●じゃあ、アイスエイジの1stアルバムが出た後、「次のアルバムはどう来るんだろう?」っていう予想や期待は何かありましたか?
「あんまりなかったですね。僕、解散してくれないかな、と思ってたんで」
●アハハハハッ!
「この1stだけだったら、お前、美しいまま終わるぞ、みたいな感じがあったんで。実は初来日の時も1stの曲をやらなかったんですよ、2曲くらいしか。ほとんど全部新曲で、『なんだか、わけわからないことになってるな』って。ライヴだとわからないじゃないですか? こっちはハードコア気分で行ってるのに、『何だろう?』みたいな。そこで既に違和感があったんで、『あれが音源でどうなるんだろう?』って。でも、二枚目から〈マタドール〉ですよね? 〈マタドール〉でアメリカでもちゃんとある程度支持されるような作りになってる。ハードコアだけに頼らず。彼らがデンマーク代表として、ちゃんと進んでいかなきゃいけないってことを考えて作っているアルバムだなと。さっきアンダーグラウンドのままでいいって言ったんで、それと矛盾するんですけど、エリアスはリーダーにならなきゃいけないっていうのを、ちゃんと自覚してて。2ndアルバムはそれで作られてる。だから、これは終わらないんだな、って思いました」
「まあ、売れる売れないは別だと思うんですけど。でも、デンマーク代表みたいな意識もあって、一番売れなきゃいけないとは思ってるんだろうなと。そこも80年代とか90年代のバンドとは感覚が違う。例えば90年代でも、プライマル・スクリームとかって、『売れるぞ!』って来たじゃないですか、完全に。ジーザス&メリー・チェインにしても、ああいうノイジーなのやめたのって、『売れるぞ!』みたいな感じで。『メインストリームに行くぞ!』っていう。ブリットポップとかもみんなそうでしたし、そうじゃないと意味がないし、価値がない時代だったんで、正しいと思うんですけど。そこの感覚が今すごい微妙なんで。うまく説明出来ないんですけど、アンダーグラウンドのままでいながら、っていう。僕の言い方だと超矛盾してますけど」
●いや、その、どちらか一方だけでは確信を持てない、納得出来ないっていうボーダーにいる感じって、新しいと思いますよ。アンダーグラウンドに留まるっていう思想が力を持っていた時期もあると思うんです。テクノの世界で言うと、デトロイト・テクノとかもそうだし、アメリカでもゴッド・スピード・ユー・ブラック・エンペラーとか、あのくらいの世代っていうのは、絶対に資本とは関わらないんだ、っていうハードコアな部分があった。でも結局、それでは状況は面白い風に転ばない――っていうのも、先達が10年~15年やったところで明らかになった。特に10年代に入ってからというのは、そこのアティテュードを再定義しなくちゃならないタイミングだと思います。だからと言って、明確な解決策があるわけじゃないんだけど、再定義しなくちゃいけないんだ、っていう意識をレペゼンしている感じはしますね。
「そうですね。タナソウさんが言う通り、そういう感覚ってなかったんで。そこがすごい惹かれるところだと思いますね。タナソウさんは、アイスエイジの2ndの時はどうだったんですか?」
●2ndは判断保留だったんですよ、ずっと。1stの時は、すごくシンプルに「新しいものが出てきた!」っていうエキサイトメントで迎えた感じだったんですけど。でも、2ndの時は自分の中でもどう位置付けていいのかわからなくて、わからないまま、気がついたら3rdが出ちゃった。
「でも、僕もタナソウさんのその感じはわかるんですよね。もしかしたら、うちのお客さんもそうかもしれないです。1st行って、2nd行ったら、もっと売れるはずじゃないですか? でも、変わらなかったんですよ。うちの店での売り上げが。店の中でアイスエイジが基本になっていて、ボス・キャラみたいになってるのに、あれ? そんなに売れないぞ、反応があんまりないぞ、みたいな。それよりも、インダストリアル・シーンの戦犯みたいな扱いで、『これだからUKインディの時みたいに盛り上がらないし、楽しくない』みたいな(笑)。その時はお客さんが離れていく一方だったんですよね。『何かおかしいぞ?』っていう感じで。でも、アメリカ人に訊いても、『2ndは駄目だ』っていう人もいたりしたんで」
●でも、3rdが出た今、改めて2ndを聴いてみてどうですか?
「いや、2ndアルバムだと思います(笑)」
●そう、まさに2ndアルバムなんですよね。
「だから、これからも出していくんだなって感じたから。10年後、20年後、一生聴いていって、どういう風に流れるか楽しみですね。この時の2ndはこれだったんだなって。いや、年寄りの聴き方だから駄目ですね、本当に(笑)」
●ハハハッ!(笑)
●でも、それで行くと、3rdアルバムは単純にびっくりしませんでしたか?
「そうですね。今回が一番難しいな、とは思ってたんですよ。だから、出来たっていうのもびっくりしたんですけど。『いつやってたんだ?』っていうのもあるんで。アイスエイジとしてあの形をやってくるとは思ってなかったですね。エリアス色が半端ないというか。それに、『自分も、これ、ちょっとわからないぞ』っていう。それこそ、バースデイ・バーティを最初に聴いて、『バースデイ・パーティ、マジでわかんないな』みたいな。バウハウスとかはわからないのにわかりやすいのに、バースデイ・パーティは本当にわかんない、みたいな。もうずっとわからなかったんですけど」
●1stもわけわかんないし、2ndもさらにわけわかんないし。
「そうなんですよね。でも、(アイスエイジの3rdは)若者たちがすごいいいって言うんで。『あれはBUZZりましたね』って。バズるって言葉があることにびっくりしましたけど(笑)。だから、『これはちゃんと聴かないと駄目だ』と思って。僕はわかりにくいことをやったのがすごいな、と思ったんで。だから、どんなことをみんなに言われても支持するだろう、と思ってたんですけど。でも、周りの子たちが、2ndまでは振り向かなかったうちのお客さんでも、『すごいのが来た』って言ったのに本当にびっくりしました。どうでしたか?」
●僕は、もう万々歳。ただ僕の場合、アイスエイジの3rdアルバムに対しては、ちょっと客観的になれないところがあって。このレコードに対する一番安易な説明って、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズっていう言い方があると思うんですけど、僕はニック・ケイヴが好きすぎるんですよ。多感な時期を過ごしたポストパンク期のヒーローが3人ほどいるんですけど、そのうちのひとりだし、バッド・シーズの“マーシー・シート”なんて、自分自身のフェイヴァリット曲の10本のうちに入るほど、好きで好きでたまらない曲だったりして。
●で、アイスエイジの3rdアルバムを聴くと、低い音程のピアノの打楽器的な使い方とか、カウ・パンクっぽいリズムなのにヨレヨレの感じとか、マーチング・ドラムを使ったり――そういったサウンド、あるいは、レナード・コーエン辺りを源流とするナラティヴ的な歌詞の書き方。リリックの内容に関しても、これまでも暴力というテーマはずっとあったと思うんですけど、父親と子供の関係とか、宗教の問題とか、共依存的な関係――人と人だったり、物と人だったりの強迫観念的なアディクトがモチーフだったり。で、勿論、エリアスの歌い方も含めて、自分がキッズの時にバースデイ・パーティや初期バッド・シーズに対して、「これ、何?」と思いながら、猛烈に惹きつけられた時の感じを猛烈にくすぐられるんですね。だからこそ、そういう説明は一番よくないと思いつつ、わかりやすいから言っちゃうんですけど。なので、すごく興奮しました。
「でも、バッド・シーズとか、ニック・ケイヴとかって、今だったら再評価ありますけど、それこそ〈スヌーザー〉では読者に推せなくなかったですか?」
●そうですね。ゼロ年代にニック・ケイヴの素晴らしさ、凄さを説明するのはすごく難しかった。ニック・ケイヴが良くなかった時期なんて一度もないんですけど。それって、10年前にボブ・ディランを説明する難しさに近くて。だから、当時は、あまり前面には押し出せなかったですね。「今と繋がる文脈もないし、もしかして、俺が好きすぎるだけなんじゃないのかな?」という逡巡もありました。
「だから、タイミングもすごいですよね。これが数年前なら駄目だろうな、っていう」
●そうそう、まさにそうです。三年前とかだったら、「は? 何故、今、ニック・ケイヴ?」っていう感じだったと思う。
「好きなことやってるだけ、みたいな感じだったと。でも、今だったらちゃんと出せる、みたいな。そういうバランス感覚っていうか、『これだ!』っていう選び方とか、ブレないって思いますね。そこをみんなが支持するっていうのがわからなかったのが、商売やってる人間として最低なんですけど(笑)。10代とか20代の子たちが一発であれに来るっていうのは、ちゃんと時代が流れてるんだなって思いました、本当に」
●ただ、もともとの仲さんのテイストからすると、アイスエイジの3rdってどうなんですか?
「多分、あまり好きになれなかったタイプ。しかも、インタヴューでポーグスの話をしてるんですよ。でも、俺、ポーグスだけは絶対わかんなかったんで(笑)。好きな曲はありますけど、アルバム一枚聴く力は僕にはなくて。だから、『そこ来るか』と思って。絶対ここは来ないだろう、っていうところに行くんですよね」
●でも、ニック・ケイヴとシェイン・マガウアンはデュエットしてますしね(笑)。しかも、サッチモの超有名曲を。
「あの人、よくしてますよね」
●そうそう(笑)、カイリー・ミノーグともやりましたから。
「じゃあ、今はそこ行ってるんですね。あと、やっぱり歌詞も明らかに変えてきてて。神とか、あんな話を歌うとは思っていなかったし。そういうのを見ていても、こんなに考えさせられたりドキドキされられるバンドは他にはいないんで。大体、『お前の物語をこっちが作ってやる』みたいな感じじゃないですか? 僕、そういうライターさんが好きなんで、タナソウさん大好きなんですけど」
●本当に?(笑)
「それがライターさんの仕事だと思うんですよ。アーティスト自身よりアーティストを大きくさせないといけないと思うんで。でも、それをアーティスト本人で出来てるっていうのはすごいなと思いますね。アイスエイジくらいだなと。フェスが嫌いだとか、いらないこともちゃんと言うし。せっかく今回注目を浴びてるのに、すごいアンダーグラウンドな面子とツアー周ってるし。そういうのに世界中の若者は気付いて魅了されてると思うんですよね。日本の若者にも伝わればな、と思うんですけど」
●でも、それって今の日本の若者の受動的なライフスタイルとは正反対ですけどね。オヤジっぽい話になりますが(笑)。
「でも、能動的になってる若い子も同じこと言いますからね。不思議なんですけど。これまでなら、それまでの過程をいちいち説明して、アイスエイジをわかるまでこっちでいろいろ準備してあげないと、っていう感じだったじゃないですか? でも、もう必要ないのかなと。『いいんだよ、これを聴けば』って言うと、アイスエイジとかはわかっちゃうのかなって。僕も中学生の時、おニャン子クラブが好きで、パンクに興味あったら、その半年か一年後にはノイズ聴いてた、みたいな。そういう感じになるんで。僕と同じ歳かちょっと上のお客さんとも話してたんですけど、今の若者が洋楽というか、こういう音楽に夢中にならなくなったのは、やっぱりリバティーンズまではキャラクターがあるバンドが出てきてたけど、2008年以降いないからじゃないか? って。『ピート・ドハーティみたいにすごいの出てこいよ』とか思ってたりしてたんですけど。『アイスエイジじゃ、どうなのかな?』とか。でも、世の中がこれだけ複雑化して進歩していることを考えると、より細かく物事が変わっていくっていうか。そういう部分で言うと、若い子から見ると、僕らがセックス・ピストルズとか、シド・ヴィシャスとか、ブラーとか、オアシスとか、リバティーンズとかに感じたのと同じようなことを今いるバンドに感じてたりするのかなって」
●なるほど。
「年寄りからすると、アイスエイジはイアン・カーティスとかシド・ヴィシャスとは違うよ、って思うかもしれないけど、彼らにとってはそれくらいの威力はあるんじゃないかな。僕らは歴史を知っているから、破天荒じゃなくちゃいけないとか(笑)。でも、もうそういうところには魅了されないんじゃないかな。それを外国の若者は感じてて、アイスエイジは支持されるんじゃないかなと。アメリカ人とか向こうの奴に会ったり、メールで連絡してたりしても、アイスエイジってスーパー特別枠な感じがするんですよね。アンダーグラウンドな人からも、ちょっとメジャーなとこからも。アメリカのハードコアのアンダーグラウンドなところとも繋がってますけど、彼らも『あのデンマークの奴ら、いつもアメリカに来やがって』って言ってたみたいで(笑)。それだけ意識してるってことだから。メジャーの人たちも、『イギー・ポップがアイスエイジを唯一のパンク・バンドだと言った』とか。そういうのでもすごい特別枠な感じ。こんなのっていなかった。こんな44歳でもドキドキさせられるバンドだよ、っていう。こうなるとは思わなかったけど(笑)」
●あ、でも、あの時はどう思われたんですか? ツイートもされていたと思うんですけど、エディ・スリマンが発見しちゃったってことに関しては?(笑)。
「僕が思うに、エディ・スリマンはもうすでに知ってたはずじゃないですか? いい男をいつも探している男なんで。でも、最初は絶対言えなかったんだろうなって。『こいつらに言って断られたら、私、ショック』ってエディ・スリマンは思ってたはずだし(笑)。アイスエイジがロスに来た流れで撮ったと思うんで、多分、彼らは1stの時に言われたら、断ってると思うんですよね。僕も、『やるんだ、エリアス』って思ったんですけど。エリアスの心境の変化もあるのかな、って。そういう意味では、僕がエディ・スリマンより上みたいな感じで見ちゃうんだけど(笑)。エディ・スリマンが撮ったから、『じゃあ、いいんだ、アイスエイジ』ってみんなは思うのかもしれないけど、逆ですよね。エディ・スリマンがやっと撮らせてもらえたって本気で思っているに違いない、と思ってますよ」
●(笑)。じゃあ、彼らのファッションのテイストに関してはどうですか?
「最初来た時、超ダサいなと思って。写真を見て超かっこいいと思ったのに、スウェットはインしてるわ、みんなズボン上だし、普通のシャツだし、ポロシャツじゃん、と思って。これ、原宿一緒に歩くの嫌だな、と思ったの覚えてるんですけど(笑)。でも、結果、それがノームコアと呼ばれるものだったのか、っていう。当時は僕、わかんなくて。一週間くらいいたんですけど、ずっと彼ら、シャツをインしてるんですよ。僕も最後の日、入れましたもん(笑)。最初はオシャレと思ってなかったのに、段々、『これはすごい!』と思い出して。どうもこだわってるっぽい、と。なんか、シャツを出している方がだんだん恥ずかしくなってきて。その随分後でしたけど、ノームコアとか言われるようになったのは。『そういうことだったのか!』ってびっくりしましたね。元々、超オシャレ好きなんだと思うんですよ。で、コペンハーゲン・シーンでも、スウェーデンでも流行の先端で、普通の格好みたいな、ノームコアみたいなのがその前くらいにあったんだと思います」
●仲さんがノームコアについて書いた〈BIG LOVE〉のブログ、最高でしたよ。
「あれを書かない限り、自分も無理出来ないと思って」
●自分自身も勢いをつけるために?
「そうですね、新しいことをやるのはいつも恥ずかしいもんなんだよ、って。こっちも無理してやってるんだから(笑)」
●ちょうどあの頃、日本では何故かファスト・ファッションを着ることがノームコアみたいな感じになってて、「はあっ?!」っていう。まあ、宇野常寛とか一部の人たちですけど。それにちょうどブチ切れてる時期だったんですよ。しかも、それに納得している人たちがいることに対しても、「このリテラシーの低さって何?」みたいな感じになってて。なので、あのブログは爽快でした。
「真逆な話になってましたよね。それと、何故ファッションの子とかが先を争ってノームコアをやらないのか、それに僕はイライラしていて。『お前、今この瞬間にそのままのオシャレでどうするんだよ?』って。『俺みたいなオッサンじゃなくて、お前が最初にやって恥かけよ!』って。みんな、このハードルが高すぎる、過ぎ去るのを待ってよう、みたいな感じで。確かにノームコアってすごくハードルが高くて、商品も売りにくい。それもわかるけれど、いちばんオシャレと言っているようなファッション雑誌だったらやるべきだと思うし、それが日本っぽくて嫌でしたね。誰ひとりやってるのがいない、と思って。それって音楽にも通じるところがあると思うんです。『ここでお前らやらなかったら、もうないみたいなもんだぞ』みたいな。インダストリアルとか、そういうダークなのがあって、で、またシーンはポップになってくると思うんです。昔のやつでもそうじゃないですか? いきなりビルボードに入るような音作りになってから好きだと許さなかったじゃないですか? でも今は、音楽好きとか言ってる人たちが、そこを無視して、売れるところだけを良いと言ってるんですよね」
●何でもアリになってますからね。じゃあ、今まで話してもらった流れの中で、明らかに話し損ねちゃってるな、っていうことってあります?
「やっぱりエリアスみたいなキャラクターって、ロック史にそんな出てくるようなものだとは思わないんですよ。80年代から30年くらい聴いてる僕から見ても、出てくるはずがない。だって、めっちゃかっこいいじゃないですか? そのめっちゃかっこいい奴が、『よし、俺はこういう音やるぞ』ってなって。しかも、リーダーの意識もさりげなくあって。80年代はかっこよかった奴がみんな裏切ったというか、駄目になっていったじゃないですか? でも、アイスエイジはもう三枚目で、より強度を増しながら、しっかり進んでる。しかも、ファッションも変えてきてるじゃないですか。そんだけやってくれるカリスマいないぞ、っていう」
●ナンバーナイン~ザ・ソロイストのデザイナーをやってる俺の友達の宮下くんは、エリアスのことをリヴァー・フェニックス以来の存在感だし、才能だって言ってました。
「ミック・ジャガーなり、シド・ヴィシャスなり、トム・ヨークでもピート・ドハーティでもいいですけど、ちょっと前のアーティストに夢中になる時間があるんだったら、目の前にいるわけだから。勿論、昔のアーティストもいろんなことを教えてくれるし、そこは魅力的で夢中になるのもわかるんだけど、自分たちの音楽ではないですよね、結局。80年代から90年代頭までは僕の音楽だし、その前、70年代後半とか80年代前半とかはタナソウさんのものなんですよ。それを若い子がどんだけ知ってて、どんだけしゃべれたとしても、タナソウさんの方が上なんですよ」
●(笑)そう、「俺のもの」だから(笑)。
「そう。だけど、今の若い子、17歳とか20代前半の子たちがアイスエイジのことを語ったら、僕がどんだけ言っても僕は負けるんです。だから、僕に勝つためには――音楽は勝ち負けなんですけど」
●その通りです。音楽は勝ち負けです。
「アイスエイジとか今の音楽を好きになれば、僕がどんだけ偉そうに語っても、あなたのものなんですね。だから、それをしないなんて勿体ない。逆に言えば、今、こっちはラッキーなんですけど(笑)。それが僕、音楽が一番楽しい瞬間だと思うので。その一番の近道がアイスエイジだと思うんで、〈ホステス〉さんのCDを買ってください」
●(笑)。
「っていう感じですね」
●俺、たまに「間に合った」っていう言い方を意識的に使うんですよ。今の若い世代はアイスエイジに間に合った、すごいラッキーな世代だ、っていう言い方。自分は63年に生まれているので、60年代のカルチャーが全部終わった後に物心つくじゃないですか? で、物心ついた時は、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、クイーンが偉い、みたいな。全然ピンと来なかったんですよ。むしろフーとか、ビートルズの方がいいな、と思ってて。で、高校に上がる頃にパンクが出て来て、「あ、俺はこれに間に合った!」って思ったんですね。多分、やってる方と自分がそんなに年齢が遠くないこともすごく重要だったし。それに勝るものはないですから。ただ最後に、意地悪な質問です。今の仲さんの個人的なモードだと、アイスエイジはもうないでしょ?
「若い子だったら、『もうコペンハーゲンは駄目だな』とか言うんですよね。でも、僕としてはまだわからないところがあるんで、終われないんですよ。終わりたいんですけど(笑)。パッと切って、新しいものを『これがいい!』とか、わざと言いたいんですけど。でも、まだわからないところがあるし、それをまたガンガン出してくるんですよね。今の流れで言うと、コペンハーゲンの新しいバンドで、コミュニオンズっていう若い子がいて」
「まだ17歳とかだけど、音はリバティーンズとか、スミスとか、ああいう感じ。キラキラしていて、ネオアコ――ネオアコって言葉は僕も嫌いなんですが、わざと言いますけど――ネオアコ好きもグッと来て買う感じなんですよ。でも、向こうで会った時に、めっちゃヤンキーで。すごい騒いで、俺が一番悪いぞ、みたいな感じだったんです。ジーザス&メリー・チェインが出てきた時もそういう感じなのかなって。一番悪い奴が出てきて、ポップなことをやってるっていう。リバティーンズとかもそうですよね。街の不良のリーダーみたいな奴があんなポップなのやって。『えっ、この音でいいの?』ってびっくりしましたもん、キラキラしてて。〈C86〉とか、UKインディとかになってくると、本当に真面目な子が始めちゃうんで、好きだったんですけど、ちょっと違うぞ、と思ってたんですけど」
●(笑)わかります。
「話は飛びますけど、〈ポッシュ・アイソレーション〉はベル・アンド・セバスチャンの曲名から取ってるらしいんです。あんな感じなのに、みんな好きみたいで。それでいてこの考え方で、若くて。そしてコミュニオンズみたいなのがまた出てくるわけで。しかも、さらなる完全な不良みたいな。『何騒いでるの、あいつ?』って訊いたら、『ドラッグくれ、ドラッグくれ!』みたいなこと言ってるみたいで(笑)、『えー、面倒臭いな』っていう。で、コミュニオンズのメンバーはノイズとかもやったりしてるんです。で、あのルックス。こんなの出てきたらやめられないよな、っていう。全部を否定するようになんないとやめられない。あと、レコ屋としても、まだ始まってないんで。売れてくれないと(笑)。『インダストリアルとかありましたけど、次は何ですか?』とか、みんな簡単に言うけど、『お前、その前にまだ買ってないだろ!』っていう(笑)。アイスエイジだって、あの手この手でガンガン来てる。やっぱりこうなると、四枚目とか楽しみじゃないですか。『どうなるの?』っていう」
●絶対に「ええっ!?」っていうことになると思うから。
「だから、体力的にも駄目になってほしいと思いますね。そしたら、『よし、終われる』っていう感じになると思います(笑)」
「コペンハーゲン・シーンを全世界に知らしめ、
新時代の扉を開いたアイスエイジとは何か?
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