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  • たちあがる女(2018) directed by Benedikt Erlingsson by MARI HAGIHARA February 20, 2019 1
  • THE GUILTY ギルティ(2018) directed by Gustav Moller by MARI HAGIHARA February 20, 2019 2
  • 7月22日(2018) directed by Paul Greengrass by MARI HAGIHARA February 20, 2019 3
  • ビール・ストリートの恋人たち(2018) directed by Barry Jenkins by MARI HAGIHARA February 20, 2019 4
  • スパイダーマン:スパイダーバース(2018) directed by Bob Persichetti, Peter Ramsey, Rodney Rothman by MARI HAGIHARA February 20, 2019 5
  • このアイスランド映画で描かれる「強い女」は、近年更新されてきたそうした女性像をさらに超えている。ぐっと身近なのに奇妙で過激で、ユーモラスなのです。主人公ハットラは田舎に住むシングルの中年女性。ただ彼女には地元の工場への電線を切って環境を守るという秘密活動があり、まるでエコテロリスト。警察が包囲網を強化するなか、ウクライナから養子をもらうという長年の願いが叶うことになったハットラは決着をつけることになります。物語の中心にあるのは自然や人権がないがしろにされるシリアスな事態。でもノルディックセーターを着たおばちゃんがアクションを披露し、アイスランドの絶景を駆け抜け、ドローンに追いつめられ、それでも闘う姿に笑いと涙がこみ上げてくるのです。痛快。もうひとつ面白いのは、彼女にはいつも鼓笛隊と女声合唱隊がついて回っていて、心情を音楽として奏でていること。こんなヒロインも映画も見たことありません。リメイク権をジョディ・フォスターが獲得したのにも納得。でも彼女が主演すると、カッコよすぎるキャラになってしまわないか心配。ベネディクト・エルリングソン監督。

  • 近年、北欧的な感性が顕著に表れているのが小説やテレビシリーズの「北欧ミステリ」。陰惨な事件に社会的なエッジが加わっていること、女性や移民など、このジャンルでステレオタイプになりがちな登場人物を個性的に描いてプロットに組み込んでいるのが特徴です。この映画もその流れを汲む一作。ミステリとしての新機軸は「音」です。デンマークの緊急通報司令室にかかってきた一本の電話。相手の女性が誘拐されていると知ったオペレーターは、次々指示を出しながら電話の向こうの声や物音に耳を澄ませ、事件の全貌を解いていきます。情報が少ないからこその緊張。それは観客も同様で、目に見えるものより頭の中で想像するものは何倍も恐ろしく、衝撃も大きい。その間映るのは室内だけ。シンプルなシチュエーション・スリラーながら、オペレーターの過去や女性との関係性が醸す感情面とプロットの絡め方にもひねりがあり、ミスリードもうまい。見えない人々の顔が見えてきます。

  • 3月に公開される映画『ウトヤ島、7月22日』と、Netflixで配信中の『7月22日』は、ともに2011年にノルウェーで起きたテロ事件を扱っています。単独犯がオスロ市庁舎を爆破したのち、労働党青年部のキャンプを狙い、大半が若者の77人を殺害した事件。当時ヨーロッパを旅行していた私は、日々断片的に入ってくる情報にショックを受けた覚えがあります。ノルウェーのエリック・ポッペ監督による『ウトヤ島、7月22日』は、その後裁判や報道で犯人側に寄ったナラティヴを引き戻すため、事件そのものに焦点を当てた作品。キャンプが開かれていた島にいた少女の視点から、子どもたちが逃げまどう恐怖の72分間をワンカットで映しだします。そしてイギリス人のポール・グリーングラス監督による『7月22日』はもう少し広い視点で、このモチーフを通じていまの世界を浮き彫りにする。被害者である少年は身体的・精神的な傷を負い、裁判で犯人と対決するのです。ただ事件から8年後の現在からすると、当時この事件で特殊とされていたことが普通になっていることに驚くはず。犯行を正当化する犯人の言葉は、ポピュリストの右翼の言論に。犯人を民主的に裁こうとしたノルウェー政府に対する批判も、もはや多数派の声になっている。ただ映画は、それでも生き抜こうとする若者の姿勢に希望を見出しています。

  • 『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督による新作は、ジェームズ・ボールドウィンの小説の映画化。描かれるのが黒人の苦しい状況であっても、その表現が艶やかで、ロマンスを感じさせるところにふたりのアーティストの共通点があります。70年代のハーレムで結ばれた若い恋人たち、ファニーとティッシュ。ただティッシュが妊娠を知ったときには、ファニーは白人警官の嫌がらせによって刑務所にいる。ふたりの家族はその不正と闘い、特にティッシュの母シャロンは無実を証明するためプエルトリコまで行きます。ティッシュ役レジーナ・キングが体現する、強い愛とエンパシー。悲恋と抵抗の物語でありながら、心に残るのは恋人たちの熱いまなざしやハーレムの湿った空気、貧しい人々が着る服の色彩の濃いグラデーションなのです。それはボールドウィンの文章の特徴であり、ジェンキンソンが影響を受けたウォン・カーウァイ映画の醍醐味でもある。時代を切り取りながらも審美的で、そこにある愛や痛み、苦しみがいまのものとしてよみがえってくるのです。ティッシュの着るクリーム色のケープやシャロンの緑のドレスが美しい。

  • 同じキャラクターやストーリーが複数の「著者」と「作画家」によって何度も描かれ、その総体がユニバースとなる――というアメリカン・コミックの形態と歴史は、日本における漫画制作の常識に慣れ親しんでいるとなかなか呑み込みにくいもの。でも『スパイダーマン:スパイダーバース』を観ると、その感覚がすっと入ってきます。ピーター・パーカーことスパイダーマンが死んでしまったNYで、やはり蜘蛛に噛まれ、新たなスパイダーマンとなるのはプエルトリカン/アフリカン・アメリカンの少年、マイルス。重責に悩む彼の前に、時空の歪みによって「別のスパイダーマン」たちが現れます。並行世界を使うことで、あるスーパーヒーローのさまざまな分身を集結させるだけでなく、違う絵柄やスタイルを同居させる。しかも、彼らは連帯によってスーパーヒーローの孤独を解決していくのです。三人の監督はこれをポストモダンと呼んでいますが、むしろ新手法によってオーソドックスなものを発見した感じ。しかも、エモい。ただCGと手描きアニメの混在、吹き出しやコマ割りの映像表現、何よりそのごちゃ混ぜ感はいまの都市感覚をアピールしています。できるだけ大きい画面で見るのがおすすめ。

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