべての冒険がそうであるように、やがて夢破れるときが訪れます。ジョン・エヴァンズは最期、失意のうちに死んでしまうのですが、グリフはそれだけでなく彼が便宜上“植民地側”の人間として働き、スペイン側についたときにはドン・ファン・エヴァンスと名乗りまでして、結果的に原住民を追いやったという事実にぶつかってしまうのです。ウェールズ人という、イングランドに追いやられた出自を持つ人間でありながら!

冒険者=侵略者であり、フロンティアの開拓=古いものの駆逐であるという、過去にも現在にも未来にも通じる重いテーマに触れながら、実際には二度とウェールズに戻ることがなかったジョン・エヴァンズがグリフとともに帰郷するところで、物語はエモーショナルに終わりを告げます。

ただ、グリフがまだ旅に出る前に最初に書いたのは、ウェールズ語でこんな一節が歌われる曲でした。

「さあ僕らはここで/円環の時間のなか/また航海に出る」

実は、『アメリカン・インテリア』はぐるっとひと回りして、去年からまた始まってるんですよね。新しいツアーとして。たぶん、最初の公演は〈SXSW〉だったはず。そしてもうすぐ先、3月には一回だけですが東京で公演が開かれることになっています。一体どんなライヴになっているのか? 実は楽しみすぎて、なるべく知らないままにしているのですが、「新曲をセットリストに組み込みながら、過去のヒット曲も入れなきゃ!」みたいな普通のライヴとは違うものになっているはずです。何しろ映画で見たアメリカ各地のライヴでは、パワーポイントを使ったプレゼンを交えつつ、グリフがジョン・エヴァンズの人生について語り、ツアーと同時進行で作られている曲を歌い、ライヴが終わった後も会場の外でリクエスト曲を歌っているような状態。まるでギターを抱えた先生が社会科の授業をやってるみたいなライヴもあり、観客も口をぽかんと開けています。まあ、今回日本の観客に向けて何をどこまでやろうとしているのかは不明ですが、ふふっと笑っちゃうような驚きのアイデアがあるのは保証済。ファーリーズのファン、もしくはグリフのあの歌声のファンでなくても、見たことのないものを見たい人、面白がりたい人にはぜひおすすめしたいライヴなのです。




〈グリフ・リース来日公演〉
開催日:2015年3月2日(月)
会場:渋谷CLUB QUATTRO
開場 18:00 開演 19:00
チケット代:5,000円(前売、ドリンク代別)
お問い合わせ:SMASH (03-3444-6751)


*追記(2015/2/20 19:00):グリフ・リース来日公演のチケット・プレゼントをおこないます!詳細は下記の通り!

【チケット・プレゼント】
グリフ・リース来日公演に〈サインマグ〉読者から5組10名様をご招待! 応募方法は、ツイッターの@thesignvoiceをフォローし、以下の応募用ツイートをリツイートするだけ! *チケット・プレゼントの募集は終了しました。

【締切】
2015年2月25日(水)23:59

【当選者発表】
ご当選された方には、締め切り後にツイッターのダイレクト・メッセージ(DM)にてご連絡差し上げます。なお、DM送信後、2日以内にご返信いただけない場合は、当選を無効とさせていただきます。あらかじめご了承ください。

【注意事項】
・期間中、元の文章を含めた形で当該のツイートをリツイートした方が対象となります。
・当日は関係者窓口でのゲストリスト対応となります。必ず身分証明書をご持参下さい。


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