ここ数年、元の肩書きだった音楽ライターから“音楽”を取ってシンプルに“ライター”と名乗っていたのは、2017年に『ルポ 川崎』を出した後、肩書きを頼りに「音楽ライターが書いた本」として読まれることに窮屈さを感じたからだったが、漫画原作執筆に専念した2022年は、いよいよ音楽ライターを廃業した感じがある。それでも〈POP LIFE: The Podcast〉で『ボビー・ギレスピー自伝』や“日本語ラップ”というお題を振られて準備をしている時間はポップ・ミュージックの歴史に向き合う楽しさと苦しさを味わえた。この年間ベストを決めるために、BGMとして消費していたあれこれを改めて体系付けていく作業も得難いものだったし、〈サインマグ〉は読者にとってもそのようなメディアだったはずなので、更新終了は寂しいニュースだ。元・音楽ライターにとっては、リリースから1年近く経ったタイミングにも関わらず配信してもらえたプレイボーイ・カーティ『ホール・ロッタ・レッド』のレヴューは代表作のひとつだと自負している。いま、宗さんと小林さんが苦笑する顔が浮かびましたが。11月から『モーニング』にて、漫画家の青井ぬゐさんとのコンビで連載が始まった『リバーベッド』は、『ルポ 川崎』を下敷きにしたフィクションで、本編と違ってラップはまだまったく出てこないけれど(第1回のあるシーンは〈サインマグ〉読者ならニヤッとすると思う)、それはポップ・ミュージックを、現在性を演出するための記号として消費するのではなく、カルチャーが立ち上がってくる背景こそを丁寧に描きたいと思っているからだ。そういう意味ではちゃんと、音楽ライターが原作を手掛けた漫画、になっていくと良いのだけれど。それでは皆さん、良いお年を。来年も生き抜きましょう。
〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2022年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 宇野維正
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2022年の年間ベスト・アルバム、
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2022年
年間ベスト・アルバム 50