SIGN OF THE DAY

〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2022年のベスト・アルバム、ソング&
映画/TVシリーズ5選 by 伏見瞬
by SHUN FUSHIMI December 26, 2022
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5. Dir en grey / PHALARIS

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4. Kae Tempest / The Line is A Curve

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3. Vince Staples / Ramona Park Broke My Heart

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2. The 1975 / Being Funny in A Foreign Language

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1. 宇多田ヒカル / BAD モード

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4. Megan Thee Stallion / Her

3. Big Thief / Simulation Swarm

2. Awich / Queendom

1. Ecko Bazz / Mmaso



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5. トップガン マーヴェリック


4. MEMORIA メモリア


3. フレンチ・ディスパッチ


2. ケイコ 目を澄ませて


1. 麻紀のいる世界



ストリーミング・サービスで新作をすぐに聴くことを、みんなやめないか?

リリースされた直後の新譜を聴くのが、本当に楽しくない。ストリーミング・サービスが普及しておおよそ5~6年。かつてApple MusicもSpotifyもなかったころには、先に聴いた人間とまだ聴いてない人間との格差が存在していた。今でも映画の世界であれば、優れた映画を先に観た者の興奮が、まだ観ていない者の欲望を掻き立てる。先にそれを体験した人間に対して、醜いまでの羨望が沸き上がることがない限り、「新作」という単語は意味をなさない。したがって、今の音楽業界に「新作」はほぼ存在しない。

24時ちょうどにビヨンセやケンドリックやテイラーやSZAやアークティック・モンキーズやThe 1975や宇多田ヒカルの「新作」を聴くために、何かを犠牲にしている人間がいるだろうか。月1000円を支払えば、誰もが平等に家にいながら「新作」を聴ける。これほどまでにつまらない事態が、ほかに想像できるだろうか。文化に必要なのは欲望の格差である。資本主義かオルタナティヴかの二者択一に答えるより、欲望の平等を殺すことの方が私たちの急務ではないのか。

発売から一か月から二か月程度たてば、新作もストリーミングで聴けるようにすればいいだろう。それまでは、金を払って購入した人間の特権として、「新作」は聴かれるべきだと思う。CDやレコードがマニアのコレクションである時代は一刻も早く過ぎ去るべきだ。

人間にとっての「時間」の意味が、無視されていると感じるのは私だけだろうか。音響情報も映像情報も、一瞬で皆に共有できる。物流にかかる時間は、技術革新と倉庫の効率化でゼロへと近づける。革命は、布団の中からでもすぐにできる。それらの可能性は、すべて時間性の否定だ。しかし、私たちの生を重層的なものにしているのは、時間において他ならない。何かを成し遂げるために、時間を重ねる。誰かに会うために、時間をかけて足を動かす。音楽も映画も本も、そこに流れる時間が私たちの体験に変わる。時間を感じることでしか、私たちの生は豊かにならないのではないだろうか。カルロ・ロヴェッリがいうように時間は科学的には存在せず、各自の関係の変化を「時間」と感じているに過ぎないのだとしたら、尚更私たちは、感情や感覚を規定するものとしての時間に思いを馳せるべきではないのか。

Tik Tokの15秒動画も、早送りで観る映画も、それぞれに独特の時間性があるのならそれで構わないと思う。「速さ」を否定して、「遅さ」を肯定するという話ではない。否定するのは時間の「無化」だ。時が厚みを帯びるその感覚だけは、誰にも奪われる筋合いはない。だから「新作」の体験にも、「時間」の格差が存在していてほしい。体験の豊かさ/貧しさに敏感にならなければ、音楽文化全体がやせ細ってしまうと思う。それも時代の必然と思うなら勝手にすればいいけど、少なくとも私は、音楽というカルチャーをもっと愛していたい。今回の(最後の!)年間ベストのレヴューでちょっとした悪ふざけをしているが、それは人間社会とは別の時間感覚に想いを馳せたいからでもある。たとえば、虫の世界のような。

社会制度の上で馴致される時間性から遠く離れて、時間の厚みを私たちは感じ取るべきだ。音楽はそもそも、時間の厚みを産み出すための装置だ。SpotifyとAmazonとTwitterに囲われた世界の中で、私たちは音楽を取り戻さなくてはならない。

ベストの選出にとりたてて付け加えることはありません。直感で選んでいます。『ケイコ 目を澄ませて』が多くの人に受け止められているのは嬉しいけれども、『麻希のいる世界』はもっと多くの人に観られるべき傑作だと思う。女子高生同士の恋愛の話に見せかけた、死の理不尽をめぐる神話。劇中の音楽の使い方に疑問を覚えないわけでもないが、形而上の世界に現世のリアリズムを当てはめるわけにはいかない。儚い人生を定められた女子高生(新谷ゆづみ)のボブカットの横髪が風に吹かれて少し揺れた時の、時間の厚みが一挙に押し寄せる感覚は忘れ難い。それは、私たちの生活とは別の時間が現前した瞬間だった。今は劇場でも配信でも観られなくて無念だけど、機会があったら是非観てほしいです。


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2022年
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