京都に暮らす、大学を卒業したばかりの女の子3人と男の子1人からなるインディ・ギター・ポップ・バンド。と聞くと、なんたる軽薄軟弱なクソ・アノラック!と一部のリスナーは眉をしかめるかもしれません。特に〈サイン・マガジン〉のクリエイティヴ・ディレクター氏などはもっとも苦手とするところのはず。まあ、それもむべなるかな。これまでのディスコグラフィを俯瞰してみても、メロディ展開の妙、三声のハーモニーは作品ごとにどんどん磨きがかかっていたものの、やはりギター・ポップの現在進行形バンドという位置からはみ出てはいませんでした。
その一方で、彼らホームカミングスはギター・バンド・フィールド以外との交流を積極に深めてきました。もっとも明解なのが、これまでもミツメ、(((さらうんど)))、スカート、平賀さち枝、エンジョイ・ミュージック・クラブ、白い汽笛、シャムキャッツ、ハイハワユー? らがラインナップされてきた、バンド主催のイヴェント〈スペシャル・トゥデイ〉です。
また、今年9月にリリースされた平賀さち枝とホームカミングス名義のシングル『白い光の朝に』は、バンドの十八番であるBPM100ちょっとのモータウン・ビートを配したギター・ポップ・サウンドと、平賀によるフォーキーな日本語の歌唱が見事に溶け合った名曲であり、これまでのホームカミングスの活動を、ある種統括したかのような象徴的一曲でもありました。
そして、12月24日のクリスマス・イヴに、ホームカミングスの1stアルバム『サムハウ・サムホエア』がリリースされました。この作品には、“白い光の朝に”での達成の後、バンドが次の場所へとたどり着いた姿がおさめられています。まずは、PV曲“グレート・エスケープ”をお聴きください。
力強いギター・カッティング、アタック強めの遅い4分打ちが耳を引くアンセミックなロック・ソング。ザ・1975の“チョコレート”やジェイムスの“シット・ダウン”を思わせるスケール感で、スタジアムやフェスティヴァルといった大観衆の前でも映えそうな仕上がり。このアルバム、一聴気づかない(気にならない)のですが、びっくりするほどいわゆるギター・ポップ!的な速い曲は少ない。メロディの良さと品良く展開をつけていくアンサンブルでどっしりと聴かせる楽曲が並んでいます。その堂々とした存在感には、『ザ・マン・フー』期のトラヴィス、ひいては95~96年、無敵だった頃のオアシスさえ透けて見えるほど。特に7曲目の“レモン・サウンズ”はホムカミゆっくりした曲部門の最高傑作バラッドでしょう。
そして、ぜひ実際にアルバムを手に取って確認していただきたいのですが、シングル“アイ・ウォント・ユー・バック”をはさんでの終盤二曲が超絶にヤバい。ヤバすぎる。9曲目“ペーパータウン”はクールな8ビートで、なだらかに低空飛行を続けていくような低温度の疾走感が気持ち良い一曲。各ヴァースをしっかり脚韻で踏んでいくのもフックばっちりで、ソングライティング、リリックの両面においての彼らの成長が刻みこまれています。
そして、最終曲にあたる“ゴースト・ワールド”は、バンド史上もっともてらいのないギター・ロックを解禁させた、胸のすく開放感に溢れたビート・ナンバー。タイトかつグルーヴィなリズム隊、巧みな押し引きで存在感を示すギターに痺れます。これら二曲はとにかくメロディの畳み掛けがすごく、特に“ゴースト・ワールド”は、「この曲いったいどこまで連れてってくれるんだろう」と胸がざわめくくらいにキラー・フックが次から次へと。最後の最後の1分で突如姿を現すコーラスのありえない高揚といったらもう!
そう、今作で誰もがぶっ飛ばされざるをえないのは、充実のソングライティング。現在の彼ら、もはやアンセム量産マシーンとしての爛熟期を迎えています。そして、それら楽曲のスケールをしっかりと受け止めることに覚悟を決めたバンドの演奏には貫禄さえも漂っている。実際、この一年でライヴ・パフォーマンスにおいても、いまだインディ然とした佇まいの背後で、驚くほどに骨太なアンサンブルをものにするようになってきました。特にリズム隊の頼もしさには目を見張るほど。さらにフロントマン、畳野彩加はめきめきとカリスマ性を発揮し始めています。もはやジャングリーという言葉が指すようなひ弱さとは一切無縁の場所で、ただただかっこいいロック・バンドとして立っているホームカミングス。『サムハウ・サムホエア』は、その最も明解な証明となるでしょう。