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  • アネット(2020) directed by Leos Carax by TSUYOSHI KIZU March 25, 2022 1
  • TITANE チタン(2021) directed by Julia Ducournau by TSUYOSHI KIZU March 25, 2022 2
  • 英雄の証明(2021) directed by Asghar Farhādī by TSUYOSHI KIZU March 25, 2022 3
  • 林檎とポラロイド(2020) directed by Christos Nikou by TSUYOSHI KIZU March 25, 2022 4
  • 私はヴァレンティナ(2020) directed by Cassio Pereira dos Santos by TSUYOSHI KIZU March 25, 2022 5
  • たとえば前世紀の映画の革命だったゴダールが誰も見たことのない3D映画を21世紀に作ったように、前世紀にゴダールの子どもたちのひとりとして颯爽と登場したレオス・カラックスもまた誰も見たことのないミュージカル映画を21世紀に作る。そこでは当然、「映画とは何か?」の問いが立ち上がっているはずだ。80年代に鮮烈なボーイ・ミーツ・ガールの映画を撮って世界を陶酔させたカラックスがいま再び、彼にしかあり得ないボーイ・ミーツ・ガールの物語を映画にする……のだが、そこには監督の分身たる青年アレックスもあの獰猛なドニ・ラヴァンもいないし、若さゆえの疾走もない。代わりにスパークスが手がけたシアトリカルなロック・オペラがあり、威圧的な肉体を持ったアダム・ドライバーがいて、次世代に呪いをかける両親がいる。スタンダップ・コメディにおける栄光と凋落、#metoo、名声を求めて狂っていく人間たちと、それを消費する大衆——おそろしく現代的なモチーフが散りばめられてもいる。グロテスクで、奇妙で、破滅的な愛を巡る悪夢的悲喜劇。こんなカラックスは見たことがないし、こんな映画も見たことがない。観終えた誰もが「映画とは何か?」を考えずにはいられないだろうが、ひとつだけ言えるのは、カラックスはいまなお観客の想像の限界をあっさりとはみ出した「映画」を世に叩きつけているということだ。

  • 文字通りの怪作。幼い頃に頭蓋骨にチタンプレートを埋めこまれ、やがて性欲自体が「機械化」し車とセックスをする主人公——という、冒頭のこの時点でイカれているが、しかし、人体と機械の積極的な融合を提唱するトランスヒューマニズム運動がもはや空想でなくなっている現在、これはわたしたちの身体が現在置かれている状況を簡潔に暗喩したものだと言える。さらに、それは女性のリプロダクティヴ・ヘルスの問題とも複雑に絡み合い、中盤以降ではジェンダーの可変性をあっさりと前提として物語がドライヴしていく。そのラディカルさ、破壊性。ジュリア・デュクルノーは90年代から00年代頭に過剰にヴァイオレントになった映画群を引き継いでいるのだが、そこに回帰するのではなく最新鋭の価値観とともに実験している点で突出した作家だ。また、主人公アレクシアの身体の変容とそれに伴う内面の変化が本作の核にはあるが、彼女(彼)が出会う初老の消防士を演じるヴァンサン・ランドンのいかつい裸体にも注目したい。ステロイドを自らに注射し若さに固執するマッチョな男が、機械と融合した「新しい人類」をどのように発見し受容していくかが、この映画のもっとも過激なところでもあるからだ。

  • アスガー・ファルハディの映画を観ていると息が詰まる。それは緻密に設計されたまったく隙のない脚本と、よく計算された冷静な演出によるものだが、だからこそ共同体や社会の言外の要請のなかで追いつめられていく登場人物たちの心理をまざまざと伝えてくる。ある意味ファルハディは、ずっとそれだけを追求してきたとも言える。今回の舞台はイランの古都シラーズで、主人公は借金を理由に収監されていたが、おこなったある「善行」によって世間に称えらえることになるシングルファーザーのラヒムだ。ラヒムは自身が集める注目を利用し窮状を脱しようとするが、周りの人間の思惑がすれ違うことによってさらに困難な状況に陥ることになる。SNSをはじめとしたインターネットによる(無責任な)世評が重要なモチーフになっておりそこは現代的ではあるが、少なくとも画面上では強調されないため、そもそも「世間」とはインターネット以前からそんなものだったではないかと痛感させられる。あまりに巧みなラスト・シーン含め、この息苦しい社会に対するアイロニーが見事にデザインされている。

  • ヨルゴス・ランティモスの助監督を務めていたという、ギリシャの新鋭監督クリストス・ニクによる長編デビュー作。記憶をなくしてしまう奇病が流行っている世界で、治療のために奇妙な「回復プログラム」を実践する男という設定と、それを整った画面でたんたんと見せていく構築性の高さは、なるほどランティモスの寓話的な作風を思わせる。実際、仮装パーティに参加したりホラー映画を観たりする(記憶がなくなった彼にとっての)「初めての体験」を写真に記録することの反復は、現代のSNS文化に対する風刺にも見える。ただ、ランティモスほどその風刺が痛烈ではなく、彼が記憶をなくした理由がじょじょに浮かび上がっていく終盤にかけて、物悲くも温かい人間臭さが立ち上がってくるのが本作の味わいだろうか。無表情のままで情感を滲ませる主演のアリス・セルベタリスの存在をきっちりと中心に据えるのもいい。次作はケイト・ブランシェットのプロデュースでハリウッド進出を予定しているというクリストス・ニク、要注目だ。

  • 17歳のトランスジェンダーの少女を主人公としたブラジル映画。キャスティングにおいて実際のトランスジェンダー女性が演じることが重要だったという本作は、トランスジェンダーの経験をトランス当事者が演じるという現代の潮流をしっかりと受け止めた作品だ。田舎で主人公ヴァレンティナが差別や暴力を受けるのはブラジルの実情を反映したものだろうし、世界的にもトランス女性が暴力被害に遭いやすい現状を示すものでもある。ただ、映画はヴァレンティナをただその犠牲者として捉えるのではなく、過酷な現実を乗り越えていくタフな主人公として描こうとする。何よりも彼女を支える友人たちや母親がきちんと存在するのがいい。やや善人と悪人がきれいに分かれすぎているところもあるのだが、逆に言えばそれは、マイノリティの側に立つ人びとは確実にこの世に存在する、というメッセージでもある。性的マイノリティを描くときの(「政治的妥当性」ではなく)心意気を気持ちよく見せてくれる、カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス監督の長編デビュー作。

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