SIGN OF THE DAY

ロックとインディが大敗を喫した2017年。
そうした現実に唯一向き合った日本の作家、
岡田拓郎が語る「2010年代のロック」後編
by SOICHIRO TANAKA December 28, 2017
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ロックとインディが大敗を喫した2017年。<br />
そうした現実に唯一向き合った日本の作家、<br />
岡田拓郎が語る「2010年代のロック」後編

ロックとインディが大敗を喫した2017年。
そうした現実に唯一向き合った日本の作家、
岡田拓郎が語る「2010年代のロック」前編


●じゃあ、次の曲について訊かせてください。8曲目の“ブレイド”については冒頭でも話しましたけど、ジャズ・ドラマーの石若(駿)くんが叩いていて、曲全体のプロダクションの中でハットがすごく重要な形で機能してる曲だと思うんですけど。この曲のレコーディングは石若くんありきの部分もあったんですか?

Okada Takuro / ブレイド


「パターンは僕が作っているんですけど……ブライアン・ブレイドっていう、すごく好きなジャズのドラマーがいて」

Brian Blade and The Fellowship Band / Live at Chicago Music Exchange


●タイトルもそこから来てるんですか?

「アホみたいですよね(笑)。このアルバムは全部、意識した人の名前を仮タイトルで使っていて。“手のひらの景色”はウィルコっぽく作りたかったから、“ウィルコム”って仮タイトルをつけてたんですよ。でも、“ブレイド”だけハマる正式なタイトルが見つからなかったのと、みんなが“ブレイド”って呼んでたのがしっくりし過ぎちゃって、『これしかないね』って感じでつけたんですけど」

●なるほど。

「ブライアン・ブレイドっていうドラマーは、アコースティックなジャズの新しい方向を作っていった人なんですよ。僕、高校生の時はジャズばっかり聴いていて、パット・メセニーとか〈ECM〉のレコードが好きだったんです。その前にボブ・ディランとかザ・バンドを聴いていたのもあって、ちょっとフォーキーな質感のジャズが好きで。ジョニ・ミッチェルのバックでジャコ・パストリアスとかパット・メセニーが弾いてる『シャドウズ・アンド・ライト』とか、ああいう雰囲気のものをやってみたいっていうアイデアがあったんです」

Joni Mitchell / Shadows and Light


●なるほど。そういったアイデアは、森は生きているの起点にもなっていました?

「森は生きているを始めた時、僕は本当は、はっぴいえんどとブライアン・ブレイドやブラッド・メルドーを合わせたい、あの新しいジャズのフォーキーなフィーリングと日本語のポップスをどうにか合わせたい、って考えていたんです。『Jazz The New Chapter』が出る前に(笑)」

●(笑)。

「でも、あれは演奏が上手くないと出来ないし、僕も当時はそこまで意志を強く持っていなかったので。だから、今回はあのアイデアをもう一回やってみたいっていうのがあったんです」

●なるほど。

「パット・メセニーの曲で“アズ・イット・イズ”っていう、ライヴだとリチャード・ボナがアコギを弾いている曲があって、そのイントロがすごく好きだったんですよ。空を飛んでいるカモメが草原を見ているような風景が目に浮かぶくらい美しいイントロなんですけど、そういった雰囲気の曲に日本語をつけたものを作れないかな、と思ってやってみた曲で」

Pat Metheny / As It Is


●そこと、ブライアン・ブレイドっていう軸が大きかった曲っていうことですね。

「そうですね。ただ、そのままだと普通に大きく取っただけの、ブライン・ブレイドみたいなビートだなと思ったので、ハットを細かく刻めないかなと思ってました」

●この曲が一番ハットが多いもんね。耳でハットを追いかけながら聴ける。

「そうですね。自分で打ち込んだデモはもっとマシーンみたいなハットが入ってるんですよ。ライドを叩きながら細かいハットを刻むっていう、絶対人間には叩けないようなものだったんですけど、石若くんが『ちょっとやってみる』って言って、その場で叩けちゃって(笑)」

●すごいな(笑)。

「結構、人間っぽいフィールになったんですけど、これはこれで面白かったんで入れ込みましたね」

●じゃあ、次の9曲目の“グリーン・リヴァー・ブルーズ”はノン・ビートですよね。この曲を入れたかったのは何故ですか?

Okada Takuro / グリーン・リヴァー・ブルーズ


「“ブレイド”の終わり方が難しくて、デモの時はバッと切れるような終わり方しか思いつかなかったんです。けど、曲が長くて波がある分、バッと終わるのはアルバムの流れとしてあんまりよくないな、と感じていて。で、谷口とピアノの録音をしている時に、“ブレイド”と同じBPMのまま、次の曲の一発目のピアノを入れて余韻みたいにするっていうアイデアが浮かんで。だから、ビートはないんですけど、“ブレイド”から次の曲に入るまでのBPM感はズラしたくなかったので、谷口に何度も録らせて、ハマった瞬間にそのままフリーで続けさせたんですよね」

●なるほど、なるほど。じゃあ、〈サインマグ〉の八木くんのインタヴューでも出てきたduennさんの低音に関してはどうですか? 2010年代のポップ・ミュージックを考える時に、低音問題っていうのもあるじゃないですか。重低音を使う/使わないっていう。

「僕はジェイムス・ブレイクのライヴに行ったことはないんですけど、彼のライヴはある一定の周波数だけブーストするっていう話を聞いていて」

●すごいよ。耳では聴こえないんだけど、振動で着てるシャツが震える。

「それが面白いと思ったから、ある一定の周波数だけduennさんが入ってくる、みたいなアイデアで二ヶ所に入れたんです。ちょっと皮肉っぽいですけど、iPhoneじゃ聞こえない音が入っているのが面白いなと思って(笑)」

●でも、そういうアイデアというのは、岡田くんがリスナーに優しくないということではなくて、むしろ不特定多数の人たちに対して、常にいろんな語りかけや問いかけをしているってことの表れでもあるよね?

「自分では言いたくないですけどね(笑)」

●だと思うから、代わりに俺が言うけど。

「ハハハッ(笑)」

●その問いかけに答えてくれることを期待はしてるわけではないんだけど、ちゃんと自分からはいろんな形で語りかけている。

「そうですね……『この音楽からは音楽しか聴こえてこない』とは言われたくないですからね(笑)」

●いやいや(苦笑)。だから、俺みたいな人間からすると、森の『グッド・ナイト』が出た時も、そういう岡田くんからの問いかけにどれだけの人が耳で応えてくれるかっていうことをずっと考えてたんですよ。でも、きっと難しいだろうなって。

「難しいでしょうね、今思うと」

●でも、今回もそれは諦めなかったということだよね。戦略は変えたけど。

「そうですね。根本的なところは変わってないかなと思います。気づいてほしいし、ほしくないし……気づいてほしい自分を気づかれなくないっていう」

●(笑)でも、今の話こそが岡田拓郎っていう作家のアイデンティティを規定している感じもしますね。でも、すごく大事な態度だと思います。特にポップの世界って、広告代理店的になりがちじゃないですか? ポピュリズム的っていうか。これがウケるから、これをやるんだって。

「そうですね」

●でもやっぱり、表現者というのは、もしかすると伝わらないかもしれないけど、今一番伝えたいことを表現しなくてはならない。じゃないと価値がない。「誰がきちんと受け取ってくれるか?」なんてことは期待しちゃいけない。極端に言うと、表現というのは投瓶通信だから。ただ、そんな当たり前のことを誰もやらないから、日本はこれだけ駄目になったわけでしょ? つまり、2010年代はリスナーが駄目なわけです。

「僕からは何も(笑)」

●90年代やゼロ年代だったら、タワー・レコードの品揃えとかもホントしっかりしてた。いろんなものが聴けた。でも、今のタワーでCDを買ってるリスナーなんて駄目じゃないですか。でも、その駄目なリスナーに合わせていくから、更に駄目になる。ネバヤンが売れても別に嬉しくないじゃん。

「僕は何も思わないですけどね(笑)」

●メインストリームのJ-ROCKなんかに比べたら、彼らはすごく健闘してる。ただ、「結局、ウケるのはそこだけなの?」って思わざるをえない。敢えてこの場で言いますけど、森の解散、吉田ヨウヘイgroupの活動休止に一番本気で怒っていたのは俺だからね。

「でも、難しくなかったですか? あそこらへんから、はっぴいえんどと加山雄三とゆら帝を足して引いたようなのが、いっぱい出てきたじゃないですか。あの中に僕らがいても飲まれてしまって、もう次がなかったと思います。先に手を引いておいてよかったな、と感じていますけどね」

●いや、それは岡田拓郎っていう発信者の立場の話で。俺みたいなリスナーの立場からすると、「あなたたちがいなくなったから、なんちゃってバンドばかりに注目が集まったんだ」っていう視点もあるからね。

「いやー、どうですかね。僕らも、なんちゃってだったかもしれないし(笑)」

●そんなわけないでしょ!(笑)

「雰囲気も変わったと思うんですよね。僕らの時より若い子たちがついて行ってるんじゃないですか? それは自分の中で複雑だし。結局、元に戻った感じがするな、っていうのはありますね」

●そう。2012年以前の状況に戻ったと思う。

「逆に、僕らみたいなのが出てこられたのが珍しかったのかもしれないですよね。なんでだったんだろうな、とは思いますけど」

●ちょうどJ-ROCKやJ-POPがとことん駄目になったからこそ、っていうのはあると思います。岡田くんは「東京インディ」っていう括りを本当に嫌っていたと思うけど、東は八丁堀の〈七針〉、中央にceroやシャムキャッツが出会った阿佐谷の〈Roji〉があって、〈ココナッツ・ディスク〉や〈珍屋〉がある吉祥寺や立川を経由して、西は岡田くんの生家がある福生までーー中央線で繋がれた東西のラインに、直接の繋がりはなくても、いろんなタイプの新しくて刺激的なバンドが同時多発的に出てきたことは確かだったじゃないですか。

「そうですね」

●で、森と吉田ヨウヘイgroupとロットバルトバロンがなんとなく近い距離にいたり、その流れの中でPADOKみたいな人にもちゃんと注目が集まったりとか。2013年に森の1stアルバムが出た前後に、中央線を経由した、なだらかな繋がりが可視化されたことによって、本当の意味で日本で初めてシーンと呼べるシーンが出来たと思うんですね。

「なるほど。渦中にいるとわからないものですね」

●渦中にいた人たちにとっては括られてしまうことも嫌だっただろうし、その事実にも自覚的ではなかったと思います。でも、あれは俺がこれまでの人生で体験したもっとも刺激的な日本のシーンだった。

「自分で言うのもなんですけど、今思うとそうですよね。面白い可能性があったんじゃないかな、もっとうまくやればよかったんじゃないかな、とは思いますけど。ただ、それにアーティスト側が意識的になって、大人が摘んだのが今の結果だとも感じますし。だから、あれはあれで、手つかずで終わってよかったんだと思いますね」

●やっぱりレーベルとかマネージメントの立場にいる大人たちが失敗したし、俺みたいなジャーナリストも駄目だった。

「いや、そんなことないですよ(笑)」

●その結果なんだと思う。

「いやいや。でも、当時は震災後の変わろうっていう雰囲気もあったように感じますし、そこはみんな口にしなくても共通して自覚的だったと思います。それは音楽を作る人も聴く人も同じで。そういう雰囲気にマッチした瞬間だったのかもしれないですね。もうみんな(震災直後に感じていたことを)忘れてしまったと言われている感じと、音楽の状況が流れていく感じは近いんだろうな――って三船くんが言ってたんですけど(笑)」

●でも、そうなんだよ。日本人はすぐ忘れるから、歴史を。

「そうなんですよね。そこはなんかな、っていう感じなんですけどね」

●じゃあ、最後は10曲目の“遠い街角”。これはどう位置づけましょう? これもほぼドラム・キットを使わない形でのリズム・メイクだと思うんですけど。

Okada Takuro / 遠い街角 feat. 優河


「いわゆるドラム・パターンではないですね。これはほとんどフロア・タムとタムだけのパターンです。普通に叩くとクレイジー・ホースみたいな曲になるから、ちょっとパターンを変えていこうって試していくうちに、パーカッションっていうか、コンガ、ジャンベみたいな雰囲気をフォーク的に収められないか、っていう発想になって。それで幾つかパターンを探して、どこかから取ってきた……あ、音ネタを思い出したから言いませんね(笑)」

●気になるな(笑)。

「あるところから持ってきたビートなんで、ビートに関してはサンプリングっぽい感じだったのかもしれませんね」

●でもとにかく、これで10曲全部について訊きましたね。リズム・アプローチに関してだけは(笑)。じゃあ、ここからは、もう少し違う角度から訊かせてください。

「はい」

●いきなり乱暴な質問なんだけど、この『ノスタルジア』っていうアルバムで、岡田くんはどういったフィーリングを一番捉えたかったのか? あるいは、どういったフィーリングの広がりを一枚のアルバムの中に収めたかったのか? と訊かれたらどう答えますか。

「答えになるかわからないですけど、書きたかったのは自分の内的なことや、普段自分が思っていることでした。それを違う言葉に置き換えたり、音楽にしていく作業だったんですよね。言葉に出来ないから音楽にする、っていう根本的なところに立ち返ったんです。それって森が生きているが面倒臭がられるところでもあったんですけど(笑)。もちろん、それでも歌詞はつくけど、あくまで受け手の中で幾らでも広がる言葉を選びながら作りたいと考えていて……久々にしゃべるからどう言っていいかわからないな(笑)」

●しかも、岡田くんが言葉に出来ないって言っていることを、具体的に言葉で説明してください、って頼んでいるからね(笑)。

「ひとつとしては自分の内的なものを映し出すこと。ただ、自分が思っていることを誰かと共有したいというわけではなかったんです。それは表現として簡単だし、日本にはそういう音楽が多過ぎる」

●うん、共感のメカニズムを利用した音楽ね。

「『馬鹿な大衆をどうやって転がしましょうか』って会議室で作ったような共感にみんなついて行っているのもすごいなと思うんですけど。キャッチコピーをつけて人を煽っていくような音楽は、すごくファシズム的だという感じもして。自分はそうなりたくないんですよ」

●わかります。

「そういう意味では、ソーシャルな作品にしたかったし、ポリティカルなものでもありたいと僕は強く思っていますね。ただ、それも押しつけたくはないんですけど、僕は書きながらそういうことを考えていた時もあったから、そういう風に感じられる瞬間もあるだろうし、全然感じない部分もあるだろうし」

●その文脈で言うと、ディランはどう思いますか? 彼は仄めかしとはぐらかしの人だと思うんですよ。例えば、読者向けにベタベタな例を挙げると、“風に吹かれて”とかって明らかに仄めかしてるわけじゃないですか?

「確かに」

●でも、同時に、はぐらかしている。だから、全部を説明はしないんだけど、誰もが共有出来るようなフックは提示するんですよね。

「なるほど」

●例えば、“ライク・ア・ローリング・ストーン”とかにしてもめちゃくちゃ仄めかしているけど、最終的に説明しないし、答えを言わない。

「そうですね」

●で、ディランが世界最高の詩人と呼んだのはーー。

「ディラン・トマスでしたっけ?」

●いや、ディランにはフォーク・ソングは勿論のこと、ビートニクやそれ以前のディラン・トマスの流れもあるんだけど、ミラクルズのスモーキー・ロビンソンみたいな〈モータウン〉の作詞家の流れも確実にあって。

「なるほど」

●俺はやっぱりポップ・ソングの詩が大好きなんですね。で、ディランの詩が好きなのはスモーキー・ロビンソンの流れがあるからだと思う。ロジャー=ホランド=ロジャーがやったみたいに、映画やTVドラマを見てて、「あ、この台詞から1曲書ける!」みたいな感じで曲を書くとか、時代をキャプチャーするコピーライターとしてのディランも好きなんです。でも、そういう作詞家とは違うっていうことですよね? 岡田くんも増村くんも。

「たぶん増村はやりたくないだろうけど、本来、僕はそういうタイプだと思います。やりたいんですけど、ただそれを日本語でやるのは危なっかしい話なんですよね。日本語でやってもいいと言われれば、そうかもしれないです。でも、これまでのJ-POPの詩学ってそういうものでもあるじゃないですか。ある意味、J-POPはみんな、ディラン的なのかもしれない(笑)」

●確かにそういうところはあって、例えば、ディランの手法のひとつでもある、タイトルを歌詞の最後に持ってくる曲構成。あれは今も秋本康がやってることなんですよ。

「あ、そうなんですね。僕は井上陽水が浮かびましたけど」

●井上陽水もそう。だから、サイケデリック時代のディランを翻訳した井上陽水のスタイルを気がつけば秋元康が受け継いでいる。これも悩ましいなって(笑)。

「悩ましいですね。でも、日本語のポップスにそういうスタイルがある一方で、とにかく内的に書いてたものはなかったから」

●確かに。じゃあ、日本語で内的なものを書くんだって考えた時に、ロール・モデルとなるような作品や作家はほぼ思い浮かばなかった?

「松本隆は上手いと思いますけどね。はっぴいえんど後のトレンディドラマみたいな歌詞も上手いけど、やっぱり『風街ろまん』の歌詞は別格だったと思います。それと、増村は僕の中では大きかったですね。他にそういうタイプがいるなら知りたいと思って、すごく探したんですよ。でも、自分が思っているようなことを書いてる音楽はあまりなかったなと」

●内的なものを書くっていう方向性は、今後も推し進めたいという気持ちはありますか?

「いや、自分の内側のことを書いて、言葉に出来ないことを言葉にするみたいなことをやっちゃうと、もう書くことがないんですよね。そう考えると、確かに『風街ろまん』は一枚しか作れないんだなって」

●確かに。

「だから、自分も『ノスタルジア』は一枚しか書けないですね。ただ実際、いろんなスタイルで歌詞を書いている人がいるかっていうと、案外みんな限定されたスタイルで書いてますし。そこはあんまり意識しないでいいかなと今は思っていますね」

●じゃあ、少し整理しましょう。今話してもらったように、リリックにおいては、誰もやっていない内的な表現を形にするっていうのがアルバムのアイデアだったわけですよね?

「そうですね」

●音楽面で言うと、フォーク・ミュージックを更新させること。なおかつ、欧米のインディ作家たちがやっていることと部分的に共振しながら、その人たちの難しさも共有しつつ、自分なりの回答を出すこと。これもアルバムのアイデアのひとつだった。

「そうです」

●その方法論として、リズム面では綿密なアプローチをして、それをアルバムに散りばめた。それも本作のアイデアのひとつ。

「アイデアのひとつですね」

●じゃあ、この『ノスタルジア』に込めたコンセプトで、これまでの話からはスッポリと抜け落ちているものは何かありますか?

「いや、そんなところですかね。ただ付け加えておくことがあるとすれば、更新するのと、最先端の音楽をやるのは違う、ということで。今回は、とにかく新しい音楽をやりたい、という気持ちはなかったんです。今は流れが速過ぎるのもありますし、最先端って一番古くなりやすい。一回やってしまうと、何年も使えない手法になる音楽が多いじゃないですか。だから、もちろん最先端の音楽も頭に入れた上で、それとは違うアプローチをしていこうと考えていました」

●なるほど。

「そう考えた時に、今は誰もやらないけど、まだ何かしらの可能性があるな、と思ったのがブルックリンの人たちだったんですよね。ブルックリンの音楽は真似するのがとにかく難しいし、蓄積と根気がないと本当に出来ない音楽で。で、そこを避けてきたのが日本のロック・バンドのシーンだと思うんですよ。ブルックリンの音楽は、海外の今のメインストリームの流れの一要因にもなっていると思うんですけど」

●例えば、デイヴ・ロングストレスとヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグは、カニエ・ウェストやリアーナと曲を書いたりしているしね。元ヴァンパイアのロスタムはフランク・オーシャンの『ブロンド』に参加していたし、デイヴ・ロングストレスはソランジュのアルバムにも参加してた。

「でも、日本ではみんな、あそこを通らないままネオ・ソウルに行ったじゃないですか。結局、今の(日本の)ネオ・ソウルっぽい音楽は、USのネオ・ソウルっていうよりは、ディアンジェロの『ブラウン・シュガー』だったり、90年代のUKのアシッド・ジャズの雰囲気で、10年代のオルタナティヴなR&Bの感覚はあまり感じない。それは新しい音楽とは思えないんですよね。森を解散した年にそういうことを考えていて、そこから始まっている音楽が『ノスタルジア』なので。そこは意識したところではありましたね」

●つまり、岡田くんはブルックリンの音楽家たちが投げたバトンをちゃんと受け取って、投げ返した?

「誰に投げたんだろう?(笑)」

●(笑)でもさ、誰に投げたかわからないけど、投げようとしたっていうことでしょ?

「まあ、そうですね」

●「この人なら確実に受け取ってくれるだろう」っていう期待はせずに作ったレコードでもあるわけじゃない?

「それはそうですね。だから、森は生きているってフォロワーがいないんですよね」

●いないよね。でも、言ってみれば、森の2ndアルバムというのは「誰も俺たちのフォロワーにはなれない」っていうレコードでもあるし、「俺たちが東京インディを終わらせます」っていうレコードでもあったわけじゃないですか?

「そう聴こえたなら、そうかもしれないですね(笑)。まあ、でも流れは違うところに行ったから、それを言っても意味がなかったなって感じですよね」

●でも、それは言いたかったっていうことだよね?

「まあ、どうなんでしょうねえ?」

●(笑)これはリスナーの怠慢だけど、でもやっぱり、あのレコードを作って解散ーーそういった形だとスルーされるんだよ。

「されましたね」

●だから、みっともなくても、しつこく語りかけるってことしかないんだと思うな。このレコードみたいに。

「ハハハッ」

●じゃあ、最後にカジュアルな質問を2つさせてください。

「はい」

●岡田くんが今年の年間ベスト・アルバムのチャートを1位から100位まで作ってくださいと言われたら、『ノスタルジア』を何位に入れますか?

「これはどうだろう……外人含めたら、圏外じゃないですか?」

●50位以内に入れた俺たちの立場は?(笑)

「マジっすか(笑)。今年はまだ聴いてない新譜が結構あって。去年は聴きたくない音楽もいっぱい聴いたんですけど、今年は聴きたいものしか聴かなかったんですよね。だから、そんなに枚数を聴いていないから、その中で言うと……33位くらいですかね。でも、点数は10点満点なら6.4点のアルバムかな、って感じです」

●(笑)じゃあ、ふたつ目の質問。そのチャートのベスト3には何を入れますか?

「今年はロック・バンドがいっぱい出しましたけど、一番聴いたのはグリズリー・ベアの『ペインテッド・ルインズ』かな。タナソウさんは全然引っかかってなさそうですけど」

Grizzly Bear / Mourning Sound (from Painted Ruins)


●(笑)俺、グリズリー・ベアと岡田くんのレコードを並べて聴いてみたんですよ。勿論それぞれ違うことをやっていますよ。でも、声の届かなさっていう点で、同じフォルダに入っちゃってる。ごめんね(笑)。

「グリズリー・ベアもわざわざメジャーの〈RCA〉に行ったのに全然売れてないっぽいですからね、ヤバいですよね(笑)」

●確実に新しい冒険はあるけど、商業的には今年一番の失敗作。

「そうなんですよね。『ペインテッド・ルインズ』は、ロック・バンドの音響っていう意味では新しいことをしていたし、なおかつ時代に乗らない、過去の自分たちとも違うし、歴史的に似た音楽が無いっていうところも含めて、すべて完璧にやりこなしたアルバムだったと思うんです。でも、それでウケないような難しい時代なんだな、と。たぶん自分の志向と彼らの志向が近いところにあるのも大きいと思うんですけど。だから、1位はグリズリーですね」

●じゃあ、2位は?

「ウォー・オン・ドラッグスのベーシスト、デヴィッド・ハートリーがやっているソロ・プロジェクトなんですけど、ナイトランズの『アイ・キャン・フィール・ザ・ナイト・アラウンド・ミー』は聴きました?」

●まだ聴いてないや。

Nightlands / Lost Moon (from I Can Feel The Night Around Me)


「もしかしたら、今年はグリズリー以上にそれを聴いたかもしれません。新しいか新しくないかで言うと、ホイットニー的な部分はあるんですよ。ただ、僕は次はAORをやろうと思っているので」

●ホントに? でも、AORっていろんな定義があるじゃないですか。

「そうですよね。いわゆる今のシティポップみたいなのはもううんざりだし、坂本慎太郎の『幻とのつきあい方』みたいなのもAORって言うんだったら、ああいうのばかりになってしまったから今更やっても面白くない」

●同意します。

「でも、僕が考えているAORっていうのは、イーグルスのラスト・アルバム『ロング・ラン』の2曲目“アイ・キャント・テル・ユー・ホワイ”みたいな感じなんですよ」

●そうなの? そのポイントは?

「これはニューウェイヴなんですよね。ちょっとシンセ・ポップっぽいですし」

Eagles / I Can’t Tell You Why


●あの曲、確かベーシストのティモシー・B・シュミットが書いた曲だったんじゃなかったかな?(※クレジットはティモシー・B・シュミット、グレン・フライ、ドン・ヘンリーの3人)。

「あ、そうなんですね。そう言われてみれば、ベーシストっぽい音楽かも。これのイコライザー変えると、2017年っぽい音になりますよ」

●聴き直さなきゃ。ただ、あの曲が出た時、イーグルス・ファンはみんな「日和った」って言ってたんですよ。当時、俺は高校2年生だったけど。

「マジっすか(笑)。いや、時代は変わりますよ」

●でも、俺、今年はイーグルスとドゥービー・ブラザーズとシカゴとフリートウッド・マックをすごく聴いてたんだよね。

「フリートウッド・マックもすごく好きです。全然聴いてなかったんですけど、『噂』とか、あの辺りの80年代のが一番いいですね」

●いや、もう最高。2017年っぽいとも思うし。で、ナイトランズのアルバムにも、そういった文脈のAORを感じるということ?

「そうですね。チルアウトしてるけど、ヴェイパーウェイヴ的な感じでもなく楽曲もしっかりしてるところで、このナイトランズのアルバムが完璧にAORを再定義したと思っていて。全然売れてないし、AORと感じてるのも僕だけかもしれないですけど(笑)」

●そういう意味では、次の指針にもなるレコード?

「そうですね。迎合せずにもうちょっとポップなものをやるならどうしよう? と考えていて。今までシティポップと呼ばれるのが嫌過ぎて、AORを封印していたんですよ。でも、今更何を言われてもどうでもいいし、括ってくれるなら括ってもらいたいくらいなので(笑)。じゃあ、シティポップやってみようかな、みたいな」

●(笑)より具体的にナイトランズのアルバムが面白いと思ったポイントは何だったんですか?

「音響が過激だっていう一言に尽きるんですけど。AORは誰もが心地よく聴けるライトでメロウな音楽だから、わざわざ過激にする必要がないんだけど、しているんですよ。ヴォーカルの編集がすごく面白かったですね。そういう意味では、ボン・イヴェールの『22、ア・ミリオン』くらい過激。でも、エフェクターっていうよりは、もっとフィジカルに過激なコーラス・ワークを使っているのが面白くて。で、曲がマイケル・マクドナルドみたいなんです」

●へぇー。言ったら、中期以降、ドゥービー・ブラザーズの声になってくマイケル・マクドナルドも2017年の顔だよね。サンダーキャットのアルバムへの参加もあったわけだし。

「まさか17年にまたジョージ・デュークを聴くことになるとは思わなかった(笑)。ファーザー・ジョン・ミスティは曲はいいけど、音響プロダクションがもうちょっと、っていうところをナイトランズはクリアしていると思います。こういうのをやってみたいと思っているところなので、グリズリーよりも聴いているアルバムかもしれないですね」

●岡田くんがAORをやるとなった時に、他にも参照点になりそうな作品はあるんですか?

「探したんですけど、結構見つからなくて。バレアリックにカテゴライズされているけど、あんまり打ってない曲がネタとして使えそうだな、とは思っています。打ち過ぎちゃってるとDJの音楽になっちゃうんですよね。ああいう音響だけど、曲はそんなにミニマルにしないで、それこそニルソンやランディ・ニューマンみたいなフィーリングで作れたら面白そうだなって」

●なるほど。じゃあ、3位に選ぶアルバムは何ですか?

「去年のアルバムなんですけど、ソランジュの『ア・シート・アット・ザ・テーブル』が今年に入ってからグッときましたね」

Solange / Don’t Touch My Hair (from A Seat at The Table)


「あれも似てる音楽が無いんですよ。R&Bだけど、インディ・ロックの人たちが関わっていたから、そういうフィーリングもありますし。(メインストリームのR&Bに)カテゴライズされちゃってたから当時はあんまり聴いてなかったけど、一筋縄ではない。乱暴な言い方ですけど(笑)」

●あのレコードは簡単にジャンルの枠には押し込められない作品ですよね。

「ちゃんと聴いたら、本当によく出来てるアルバムで。それこそ曲がいいっていうのが、まずグッときたポイントでしたね。あの手のアルバムは似たような曲が多い印象もあるんですけど、全然違いましたし。あのアルバムは何か秘めてる感じがしました」

●なるほど。

「とりあえずソロで1枚作って、森の背負っていたものが全部外れたんですよ。これからは作るのが楽になるかなって感じだから、次はソランジュみたいなAORかな(笑)」

●(笑)でも、こういう言い方をしたら怒りますか? 森の2ndが東京インディを終わらせた1枚、そして『ノスタルジア』がブルックリン経由のUSインディの日本での受容にとどめを刺した1枚。嫌だよね?

「いや、別に(笑)」

●やっぱりこれを作ったからこそ、岡田くんも次に行ける、別のところに行けるっていうレコードだと思うんですね。

「そうですね」

●じゃあ、編集長の小林に言って、〈サインマグ〉での順位は岡田くんの指示通り、33位にしておきます(笑)。

「ハハハッ(笑)」

●だから、また1位のレコードを作ってください。

「そうだ、森の2枚目は1位だったんですよね」

●でも、今だから話すけど、『グッド・ナイト』の時、岡田くんと増村くんの取材に行く道すがら、俺、「絶対、このレコードは売れない。なんなら、森のキャリアはこれで終わる」って言ってて。渋谷の歩道橋の上で(笑)。

「縁起でもない(笑)」

●でも、「2014年に日本からこのレコードが生まれたことは絶対に残さなきゃいけない。20年後にも伝えなきゃいけない」とも言ってて。そういう文脈もあったんです。そしたら、本当に解散するからさ。「ふざけんな!」っていう(笑)。

「やることないですもん、あれを作ったら」

●まあ、そういうレコードだよね。

「そうですね」

●読者にはこの『ノスタルジア』や森の2枚のアルバムを繰り返し聴いて欲しいとは思うけど、今、岡田くんが話してくれたようなアイデアにはやっぱり興奮させられますね。それがソロなのかバンドとしてのアウトプットになるのか、AORなのかソランジュなのかわからないけど、それを独自に再定義することが出来るアイデアもあるわけでしょ? それはやるしかないよね。

「そうですね。今はすごくイマジネーションに溢れている状態なので、やりたいなと思いますね」


Photo : Kazumichi Kokei

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