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  • タリーと私の秘密の時間(2018) directed by Jason Reitman by MARI HAGIHARA August 03, 2018 1
  • 若い女(2017) directed by Leonor Serraille by MARI HAGIHARA August 03, 2018 2
  • ナチュラルウーマン(2018) directed by Sebastián Lelio by MARI HAGIHARA August 03, 2018 3
  • ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男(2017) directed by Janus Metz by MARI HAGIHARA August 03, 2018 4
  • スターリンの葬送狂騒曲(2017) directed by Armando Iannucci by MARI HAGIHARA August 03, 2018 5
  • 『JUNO/ジュノ』(2007)、『ヤング≒アダルト』(2011)、そして本作と続くディアブロ・コディ脚本、ジェイソン・ライトマン監督のタッグ。主演は『ヤング≒アダルト』に続きシャーリーズ・セロンです。このチームが描くリアルで、美化されない女性像は本当に面白くて心強い。「そんなに都合よく大人になんかなれない」という気持ちが解放される気がします。今回シャーリーズが演じるのは第三子を出産したばかりのマーロ。夫に理解がないわけではないけれど、結局ワンオペ育児する彼女は疲労し、キレてしまいます。そこで夜中だけ子守を頼むことになったのが、若く奔放な女性、タリー(マッケンジー・デイヴィス)。そこからよくある「育児ホラー映画」には進まず、マーロは万能なタリーに助けられ、二人は不思議な友情を培うことになります。とはいえ最後の展開は、女性にとって「若さ」とは何か、どうやって現実と折り合うのかを考えさせる。そんな人生の転換点をハイパーに語ってみせるのは、さすがディアブロ・コディ。彼女の率直でユニークなストーリーは、#metooにもつながります。女性だけでなく男性にも見てほしい。

  • これもある意味、迷惑でカッコ悪い女の話。でも、明らかにいまの女性の話です。有名な写真家の被写体/恋人だった31歳の主人公、ポーラ(レティシア・ドッシュ)は彼と別れ、パリの街にひとり放り出されます。恋人から猫を盗んだ彼女は、無一文で職や住まいを転々とすることに。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』(2013)だったらその放浪は男のロマンティシズムになるけれど、ポーラの場合はとにかくイタくて、痛々しい。でも、ドラマ『ガールズ』以降はそんなストーリーに「希望」を感じます。そこでは女性がみじめな失敗や後悔から、ほかの誰とも違う自立をつかむから。他人にうざがられても、ジタバタするって大事です。ポーラが見るパリも従来の映画のパリとは違って、チープで排他的で格差があり、ポーラ自身移民を見下してもいたりする。でも、冷たい人も親切な人も、あらゆる人との触れ合いがポーラの新たな生き方の一部になるのです。レオノール・セライユ監督以下、スタッフは全員女性。主演のレティシア・ドッシュのエナジーが素晴らしい。ポーラの最後の決断も女性による映画ならでは、です。2017年カンヌ映画祭でカメラドール受賞。

  • 8月に配信が始まる本作は2月に日本公開され、3月にオスカーで外国語映画賞受賞。トランスジェンダーの女性が生きる姿を美しく、映画的に描いた一作は、きっと2018年のベスト・リストに入ってくるはず。監督は『グロリアの青春』(2013)のセバスティアン・レリオ、製作はパブロ・ララインと、チリ映画界の台頭も実感できます。主演はトランスジェンダー女性のダニエラ・ヴェガ。彼女が演じるマリーナは年上のオルランドと暮らしていますが、彼が急死。すると悲しむ間もなく、病院や警察で嫌疑をかけられ、オルランドの元妻や息子からはひどい扱いを受け、住まいや車も失います。そうした出来事の合間に訪れる、マリーナの心象風景のマジカルなこと! 彼女が背筋を伸ばし、好きな服を着て歩くその姿だけで、迷いのない真実が伝わってくる。実際、原題『ファンタスティック・ウーマン』のほうがマリーナ像にも、映画のテキスチャーにもぴったりです。ストーリーを最後まで牽引する謎の解き明かしにも驚かされました。ちなみにサントラはマシュー・ハーバート。ラライン監督が『ジャッキー』(2016)のサントラにミカ・レヴィを起用したのと同じ鋭さを感じます。

  • このへんで男たちの熱い戦いを。ジミー・コナーズやイワン・レンドルとともに男子プロ・テニスの黄金時代を築いたのが、ビョルン・ボルグとジョン・マッケンロー。この二人のスターの輝きは私もはっきり覚えています。同時にその凋落も見ただけに、この映画の「勝利」は、彼らが初めて対戦した1980年ウィンブルドンの男子シングルス決勝戦に焦点を絞ったこと、そこにあったドラマを的確に抽出したこと、特に孤高の天才、ボルグの内面に迫ったことにある。メンタルなスポーツであるテニスにおいて、重いプレッシャーに晒されるアスリートの心理が、幼い頃のフラッシュバックを挟みつつドラマチックに描かれます。それによって、全英ファイナルのすべての瞬間の緊迫感、感情的な重みが鮮やかに再現される。手法や雰囲気、対照的な二人のスターという点で、F1映画『ラッシュ』(2013)と比べてもいいかも。シャイア・ラブーフが演じるマッケンローもハマり役ですが、ボルグ役のスベリル・グドナソンが最高にクール。彼が主演するミレニアム三部作の続編『蜘蛛の巣を払う女』が俄然楽しみになりました。

  • 『Veep/ヴィープ』(2012~)など主にテレビ界で活躍してきたアーマンド・イアヌッチ監督が、実話にもとづくスターリン死後の顛末を描く映画。というか、ここまで辛辣でブラックな感覚の持ち主が英米で政治ドラマを手がけてるんだから、そりゃすごいはず――と改めて思わされた一作。政治風刺劇と軽く呼ぶのもためらわれるほど、残虐で卑劣なことが起きるのです。1953年、恐怖政治を敷いたスターリンが倒れると、第一書記フルチショフ、秘密警察トップのベリヤ、スターリンの腹心マレンコフらが勢力争いを始め、混乱したソ連は大勢の死者を出します。カジュアルな殺人やレイプ、一瞬にして大国のルールがひっくり返る描写も強烈。中枢部の男たちは姑息で無能で、「グッド、バッド&アグリー」どころか、どっちを向いてもアグリーなのです。それをスティーヴ・ブシェミやジェイソン・アイザックら、錚々たる俳優たちが演じるのだから怖い。笑いにヒステリーと恐怖がにじむ、ブラック・コメディというよりはブルータル・コメディ。しかも、いまの政治も他人事には思えません。

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