『ワイルド・スピード』シリーズや『スーサイド・スクアッド』など、近年はR&B/ヒップホップ系の旬なアーティストをサウンドトラックに起用して、メガヒットを記録するブロックバスター映画が多い。3月に公開を控えたマーヴェル・シネマティック・ユニバースの最新作『ブラック・パンサー』も、その系譜に連なる作品ではあるが、音楽と映画に関連する社会的意味合いにおいて、同作のサウンドトラックには一際重要な意味がある。何しろ、ブラック・パンサーはマーヴェル・コミック史上初めて生まれたアフリカ系のスーパーヒーローで、同映画のサウンドトラックをキュレートしているのはあのケンドリック・ラマーなのだ。このリード・トラックでは、“ハンブル”の続編といった趣きもあるマイク・ウィル・メイド・イット参加のプロダクションの下、ジェイ・ロックとフューチャー、ジェイムス・ブレイクがケンドリックとコラボ。その他、シザやウィークエンドらとのコラボも収録されるなど、ケンドリックを中心に、現代アメリカを代表する錚々たる面々が豪華な競演を見せている。
ケンドリック・ラマーと並ぶストリーミング時代の覇者、ドレイクも年明け早々からとんでもないメガヒットを飛ばしている。サプライズ公開された2曲入りの新EP『スケアリー・アワーズ』収録の“ゴッズ・プラン”は、SpotifyとApple Musicの両方で、初日のストリーミング回数歴代1位を更新。その後も当然のように数字を伸ばし、公開から一ヶ月足らずでSpotifyでの聴取数は2億回に迫る勢いだ。グライム、ダンスホール、ハウス等を横断した、野心的なプレイリスト『モア・ライフ』とは異なり、この曲はドレイクのパブリック・イメージを自らなぞったようなメロウ・トラックとなっている。そこに物足りなさも感じるが、ファンの多くにとってはこれこそが待ち望んだドレイクだったということだろう。
ジャンル横断的で、かつ今の旬を上手く昇華したサウンドという点において、あなたが『モア・ライフ』の続きを聴きたいのなら、真っ先にチェックするべきなのはドレイクではなくカルヴィン・ハリスの新曲だろう。〈OVOサウンド〉所属のパーティネクストドアをゲストに迎えて届けられた新曲は、90年代のハウスを髣髴させるサウンドにダンスホール譲りの節回しをきかせたヴォーカルが乗る一曲。『ファンク・ウェーヴ・バウンシズVol.1』でも旬のアーティストを起用しつつ、現行のトレンドからは少し意匠をずらしたポップ・ミュージックを創出していたが、この曲も流行りのダンスホールへの目配せと、原点回帰的とも言えるハウスへの憧憬のバランスが絶妙だ。
若く、セクシーで、カリスマティック。このトロイ・シヴァンは本当に久しぶりに現れた白人メール・シンガーの超新星と言っていい。ジャスティン・ビーバーやワン・ダイレクションのメンバー、あるいはエド・シーランといった例外はいるものの、近年ポップ・シーンの表舞台における白人男性の立場は、すっかり肩身が狭いものになっていた。だが、南アフリカ生まれでオーストラリア在住、そしてゲイであることを公言する彼は、アメリカにおけるWASPの凋落などとは無縁。ニューウェイヴ的な陰影を感じさせるエレクトロニック・トラックに乗せて、どこまでも情熱的に性愛への切望を歌い上げている。彼は2015年にデビュー・アルバムを上梓済みだが、2018年はいよいよトロイ・シヴァンの名前が世界中のポップ・シーンに刻まれる記念すべき年になるだろう。
〈セイヴ・マネー〉所属の中で、音楽的なイノヴェーションへの意欲では頭一つ抜けたユニークな才能、トーキョー。リリースが目前に迫った彼のデビュー・アルバム『WWW.』は、そのフューチャリスティックな感性が存分に発揮された一枚となりそうだ。リック・ルービンが主宰するレーベル〈アメリカン・レコーディングス〉と契約し、ノルウェー出身のプロデューサー・リドが全面的にプロデュース参加。このリード・シングルは、トライバルなドラム・ビートとジャジーなベース・ライン、派手なブレイクが入り乱れる、カテゴライズ困難なダンス・トラック。そのビートを一気呵成に乗りこなしていく様は圧巻の一言。シカゴの勢いはまだ止まりそうにない。