SIGN OF THE DAY

今年で三周年!改めて考えてみました。
インディ・ミュージックのミニ祭典、
ホステス・クラブ・ウィークエンダーは
誰のため、何のためにあるんでしょう?
by SOICHIRO TANAKA
YOSHIHARU KOBAYASHI
January 23, 2015
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今年で三周年!改めて考えてみました。<br />
インディ・ミュージックのミニ祭典、<br />
ホステス・クラブ・ウィークエンダーは<br />
誰のため、何のためにあるんでしょう?

早くも今年で三年目に突入したホステス・クラブ・ウィークエンダー(以下、HCW)。もうすっかり常連というあなたも、たまには顔を出すというあなたも、「HCWって何?」というあなたも、ここで一旦考えてみませんか?みんなの楽しいインディ音楽のミニ祭典、ホステス・クラブ・ウィークエンダーは誰のため、何のためにあるんでしょう?自分が好きなアーティストのライヴを観るため?でも、本当にそれだけでしょうか?




1. アーティストが来日するため

んっ? 何をそんな当たり前のことを? なんて思っていませんか。でも、改めて考えてみてください。海外アーティストの単独公演って、見事に少なくなりましたよね。なんとか決まったとしても、蓋を開けてみたら目も当てられない集客だった、というのも決して珍しい話ではない。ですよね?日本での状況がなかなか好転しない間に海外ではビッグになってしまい、来日が叶わなくなるなんてことも。ああ、なんとも綺麗な悪循環。そんな状況において、ホステス・クラブ・ウィークエンダー(以下、HCW)は、まだ日本では単独が出来る段階ではないアーティストも観ることが出来る、貴重なプラットフォームとなっています。その点のメリットは、もしかしたら大型フェスより上かもしれない。しかも、初出演時はまだ一部にしか知られていない新人だったテンプルズのように、HCWでのライヴでその実力が発見され、人気が上がり、単独ツアーを組めるようになるという好循環も生まれています。HCWに参加することは、現在の厳しい来日状況に一石を投じるきっかけにもなり得るのです。

Temples / Shelter Song (at Hostess Club Weekender 2013/11)

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2. デビューしたての新人と、ともに成長するため

先ほどのテンプルズもそうですが、まだシングル一枚、二枚しか出していないニュー・カマーを観ることが出来るのは、HCWの醍醐味のひとつ。普通、海外アーティストがわざわざ日本まで来るのは、アルバムのプロモーション・ツアーの時ですから。そういった意味では、まだアルバムを出す前だったパーマ・ヴァイオレッツのライヴも、実に貴重な体験でした。

Palma Violets / Best of Friends (at Hostess Club Weekender 2013/02)

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早耳ならいいってもんじゃない。というのはその通り。でも、自分たちが「最初の目撃者」になって、そのバンドとともに成長していく喜びは、何事にも代えがたいものです。結果的に、それがアーティストとオーディエンスの絆を深めることにもなるわけですし。勿論、互いの繋がりが強くなることは、将来的に日本におけるインディの基盤を強固にすることにもなるはず。さて、次はどんな「誰よりも早い、新たな出会い」があなたを待っているのでしょうか?



3. 音楽が主役の日常を取り戻すため

ドメスティックのアーティストに触れる機会が充実しているのとは対照的に、激減している海外アクトの来日公演――と書くと、いや、夏フェスがあるじゃないか。という声が上がるのは当然の話。でも、夏フェスってやっぱりお祭りなんですよ。良くも悪くも、主人公はオーディエンス。アーティストは、ある意味、オーディエンスの夏物語の脇役になっている。だからこそ、「フェス」とは違うライヴの機会がもっと増えた方がいい、と思うんです。その点、当初から「自分たちがやっているのはフェスではない」と言い続けてきたHCWの役割は大切だと思います。実際、HCWはずっと「1ステージ、2日間、10アーティスト」でやってきて、全出演者を最初から最後まできっちりと見せることを意識しています。一曲、二曲だけ観て、フラッと立ち去るといったフェス的なカジュアルさではなく、しっかりとアーティストのライヴを見せる――それもやっぱり大事なこと。勿論、お祭りも楽しいです。でも、音楽が主役の現場がもっと日常に近い場所に存在することの方がむしろ重要じゃないですか。もっと当たり前の生活の中に当たり前に海外アーティストのライヴがある状況を、HCWはさりげなく後押ししているのかもしれません。



4. ポップ・ミュージックの音楽的な幅広さを示すため

今もっとも幅広い音楽性のジャンルは何か? と言えば、インディではないでしょうか。ここ数年で国内も明らかにそうなってきていますが、海外の場合、明らかにその音楽性の幅と層の厚さがずば抜けている。たとえば、今回のHCWのラインナップを見てみてください。

2月21日(土)
ベル・アンド・セバスチャン
カリブー
チューン・ヤーズ
ハウ・トゥ・ドレス・ウェル
イースト・インディア・ユース

2月22日(日)
セイント・ヴィンセント
サーストン・ムーア・バンド
テンプルズ
リアル・エステイト
フィリップ・セルウェイ

たった10組の出演者にもかかわらず、インディの祭典HCWでは、これだけ幅広いジャンルのサウンドに触れることが出来ます。その事実が、現在のインディの音楽的な豊かさを何より端的に証明しているでしょう。

St. Vincent / Digital Witness (live)

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Caribou / Can't Do Without You (live)

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How To Dress Well / Repeat Pleasure (live)

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5. インディ音楽を聴くファンの裾野を広げるため

前項でも述べたように、とにかく今のインディってとんでもないんですよ。でも、なかなか日本にはそのリアリティが伝わってこない。そんな中、HCWはインディのすごさを体感することが出来る数少ない現場のひとつなんです。でも、メジャーとインディとかって、わざわざ垣根を作ることないんじゃないの?なるほど。それも一理あります。とは言え、海外のインディ・コミュニティの充実ぶりを見ると、正直羨ましいな、って思うこともありますよね?垣根なんていらない、でもコミュニティが必要ないわけじゃない、って。

よくよく考えてみると、海外のインディ・コミュニティってなんでこんなに充実しているんでしょうか?やっぱり、海外ではインディ音楽とそのファンが出会うためのプラットフォームが整っている、というのが大きいと思うんですよね。流通やプロモーションの体制もそうなんですが、何より大きいのは興業。つまり、ライヴ・サーキットのヴァリエーションと充実です。

その中でも、もっとも象徴的なのがコーチェラ。最近では少しばかり迷走しているとも囁かれているものの、やっぱりその存在は大きいでしょう。たとえば、日本における最大級の夏のイヴェント、ロック・イン・ジャパンの存在が現在のJ-ROCKのシーンの方向性と規模を良くも悪くも決定づけ、それをさらに多くの人々に印象づけたことを思い起こしてください。つまり、コーチェラがあったからこそ、北米では新たな、そして巨大なインディのシーンが花開いたと言えるのではないでしょうか。勿論、〈ピッチフォーク〉も大きいんですけど、それ以上に目に見える現場はやっぱり強いですよね。

言うまでもなく、HCWの規模はコーチェラとは比べものになりません。でも、歴史も土壌も違うアメリカといきなり同じことをするのは当然無理なので、まずは数千人規模であってもしっかりとコミュニティを形成し、そこから広げていくことを考えてみるのもいいのではないでしょうか。「熱心なインディ音楽好き」のオーディエンスが多く、「客層がいい」ことで知られるHCWですが、今後はそれをどう広げていくのか。期待したいところです。



6. 新旧アクトが出演し、幅広い世代のリスナーが交じり合うため

HCWのラインナップを見ると、毎回必ず幅広い世代のアーティストが出演しているのに気づくでしょう。今回も、サーストン・ムーア・バンドもいればリアル・エステイトもいる、ベル・アンド・セバスチャンもいればテンプルズもいる、フィリップ・セルウェイもいればイースト・インディア・ユースもいる。といった具合に。

Belle and Sebastian / The Party Line (live)

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East India Youth / Looking For Someone (live)

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Thurston Moore / Forevermore (live)

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このようなラインナップが意識的に揃えられていることによって、自分の世代のバンドとは別の世代のアクトを改めて見直し、発見する機会がもたらされるのは間違いありません。これでタコ壺化や世代間の分断が少しは軽減されるってものです。



7. アーティストをさらに身近に感じるため

アーティストが来日するのは、アルバムをリリースする二年~三年に一度。しかも来るのはフェスだけ。それって、やっぱり物足りなくないですか?ドメスティック・アーティストの情報性と比べると、圧倒的に遠い存在に感じられる。そりゃ「洋楽離れ」が起きたっておかしくありません。でも、HCWのような機会があれば、少なくとも来日する機会がひとつ増える。今どき海外取材は難しくなったので、来日すればインタヴューの機会も増える。先ほども書いたように、単独ツアーへと繋がる可能性だってあるでしょう。つまり、HCWがあることによって、さらにアーティストが身近に感じられるようになる、っていうことなんです。



8. 新しい何かを生み出すため

ここまで読んだあなたはもうお気づきでしょう。HCWに足を運ぶことには、どういう意味があるのかを。この祭典に参加し、楽しみ、出会うことは、あなたにとっても、シーン全体にとっても、新しい何かを生み出すきっかけとなり得る。なので、それは「何のため?」と問われれば、インディ・ミュージックを愛するみんなのため、と言えるかもしれません。でも、千里の道も一歩から。まずは次回のHCWに参加してみて、その意義を自分の目と耳でしっかりと確かめてみてください。




〈HOSTESS CLUB WEEKENDER〉
開催日:2015年2月21日(土)22日(日)
会場:新木場スタジオコースト
開場 12:45 開演 13:45(2/21)
開場 12:30 開演 13:30(2/22)
チケット:
1日券 7,900円(税込、1ドリンク別)
2日通し券 13,900円(税込、各日1ドリンク別)
※チケット一般発売、1/24~

出演者:
2月21日(土)
Belle & Sebastian
Caribou
Tune-Yards
How To Dress Well
East India Youth

2月22日(日)
St. Vincent
The Thurston Moore Band
Temples
Real Estate
Philip Selway


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