SIGN OF THE DAY

PJハーヴェイ来日を見逃すと一生後悔する?
12500円は高くね?ほとんど曲知らないし!
というあなたの疑問と不安を一挙解決します
by YOSHIHARU KOBAYASHI December 13, 2016
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PJハーヴェイ来日を見逃すと一生後悔する?<br />
12500円は高くね?ほとんど曲知らないし!<br />
というあなたの疑問と不安を一挙解決します

2017年はPJハーヴェイの来日公演を観ないと始まらない。これは決して大げさな話ではありません。遂に来日するアラバマ・シェイクスを観なければ年を越せないように、年明けにまず観ておくべきは、何を差し置いてもPJハーヴェイ。これは疑う余地のない事実です。

と言われても、ピンとこない人も多いはず。それも仕方ありません。ここ20年近く、彼女の活躍はきちんとした形で日本に伝わってなかったんですから。

なので、まだ来日公演のチケットを手に入れていない人は、こんな風に思っているのではないでしょうか。単独公演なのにチケット代12,500円は高すぎる。最近のPJハーヴェイはよく知らないから、楽しめるか不安。近年の海外での高評価で名前を知ったけど、昔の曲は知らないからついて行けなそう。いや、そもそも、PJハーヴェイってどうしても今観ておかなくちゃいけないアーティストなの?――こういった疑問はごもっとも。なので、それらをひとつずつ順番に解決していきましょう、というのが本稿の趣旨になります。

まずは最近のライヴ映像を観て下さい。2016年6月にオランダで行ったライヴのフル・セットです。

PJ Harvey live at Down The Rabbit Hole 2016


YouTubeで見ただけでも、「うわ、これはすごそうだな!」ということは伝わるでしょう。でも、ただ映像を見せただけでは、チケットを買うべきか慎重になっている人の背中を十分に押せたとは思えません。なので、先ほど書いた通り、ここからは二の足を踏んでいる人たちの疑問や不安にお答えしていきます。まずひとつ目はこちらから。




1. チケット代が12,500円は高すぎない?

確かに高い。でも、高いんですよ、今。まず前提として共有しておきたいのは、CDが売れないどころか、フィジカルのリリースさえしないアーティストも増えている昨今、リスナーがアーティストに対価を払う一番のポイントは、ライヴの現場への参加だということ。というか、アーティストはライヴとマーチャンダイズで稼いでいる。その結果として、ライヴのチケットが高騰する傾向にあるのは決しておかしな話ではありません。これは日本に限ったことではなく、世界的な動きです。

そのわかりやすい例として挙げられるのは、ある程度のビッグ・ネームのライヴになると、通常のチケットに加え、高額なVIPチケットも用意されるようになったこと。

試しに海外のチケット・サービスを覗いてみて下さい。カニエ・ウェストやウィークエンド、チャンス・ザ・ラッパーといったヒップホップ/R&Bのビッグ・アクトだけでなく、グリーン・ディやウィーザーといったベテランのロック・バンドも数万円のVIPチケットを販売しています。

ここ日本でも〈ウルトラ・ミュージック・フェスティヴァル〉がVIP席導入で成功して以来、そのスタイルが増えてきました。2017年に開催されるガンズ・アンド・ローゼズやコールドプレイの来日公演は、安い席でも9,000~10,000円、VIP席だと30,000円です。

もちろん、ライヴハウス~ホール会場クラスのアーティストのチケットはもっとお手頃。アーティスト本国のライヴだと4,000~5,000円程度。来日公演だと6,000~7,000円が相場。ただ、海外でネーム・ヴァリューが上がってきているアーティストになると、若手でも来日公演のチケットはどうしても高くなります。最近の例を挙げると、アラバマ・シェイクスが8,500円、The xxが9,000円ですから。

PJハーヴェイが今、海外でどれくらいのネーム・ヴァリューなのかは後述します。ただ、ここで考慮してほしいのは、アラバマ・シェイクスやThe xxは3~4人のコンパクトなコンボ・スタイルだということ。それに対し、今回のPJハーヴェイ来日公演は10人編成の大所帯です。しかも会場は、収容人数2,000人の〈Bunkamura オーチャードホール〉。ロンドンでは5,000人収容の〈ブリクストン・アカデミー〉で2デイズやることを考えると、かなりのプレミア・ライヴだと言っていいでしょう。

総合的に見て、これが高いか安いか。その判断は皆さんにお任せします。ただ、世界的なチケット価格の状況を考慮すると、12,500円は決して無茶な価格設定ではない。という視点があることは理解してもらえるはずです。



2. この機会を逃しても観られるんじゃないの?

なるほど、確かに。だって、我々はドナルド・トランプが次期アメリカ大統領の時代に生きているわけですからね。未来に何が起こるかなんて、誰にもわかりません。といった性質の悪い冗談はさておき。現実的には、次はいつPJハーヴェイを観られるかわからない、と考えるのが妥当です。

なにしろ、25年のキャリアを持つPJハーヴェイがこれまでに来日公演を行ったのは、たった三回だけ。2nd『リッド・オブ・ミー』をリリースした後の93年が初来日、3rd『トゥ・ブリング・ユー・マイ・ラヴ』の後の95年が二回目、そして2004年の〈フジロック〉が最後です。そう、彼女は来日自体が13年ぶり、単独公演に至ってはなんと22年ぶりです。

PJ Harvey / Sheela-Na-Gig (live in London 1993)

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PJ Harvey / Meet Ze Monsta (TV Performance 1995)

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前作『レット・イングランド・シェイク』(2011年)リリース時はオーストラリアにまで足を伸ばしているので、日本に立ち寄ることも日程的には可能だったはず。でも来ていない。といったことも踏まえると、今回の来日公演は本当に貴重。これを逃すと日本では一生観られない可能性だってあるでしょう。逆に考えれば、その場に居合わせれば一生自慢出来ることになるかもしれない。それが今回の来日公演なのです。



3. そもそもPJハーヴェイって、絶対に観ておかなきゃいけないくらい、すごいの?

お答えしましょう。すごいんです。PJハーヴェイは90年代初頭から活動を続け、常にレフトフィールドの信頼を勝ち得ながら、商業的にも成功している数少ないアーティストの一人。

彼女が最初に世界的な成功を手にしたのは、3rd『トゥ・ブリング・ユー・マイ・ラヴ』(1995年)。これは全世界で100万枚以上のセールスを記録し、〈ローリング・ストーン〉や〈ニューヨーク・タイムス〉などで年間ベスト1位を獲得。商業的にも批評的にも最初のピークを迎えます。

PJ Harvey / C'mon Billy (1995)

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それから5年、2000年リリースの5th『ストーリーズ・フロム・ザ・シティ、ストーリーズ・フロム・ザ・シー』ではマーキュリー・プライズを初受賞。トム・ヨークとのデュエット曲“ザ・メス・ウィア・イン”が話題になったのも、このアルバムです。これが二度目の全盛期。

PJ Harvey / This Is Love (2000)

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そして、前作『レット・イングランド・シェイク』(2011年)から最新作『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』にかけては、第三の全盛期と言っていいほど彼女の評価は高まっているのです。

PJ Harvey / The Community of Hope (2016)

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今、彼女がどれほど評価されているのか? 具体的に見ていきましょう。

『レット・イングランド・シェイク』は〈NME〉や〈ガーディアン〉を始めとした9つの音楽メディアで年間ベスト1位を獲得。史上初となる二度目のマーキュリー・プライズ受賞という偉業も成し遂げました。

そして先日発表された第59回グラミー賞のノミネーションでは、デヴィッド・ボウイ、レディオヘッド、ボン・イヴェール、イギー・ポップの最新作と並んで、PJハーヴェイの『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』がノミネート。

この事実からも、今現在、いかに彼女の評価が高いかわかるでしょう。特定のシーンに属していないがゆえにポジショニングが見えにくいですが、今のイギリスにはレディオヘッドとPJハーヴェイしかいない。と乱暴に言い切ってもいいくらいです。

そんなPJハーヴェイのすごさは、〈ホステス〉の特設サイトに掲載された宇野維正氏と田中宗一郎による特別対談でもたっぷりと語られています。こちらも併せて読んでみて下さい。

PJハーヴェイ特別対談
田中宗一郎×宇野維正




4. 高尚な感じがするし、ライヴの楽しみ方がわからない

確かに直近の二作が掲げるテーマは「高尚」と言われても仕方ありません。『レット・イングランド・シェイク』は第一次世界大戦を起点に「戦争」を描いていますし、『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』は言わば世界中に散見される政治的問題のルポタージュ。しかし、大方のシリアスなメッセージを持ったアーティストと同じく、PJハーヴェイもライヴ自体は祝祭的な空間です。ここは、実際にライヴの映像を見てもらうのが早いでしょう。

PJ Harvey / The Words That Maketh Murder (live2016)

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この通り、彼女たちのライヴはPJハーヴェイの歌を中心に、観客とステージ上の10人が一体になってひとつの空間を作り上げていくもの。超絶技巧で観客の目と耳を釘づけにするメンバーは、いい意味で存在しません。そして、曲によってはほとんど何もしないメンバーもいたりします。つまり、彼女たちのライヴでスポットライトはメンバーに当たっているのではない。あくまで主役は音楽そのものとオーディエンスなのです。

そういった意味では、PJハーヴェイのライヴはロック・バンド的というより、フォークロアの伝統に連なるものだと言っていいでしょう。なので、構えてしまう必要はありません。私たちは何も考えず、ただ音に身を任せて歌ったり踊ったりすることが、最高の楽しみ方なのです。



5. でも、今から来日までに何枚もアルバム聴かなきゃいけないんでしょ?

いや、極論を言うと、実は直近の二作だけでいいんです。彼女はある時期から、「今、自分がステージ上で演奏したいと思える曲しか演奏しない」と、過去の大半の曲をセットリストから外しました。実際、今回のツアーも、前作『レット・イングランド・シェイク』と最新作『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』からの曲を中心にセットを組んでいます。この二作の位置付けは、先ほどリンクを貼った対談記事で語られている通り。これらのアルバムを聴きながら対談を読めば、2時間もかからずに、ほぼ予習が完了です。

とは言え、勿論、最近のツアーでも演奏され続けている往年の名曲があるので、ここで幾つか紹介しておきましょう。これらの代表曲がセットリストのどの辺に組み込まれるかは、当日のお楽しみ。ただ、これをしっかり押さえてもらうだけで、ライヴ当日は何倍も楽しめることになるはずです。

では、行ってみましょう。まずは2ndアルバム『リッド・オブ・ミー』(1993年)から“50ft・クイーニー”。このアルバムのプロデューサーは、ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』(1993年)と同じスティーヴ・アルビニ。その事実が端的に示すように、当時の彼女は音楽的にニルヴァーナと並走する存在でした。実際、この曲は、現在の彼女のレパートリーの中でもっともアグレッシヴなサウンド。リリックの内容は、男性原理主義を揶揄しながらも、どこかユーモアを感じさせるものです。詳しい歌詞の内容は、先ほどの対談をどうぞ。

PJ Harvey / 50ft Queenie


続いて紹介する“ダウン・バイ・ザ・ウォーター”は、PJハーヴェイ初の世界的ヒットとなった3rdアルバム『トゥ・ブリング・ユー・マイ・ラヴ』(1995年)を代表する名曲。音楽的には当時イギリスで盛り上がっていたトリップホップを取り入れたエレクトロ・ブルーズ、といったところでしょうか。この曲も件の対談でガッツリ触れられていますが、そこで話題に上っている宇多田ヒカルとの不思議なシンクロはなかなか興味深いです。

PJ Harvey / Down By The Water

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そして、この“トゥ・ブリング・ユー・マイ・ラヴ”は、3rdアルバムのタイトル曲にしてオープニング・トラック。“ダウン・バイ・ザ・ウォーター”より更にヘヴィでブルージーなサウンドです。「私は砂漠で生まれた」と始まるリリックも、ブルーズの伝統に則ったものだと言えるでしょう。ちなみに、キャプテン・ビーフハートのデビュー作『セイフ・アズ・ミルク』(1967年)の一曲目“シュア・ナッフン・イエス・アイ・ドゥ”も、「俺は砂漠で生まれた」という全く同じフレーズで始まります。どちらもブルーズを現代的に再解釈したアーティストだと考えると、その時代を超えた偶然の符合には驚かされるばかり。

PJ Harvey / To Bring You My Love

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これでもう、ほとんど予習は完璧も同然。ライヴを楽しむ準備は万端。というわけです。



最後にもう一度言っておきましょう。2017年はPJハーヴェイの来日公演を観ないと始まらない。彼女のライヴを日本で観られるのは、もしかしたらこれがラスト・チャンスかもしれない。さあ、だまされたと思って、チケットを手に入れてみて下さい。きっと10年後、20年後も誰かに自慢出来るような体験があなたを待っているはずです。




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