SIGN OF THE DAY

全米第1位奪取なるか? あらゆるジャンルが
垣根を越え共鳴するクロスオーヴァー元年、
2017年の扉を開いたのはThe xx新作だった
by YOSHIHARU KOBAYASHI January 11, 2017
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全米第1位奪取なるか? あらゆるジャンルが<br />
垣根を越え共鳴するクロスオーヴァー元年、<br />
2017年の扉を開いたのはThe xx新作だった

2016年はヒット・チャートを席巻するポップ・ミュージックこそがもっとも刺激的であり、そこからはジャンルや時代や人種の垣根を越えたエキサイティングで新しいサウンドが次々と生まれていました。フランク・オーシャン、チャンス・ザ・ラッパー、ビヨンセ、カニエ・ウェスト、ソランジュなど、例を挙げればきりがありません。2016年は面白い音楽がきっちりと売れ、売れている音楽こそが面白い。そんな状況が出来上がっていたのです。詳しくは、我々〈サイン・マガジン〉の年間ベスト・アルバムのリードにも書いた通り。

2016年
年間ベスト・アルバム 75


The xxが約4年半ぶりに送り出すニュー・アルバム『アイ・シー・ユー』は、間違いなく、そんな時代の空気に呼応した作品。前評判通りポップになった、だけではありません。インディとR&Bとクラブ・ミュージックとニューウェイヴが滑らかに溶け合ってポップに昇華されたような――それこそフランク・オーシャンやソランジュとどこか反響し合うような、新時代のクロスオーヴァー・サウンドがそこでは鳴らされています。つまり、このアルバムは、The xxの2017年的なポップへの冒険です。

こういった方向性は、2016年11月に公開された本作からのリード・トラック“オン・ホールド”を聴いた時点で、多くの人が想像していたはず。1981年の全米No.1ヒット、ホール&オーツ“アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット(ノー・キャン・ドゥ)”のサンプリングをコーラスで大胆に使うというアイデアも、以前の彼らなら考えられないものでした。

Daryl Hall & John Oates / I Can't Go For That (No Can Do)

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しかし、だからこそ、この“オン・ホールド”はThe xx史上もっとも強力なポップ・ソングとなったのです。

The xx / On Hold

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2017年の年明けに公開された“セイ・サムシング・ラヴィング”もまた、『アイ・シー・ユー』のポップな輝きを象徴しています。こちらはThe xxらしいムーディな感覚を残しながらも、厚い雲の隙間から眩しい日差しが差し込んできた瞬間を捉えたような、これまでにない晴れやかさも感じさせる曲。

The xx / Say Something Loving

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もちろん彼らのポップ志向は、これまで幾多のバンドが苦渋の決断の末に歩んできたセルアウト路線とは全くの別物。実際、The xxが2016年という時代の空気を敏感に感じ取り、今もっともカッティング・エッジな音楽である「ポップ」を積極的に選び取ったことは、ジェイミーxxのこんな発言からも窺えるでしょう。2016年12月の来日時のものです。

「(2016年は)フランク・オーシャンの『ブロンド』をよく聴いたね。面白いのは、フランク・オーシャンみたいなビッグなポップ・ミュージックが、今もっとも興味深いサウンド・プロダクションで作られてるってこと。ジェイムス・ブレイクみたいなベッドルームで音楽を作っていたプロデューサーがビヨンセのために曲を作っているっていう状況もワクワクするよ。アンダーグラウンドのものは、全部がそうだとは言わないけど、ちょっと退屈な感じになってる。これだけアンダーグラウンドの音楽よりポップ・ミュージックの方が音楽的に面白いことをやっているのは、初めてのことなんじゃないかな」

思い出してみて下さい。The xxは2009年のデビュー当時、英国のアンダーグラウンドなクラブ・シーンで活況を呈していたポスト・ダブステップの空気を吸い込んだバンドとして登場しました。なぜなら、それこそが当時のイギリスでもっともクールで先鋭的な音楽だったからです。そして今は、ポップ音楽こそがもっともクールで先鋭的な音楽だと感じ取り、そこに挑戦しようとしている。その意味では、彼らは「変わった」のではなく「一貫している」のだと言えます。

そして、こういったポップでスケールの大きなサウンドへの舵取りは、現在の音楽シーンにおけるThe xxの立ち位置を考えてもベストな選択。まだ日本には伝わり切っていないところがありますが、もはや今の彼らは、商業的な成功という点からしても一介のインディ・バンドではありません。アラバマ・シェイクスやテーム・インパラと並ぶ、次世代のスタジアム・バンド候補筆頭です。

先日発表された〈コーチェラ〉のラインナップで、ヘッドライナーのレディオヘッドに続く二番手にThe xxが位置付けていたのに気付いた人もいるでしょう。彼らはヨーロッパのみならずアメリカでも高い人気を確立していて、2nd『コイグジスト』は全米5位、1st『エックスエックス』はアメリカでゴールド・ディスクに認定済み。ちなみに、デビュー作がアメリカでゴールド・ディスクとなったイギリスのバンドは、マムフォード&サンズ、ワン・ダイレクション、そしてThe xxの3組だけです。

もちろん本国イギリスでの人気の高さは言うまでもなく、2017年3月にはアリーナ・ツアーを開催。地元ロンドンでは約5000人収容のブリクストン・アカデミーで7日連続公演(!)を完全ソールドアウトしています。ロンドンではスタジアム公演が実質的に可能なところまで来ているのです。

こうした今のThe xxのスケール感は、来たるヨーロッパ・ツアーのティーザー映像に差し込まれていた、最新ライヴの様子を見ても感じ取れるのではないでしょうか。そう、現在の彼らは、名実ともに新世代のトップ・バンドの一組と断言して間違いありません。

The xx / I See You European Tour


今はヒット・チャートを賑わすポップ音楽こそがもっとも刺激的で面白い。そこでは、ジャンルの垣根が完全に崩壊した新時代を象徴するポップ・サウンドが生まれている――そんな現在の空気を踏まえて作られた『アイ・シー・ユー』は、まさに2017年の幕開けにふさわしい作品。そして、この素晴らしいアルバムで、The xxは次世代のスタジアム・バンドというポジションを決定的なものにするはず。果たしてこの予感が正しいのかどうか、そう遠くない未来に明らかになるでしょう。


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