マイルス・ケインがアークティック・モンキーズの公演にサプライズ出演したり、ジェイムス・フォードがアルバムの製作について発言したりと、2015年を通じて再始動の情報が伝わっていたラスト・シャドウ・パペッツの新曲が到着。前作がスパゲッティ・ウエスタンだったなら、今回はヒッチコックかスコセッシ? バーナード・ハーマンのスコアを思わせる不穏なストリングスで幕を開けた後は、70年代のサスペンス映画のような映像と共にルード・ボーイ的なロックンロールへと突入。8年の間に青さの残る少年からセクシーな大人の男へと成長したマイルスとアレックスの外見と同様、音楽的にも遥かに骨太になっていて、アルバムへの期待が高まります。
2015年は、ドクター・ドレからケンドリック・ラマーへ、コンプトン・シーンを担うリーダーとしてのバトンが渡された年だったように思うのですが、ここにドレが目をかけた才能がもう1人。ドレの最終作『コンプトン』で全16曲中6曲にフィーチャーされたアンダーソン・パックは、同名義では2作目となる『マリブ』で一気にLAアーバン・シーンの先頭へと躍り出た。同作からは、『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』にも通じる音楽的な折衷性や、サーラーを髣髴させる西海岸の黒いサイケデリアの匂いが如実に感じられる。この楽曲は、中でも最もケンドリック・ラマーとの共振率が高いファンク・ナンバーで、昨年ケンドリックにヤラれた人は絶対に聴いてみるべき。
昨年1年間を通して、サム・スミスに続くUK発・男性シンガーのブレイク候補として各種メディアの話題にたびたび上がっていたジャック・ギャラット。〈BBC〉の〈サウンド・オブ・2016〉でも当然のごとく1位に選出され、2月にリリースされるデビュー・アルバム『フェイズ』はメインストリームでも大きな旋風を巻き起こすことでしょう。この曲は同作からの先行カット。英国男性ソロの正統な系譜と共に、プロデュースも自分でこなすトラックにはソンやジェイムス・ブレイクをポップ寄りにしたような趣きもあり、その冷え冷えとした歌声には「ボン・イヴェール・ミーツ・アーバン」とでも称したくなるような世界観もあり。いずれにせよ、彼が2016年を代表するニューカマーの1人になるのは、まず間違いありません。
ダフト・パンクがフックアップした3年前には新鮮な驚きがあったナイル・ロジャースも、ちょっとディスコ・テイスト出したいからあのギターを入れとこうか、みたいな手軽さでこすられ過ぎて、今ではもう食傷気味。個人的にはそんな気分だったのだけれど、この組み合わせは久しぶりに楽しく聴けました。ローラ・マヴーラのポップスに留まらない音楽的素養を活かしたストリングスと声楽的ハーモニーは、デビュー作『シング・トゥ・ザ・ムーン』の時点でも十分に完成されていたのですが、この新曲ではその重奏にナイル・ロジャースのギターが加わることで良いケミストリーが生まれています。ローラ・マヴーラの元々の素養+ディスコの解が、アフロ・ビートのようでもあるというのは新鮮な発見でした。
ケイティ・Bは、2010~11年にシングルとアルバムを大ヒットさせ、ダブステップのメインストリーム化に大きく貢献したシンガー。さらに言うなら、女性視点のリアルなリリックによって、リリー・アレンやエイミー・ワインハウスと、ジェス・グリンら現在のガラージ・リヴァイヴァル系歌姫の間を繋ぐ存在としても重要な1人。のはずなんだけど、その事が日本にあまり伝わっていないような気がするのは、とても残念。とは言え、UKエレクトロニック・シーンの重鎮フォー・テットと、昨年傑作デビュー・アルバムをリリースしたフローティング・ポインツをコラボ相手に迎えたこの曲は、組み合わせだけでも音楽ファンなら気になるところだろう。この充実した仕上がりには、自身が先鞭をつけたクラブ系ポップスの潮流が今や陳腐になりつつある現状に対する、ケイティ・Bなりの矜持やけじめを感じさせる。