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  • スペンサー ダイアナの決意(2021) directed by Pablo Larraín by TSUYOSHI KIZU October 13, 2022 1
  • エマ、愛の罠(2019) directed by Pablo Larraín by TSUYOSHI KIZU October 13, 2022 2
  • キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱(2019) directed by Marjane Satrapi by TSUYOSHI KIZU October 13, 2022 3
  • 3つの鍵(2021) directed by Nanni Moretti by TSUYOSHI KIZU October 13, 2022 4
  • 千夜、一夜(2022) directed by 久保田直 by TSUYOSHI KIZU October 13, 2022 5
  • 「実際の悲劇に基づく寓話」。ダイアナ元妃の事故による急死から約四半世紀になろうとする時期に彼女をモチーフにしたこの映画は、そんな言葉から始まる。1991年のクリスマス、エリザベス女王の私邸にロイヤル・ファミリーが集まるなかで、ひたすら閉塞感と不自由に囚われていく「彼女」の姿を硬質な脚本と冷静な演出で映し出す。つまり本作は、時代のアイコンをモデルとしながらも事実関係を重視するのではなく、保守的な場所でどれだけ若い女性が追いこまれていくかをある意味で抽象化して語った一本だ。終盤に訪れる実際にはあり得なかった開放感は、だから、女性がいかにしてそんな場所から逃げ出せるかに対する問いと祈りであるだろう。もしくは女王の国葬が英国で庶民が電気料金に苦しんでいること以上に大きな話題になってしまう現代だからこそ、わたしたちのセレブリティ・カルチャーへの向き合い方を再考させるかもしれない。夫との冷え切った関係と一族のしきたりに苦しむ「どこにでもいる女性」を痛ましくも繊細に体現するのはクリステン・スチュワート、ときにゴシック・ホラーのようなムードを醸す音楽はジョニー・グリーンウッド。そして、いまもっとも重要な映画作家のひとり、パブロ・ララインの演出はますます研ぎ澄まされている。

  • 『スペンサー』の前に観ておきたい作品があるとすれば、エリザベス女王側から英王室を描いた『クィーン』(2006年)やNetflixの『ザ・クラウン』(2016年~)よりも、パブロ・ラライン監督作群、とくにジャクリーヌ・ケネディをナタリー・ポートマンが演じた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016年)と本作(2020年日本公開映画作品の個人ベスト https://bit.ly/3Vkr6Tr に選んだ作品です)。いかにララインが社会規範に封じこめられる女性の姿を描くことにこだわってきたかがわかるし、何よりこの映画では、オープン・マリッジやポリアモリー、フリー・セックスや「一般的な」核家族に囚われない子育て……など、女性がより自由に生きるためのアイデアがラディカルに提示されている。レゲトンのダンスによる身体性を伴いながら。チリの右派政治家の両親のもとに生まれたパブロ・ララインは、だからこそ、保守的な価値観との闘いを非常に切実に繰り広げている作家なのである。ちなみに音楽を担当したのは『ジャッキー』はミカ・レヴィ、『エマ』はニコラス・ジャーであり、映画音楽を大胆に更新しているひとでもある。

  • 歴史に残る女性アイコンを現代的な視座で見せるという意味では、『ペルセポリス』(2007年)で有名になったイラン出身のマルジャン・サトラピが監督を務め、ノーベル賞を人類発で2度受賞したキュリー夫人をモチーフにした本作も同様だ。伝記映画として手堅い作りなゆえにややダイジェスト的になっているところもあるが、俳優として成熟してきたロザムンド・パイクのニュアンスに富んだ演技も安定感があるし、偉人伝の類で数少ない女性として取り上げられ続けてきたマリ・キュリーがどれだけの功績を残してきたかがわかりやすくまとめられているとは言える。また本作では男性中心的なヨーロッパの科学界で移民女性である彼女がどれだけ偏見に晒されてきたかも描かれており、苛烈な姿勢で闘う彼女を支える夫であり共同研究者のピエールもある種ニュー・ダッド的に捉えられているのも現代的。彼を演じるサム・ライリーは『コントロール』(2007年)でジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティス役に抜擢されたことで注目されたが、本作ではその後のイメージを覆す渋い存在感を見せている。

  • イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの小説を、ローマに舞台を移しつつイタリアの名監督ナンニ・モレッティが映画化。ある事故に偶然居合わせることになった高級アパートに住む3つの家族を描く人間ドラマだ。原作にどれほど忠実かは読むことができないのでわかりかねるところはあるものの、ローマが舞台であることで、結果としてイタリアの保守的な家族観が孕む問題を示唆するものになっている。子どもを抑圧する非常に家父長的な父親(演じるのはモレッティ自身)、家事・育児に関わらない夫、起こっている問題に暴力的なアプローチでしか向き合えない中年男性と、トキシック・マスキュリニティにまつわる典型例がとりわけ目につくようになっており、パルムドール受賞作『息子の部屋』(2001年)などこれまでも家族をモチーフにしてきたモレッティだからこそ、現代における家族の像をシリアスかつアクチュアルに見つめているのだろう。そこでどこか古風なヒューマニズムが立ち上がることにより、人びとがどうにか許し合おうとする姿に救われる想いがする。

  • 日本では年間約8万人が失踪しているという現実に着想を得てドキュメンタリー出身の久保田直監督が制作した劇映画で、ドキュメンタリーとフィクションの境界がますます曖昧になっている現代の映画の潮流とシンクロしつつ、しかし人間ドラマ単体としての力を確実に備えた一作だ。北の港町で30年前に消えた夫を待ち続ける女と、2年前に失踪した夫を探す女との出会い。近くに存在しわかり合っていると思っていた人間が不意に不在になることで浮かび上がってくる人生への疑義。ここでの登場人物たちはみな理性や論理では割り切れない感情によって苦しめられ、しかし生かされてもいる。「社会問題」にわたしたちが向き合うとき、その事実から目を逸らしてはならないのではないか――そんな作り手の想いが透けてくる。主演の田中裕子をはじめ、日本を代表するヴェテラン俳優たちのアンサンブルを見る映画でもある。

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