SIGN OF THE DAY

90年代R&Bと最新英国サウンドの接合点。
エラ・メイに続く「2018年型R&B」という
潮流を象徴するネイオ新作の位相を解説
by YOSHIHARU KOBAYASHI November 30, 2018
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90年代R&Bと最新英国サウンドの接合点。<br />
エラ・メイに続く「2018年型R&B」という<br />
潮流を象徴するネイオ新作の位相を解説

2018年の音楽シーンは、従来の常識では考えられないようなエキサイティングな出来事が次々と起きている。と感じている人は少なくないでしょう。

約20年ぶりと言われるラテン圏のサウンド/アーティストの台頭=ラテン・レヴォリューションは、カーディ・Bやカミラ・カベロのメガ・ヒットもあってさらに勢いを増すばかり。全米アルバム・チャート二作連続1位という歴史的快挙を成し遂げたBTS、あるいは新世代的な感性でアジアのアーティストやカルチャーを世界に発信する〈88ライジング〉の躍進が象徴するように、北米ではいつになくアジアへの期待と注目も高まっています。

そして、「イギリスのR&Bはアメリカでは売れない」と言われる中で、無名のイギリス人R&Bシンガー=エラ・メイが全米5位まで駆け上るという「事件」も起きました。今、北米メインストリームを舞台に、ポップ音楽の地図は驚くべき速度で塗り替えられているのです。

つまり、グローバル化と並行する形で音楽の地域的な特性の面白さが再発見されているというのが現在の状況。そのような中、これまでにラテン、アジアとローカルの金鉱が発掘されてきましたが、今、再評価が進んでいるのがイギリスです。


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詳しくは上の記事に譲りますが、エラ・メイやデュア・リパといった新世代の世界的ポップ・スターの誕生、ドレイクによるジョルジャ・スミスやオクタヴィアンなど英国勢の積極的なフックアップ、ジェイムス・ブレイクの北米ポップ・プロデューサーとしての地位の確立など、北米からのイギリスに対する注目は数十年ぶりの高まりを見せています。まさに今、90年代初頭から完全に袂を分かったかに見えた、北米とイギリスの新たなクロスオーヴァーが進行中。そして、本稿の主役であるネイオの2ndアルバム『サターン』は、そんな時代の空気を明確に体現した作品だと言って間違いありません。

改めて言うまでもなく、ネイオは英国発のオルタナティヴR&Bの急先鋒として頭角を現したアーティスト。ジェイムス・ブレイク以降の英国クラブ・ミュージックを消化したプロダクション、TLCやアリーヤへの憧憬に満ちた90年代R&B的メロディ、そしてディアンジェロを彷彿とさせるタイム感のビート・アプローチを接合させたEP『フェブラリー・15』(2015年)と1st『フォー・オール・ウィ・ノウ』(2016年)は、世界中の耳を強烈に引きつけました。やや乱暴に要約すると、彼女は当時のR&B実験主義の象徴=FKAツイッグスに続く新たな才能として大きな期待を集めたのです。

Nao / Bad Blood


しかし、このたび送り出された新作『サターン』は、ネイオが「ポスト・FKAツイッグス」という矮小なレッテルには収まりきらない進化を遂げたことを告げる作品です。結論を急げば、このアルバムは英国アンダーグラウンドと北米メンイストリームの融合としての、2018年型R&B。90年代R&Bを再定義して、北米で大成功を収めたエラ・メイの1stアルバムの隣に並べると、2018年という時代の特色がくっきりと浮かび上がってくるような作品です。

参加メンバーを見ただけでも、本作のヴィジョンは明快に浮かび上がってきます。プロデューサー/ソングライターには、同郷イギリスの盟友であるムラ・マサやグレイズに加え、カナダの期待株ダニエル・シーザー、フランク・オーシャン『チャンネル・オレンジ』のプロデュースを手掛けたマレーなどが参加。フィーチャリング・シンガーには、ケンドリック・ラマーやシザが所属する〈TDE〉の新鋭サー、トラップとR&Bを折衷させるアトランタのブラック、そして旧知の仲であるイギリスのクワブスが名を連ねています。ドレイクの『モア・ライフ』が様々なジャンルや国のアーティストの交通を促すハブとして機能したならば、この『サターン』は最新の英米クロスオーヴァーのハブになっていると言っても過言ではないほどです。

Nao / Make It Out Alive feat. SiR

Nao / If You Ever feat. 6LACK


もちろん、こうしたアルバムのヴィジョンは具体的なサウンドにも落とし込まれています。ネイオが新作のインスピレーションとして真っ先に挙げているのがケンドリック・ラマー。マレーとグレイズがプロデュースした“オービット”におけるケンドリックの影響について、彼女はこのように明かしています。

「ケンドリック・ラマーは、私のオールタイム・フェイヴァリット・アーティスト。彼は声にいろいろなカラーやキャラクターを持っていて、声で探求しているところが好き。だから、私も今回のアルバムで試してみたの。“オービット”という曲は、自分の中のケンドリック・ラマーを探求した感じ。だから、セカンド・バースでラップをしてみたのよね。それに、ヴォーカル・エフェクトをかけているから、私の声じゃないみたいにも聴こえる。ケンドリックも、作品によっては彼の声に聴こえないものもあるでしょ? だから、この曲は、ケンドリックへのオマージュのようなものね」

Nao / Orbit


一方、現代的なイギリスらしさ、という点においては“ドライヴ・アンド・ディスコネクト”がわかりやすいでしょう。「この曲はソウルのビートよね。私はアフロ・ビートがすごく好きなんだけど、UKやアメリカでも、世界中で結構注目されていると思うの。この曲では私なりの解釈でそういったビートを取り入れたつもり」とネイオが言うように、この曲で取り入れられているのは新世代アフロ・ビート。J・ハスのブレイクがアフロ・ビートとダンスホール・レゲエの融合であるアフロ・バッシュメントを広く世に知らしめましたが、アフロ・ビートやバッシュメントは活気づく英国アンダーグラウンドでもっとも注目すべき潮流のひとつです。

Nao / Drive & Disconnect


そして、ネイオ自身がアルバムを象徴する曲と位置付ける“アナザー・ライフタイム”は、本作における彼女のヴィジョンがもっとも高度に結晶化した名曲でしょう。BPMは60。現行の北米ヒップホップ/R&Bのグルーヴ感を、ジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールを彷彿とさせるプロダクションで包み込んだサウンド。そこに、よりディープで切ない情感が滲むようになったネイオのヴォーカルが乗る瞬間は、息を飲むほどの美しさです。

Nao / Another Lifetime


このように見ていってもわかるように、『サターン』とは、最新の潮流も取り込んでアップデートされた英国性と、北米メインストリームの突端を結合させた作品。ポップ音楽の「今」――つまり、2018年後半における現在進行形の事象である英米クロスオーヴァーを体感するには、まさに打ってつけの一枚です。これを契機に、果たしてネイオは北米メインストリームの中心にも飛び込んでいくことになるのでしょうか?


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