SIGN OF THE DAY

〈サマーソニック〉はクイーンで締めるべし
老害と侮るなかれ。大英帝国が誇る、最古の
萌えバンド、その華麗なる10曲。Part.1
by SOICHIRO TANAKA August 15, 2014
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〈サマーソニック〉はクイーンで締めるべし<br />
老害と侮るなかれ。大英帝国が誇る、最古の<br />
萌えバンド、その華麗なる10曲。Part.1

やっぱり夏フェスはお祭りだ。と、ついこの間、いや、そもそもフェスの善し悪しを決めるのは魅力のあるアクトがいるのか/いないのか、観るべきものを観るのが一番という基本に立ち返りたい。と偉そうにのたまった舌の根も乾かないうちに、まずこんな風に宣言することから始めたい。そう、やっぱりフェスはお祭りなんです。おら、一体どっちなんだ? まあ、どっちもだな。真実とはその時々に、ある時は白、ある時は黒と断定することによって、ようやくその輪郭が浮かび上がってはまた消えていく、決して言葉が届くことのないグレイ・ゾーンなんだよ。もしくは、真実なんて、誰かがそう感じた瞬間にすべからく真実なんだ。と、お得意のレトリックで煙に巻きつつ、自己弁護することにしておきます。

にしても、やはり真実はある。夏フェスというのは、最後の最後に激上がりする瞬間がなければ、どうにもならない。終われない。これが真実。つい先頃の〈フジ・ロック〉でアーケイド・ファイアを観た人なら納得だろう。であるならば、今年の〈サマーソニック〉はやはり、クイーンで締めなければならない。正直、すべての観客を凄まじいユーフォリック空間に誘い、目も眩むような怒濤の大団円を巻き起こすことにかけては、アーケイド・ファイアもアーティック・モンキーズもかなわない。ガキには無理。でも、もはやクイーンなんて老害じゃねーか。まあ、確かに。若かりし頃、世界中のうら若き女子たちに黄色い声援を上げさせ、あろうことか失禁までさせたロジャー・テイラーの美貌はどこに行った。もはやブライアン・メイは白髪のお爺ちゃんだ。だが、ヴォーカルはアダム・ランバートじゃないか。32歳じゃないか。お肌ぴちぴちだ。アイ・シャドウも真っ黒だ。ルックスの話じゃない?音楽の話か。まあ、いいや。

それに世の中にはアダム・ランバートは知ってても、むしろクイーンって何? それ、食えるの? という女子もたくさんいるに違いない。てか、普通そうだろう。それにここ日本では、アーケイド・ファイアよりもアーティック・モンキーズよりも、クイーンやアダム・ランバートの方が遥かに知名度がある。悲しいかな。それに、ごりごりのインディ・キッズでもクイーンの名前だけは知っているはず。え、知ってるのは名前だけ? じゃあ、俺が説明してあげますん。

まず全盛期のクイーンというのは、とにかく最強のアイドルだった。しかも、70年代の少女漫画のキャラクターのモデルになったりもして、いろんな組み合わせで当時の腐った女子たちを萌えまくらせていたのです。日本のコスプレ文化の源泉を遡れば、そこにスター・トレックのコンベンション大会があるように、BL文化の源泉を遡れば、クイーンに辿り着く。つまり、有史以来最初の萌えバンド、それがクイーン。今のストライプスの比じゃないスよ。

試しに、お母さんやお婆さんに訊いてみてみ。今じゃすっかり嵐や山Pに熱を上げてるお母さまも、当時はクイーンの4人にガチ夢中だったんだから。今、うちのママが好きなのは舞祭組? 知らねーつの。だって、70年代の終わり頃、俺の高校時代の同級生どもときたら、昨日のクイーンのコンサート行ったん? ほんまに? 行った行った行った! ほんだらロジャー・テイラーがステージからドラム・スティック投げてん! あたし、それ、ゲットした! どれ? これ! キャー、さわらせてー! つって、大騒ぎだったスよ。クラッシュに夢中だった俺からすれば、このメス豚どもが! さかりついてんじゃねーぞ。つーかさ。おい、高校生のガキだったから仕方ないとはいえ、お前、その発言はさすがにまずいだろ。てか、あいつらも〈サマーソニック〉行くのかな。怖いな。

だが勿論、ルックスと人気だけじゃない。クイーンは音楽的にも優れていた。とにかく音楽的にエクレクティックだった。デビュー当時こそ、レッド・ツェッペリンの劣化版とプレスからは散々な扱き下ろされようだったものの、その後、少しづつ、そして、どこまでも奔放にその音楽性を広げていった。ボードヴィル音楽、オペラ、クラシック、黎明期のロックンロールからロカビリー、ファンク/ディスコ――。気がつけば、デビューから10年も経った80年代前半には、時代はすっかりパンク/ニュー・ウェーヴ全盛期だというのに、大英帝国の国民的バンドに上り詰めたというわけ。おい、さすがにちょっと説明が駆け足すぎやしないか。でも、まあ、日本語のwikiでも多分このくらいだろう。気にするものか。ウェブで長い文章なんて誰も読まないっての。

とにかくクイーンはまごうことなきロック界のレジェンド。別に言う必要はないが、敢えて日本語で言うと、伝説。実際、誰でも知ってるヒット曲が死ぬほどある。もはや世界的遺産と言ってもいい。てか、そもそもお前、クイーン好きだったか? 大昔、クイーン大好きなくるり岸田繁に向かって、でもさー、クイーンってさあ、とか、何か言ってなかったか? さすがの突っ込み。やられた。俺も脇が甘かった。その余計な記憶力の良さはさておき、さては貴様も年寄りだな。引っ込んどけ。俺は若者に語りかけている。つーか、わたしはあんたと違って、ぴちぴちお肌の若者なのよ。透き通るお肌の白さにかけては、正直、島崎遥香だって目じゃない。だって、今、流行りの病弱フェイスに憧れ中♡ そんなうら若き少年少女たちが、デビューから40年のバンドのヒット曲などさすがに知っているわけがない。なるほど。無知を逆手によく言った。つーかさ、例え、一曲や二曲知ってたところで、〈サマーソニック〉のステージ、楽しめんのかよ。なるほど。正論だ。では、やはりこの俺さまが教えましょう。しかも、ただで。

というわけで、クイーン必須の10曲を選んだ。これさえ知っておけば、〈サマーソニック〉のクイーンのステージは120%楽しめる。あなたの夏フェスに大団円が訪れる。いやー、そんなに期待してなかったけど、最後に見事に締まったね。すっかりチケット代のモト取れたね。そんな賢い消費者になれる10曲。因みにこれは究極のビギナー向けセレクト。クイーン玄人さんには申し訳ない。歴史的に価値のある曲、彼らの本当の意味での代表曲の多くはざっくり割愛だ。だって、ウェブに求められてるのは、短い時間ですぐにわかった気になれる簡潔な説明なんでしょ。何か自分で探したり、余計なものを試したりする手間を省くための的確なキュレーションなんでしょ。ザッツ・イナフ! 自虐的な皮肉はもうたくさんですね、皆さん。では、さっさと本題に行きましょう。

取りあえずこの10曲、ロックだロックだ、言うなら、取りあえず知っとけ。そんな10曲。世界の宝。特にクイーンが好きでもない俺さまでも死ぬほど聴いた。でも死なない。なので死ぬほど聴いても大丈夫。あなたのお母さまも腐るほど聴いた。なので、取りあえずアヴリル・ラヴィーン観たいオコチャマ女子は今からでも遅くない。アヴリルの後に一緒にクイーン観ようよ! と、お母さんにチケットねだってみたらどうでしょう。あら、ごめんなさい、あたし、その頃、さだまさし聴いてたわよ。と言われたら、ごめんなさい。



10. Killer Queen

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まずはクイーンの音楽的な懐の深さを証明する曲から。ボードヴィルとクラシックとドゥーワップが交錯する不思議な場所にあるこの曲、和声もシャッフルするビートも三声のコーラスも所謂ロックとはほど遠い。くるりへの影響もさもありなん。タイトルが示す通り、マリー・アントワネットを題材にした、けだし名曲。このデカダンな中世趣味。そりゃ、萌えますわな。にしても、ピックを使わず、コインを使って、ピッキング・ハーモニクス気味に弾くことで生まれたブライアン・メイの特製ギター、レッド・スペシャルの唯一無二のトーン。これにはさすがに痺れざるをえない。クイーン最初の名盤、74年の3rdアルバム『シアー・ハート・アタック』収録曲。

9. Somebody to Love

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前述の“キラー・クイーン”とこの曲はきっとセットの前半で演るはずだから必ず覚えておいた方がいい。冒頭の3声コーラスから惜しみなく下降クリシェの嵐。全編に名曲作りますよ。という気概が溢れている。「誰か/誰か/誰か/僕が本当に愛するにたりうる人を誰かみつけてくれないか」というコーラス。これは社会から阻害されたすべてのフリークスたちのための賛歌。さすがに泣く。これは泣く。ジョン・ディーコンのベース・ラインも最高に跳ねている。

この地味なベーシスト、当時は金髪ドラマーのロジャー・テイラーの次に人気あったんですよ。モテない系女子担当とでも言いますか。で、勿論、フレディ・マーキュリーも超がつくアイドルだった。今では信じがたいことですが。でも、よく見ると、フランツ・ファーディナンドのアレックス・カプラノスと同じギリシャ顔。本名ファルーク・バルサラですから。でもって、芸名でギリシャ神話のヘルメスになっちゃった。このファンタジー趣味。そりゃあ、萌えるでしょう。にしても、フランツというバンドは、欧州を横断する他民族バンド、そのグラマラスな佇まいという意味においてもクイーンの再来だったのです。4人の絶妙なバランスという意味においては完全にクイーンに軍配があがりますが。やっぱり近ごろじゃ、4人全員がどーでもいい感じのメンバーが揃ったバンドが多すぎる。またコールドプレイの悪口か。いや、確かにブライアン・イーノの手を離れた新作はさすがにキツかった。というわけで、別なヴァージョンも見ておきましょう。これは70年代英国ロックの殿堂ハマースミス・オデオンでの79年後のライヴ。

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皆さん、いいですか。3分23秒からのコール&レスポンス。ここ、オーディエンスの皆さんの腕の見せ所ですから。ライヴは観客とパフォーマーが作るもの。最大限に楽しむためには主体性が必要です。70年代半ばならロック好きを公言する連中は誰もが持っていた、76年リリースの5thアルバム『華麗なるレース』収録曲です。

で、こんな風に華麗なる中世の王子さまで、ギリシャ神話の神さまだったクイーンというバンドが、この数年後にどうなるかというと、こうなります。まずは見てみて下さい。特にフレディ・マーキュリー。物質主義の時代、80年代風にさっさと進化します。

8. Another One Bites the Dust

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来ましたね、このルック。さすがフレディ。誰にも真似出来ない。お尻もぷりぷり。しかも曲調はディスコ。しかも付け焼き刃ではない。マイケル・ジャクソンも大のお気に入りのこの曲、実はその大半がベーシストのジョン・ディーコンの手によるもの。当時、シックのスタジオに入り浸っていた彼がそのすべてを盗んで作り上げた特大のディスコ・ヒットなのです。わかってますね、シックというのは、ダフト・パンク『RAM』の最大のミューズ、ナイル・ロジャースが在籍した不世出のディスコ・バンドですからね。これは80年リリースの8thアルバム『ザ・ゲーム』に収録されています。この曲も必ず演るはず。押さえておきましょう。

ここまでアダム・ランバートをヴォーカルに据えた時代の映像を見ていないので、ここらで貼っておきますか。映像の初っぱな、0分8秒を見逃さないで下さい。まずは地味目イケメン巻き毛王子ジョン・ディーコンの今の姿を確認せねばなりません。

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ゆで卵になってたなりー。と思ったら、別人でした。さあ、さっさと次に行きましょう。

7. Under Pressure

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86年の英国ウェンブリー・アリーナでのライヴ映像です。もう見渡す限り人、人、人。大英帝国が誇る国民バンドの勇姿。クイーン二度目のNo.1ヒット。音源はデヴィッド・ボウイとのコラボレーションでした。個人的な話をすると、それまでもさほど興味のなかったクイーンのことは正直、この頃にはきれいさっぱり忘れていた。でも、この曲は何度も聴いた。というか、見た。MTV全盛期ですからね。でも、この通り、大会場にはとても似合う曲なのです。

アダム・ランバート+クイーンの映像も観ておきましょう。これはキエフでのライヴです。冒頭のロシア語の通訳も素敵です。

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ロシアでもこんなに人気があるのか! 因みにここでは、デヴィッド・ボウイのパートを、ロジャー・テイラーがドラムを叩かず、前に出てきて歌っています。他の3人のメンバーの音楽的貢献に比べると、正直ルックスだけ。と揶揄されることもあった彼だけはあります。なので、皆さんも温かく迎えて下さい。この曲、82年リリースの『ホット・スペース』にも収められていますが、正直これは買わなくてもいい。この曲が収録されているベスト盤を探しましょう。

6. Don't Stop Me Now

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え、ここまでの曲、どれも知らない? お前、クイーンの曲は誰でも知ってるとか言っておきながら、嘘っぱちじゃねーか。と言われたら癪にさわるので、日本でのみ超有名曲でもあるこの曲を貼っておく。ここ20年、日本ではTVのCM曲として何度も何度も使われた曲。この曲ありきで日本編纂のベスト盤が作られたりもしました。おそらく〈サマーソニック〉では演らないと思うんだけど。でも、アメリカを制覇する以前は、日本を第二の故郷とさえ感じていたクイーンのこと、サプライズがあるかもしれません。その時は号泣して下さい。その時の準備用。因みに78年の7thアルバム『ジャズ』に収録されています。このアルバム、クイーン70年代最後の狂い咲きとも言うべき、“バイシクル・レース”という超絶曲が収められているので、それだけでも一聴の価値ありです。


というわけで、前編はおしまい。最後にもう1曲、おまけに貼っておきたいと思います。ライヴでは絶対にやらない。84年の10枚目のアルバム『ザ・ワークス』の収録曲。全盛期の彼らに比べると、そんな大した曲でもない。でも、あまりにPVが最高すぎるので貼っておきます。

番外編:I Want to Break Free

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冒頭から目が釘付け。もうとにかくフレディ・マーキュリーのコスプレがイカす。でも、それだけではない。2分13秒からも凄い。ニジンスキーですね。ロシア・バレエ団がドビュッシーの『牧神の午後』を演目にしてた時のニジンスキーのコスプレ。実に堂に入っている。同時期、バウハウスのピーター・マーフィもステージ上でニジンスキーへのオマージュをやってましたが、さすがに敵わない。

というわけで、怒濤の後編へと続きます。



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