フー・ファイターズと並び、20年近くに渡ってヘヴィ・ロック界のトップ・ランナーであり続けてきたクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのドラマー、ジョン・セオドアはニュージーランドのメディア〈ザ・スピンオフ〉の取材に答え、このように話しています。
「いろんな意味で、ギターは絶滅しようとしている。今じゃアップライト・ベースやクラシック・ギターを習う方がパンクだろ……今は新しい世界なんだよ。自分が恐竜になったみたいだと感じることもあるけど、基本的にはこの変化が始まる前に活動を始められたことに感謝している――俺たちはまだギターの世界に深く根ざしているってことさ」
このような彼の認識は、ある面では正しく、ある面では間違っていると言えるでしょう。今の時代、ギター・バンドが苦しい状況に置かれているのは改めて強調するまでもありません。2010年代屈指のギター・アイコンでもあるセイント・ヴィンセントが、2017年最初の新曲としてギターレスの“ニューヨーク”を敢えて選んだのも示唆的です。
しかし一方で、現在のポップ・ミュージックにおいて、ギター・サウンドを如何に取り込むか? というのは、ひとつの重要なポイントでもあります。思い出してみて下さい。2016年に各メディアの年間ベストを総なめしたフランク・オーシャンやビヨンセのアルバムでは、ギターは極めて効果的な使われ方をしていました。
毎度お騒がせのラッパー、ヤング・サグが2017年6月に発表した『ビューティフル・サガー・ガール』も、ギターが大々的にフィーチャーされたものでした。つまり、現在のメインストリームでは、むしろギターの価値は見直され始めていると言えそうです。
そういったメインストリームの動きと並行する形で、ロンドンのアンダーグラウンドでは、ビッグ・ムーンやHMLTDを筆頭とした新世代のギター・バンドが台頭を始めています。それは以下の記事でも書いた通り。サウス・ロンドンを発火点とし、再びイギリスでバンド・シーンが盛り上がる可能性は十分にあるでしょう。
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レディオヘッド『ザ・ベンズ』とピクシーズ
『ドリトル』を繋ぐ完全無欠の女性バンド、
ザ・ビッグ・ムーン、その名もデカいケツ!
ただもちろん、長年に渡って第一線で活躍してきたQOTSAのようなバンドが、ギター・バンドが端に追いやられているという実感を持っていること。そしておそらく、その危機意識の表れとして、マーク・ロンソンをプロデューサーに迎えた彼らなりのポップ・アルバム=『ヴィランズ』を作ったという事実は、欧米の現場のリアリティとして無視することは出来ません。
実際、今のアーティストの多くは、QOTSAと同じような実感を前提とした上で、ギター中心ではないサウンドの在り方を様々な形で模索しています。言い換えれば、マルーン5やコールドプレイの轍を踏まずに、ポスト・ギター・バンドの時代のエッジーなサウンドを如何に作ることが出来るか? というのは、間違いなく今日的な命題だということです。
幾つか具体例を見ていきましょう。The xxの最新作『アイ・シー・ユー』は、まさに理想的な回答のひとつ。ムラ・マサはクラブ・ミュージック文脈が強いとはいえ、やはり現代的なポップを作ることに極めて意識的です。編成自体はギター・バンドではあるものの、インディ・ロックとマルーン5の間でギリギリのバランスを取ってみせるThe 1975も、この文脈に当てはめることが出来ます。
そして本稿の主役であり、The 1975のマシュー・ヒーリーに見い出されたジャパニーズ・ハウスも、そんな今日的な命題に向き合っているアーティストの一人。ジャパニーズ・ハウスは、現在21歳のアンバー・ベインによるソロ・プロジェクト。The 1975、ウルフ・アリスに続けとばかりに〈ダーティ・ヒット〉が放つ、若き注目株です。
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インディ新時代到来の狼煙。The 1975を
擁する英国インディ・ロック最大の震源地、
〈ダーティ・ヒット〉注目アクトを完全網羅
まだ2年余りの彼女のキャリアを追ってみましょう。初期の楽曲は、言わばジェイムス・ブレイクのドリーム・ポップ・ヴァージョン。メランコリックで浮遊感のあるサウンドとメロディを軸としながらも、その音作りはかなり密室的。とりわけ2015年11月にリリースされたEP『クリーン』のタイトル・トラックは、シンセのループや細かいエディットを多用したサウンド・メイキングにしろ、極端に声を変調させることで男女デュエットのように錯覚させるヴォーカル処理にしろ、ジェイムス・ブレイク以降の手つき、と呼べるものでした。
しかし、2016年11月にリリースしたEP『スウィム・アゲインスト・ザ・タイド』から、そのサウンドは明らかにポップな色彩を増しています。中でもEP収録曲の“フェイス・ライク・サンダー”は、メリハリの効いた展開とビッグなコーラスを持ったキラー・チューン。初期の密室性からは解放された、その華やかなシンセ・ポップには、The xxの最新作とも、The 1975とも緩やかに共振する現代性が宿るようになりました。
「(もっとも影響を受けた曲を)いまピックアップするとすればこの3曲。カーペンターズの“クロース・トゥ・ユー”、フリートウッド・マックの“エヴリホェア”、ジェイムス・ブレイクの“ミート・ユー・イン・ザ・メイズ”――私の考える、いいポップ・ソングというのは、簡潔でキャッチーだけど、バカっぽくなくて退屈じゃない曲ね。私にはものすごく書くのが難しい。『自分はポップ・ソングを書くんだ』って決めて、すんなり書けるようだったらいいんだけど」
とはアンバー本人の弁ですが、そういった様々な影響を混ぜ合わせながら独自のポップ・ソングに昇華するコツをつかみ始めたのが、『スウィム・アゲインスト・ザ・タイド』ということなのでしょう。
そして、2017年6月にリリースされた最新EP『ソウ・ユー・イン・ア・ドリーム』では、そのポップ・センスに更なる磨きがかかっています。「あの曲はミニマルで、でもそんなにエレクトロニックじゃない形でレコーディングしようと決めただけ。そのままの方がいちばんパワフルだと思ったから」というタイトル・トラックは、彼女の新たな代表曲となるべき一曲。コクトー・ツインズも想起させる甘いメランコリアに満たされた、どこまでも夢見心地なサウンドです。
「ギター・サウンド」の観点から言えば、初期は英国クラブ・ミュージック由来のエレクトロニック・サウンドに敢えてギターをぶつけ、生楽器ならではの鳴りを際立たせる使い方が目立っていました。しかし、『スウィム・アゲインスト・ザ・タイド』以降は、キラキラと乱反射するようなシンセ・サウンドと俄かには聞き分けがつかないような音色を多用し、より滑らかなアンサンブルを構築しています。“ソウ・ユー・イン・ア・ドリーム”は以前よりもギターの割合が増えた曲ですが、いわゆるロックっぽさを感じさせないのも、そういった彼女の音作りの特徴に拠るところも大きいのでしょう。
このような事実は、彼女がただ無防備にギターを掻き鳴らすだけの凡百のロック・バンドとは違い、「2017年の今、ギターを如何に自分のサウンドに取り込むか?」という問題に意識的であることの証明でもあります。おそらく来たる1stアルバムでは、更にその音楽的な可能性を押し広げてくるはず。そこで彼女はThe xxやThe 1975、そしてムラ・マサなどと並ぶ存在となり得るのか? その答えは、そう遠くない将来にわかるはずです。
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締切:2017年9月7日(木)23:59
通訳:萩原麻理