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  • Nikes Frank Ocean by RYUTARO AMANO September 23, 2016 1
  • Life Style BAD HOP by RYUTARO AMANO September 23, 2016 2
  • Closer feat. Halsey The Chainsmokers by RYUTARO AMANO September 23, 2016 3
  • Work from Home feat. Ty Dolla $ign Fifth Harmony by RYUTARO AMANO September 23, 2016 4
  • 悪魔の歌 (The Devil Song) yumbo by RYUTARO AMANO September 23, 2016 5
  • レーシングカー、1ドル札のプール、舞い散る金粉、宝石が散りばめられたバルマンのジャンプスーツ――物質的な豊かさを享受するオーシャン。ゴージャスで、グリッターで、ダーティで、エロティックで、どこか馬鹿馬鹿しい映像は、それゆえに彼の孤独と空虚を浮き彫りにしながら、2つに引き裂かれた自我を反映している。それを象徴するかのようにこのヴィデオ・ヴァージョンでは高低2つにピッチシフトされた声が同時に聞こえてくる(映画『ファイト・クラブ』へのオマージュがある。プロットを思い出してほしい)のだが、どうもオーシャンは「2」という数字に拘っているようだ。冒頭で「I got two versions」と繰り返される通り『ブロンド』というアルバムは配信されたヴァージョンとポップアップ・ショップで無料配布された〈Boys Don’t Cryマガジン〉に封入されていたCDのヴァージョンでの2種類があり、タイトルの表記もBlonde(女性形)とBlond(男性形)の2つの性の間で揺れている。この「2」という数字はゲイ(あるいはバイセクシュアル)である彼のセクシュアリティの象徴でもあるのだろうが、それは単に両義性や二重性を意味するというよりも、多様性や複数性を意味しているように思える(そもそもLGBTだって4つ――あるいは無限――の性のありかたを包含しているように、単純に「ストレートに対するオルタナティヴ」という形での一枚岩ではない)。ブラック・ライヴズ・マターに代表されるような人種間における分断と緊張感の高まりを鎮め(「RIPトレイヴォン・マーティン/彼は僕によく似ていた」)、その分断と緊張感を表面的にカヴァーするポリティカル・コレクトネスが「ただ1つの解」しか認めない不寛容さへと短絡してしまわぬように、と“Nikes”は響く。「僕らは恋仲ではない/でも君と愛しあおう」――それは多様性と複数性への祈りである。

  • 地元、川崎から破竹の勢いで快進撃を続けるクルー、BAD HOP。そのプロップスを全国的なものへとアンプリファイしたのは高校生ラップ選手権とフリースタイルダンジョンのブームであり、磯部涼による川崎のショッキングなルポルタージュと彼らのライフスタイルを生々しく伝えた〈ヴァイス・ジャパン〉のドキュメンタリーであろうが、しかしそれはもちろん彼ら自身の音楽とリリックとヴィデオが鮮烈で、クールで、アトラクティヴだったがゆえである。「この音楽が一番かっこいいから」とトラップやドリルを血肉化し、「日本語、英語なんて関係ねーよ」とチーフ・キーフやリル・ハーブ、ヤング・サグやレイ・シュリマーやフェッティ・ワップのフロウを飲み込み、工業地帯の排気ガスを吸い込んだ自分たちの言語でもって吐き出す。犯罪やヤクザとしての生き方を排し、「俺らの音楽はlife style」と選び取ったヒップホップという生き方。この国でいま最もアクチュアルな音楽がここにある。前前前世から君を探している場合じゃない。地べたからの一撃。

  • 翻ってビルボードのホット100で2016年9月現在、第1位のチェインスモーカーズの新曲。ブロステップの下世話さをかなぐり捨て、陳腐化し工業製品のように定型化しているEDMを解体/リブートするナチュラルな批評性と清新さとが宿っている。EDMとトラップとR&Bの美しいマリアージュと洗練という点で、カルヴィン・ハリスの“ディス・イズ・ホワット・ユー・ケイム・フォー”やジャックUと並行して聞かれるべき。展開されるバブルランとEDMフェスとテラスハウス的チャラい世界観、語られる元カレ/カノとの再会とファック、挿入されるブリンク182(今年新作をリリース。ちなみにいま現在のホット100にはバンド音楽はほぼ皆無)という固有名詞、「僕たちは年老いることなんてないんだ」という若者の傲慢さ、その全てに鼻白むことなく最後まで聞いてほしい。

  • こちらもアメリカでとんでもない勢いで消費されているフィフス・ハーモニー。オーディション番組で見出された、メキシカンやキューバン等人種も出自もバラバラな5人を寄せ集めたアイドル・グループだが、筋骨隆々なガテン系の男たちを前に工事現場でトゥワークして誘惑する5人の女、という画がすでにこの国に住む私たちにとっては少なからず衝撃的、なはず。金槌からバーナーまで手に持つツールの全てが男根のメタファーと化す凄まじい世界。「仕事に行かないで私としようよ」「家ではあなたがボス」などリリックはかなり保守的だが、とかく楽曲の完成度に目を見張る。アリアナ・グランデの“サイド・トゥ・サイド”やカニエ・ウェスト“フェイド”等のヴィデオに見られる通り、アメリカのポップ・ミュージックのトレンドは動物的で暑苦しい「フィジカル」の季節をなぜか迎えつつある。セルフリスペクトよる精神的な充足なんかよりも、身体を鍛えねばならない事情がかの国にはある、のかもしれない(まるで地獄のような大統領選はもうすぐそこまで迫っている)。そういえば、フランク・オーシャンも身体を鍛えていた。

  • 最後はこれまでの4曲とまったく関係のない場所で、しかし確実に地続きの世界で鳴らされているyumboの新曲。美しく幽玄なシンバルのリヴァーブ、奇妙にミュートされたスネアとバス・ドラム、他人行儀なミックス、今にも解けてしまいそうな繊細なハーモニー……。ファンタジックである一方で、どこか世界を冷たく見据えた言葉を歌うyumboの音楽は、現実界の裂け目を直視させられた3.11以降を生きる人々のそれぞれの生を優しく包み、癒し、慈しむかのようだ。杜の都から鳴り響くインディ・フォーク――そう、これもBAD HOPと同じくこの国でいま最もアクチュアルな音楽の一つであるはず。2016年10月リリース予定のニュー・アルバム、『鬼火』(2枚組!)から。

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